第11話 持ち物を確認しよう
ゲートを抜けるとそこはラスボスの部屋であった。
どこかのフレーズのようだが、今はそれどころではない。
俺はキャンピングカーから降り、透が乗っている車に駆け寄った。
「透! 大丈夫か!」
「紫遠くん、すごいよ! 本当に異世界についたよ!」
透は目を輝かせてキョロキョロと辺りを見回していた。それを見てドッと力が抜ける。緊張していた俺が馬鹿みたいだ。
「透、落ち着け。まずは現状の確認だ」
俺は興奮している透を宥める。
「あ、ああ、ごめんよ紫遠くん。まずはここは……すごいよね。どうみても玉座の間って感じだね」
「まぁ少なくとも森には見えないな。普通こういう異世界転移って、まずは辺境の村の近くの森に飛ばされるってのがお約束だろ?」
「うん、どうみても森じゃないね。ってゆうか、ここってもしかして……」
透も俺と同じ考えに気がついたんだろう。普段なら俺より先に考えてそうだが……余程興奮していたんだな。
「おそらくソータ達が戦ったって言う魔王の城だろう。ソータ達は魔王を倒した魔力を使って地球に行ったと話していた。つまりここはソータ達が旅立った地点だろう。一体どういうことだ?」
ゲートは時間や場所はランダムのはずだ。同じ時間軸で同じ場所に来るのか?
「多分、同じゲートを使ったからじゃないかな。過去の例って、違う場所の違うゲートを通った場合だよね? 同じゲートなら同じ場所に繋がるのが寧ろ自然だよ」
そっか、ゲートが一旦閉じたわけじゃなく、ずっと開きっぱなしだったんだから、同じ場所ってことか。
「そうなると、ここは魔王の城で魔王が倒された後ってことか?」
そういえば、ソータはこの魔王の城の魔族を全滅させたんだろうか?
「なぁ? ソータ達って魔王城の敵を全部倒したと思うか?」
「……攻略する際に邪魔な敵は倒しただろうけど、全部じゃあないよね」
隠れている魔族や、見つからなかった魔族など、たくさんいるはずだ。魔王が死んでから三日経ったとはいえ、まだ残っている筈だ。いや、寧ろいなくなったからこそ、魔王軍の再編成とかしているところじゃないのか?
辺りを見回す限り、今この部屋に俺達以外の生物はいないようだ。
「なぁ、もしここに魔族がやって来たら二人でどうにか出来るかな?」
「到底無理だろうね。間違いなく死んじゃうよ」
ですよねー。これがゲームだったら俺達はレベル1。魔王城の魔族ならレベルが100でもおかしくはない。
「……どうしようか?」
想定してなかった事態に困惑から抜け出せない。
「とりあえず装備の確認をしようよ。僕は武器を確認するから、紫遠くんは貰った魔道具が使えるか確認をお願いするよ」
確かに。まずは現状を打破できる物があるか確認する必要があるな。
「分かった。ああ、そうだ、こっちの世界じゃ俺は九重紫遠じゃなく、シオンにするから。透も氷山透じゃなくて、トオルにしてくれ」
名字は使わない方が良いってソータに言われた。俺達の呼び方が変わるわけじゃないけど、一応そうしていた方がいいだろう。
トオルは「分かったよ」と言って確認を始める。俺も急がないとな。
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俺はアイリスから受け取った魔荷物を確認することにした。まずは飴……あ、そうだ!
「トオル! すまないが、先に飴を舐めよう!」
魔力がなくても相手の言葉が解るようになる飴は、今この場では最優先だろう。
「ああ、そうだね。敵が来ても、言葉が分かるかどうかは大違いだもんね」
トオルも了承してくれたので、二人で飴を舐めることにした。
「……何か変化はありそう?」
味は黒蜜飴と似た感じだ。舐め終わっても何か変わった気はしない。
「いや、僕たち二人だけでは分からないよ」
お互い日本語で話してるから、そもそも効いてるかどうかが分からない。
「それもそうだな。じゃあとりあえず作業に戻るか」
効いてるかの確認は後にして作業に戻ることにした。
――――
アイリスから貰った鞄には三つの袋に入っていた。まずは一番大きな袋を開けてみる。
中には大きな箱と小さな箱、それからデジカメが入っていた。
小さな箱の形は指輪が入っていそうな箱で、指輪ケースよりは一回り大きい。それが二つ。
中には石を入れるような凹みがありそれぞれの箱に緑の石と黄色の石が入っている。
俺は付属してあるメモを取り出す。
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この箱は魔法結晶を嵌め込むことによって、他人の魔法を使う箱で【キューブ】といいます。
まずは魔法結晶について説明します。
魔法結晶は魔石を加工して作ることが出来ます。魔石はご存じですよね?魔物や魔族が体内に所持している石です。魔石はそれぞれの属性の魔物を倒すとその属性色の魔石が手に入ります。
もちろん魔族や魔物の強さによって魔石のランクも上級から下級まであります。
魔石は魔力石に加工したり、魔道具を使うのエネルギーにします。
魔力石は魔道具を作るために必要です。
ソータさんから伺いましたが、シオンさんは魔力結晶は使用したのですよね? 魔力結晶は下級の魔力石に基本属性を封じ込めて加工した最も簡単で一番普及している魔道具になります。
魔力結晶は各属性の基本魔法を発動することが出来ます。赤なら炎、青なら水ですね。
使用して知ってるとは思いますが、念じれば発動できます。
魔力結晶は魔力を補充すれば誰にでも使用できます。魔力の補充も誰にでも行うことができます。
魔法結晶はこの魔力結晶を応用したものです。基本魔法以外の属性魔法を発動することができます。
魔法結晶はその色と同じ属性の人しか魔力を補充出来ません。そして最初に魔力を込めた人しか続けて魔力を補充することができません。
そしてその時にイメージした魔法を発動することが出来ます。
少し難しくなりましたね。簡単に説明しますと
・魔石→魔物や魔族から取れる石。エネルギーにしたり魔力石に加工したりする。また換金も出来る。
・魔力石→魔石を加工したもの。色々な魔道具の作成に使用可能。
・魔力結晶→魔力石を加工した魔道具。それぞれの色の基本魔法が使える。誰でも補充可能。
・魔法結晶→魔力石を加工した魔道具。登録した本人の魔法が一種類のみ使える。本人のみ補充可能。
このキューブですが、この中に魔法結晶を入れると、一種類だけでなくその人の魔法が全て使えるようになります。ですが使用者が知っている魔法のみですが。
例えばソータさんは青の属性です。魔法はラーニングになります。ですのでソータさんの魔力が入った魔法結晶をキューブに嵌め込むと、ソータさんがラーニングで覚えた魔法を使うことが出来ます。
シオンさんが魔法を使えるようになった際に、その魔法を知っているトオルさんが使うなどの使い方をして下さい。
あと、これは言うまでもないことかもしれませんが、威力のある魔法はすぐに魔法結晶の魔力が無くなるため使用回数も少なくなります。こまめな補充が必要です。
因みに現時点で二個のキューブにそれぞれ緑と黄色の魔法結晶を嵌め込んであります。
一つは私、アイリスが込めた緑色の魔法結晶です。中に私の魔力が入っています。ですが、シオンさんは私の魔法を見たことがありませんので、現時点で使うことができません。
そこで私の魔法を二つ教えます。一つはウインドカッターと言って風の刃を飛ばす魔法です。もう一つがウインドシールド。目の前に風の防御盾を出して敵の攻撃を防ぎます。
シオンさんが買ってくれたデジカメに魔法の動画を入れて鞄に入れています。それを見れば使用が可能になるでしょう。
また、キューブから魔法結晶を取り出し魔法結晶のみで発動させた場合はウインドカッターのみ発動が可能です。
もう一つがクミンさんの魔法を込めた黄色の魔法結晶です。こちらはサンダーボルトと言って雷を飛ばす魔法と、ライトニングと言って光の玉を出して辺りを照らすことが出来ます。
こちらも動画に残しておきましたので見てください。
回数的には五十回程度は使えると思いますが、それ以上はまた補充しないと使えません。因みに使用していくと段々魔法結晶の色がくすんでいき、空っぽになると魔法結晶輝きが無くなって魔法が使えなくなります。くすんだの状態でも魔力の補充をすればまた使用できますので問題ありません。
今回は私達がいませんので、補充ができません。ですので魔力が尽きたらもうその魔法結晶は使用不可になります。使用する場合はよく考えて使用してください。
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長い説明文で途中で投げ出しそうになったが、要するにこれは他人の魔法が使える箱ってことだ。
今はアイリスの緑魔法とクミンの黄魔法が使えるのか。念じるだけで発動するらしいから、これは役に立ちそうだな。
一緒に入っていた映像はあとでトオルと一緒に見よう。それで使えるようになるはずだ。
一緒に入っていたもう一つの大きな箱を開いてみる。すると中に入っているのは大量の魔法結晶だった。どうやら宝石箱の代わりみたいだ。三層になっており、大きさや色で分けてある。赤や青など基本七色と灰色の魔石が大量に入っていた。
説明によると灰色の魔法結晶は属性がない結晶のようだ。ここに最初に魔力を通すとその人の属性の色に魔法結晶が変化をする。どうやらレアな属性の人用らしい。
次の袋を開けてみる。そこには先ほどのとは違う石が入っていた。宝石ではないように見える、ガラス玉のように脆そうだ。これにもメモがついてあるので読んでみた。
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これは結界石です。
これを地面に向けて壊すと、その地点から半径五mに渡って結界が発動します。
この結界は割った人に害意がある人や魔物、つまりは敵を完全に遮断することができます。
虫除けにもなるので眠れぬ夜のお供に是非!
一回の使用で半日は保ちますが、消耗品ですのでご利用は計画的に。
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先ほどのメモに比べると文章が随分と砕けている気がする。日本語に慣れてきたのだろうか?アイリスが書いた順番がわかる気がするな。
結界石は二十個程入っていた。いざとなったら使おう。
最後の袋を開けてみるとナイフが出てきた。メモを読む。
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このナイフはすごいです! 超高性能です!
ナイフに小さな穴があるは解りますか? この穴に合う魔法結晶を入れるですね、なんと!! その属性が付与されるナイフなんです!
炎が込められた魔法結晶なら炎を纏ったナイフに。雷を纏った魔力結晶なら気分はもうサンダーソード! みたいな?
でもこのナイフに入れる魔法結晶はキューブに入れる魔法結晶とは違うんです。大きさを見ればわかりますよね?
このサイズの魔法結晶は特別な加工が必要になるのでオーダーメイドで作らないといけません。だからなんと今は手元にないんですよ! だからこのナイフは現状ただのナイフです。
だから頑張って作ってくださいね♪ 多分ドワーフ王国辺りにいけば手に入ると思いますよ!
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何が作ってくださいね♪だ。若干イラッとしつつナイフを見る。現状これはただのナイフってことか。まぁ今は無いよりはましだろう。
アイリスの鞄に入っているのはこれだけだな。
次はクミンの鞄を見る。
クミン鞄は全部本のようだ。本は随分と堅い、製紙ではなく羊皮紙というやつなんだろう。何か役立ちそうな本はないか調べる。
まずはクミン手作りの魔法書。これだけは地球の素材で書かれている、魔法の入門講座だ。魔力のことを調べないとこの世界の人と会話が出来ないから早く読みたいけど流石に今は後回しか。この確認が終わったらトオルと一緒に読むことにしよう。
次の本を開く。何々錬金術入門?
これも読んでみたいが、今ではない。じゃあ次は…と、思ったが、ハッとして先程の本をもう一度見る。
確かに錬金術入門と書いてある。知らないはずの文字で。この世界の本なのだから当然だ。つまり、書いてある文字が理解できるということだ。
読めるということは、さっきの飴は効果があったってことだ。
それにしても……クミンの魔法入門のノートはイラスト付きで日本語で書かれてあった。一日で日本語をマスターして書いたってことなのか? あいつ本当にスゴいやつだったんだと今にして思う。酒を飲むか漫画を読むかしか印象になかったが、もう少し話を聞いてみればよかったな。
「シオンくん、そっちはどうだい?」
トオルが戻ってきた。あっちは終わったのだろうか?
「今はクミンから貰った本を確認中、あとソータから貰ったものの確認が残ってる。そっちは?」
「こっちは武器の確認と機械類の確認は終わったよ。キャンピングカーも中の設備は使えそうだった。後は電子機器が動くか確認したいな。ゲートを通ったことでダメになってないか不安だよ」
たしかに電子機器が狂うって可能性があるのか。せっかく持ってきたのに使用できないのは嫌だな。
「それで……はいこれ」
トオルは武器としてボウガン、スタンガン、エアガン、釘打機、斧にノコギリやハンマーを持ってきた。
地球では役に立ちそうだが、魔族相手にこれが果たして役に立つのだろうか?
「一体どれくらい効果があるんだろうね?」
やはりトオルも同じ考えのようだ。
「俺からはこれだ」
と、アイリスから貰ったキューブを渡し、使い方を教えた。
「いいね。さっきの武器よりもよっぽど活躍しそうだ。ねぇ、試してもいい?」
「後でな。今は他の報告を先にしよう」
俺はトオルに分かったことを説明した。
「結界石はいいね! 今の僕らには絶対に必要なものだよ。でも、今役に立ちそうなのはそれくらいだね。他は少し落ち着いてから調べようか。それと、文字が読めたのは良かったね。飴の効果があったのが解ったのは朗報だよ」
本を捲りながらトオルが言う。そのまま一緒に本を確認したが、過去にどんな魔法が存在したか、獣人王国の歴史、魔物図鑑のようなものしかなかった。どれも興味はあるが、今は必要のないものばかりだ。
「じゃあせっかくだし、残ったソータからの贈り物を確認しないか?」
ソータからの貰ったものはメモ帳とカード、お金と魔石だった。
ソータのメモはこっちでの常識、年月や時間の概念、お金の価値や相場などで今は役に立つことはなかった。
「これ、村に行くときとかには必要だけど今じゃないね」
「本来なら森辺りに出て村に向かってたから必要だったと思うよ」
でも今は魔王城だ。ここから出るのには必要ない。
「でも、これだけは今は助かるね!」
ソータが地球で見せてくれた魔力検査カードだ。結構な枚数がある。
「これってそんなに使うものなのか?」
一回調べたら終わりの気もするが?
「それ、ソータくんに聞いたけど、実際は一人一枚でいいみたいだね。ただ、表示された色の強弱で現時点の魔力のレベルもある程度分かるみたい。なのでたまに見て、自分の強さを確認するみたい」
つまりこんなには必要ないってことだ。でも色で強弱がわかるのか。魔法が使えるようになったら早速試してみないとな。
この世界にはゲームみたいなステータス画面やスキル、称号みたいなものはないし、アイテムボックスのようなチート魔道具もない。
ただし、魔法の中には相手の能力を確認したり、強さが解ったりする魔法は存在するらしい。
まぁほとんど使う人がいないレアな魔法みたいだけどね。
「ねぇ、今から魔法の勉強をしないかい? 一先ず身を守る結界石もあるし、まずは言葉の壁をどうにかするのが最優先だと思うんだよ!」
確かにその通りだが、それよりも早く魔法が使いたいとトオルの顔に書いてある。そして、それは俺もだ。
「ああ、じゃあ今から魔法の勉強するか!」
 




