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ロストカラーズ  作者: あすか
幕間
116/468

日常編 三国同盟

「そういえば、シオンは妾以外の魔王を知っておるか?」


「いや、知るわけないだろう? 以前エキドナが教えてくれたことくらいしか知らないよ」


「おぬし……少しくらい調べようとは思わんのか?」


「そりゃあ気にはなるけど、色々と忙しいし……」


「ほう? その忙しいおぬしは今何をやっとるのかのう?」


「……麻雀かな? あっそれポン!」


 対面にいるゼロの捨て牌を鳴く。


「お前はよく鳴くよな、少しは面前で手を作ろうと思わんのか?」


「俺は基本、鳴き麻雀だ。悔しかったら勝ってみろ」


「言ったな? それロン。満貫だ」


「なん……だと。俺のトイトイが……」


「お前……その状態で鳴いたのか? 面前なら、もっと高い手が狙えただろ」


 ゼロが俺の手牌を見て唖然とする。


「ばっか、そしたら時間が掛かるだろうが。勝ってるときのオーラスは、時間との勝負だ」


「だったら今度はトイトイじゃなくて、翻牌か喰いタンでいいだろう。中途半端すぎるぞ」


「だって丁度よかったんだよ。それにしても……オーラスで捲られるとは……ええいくそっ! 止めだ止め!」


「終わってもいいが、お前……ちゃんと景品の酒を持ってこいよ?」


 最後に勝ったゼロは余裕綽々だ。


「負けたのはシオン様のせいで、私は負けてないですから。ですので、食堂のお酒は出しませんよ。個人のお酒を出して下さいね」


 それだけ言ってアレーナは席を立つ。


「えっ? ちょっとアレーナ?」


「俺は飲めればシオンのだろうが、誰のだろうが気にしないぞ」


「くっ……仕方ない。部屋から持ってくるから待ってろ。エキドナも飲むよな?」


「おぬしは……まあよい。早く持ってくるのじゃぞ」


「四位の癖に生意気だな。……気になる話を振って、意識を逸らすとこまでは良かったが……いいんだぞ? エキドナだけ素面でも」


「なっそれはないじゃろ! 妾も仲間に入れたもう」


 結局エキドナの必死の懇願に負けて、俺は秘蔵の酒を手放すことになった。



 ――――


「んで、魔王がどうのって言ってたよな。他の魔王って、竜魔王と悪魔王じゃなかったっけ?」


 【竜魔王】ゼファーと【悪魔王】ベルゼードだっけ?


「そうじゃ。それに妾とシエラとヘンリー。表に出ている残った魔王はそれだけじゃ」


「表に出ている?」


「そうじゃ。海の中じゃから目立たぬが、妾達と同格の海中におる海魔王、それから各種族で勝手に名乗っておる小さな魔王もおる」


「……魔王って勝手に名乗っていいんだ」


 魔王ってか、自称魔王って感じか。


「どこの派閥にも属しておらぬ、はぐれ魔族じゃな」


 エキドナは人型と魔獣のハーフ魔族の王、シエラは元妖精及び、女性型魔族の王、ヘンリーはアンデッドの王、それに竜関係を統べる竜魔王とデーモン関係を統べる悪魔王。

 それ以外の魔族ははぐれ魔族となり、種族ごとに固まったり、個人個人で活動したりしているそうだ。


「んで、それがどうしたんだ?」


「カミラとルーナを魔王にしたいと思うてな」


「カミラとルーナを?」


「そうじゃ。先ほども言ったように、魔族を統べるためには、魔王を名乗るのが手っ取り早い。カミラはアンデッドだけでなく夜魔族も統べるため、【夜魔王】と名乗ってもらうつもりじゃ」


「……まぁ別に良いと思うけど。でもルーナは……無理じゃないか?」


 まず間違いなく断るだろう。


「じゃろうな。じゃがこれは、シクトリーナを守るためでもあるのじゃぞ」


「どう言うことだ?」


「現状、外部のシクトリーナへの認識は、シエラが死んで、魔王不在の状態じゃ。いくら赤の国がなくなったと言っても、他の国の人間や、はぐれ魔族どもが攻めてくる可能性があるのじゃ」


 人間側はエキドナ領があるから、そこまで気にしなくてもいい。だけど、魔族側は特に対策していない。自称魔王達が攻めてくる可能性があるのか。


「まぁそこらのはぐれ魔族が攻めてきたところで、おぬしらが負けることはないじゃろう。じゃがな、城下町に被害がある可能性や、いつ攻めてくるか分からぬのでは、外出できない等の不都合は出てくると思うぞ」


 今は定期的にエルフの村を訪れているし、近いうちに黄の国へ旅立とうと思っている。もし不在の時に狙われたら……。


「じゃが、この城に新しい魔王がいるとなれば、話は変わってくる。しかもその魔王は、ヘンリーとタイマンで勝利しておるのじゃ。おぬしらには、ヘンリーは格下だったかもしれぬが、あれでも一応、複数の種族を束ねる表魔王じゃったから、魔族間では一目置かれておった」


 そうだったのか……。あんなでも、ヘンリーは一目置かれるほどに、スゴい奴扱いだったんだ。


「でも、倒したのがルーナだってのは、知れ渡ってるだろ?」


 ルーナの名前はともかく、シエラの部下が倒したって話になっていたはずだ。


「魔王を倒せる者が、魔王を名乗らないのは、何か秘密があるか、卑怯な手を使ったなど、勘ぐられる要因になっておるのじゃ」


 なんと! そんな話になっていたのか。


「それに妾と同盟を組んでおるのは周知じゃ。じゃが、いくらこっちが対等だと言っても、魔王とそれ以外だと従属に見えてしまうのじゃ」


 あー、それはなんとなく分かる。俺達がエキドナの下に思われている訳か。


「エキドナの従属なら攻めてこないんじゃ……」


「直接の支配下ならともかく、友国くらいじゃ、問題ないと思う馬鹿者は何処にでもいるのじゃぞ?」


 そう言われれば、そうかもしれない。何も考えない馬鹿は何処にでもいる。


「それ以前に、妾はおぬしらが下に見られるのは、我慢ならん。妾はせっかく仲良くやろうと言うのに、こんな些細なことで、水を差されたくないのじゃ」


「だからルーナを魔王に……か」


 納得できる理由でもあるし、外への牽制にもなる。悪い話ではないが……。


「それでも無理だと思うぞ」


 ルーナはメイドに誇りを持っている。メイドが魔王は……俺としてはアリだと思うが、絶対に首を縦に振らないだろう。


「なら代わりにシオンが魔王になるか?」


「いや、俺人間だし」


 そもそも魔族ですらない。


「俺としては、アレーナでもいいと思うぞ。俺たち相手に平気で卓を囲む根性といい、あの威圧といい、魔王の器にはピッタリだと思うが」


 ゼロの意見には大いに賛成するが、間違いなくアレーナも断るだろう。それ以前に、提案する勇気すら起こらない。


「……ゼロが説得するならいいぞ。俺はまだ死にたくないから断る」


「……俺だって命は惜しいぞ」


 俺達は海の中で延々とイカを探したことを思い出した。諦めて帰ったら、アレーナに見つかるまで帰ってくるなと追い出され、ようやく見つけたと思ったら、全て回収された苦い思い出……。


「おぬしらはどんだけアレーナを怖がっておるのじゃ」


 エキドナは俺たち二人に呆れているが、改装の件を忘れたか? アレーナのターゲットとして、お前も実はギリギリの場所にいるんだぞ?


「アレーナは素質はあるが、交渉は出来ないと言うことで…ちょっくらルーナに聞いてみようか」


 ここで話し合っても仕方がないと思ってルーナに来てもらうことにした。



 ――――


「断ります」


 取り付く島もなかった。


「なんでじゃ! メリットは説明したじゃろう?」


「確かにお伺い致しました。ですが、わたくしはメイドです。表舞台に立つことはございません」


 やっぱり……ルーナなら間違いなくそういうと思った。


「それに魔王なら、シオン様がなれば宜しいではございませんか」


「だから俺は魔族じゃないって」


 何でみんな俺を魔王にしたがるんだよ。


「別に魔王は魔族でないと駄目という訳ではございません」


「えっ? どういうこと?」


 魔族の王だから魔王じゃないの?


「魔法の王で、魔王で宜しいではありませんか」


 魔族の王じゃなくて、魔法の王…そんな考え方もあるのか。


「いやいや、流石に無理があるじゃろ。というか、魔法の王を名乗れば、魔族以上に黙っておらぬ輩が出てきそうじゃ。それに、欲しいのは女性型魔族を統べるもの。シオンが統べると、ハーレムになるぞ」


 魔族のハーレム。……響きとしては素晴らしいが、実際はそういいものでもないよな? というか、種族が増えるくらいで、あまり今と変わらない気がする。


「それは不味いですね。シオン様の魔王は諦めましょう」


 自分の発言を速攻で却下するルーナ。ルーナの言う不味いとは、黙っておらぬ輩のことか、俺のハーレムのことか……どっちだろう。


「ですが、わたくしが魔王になるのは嫌でございます」


「ふーむ。……ちょっとルーナと二人で話したい。ちょっと向こうへ行くぞ」


 そう言って、エキドナはルーナを部屋の隅へと連れて行く。そしてこっちに聞こえないようにルーナに耳打ちする。


「なっ!? ……いや、しかし……」


 突然ルーナが叫ぶ。一体何を話しているのか。ルーナは先ほどまでの、頑なな否定から、思案顔になっている。……本当に何を言ったんだ?



 ――――


 しばらくすると、エキドナとルーナが戻ってきた。


「話は付いた。ルーナは魔王を名乗るそうじゃ」


 ルーナが了承した!? 一体どんな取引をしたのか……。


「あくまで名前だけでございます。魔王としての活動は一切行いません」


「活動は全てシオンに任せればよい。何せシオンが城主なのじゃから」


「ん? 俺は城主のままなのか? 一体どんな感じになるんだ?」


「シオンがシクトリーナのトップで、配下として魔王のルーナが付くことになる」


「魔王が部下って……それ逆に舐められるんじゃないのか?」


 魔王が弱いと思われないだろうか?


「そこはほれ、シオンが男で、ルーナが女じゃから、外から見ると、夫婦みたいに思われるじゃろうて。ああ、実際には、シオンはラミリアと夫婦になるが、別に外部の勘違いを正す必要もないしの」


「夫婦……シオン様と夫婦……魔王と城主のイケない関係」


 うわー。エキドナめ。ルーナの好きそうなシチュをピンポイントに選びやがった。つーか、こそっとラミリアと夫婦になるとか、決めてるんじゃない。


「……色々とツッコミ満載だが、ルーナがそれでいいならいいよもう。ただ、あくまでも振りだからな! ってか、振りどころか、相手が勝手に勘違いするだけだから、言いふらすこともないからな!!」


「分かっておるわ。下手に言いふらして、既成事実など作られたら、妾がラミリアに怒られてしまうわ」


「既成事実……そんな! いけませんシオン様! ああっ」


 一体ルーナの中でどんな妄想が繰り広げられているのか……気にしたら負けだろう。



 ――――


 こうして二人は新しく【銀乙女】ルーナと【夜魔王】カミラとして、魔王を名乗ることになった。


 ルーナは最後まで【メイド王】がいいと言っていたが、流石に箔が付かないで、全員から却下された。

 因みに【銀乙女】は地球でのメイドの語源がメイデン――乙女であることから、俺が名付けた。


 ついでに、エキドナの領地になった元赤の国。流石に新しい名前を決めないと……ってことで、元々のエキドナ領をアンサンブル、元赤の国の領地をシンフォニアと名付けた。


「それでは重奏国、夜魔国、銀国の三国で三国同盟を結んだと、世界に向けて流すからの」


 俺達の領地はシクトリーナ領、通称銀国となった。まぁ国と言っても、領地はここだけなので変わりはしないのだが。


 それに、やることも今までと変わらない。カミラからは鉱石や灰色の魔石を、エキドナからはヒポグリフでの運搬や魔法技術の提供を。こちらからは、食料や生活用品、料理技術の提供を行っている。もちろんそこは面だって発表はしない。


 だから外部にはどう映るのか。攻めてこないための牽制のつもりだったが……表立った魔王の三国同盟が大きな波紋を呼ぶことになるとは、この時点では誰も知るよしもなかった。

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