日常編 三国同盟
「そういえば、シオンは妾以外の魔王を知っておるか?」
「いや、知るわけないだろう? 以前エキドナが教えてくれたことくらいしか知らないよ」
「おぬし……少しくらい調べようとは思わんのか?」
「そりゃあ気にはなるけど、色々と忙しいし……」
「ほう? その忙しいおぬしは今何をやっとるのかのう?」
「……麻雀かな? あっそれポン!」
対面にいるゼロの捨て牌を鳴く。
「お前はよく鳴くよな、少しは面前で手を作ろうと思わんのか?」
「俺は基本、鳴き麻雀だ。悔しかったら勝ってみろ」
「言ったな? それロン。満貫だ」
「なん……だと。俺のトイトイが……」
「お前……その状態で鳴いたのか? 面前なら、もっと高い手が狙えただろ」
ゼロが俺の手牌を見て唖然とする。
「ばっか、そしたら時間が掛かるだろうが。勝ってるときのオーラスは、時間との勝負だ」
「だったら今度はトイトイじゃなくて、翻牌か喰いタンでいいだろう。中途半端すぎるぞ」
「だって丁度よかったんだよ。それにしても……オーラスで捲られるとは……ええいくそっ! 止めだ止め!」
「終わってもいいが、お前……ちゃんと景品の酒を持ってこいよ?」
最後に勝ったゼロは余裕綽々だ。
「負けたのはシオン様のせいで、私は負けてないですから。ですので、食堂のお酒は出しませんよ。個人のお酒を出して下さいね」
それだけ言ってアレーナは席を立つ。
「えっ? ちょっとアレーナ?」
「俺は飲めればシオンのだろうが、誰のだろうが気にしないぞ」
「くっ……仕方ない。部屋から持ってくるから待ってろ。エキドナも飲むよな?」
「おぬしは……まあよい。早く持ってくるのじゃぞ」
「四位の癖に生意気だな。……気になる話を振って、意識を逸らすとこまでは良かったが……いいんだぞ? エキドナだけ素面でも」
「なっそれはないじゃろ! 妾も仲間に入れたもう」
結局エキドナの必死の懇願に負けて、俺は秘蔵の酒を手放すことになった。
――――
「んで、魔王がどうのって言ってたよな。他の魔王って、竜魔王と悪魔王じゃなかったっけ?」
【竜魔王】ゼファーと【悪魔王】ベルゼードだっけ?
「そうじゃ。それに妾とシエラとヘンリー。表に出ている残った魔王はそれだけじゃ」
「表に出ている?」
「そうじゃ。海の中じゃから目立たぬが、妾達と同格の海中におる海魔王、それから各種族で勝手に名乗っておる小さな魔王もおる」
「……魔王って勝手に名乗っていいんだ」
魔王ってか、自称魔王って感じか。
「どこの派閥にも属しておらぬ、はぐれ魔族じゃな」
エキドナは人型と魔獣のハーフ魔族の王、シエラは元妖精及び、女性型魔族の王、ヘンリーはアンデッドの王、それに竜関係を統べる竜魔王とデーモン関係を統べる悪魔王。
それ以外の魔族ははぐれ魔族となり、種族ごとに固まったり、個人個人で活動したりしているそうだ。
「んで、それがどうしたんだ?」
「カミラとルーナを魔王にしたいと思うてな」
「カミラとルーナを?」
「そうじゃ。先ほども言ったように、魔族を統べるためには、魔王を名乗るのが手っ取り早い。カミラはアンデッドだけでなく夜魔族も統べるため、【夜魔王】と名乗ってもらうつもりじゃ」
「……まぁ別に良いと思うけど。でもルーナは……無理じゃないか?」
まず間違いなく断るだろう。
「じゃろうな。じゃがこれは、シクトリーナを守るためでもあるのじゃぞ」
「どう言うことだ?」
「現状、外部のシクトリーナへの認識は、シエラが死んで、魔王不在の状態じゃ。いくら赤の国がなくなったと言っても、他の国の人間や、はぐれ魔族どもが攻めてくる可能性があるのじゃ」
人間側はエキドナ領があるから、そこまで気にしなくてもいい。だけど、魔族側は特に対策していない。自称魔王達が攻めてくる可能性があるのか。
「まぁそこらのはぐれ魔族が攻めてきたところで、おぬしらが負けることはないじゃろう。じゃがな、城下町に被害がある可能性や、いつ攻めてくるか分からぬのでは、外出できない等の不都合は出てくると思うぞ」
今は定期的にエルフの村を訪れているし、近いうちに黄の国へ旅立とうと思っている。もし不在の時に狙われたら……。
「じゃが、この城に新しい魔王がいるとなれば、話は変わってくる。しかもその魔王は、ヘンリーとタイマンで勝利しておるのじゃ。おぬしらには、ヘンリーは格下だったかもしれぬが、あれでも一応、複数の種族を束ねる表魔王じゃったから、魔族間では一目置かれておった」
そうだったのか……。あんなでも、ヘンリーは一目置かれるほどに、スゴい奴扱いだったんだ。
「でも、倒したのがルーナだってのは、知れ渡ってるだろ?」
ルーナの名前はともかく、シエラの部下が倒したって話になっていたはずだ。
「魔王を倒せる者が、魔王を名乗らないのは、何か秘密があるか、卑怯な手を使ったなど、勘ぐられる要因になっておるのじゃ」
なんと! そんな話になっていたのか。
「それに妾と同盟を組んでおるのは周知じゃ。じゃが、いくらこっちが対等だと言っても、魔王とそれ以外だと従属に見えてしまうのじゃ」
あー、それはなんとなく分かる。俺達がエキドナの下に思われている訳か。
「エキドナの従属なら攻めてこないんじゃ……」
「直接の支配下ならともかく、友国くらいじゃ、問題ないと思う馬鹿者は何処にでもいるのじゃぞ?」
そう言われれば、そうかもしれない。何も考えない馬鹿は何処にでもいる。
「それ以前に、妾はおぬしらが下に見られるのは、我慢ならん。妾はせっかく仲良くやろうと言うのに、こんな些細なことで、水を差されたくないのじゃ」
「だからルーナを魔王に……か」
納得できる理由でもあるし、外への牽制にもなる。悪い話ではないが……。
「それでも無理だと思うぞ」
ルーナはメイドに誇りを持っている。メイドが魔王は……俺としてはアリだと思うが、絶対に首を縦に振らないだろう。
「なら代わりにシオンが魔王になるか?」
「いや、俺人間だし」
そもそも魔族ですらない。
「俺としては、アレーナでもいいと思うぞ。俺たち相手に平気で卓を囲む根性といい、あの威圧といい、魔王の器にはピッタリだと思うが」
ゼロの意見には大いに賛成するが、間違いなくアレーナも断るだろう。それ以前に、提案する勇気すら起こらない。
「……ゼロが説得するならいいぞ。俺はまだ死にたくないから断る」
「……俺だって命は惜しいぞ」
俺達は海の中で延々とイカを探したことを思い出した。諦めて帰ったら、アレーナに見つかるまで帰ってくるなと追い出され、ようやく見つけたと思ったら、全て回収された苦い思い出……。
「おぬしらはどんだけアレーナを怖がっておるのじゃ」
エキドナは俺たち二人に呆れているが、改装の件を忘れたか? アレーナのターゲットとして、お前も実はギリギリの場所にいるんだぞ?
「アレーナは素質はあるが、交渉は出来ないと言うことで…ちょっくらルーナに聞いてみようか」
ここで話し合っても仕方がないと思ってルーナに来てもらうことにした。
――――
「断ります」
取り付く島もなかった。
「なんでじゃ! メリットは説明したじゃろう?」
「確かにお伺い致しました。ですが、わたくしはメイドです。表舞台に立つことはございません」
やっぱり……ルーナなら間違いなくそういうと思った。
「それに魔王なら、シオン様がなれば宜しいではございませんか」
「だから俺は魔族じゃないって」
何でみんな俺を魔王にしたがるんだよ。
「別に魔王は魔族でないと駄目という訳ではございません」
「えっ? どういうこと?」
魔族の王だから魔王じゃないの?
「魔法の王で、魔王で宜しいではありませんか」
魔族の王じゃなくて、魔法の王…そんな考え方もあるのか。
「いやいや、流石に無理があるじゃろ。というか、魔法の王を名乗れば、魔族以上に黙っておらぬ輩が出てきそうじゃ。それに、欲しいのは女性型魔族を統べるもの。シオンが統べると、ハーレムになるぞ」
魔族のハーレム。……響きとしては素晴らしいが、実際はそういいものでもないよな? というか、種族が増えるくらいで、あまり今と変わらない気がする。
「それは不味いですね。シオン様の魔王は諦めましょう」
自分の発言を速攻で却下するルーナ。ルーナの言う不味いとは、黙っておらぬ輩のことか、俺のハーレムのことか……どっちだろう。
「ですが、わたくしが魔王になるのは嫌でございます」
「ふーむ。……ちょっとルーナと二人で話したい。ちょっと向こうへ行くぞ」
そう言って、エキドナはルーナを部屋の隅へと連れて行く。そしてこっちに聞こえないようにルーナに耳打ちする。
「なっ!? ……いや、しかし……」
突然ルーナが叫ぶ。一体何を話しているのか。ルーナは先ほどまでの、頑なな否定から、思案顔になっている。……本当に何を言ったんだ?
――――
しばらくすると、エキドナとルーナが戻ってきた。
「話は付いた。ルーナは魔王を名乗るそうじゃ」
ルーナが了承した!? 一体どんな取引をしたのか……。
「あくまで名前だけでございます。魔王としての活動は一切行いません」
「活動は全てシオンに任せればよい。何せシオンが城主なのじゃから」
「ん? 俺は城主のままなのか? 一体どんな感じになるんだ?」
「シオンがシクトリーナのトップで、配下として魔王のルーナが付くことになる」
「魔王が部下って……それ逆に舐められるんじゃないのか?」
魔王が弱いと思われないだろうか?
「そこはほれ、シオンが男で、ルーナが女じゃから、外から見ると、夫婦みたいに思われるじゃろうて。ああ、実際には、シオンはラミリアと夫婦になるが、別に外部の勘違いを正す必要もないしの」
「夫婦……シオン様と夫婦……魔王と城主のイケない関係」
うわー。エキドナめ。ルーナの好きそうなシチュをピンポイントに選びやがった。つーか、こそっとラミリアと夫婦になるとか、決めてるんじゃない。
「……色々とツッコミ満載だが、ルーナがそれでいいならいいよもう。ただ、あくまでも振りだからな! ってか、振りどころか、相手が勝手に勘違いするだけだから、言いふらすこともないからな!!」
「分かっておるわ。下手に言いふらして、既成事実など作られたら、妾がラミリアに怒られてしまうわ」
「既成事実……そんな! いけませんシオン様! ああっ」
一体ルーナの中でどんな妄想が繰り広げられているのか……気にしたら負けだろう。
――――
こうして二人は新しく【銀乙女】ルーナと【夜魔王】カミラとして、魔王を名乗ることになった。
ルーナは最後まで【メイド王】がいいと言っていたが、流石に箔が付かないで、全員から却下された。
因みに【銀乙女】は地球でのメイドの語源がメイデン――乙女であることから、俺が名付けた。
ついでに、エキドナの領地になった元赤の国。流石に新しい名前を決めないと……ってことで、元々のエキドナ領をアンサンブル、元赤の国の領地をシンフォニアと名付けた。
「それでは重奏国、夜魔国、銀国の三国で三国同盟を結んだと、世界に向けて流すからの」
俺達の領地はシクトリーナ領、通称銀国となった。まぁ国と言っても、領地はここだけなので変わりはしないのだが。
それに、やることも今までと変わらない。カミラからは鉱石や灰色の魔石を、エキドナからはヒポグリフでの運搬や魔法技術の提供を。こちらからは、食料や生活用品、料理技術の提供を行っている。もちろんそこは面だって発表はしない。
だから外部にはどう映るのか。攻めてこないための牽制のつもりだったが……表立った魔王の三国同盟が大きな波紋を呼ぶことになるとは、この時点では誰も知るよしもなかった。




