日常編 シクトリーナ大改装②
城の改装の話が身内用になった途端、各メイド隊の隊長達は、大盛り上がりだ。
あまりにも喧しかったためルーナの怒号が飛んだ。
「貴女たち! 何ですか大声で騒ぎ立てて……全くはしたない。少しはメイドとしてもう少し慎みを持ちなさい!」
一瞬で静まりかえる会議室。隊長達が「申し訳ございません」と謝罪する。
「いいですか。採用されるかどうかは分かりませんが、全ての案を聞きますので、順番に話しなさい」
と言うわけで、順番に各メイドから聞いた内容を聞いていく。
やはり多かったのは自室にシャワー室とトイレは多かった。
で、一階にあった浴場の廃止は問題ないらしい。温泉ができてから利用者は減っていたからな。
ってか普通にシャワーって言ってるけど、浴場と温泉にはシャワーはなかったからな。ドルクの魔法のおかげで新しくできた技術だし。そういう意味では現状城よりもツヴァイスの方が生活基準は上の気がする。
ってことで、全部屋シャワーとトイレが作られることになった。
あと、生活水準は全体的にツヴァイス基準にするようにした。具体的には、明かりはスイッチで点灯式にして、冷蔵庫も各部屋に常備。流石にテレビはないが、本当にビジネスホテル風になってしまった。
次に多かったのが、部屋は小さくてもいいので、個人部屋が欲しいという要望だった。
今はメイドは基本的に二人部屋だったが、やはり一人のプライベートルームが欲しいようだ。
しかし、出来るのか? 小さくてもって各部屋にシャワーとトイレを入れたら一人部屋は無理だろう。
「いっそのこと、メイド部屋を二階と三階にするか。で、三階に俺達も住めばいいだけだろ」
「それではシオン様が、使用人と同じ階層で過ごすことになってしまいます」
「駄目なの?」
「当たり前です。いいですか、本来城主というのは……」
その後五分くらい城主の心構えを説明されたしまった。俺としては同じ城に住む家族みたいなものなんだけどな。
「個人部屋は保留にして、次へ進みましょう。次は四階をどうするかですね」
現在の四階は、会議室や資料室と、多目的ホールのような部屋がある。結構無駄になっている部分も多い。
なら四階を客室に……って思ったが、四階はフィーアスに直通する転移扉がある。流石に不用心すぎるか。
なら四階をメイド部屋……とも考えたが、じゃあ二階と四階がメイド部屋って変な感じになる。
なら二階を客室に……とすると、今度はツヴァイスの転移扉がってなる。
「こうなったらツヴァイスとドライを入れ替えるか? 罠のドライ海峡を二階に持って行こう。で、三階をツヴァイス、四階をフィーアスにすればいいんじゃないか?」
「確かに出来なくはないですが、いいのですか?」
「何がだ?」
「いえ、名前の由来というか…」
俺がドイツ語の数字から適当に選んだ名前だ。
「別に構わないだろ。由来なんて元々適当に付けただけだし、もう定着したし」
「ってか、城下町まで作ったんだ。侵入者が来ることなんてないだろ? 侵入者用と分ける必要があるのか?」
根本的に必要ない気がしてきた。
「確かに以前の冒険者のような進入はないかもしれません。ですが、大っぴらにしたことにより、今後他国のスパイが紛れ込む危険性があります。それに、あそこはわたくしの芸術品でございます。無くすなんてとんでもない」
「あっはい」
スパイ云々じゃなくて、殆どが私用だった。
「では一階と二階を外向けにしましょうか。一階が食堂とパーティ会場、お客様の控え室や更衣室などにしては如何でしょう。で、二階にエキドナ様や客室を作れば三階以上は、外の人は入らないでしょう」
また面倒なことを言い始めた。さっき決めたエキドナ部分を二階に……でも、外部の人間関係を二階までに集約するのはいい考えかもしれない。
「ん? でも全く使ったことがない玉座の間はどうする? あれ五階にあるけど……」
使うかどうかは分からないけど、もし使うことになったら、結局三回より上に上がることになるぞ。
「あっそういえば、そんなのもありましたね」
おいおい、メイド長が城の玉座忘れてどうするよ。
「ではパーティー会場を謁見の間と兼任しましょう。で、侵入者用の玉座の間はそのままでよろしいかと」
「確か赤の国の城も、玉座とパーティー会場が一緒になってたよな?」
ルーナがヘンリーと戦った場所だ。バルコニーがあって玉座もあった。
「そうじゃの。まぁあの城はその内、妾の好きなように変更させてもらうがの」
今はエキドナの城だ好きにすればいいさ。……その城に俺達のスペースはあるんだろうな?
「ならそれでいいか。でも、そうすると五階が大分スッキリするんじゃないか? 五階は元々居住区の方が広いんだし」
五階は侵入者フロアが玉座しかない分、居住区の方が広くなっている。
「では……五階をメイド部屋にしましょうか? それなら全員が個人部屋でも問題ないような気がします」
「となると今度は三階と四階が空くか。片方は俺達の部屋でいいが残りはどうする?」
「資料室や会議室などでどうでしょう?」
「まぁそれが妥当か。これである程度決まったか?」
「後は各メイド達の要望が残っております」
「……個人部屋以外にもあるのか?」
「どちらかと言えば、仕事に関する要望ですね」
ああ、アレーナの冷蔵庫みたいなものか。
「まず、研究隊が研究室が欲しいと」
話を振られてキーナが恐縮する。別に恐縮しなくてもいいから、もう少し堂々として欲しい。
「まぁエルフやエキドナ達と共同研究もするんだ。当然だろう」
「あと、通信隊がもう少し部屋を広く……」
「エリーゼ、あそこじゃ狭い?」
「一階に休憩室がなくなりますから。そこに変わる場所が欲しいです」
休憩室込みでってことか。
「まぁそれくらいならいいか」
「警備隊からもいいでしょうか? 牢の件なのですが、あそこまで大きくは必要ないですが、やはりないと必要になった時に不安になるそうです。と言いますか、城下町やツヴァイスなので犯罪が起こった場合の罪人を入れる場所が必要だと思います」
警備隊のルミナだ。メイド隊随一の脳筋だが警備に対する姿勢は確かだ。
「そっか……。人が増えたから、もしかしたら犯罪も起きる可能性もあるか」
ウチに限ってそうはならないと信じたい所ではあるが……どうなるか分からないもんな。
それに、故意でなく仕方なくってパターンや、思わずって可能性もある。
「確かに、止むにやまれぬ事情もあるかもしれない。なら牢は無くさないほうがいいのか?」
そうなると、また根本的に変更になってしまうが。
「ルーナ様、地下を広げるのはどうでしょうか?」
今の発言は、第一のシェルファニールだ。今の地下は通信室のみあるだけだ。
「地下を広げることは可能です。では地下に牢を作るようにしましょう」
「でも、通信室と牢を同じフロアにするのは、防犯上マズくありません?」
「なら地下二階を作ってそこを牢に……は駄目ですね。地下一階に通信室では同じでしょう」
「地下二階が出来るなら、通信室を地下二階にすればいいんじゃない?」
「そうですね。それならいっそのこと、階段も作らず地下二階は転移のみでの移動にしましょうか?」
「それって、例えば転移できない状態になったら閉じ込められない? あと空気の入れ替えとか……」
「あっ、そうですね。では隠し階段は作る方向で。ですが、地下一階からは行けないようにしましょう」
「それならいっそのこと、地下二階は秘密のフロアにしよう。研究室や通信室など、外部に漏れたら困るのは全部地下二階に入れてしまおう」
「……エキドナ様がここにいる時点で情報ダダ漏れですが」
「なっ! 妾は誰にも言わぬ。それ以前に、ハーマインが一緒に研究しておるのに、秘密もないじゃろうが! それに……妾はもう身内じゃろ?」
ついに身内発言を始めやがった。まぁトオルが居る時点で、似たようなものかもしれないが。
「まぁエキドナ様に関しては問題ないでしょう。ではその方向で進めてみましょう」
この後も色々と話し合ってようやく改装案が纏まった。
まず新たに地下二階を作る。
地下二階には通信室、研究室、休憩室と給湯室。それから軽く運動が出来るスペースと仮眠室が出来た。自分の部屋が上にあるのに仮眠室? って思ったが、他所から来た研究者用らしい。
あと、念のため通信室には関係者しか入れないようになっている。通信室と研究室の間取りや内装に関しては今後応相談だ。
地下一階は牢、尋問室、警備隊の待機室がある。他にも食料の保管庫と倉庫。
大型冷蔵庫、冷凍庫を準備するが、長期保存するための保管庫も必要だ。
あと、食料以外の倉庫、生活用品や研究や開発した物の保管庫も準備した。
これも牢と同じフロアに……と思わなくもなかったが、通信室と同じように、関係者しか入れないようにすることと、仮に牢から逃げ出しても、武器さえ置かなければ、多くは持ち出せないから問題ないと判断した。
一階は外部に向けたフロア。入ってすぐに大き目なエントランスを準備した。それからパーティー会場兼謁見の間。俺は王じゃなくて城主だから、謁見の間って言っていいものか……。
後はパーティーに参加する人用の更衣室や休憩室、警備の待機室も用意した。
残りは本来のメイン食堂と調理場だ。両方とも倍くらいの広さにした。これでアレーナも満足だろう。
二階が客室とエキドナ領、夜魔族用の部屋、それから外交ようの部屋を用意した。外交や取引、あと、城下町やツヴァイスの住人が城へ用事があるときに使用する部屋だ。
それから二階には遊戯室を用意した。
遊戯室に関してはミサキとレンの要望だ。せっかくトランプなどのカードゲーム、将棋、オセロなどのボードゲームがあるなら、商売のためにも普及したいとのことだった。
まぁその為には量産しないといけないが、それはバルデス商会を呼ぶことが出来てからだろう。だが、普段から自分たちで遊ばないと、良さが伝わらないってことで、客にも城の住人にも遊べるような遊戯室を用意した。
先ほど言ったカードゲームやボードゲームに加えてビリヤードやダーツ、ルーレットなども準備した。
また、賭けは争いの元になるが、張り合いも必要だろうと思って、メダルの引換制にした。
メダルを集めると客ならシクトリーナの名産が、城の者ならハグルの時と同じように、地球産の道具の使用や、食堂での特別な料理などを景品にすることにした。まぁ仕事に差し支えない範囲で遊んでくれたらと思う。
三階は資料室や会議室、など元々四階にあった部屋を持ってきた。あと、映画館みたいなホールも準備した。スクリーンも映画仕様のデカいのを用意した。
ここで地球の映画を見てもいいし、共同研究の発表会や演劇なども出来るし、ドローンの映像や通信室の映像を映し出して会議をすることも出来る。イベントや全員が集まる場所にもいいだろう。
四階は俺達の部屋がある。今までは一部屋だけだったが、二部屋に増えた。特に荷物も多いわけじゃないが、増えた一部屋は和室だった。和室って何か落ち着いていいよね。他にもシャワー、トイレ、エアコン、冷蔵庫まで完備されている。あと、簡単なキッチンも……多分、アレーナが俺に調理場を使われたくないための対策だろうか?
とにかく今までよりもかなり快適になりそうだ。
他にも個室以外に個人個人に仕事部屋も与えられた。俺は多分使わないが、他の人は使うことが多いかもしれない。
五階がメイド部屋。全員個室がある。あと追加で各メイド隊の部屋が用意された。部室みたいなものだ。研究隊、通信隊、料理隊はそれぞれ仕事場が部室みたいな感じだから、それ以外のメイド隊の部屋だ。
メイド部屋は流石に和室はないが、それ以外は俺達とほぼ変わらない。シャワー、トイレ、エアコンなど完備している。ただ、メイド長権限で、ルーナの部屋だけ二部屋で和室が用意してある。最近茶道を始めようとしていたから、それの所為かもしれない。ルーナの和菓子への探究は止まることがなさそうだ。
あと……ずっと手付かずになっていた六階、シエラの寝室や執務室があるが、一先ず保留になっている。今後どうするかは不明のままだ。
――――
「ってな感じだ。よろしくなドルク」
改装案を纏め終わったたので、後はドルク達に頑張ってもらうだけだ。
「よろしくな……じゃないでしょう! これ。滅茶苦茶大変じゃないですか!!」
あ、やっぱり? 俺も、うすうす大変じゃないかな? と感じていたんだ。
「無理か?」
「そりゃあ無理じゃないですが……」
「ならよろしく頼む。報酬はとっておきの酒を用意しよう」
ゼロが美味しいと言っていた日本酒と焼酎だ。ドルク達は普段ビールやウイスキーばかりだから新鮮でいいだろう。
「何! 酒! 分かった今すぐやろう」
どうやらドルクのやる気は問題ないようだ。
この後十日かけて、ドルクとダナン。それから弟子達はシクトリーナ城の大改装を行った。
俺達やメイド達はものすごく喜んでいたが、彼らが真っ白になって力尽きていたのを、俺は忘れないだろう。




