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ロストカラーズ  作者: あすか
第四章 再会
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第70話 迷いの森を抜け出そう

「一体いつになったら、森を抜けられるんスかねぇ?」


「リンさん。森を抜けるんじゃなくて、奥に行くんですよ?」


「どちらでもいいですよ。今の状況を打開できるのなら……」


「あーもう! 分かったから。俺がちゃんと何とかするから、ちょっと黙っててくれ!!」


 森の中へ入って早五日。俺達は相変わらず迷っていた。


「えーと、今がここだろ? で、この道を通るとループするから駄目で……。くそっ、これもう分かんねぇな」


 一旦入った迷いの森から抜け出すには、祭壇がある場所で、魔道具を使用しなければいけないらしい。

 で、その祭壇に行くまでに何度もループしているのだが……。


「これってやっぱり、皆と離れたら再会は難しいかな?」


「はっ! まさか私を見捨てる気じゃないっスよね!」


「そうやって、一人だけ助かろうとするのは良くないと思いますが?」


「あのー。皆さんと違って、私は弱いのから、一人にされると死んでしまいます」


 俺の呟きに三者三様の感想が飛ぶ。


「誰が見捨てるって言ったよ!」


 そもそも、出口も分からないのに、見捨てるとかありえない。


「俺は単純に、ループして戻ってくるなら、一人で先に進んで、ここに戻ってくるか試したかっただけなんだが……」


 シクトリーナの侵入者用の部屋のように、ループしているのなら、右に真っすぐ進んだら、左から帰って来るのかな? その検証がしたかっただけだ。


「それで……、仮にループしなくて、一人で先に進んでしまったらどうするんスか? もうここに戻ってこれなくなって、私ら置き去りっスか?」


「リンの言う通りなんだよなぁ。その可能性があるから、ずっとまとまって行動してたんだが……でもさ、お前らもう限界だろ?」


 もう五日も森の中で彷徨ってるのだ。食料は偶に現れる魔物を捕って食べてるから飢えることはないが、肉体的にも精神的にも限界の筈だ。


「やっぱホリンを連れてくれば良かったかな。ホリンがいたら、空から確認できただろうに……」


 森だから動きにくいと思って、お留守番をさせたんだが……こんなことなら、連れてくればよかった。いくらここが迷いの森だと言っても、空からなら全体像が見えるはずだ。


「そうっスよ。何で連れて来なかったんスか! 別れ際あんなに寂しそうだったのに……」

「あのふわふわな羽毛に触れることが出来たら、こんな疲れなんてあっという間になったと思います」

「空から誘導してくれたら、ループの仕組みとか分かったかもね」


 ああ、ホリンが懐かしい……。


《何なの何なの!! 皆してホリンちゃんって……。ホリンちゃんがいなくても私がいるの!!》


 皆でホリンがいないことを悲しんでいると、スーラが突然叫びだす。……嫉妬かな?


「そうだな。スーラがいるな。うんうん」

「スーラさん。いつもゴミ処理助かってるっス」

「スーラさんも、プニプニしてて癒やされますよね」

「スーラちゃん。干し肉食べる?」


《違うの!! 私だってホリンちゃんに負けないくらい役に立つの!》


「いや、でもスーラ飛べないし」


《誰が飛べないなんて決めたの! 私だって空くらい飛べるの!!》


「「「「えっ?」」」」


 俺達四人は皆同じように驚く。いや、羽もないのに、スライムが飛べるはずないだろう。

 俺の驚きを気にせず、スーラは俺の背中にくっつく。


「……スーラ?」


 するとスーラが変形し……おお! 立派な羽が出来上がった。


《シオンちゃん大きくジャンプするの! そしたら空だって飛べるの》


 いやいや、確かに形は羽だけど……スライムの羽で飛べるのか? と疑問を持ったが、そういえばスーラは緑属性で風を操ることができる。羽は飾りで、実は空だって飛べるかもしれない。


 ものは試しだ。俺は木よりも高くジャンプする。……っと、木の天辺あたりで、透明な何かに阻まれる。……結界か? 空からの脱出さえも出来ないようにしているのか。……いや、もしかしたら、脱出だけじゃなく、侵入も防いでいるのかもしれない。しかし、このままでは木よりも高くは飛べないな。


 かなり強力な結界のようだが……破ってもいいものだろうか?

 俺は判断に困ったので、一旦地上に降りることにした。


 うん、結界の確認中も空中に待機できたし、結構自由に空を飛べそうだ。……が、スーラはスライムとして、一体どこに向かっているんだろうか? もはやスライムの面影すらない気がする。


「どうしたんスか? シオン様。途中で止まってたみたいスけど?」


「ああ、一番高い木の高さに、結界が張ってあった。かなり強力そうな結界で、脱出と侵入、どちらも不可能そうだった。……普通の人間ならな」


 多分、俺の【魔力無効化】ならこの結界も破ることが出来ると思う。が、果たして破いていいものか……。


「その結界って、間違いなくこの迷いの森の結界ですよね。壊しちゃったら、エルフの皆さんが怒るんじゃありませんか?」


「ラミリアの言うとおりだよなぁ。ここでエルフと喧嘩したら、全てが台無しになりそうだ」


 迷いの森を破ったら、話し合いも何も聞いてくれそうにない。


「でもでも、このままだと何時まで経っても抜け出せませんよ?」


「エイミーの言うことも確かなんだよなぁ」


 このままなら、俺達に限界が来てしまう。


「結界を破壊するんじゃなくて、一部に穴を開けて抜け出すことは出来ないっスか?」


 おっと、それは考えてなかった。ふむ。中々名案かもしれないぞ。結界を破るんじゃなくて、小さな穴なら、壊れないかもしれないし、結界自体も自然治癒で直るかもしれない。


「しかし……それだと、俺だけ結界を抜けることになってしまうぞ?」


 現時点で空を飛べるのは俺だけだ。流石に三人を担いで飛ぶのは無理があるぞ。


「それはマズいですね。シオンさんが結界を抜けて、外から迷いの森を抜けることが出来る魔道具を使えば、迷いの森が解除されるかもしれませんが、果たしてそれが、私たちにも適用されるかどうか……」


「全員で上から出ることが出来れば、それが一番なんですけどね」


「……言っておくが、俺は三人を担いだまま結界を抜けて、そのまま迷いの森の入口まで飛んで行ける自信は全くないぞ」


「……この結界って中から出られないだけでなく、外からも入れないっスよね?」


「そうだな。空から入れたら、迷いの森の意味がなくなるもんな」


「なら……結界の上に乗れないっスか?」


 ……俺、さっき結界に触ったよな? 強力で硬そうだった。それに、触っても特にダメージとかもなかった。……これ、外からでも同じじゃね?


「確かに……あの結界なら、乗れるかもしれない」


 少なくとも試してみる価値はある。


「じゃあ後は全員があそこまで行く方法っスね」


「……単純に上空に行くだけなら、三人を担いで飛び上がることは出来るかもしれない。だけど、結界に穴を開けることを考えると、集中しなくちゃ駄目だから無理だな」


「一旦穴を開けてから、全員を担いで飛べばどうです?」


「それも難しいと思う。結界の穴って、あまり大きすぎると壊れそうだし、小さすぎると、戻ってくる前に修復されそうだ」


 だけど、それしか方法はないかな?


「スーラさんって、分身出来るのですよね? 四人分の羽を用意したら、全員が飛べないですかね?」


「なるほど! ラミリアの言う通りだな。スーラ。四人全員が飛べるようにできないか?」


《それよりも、もっといい方法があるの!》


「「「「えっ?」」」」


 飛ぶよりももっといい方法? そんな方法あるの?


 スーラは地面に降りると、そのまま風船のように膨らんでいく。


《このまま、結界の高さまで大きくなるの! だから皆は私の上に乗るの!》


「……四人が乗っても大丈夫なのか?」


 女性三人と男一人。それなりの重さだと思うんだが……。


《それくらい平気なの!》


 マジかよ! しかし結界の高さまで三十メートル以上あるぞ。

 俺達は恐る恐るスーラの上に立つ。確かに四人全員乗っても平気みたいだ。

 スーラは楕円形で大きくなるのではなく、円柱の形で縦長に伸びていく。


「お、おお……スーラ。もう少しゆっくり高くならないか?」


 勢いよく伸びたため、思わず座り込んでしまう。……高所恐怖症の俺には耐えきれない状況だぞこれは。一応、さっき空を飛ぶ前に恐怖心を抑える薬を飲んだから、なんとか大丈夫だけど……。

 三人を見ると三人もコクコクと頷く。やはり三人も少し怖かったようだ。


《じゃあ、ゆっくり高くするの。でも長時間この姿になれないから、結界は早く破るの》


 まぁ四人も乗って、魔力も大量に消費してるだろうから、長時間は無理なのは分かる。

 まぁ結界に穴を開けるのは、そんなに時間はかからないだろう。


 少しゆっくりになりながら、スーラは結界の高さまで大きくなった。


「これ……絶対に下は見れないっスね」

「ええ、慎重にいきましょう」

「……ねぇ。もし落ちちゃったらどうなると思う?」


「「「やめろ!!!」」」


「はい。ごめんなさい」


 エイミーめ。流石に一定いい冗談と悪い冗談があるぞ。


「ほ、ほらシオンさん。早く済ませましょう」


 スーラは半透明。足元が透けて見えるから、本当に怖いんだよな。普段ヒポグリフに乗っているラミリアでさえこれだ。


「よ、よし。じゃあ今から結界に部分的な穴を開けてみるけど……上を見ながら作業するから、俺が落ちないようにシッカリと支えてくれよ」


「分かってますって。だから早く!!」


 俺は上空に手を伸ばす。と結界に手がついた。ここから【魔力無効化】を使う。ただ、闇雲に使ったら結界ごと解除しそうだから、範囲を指定して……人が一人通れそうな穴を開ける。


「よし開いた。これで、この穴から結界の外に出られるけど……」


「じゃあ早く出ようよ!!」


「おっ、そうか。じゃあエイミー先に行っていいぞ。ここに穴が開いてるからな。さぁ早く!」


「えっ? ええっ? 私が一番!?」


「俺はスーラの回収と、この場で結界の維持をしないといけないから、一番最後にしか出れない」


「そう言って、本当は一番が嫌なだけでしょ」


 ドキッ!


「あっ、今動揺した。やっぱりそうなんだ」


「おまっ、だって見てみろよ。いくら頑丈な結界って言っても、全く見えないんだぞ! 本当に上に乗れると思うのか!?」


 もし乗れなかったら、地上まで一直線だぞ。


「シオン様……それをエイミーさんで確かめようとするのは、外道のすることっスよ」

「ええ、流石にわたしもドン引きですよ」

「シオンさん。もし私が落ちちゃったら、どうする気だったんですか!」


「ちゃんと骨は拾ってやる! ってか、早くしないと結界が維持できなくなるし、スーラも元に戻ってしまうぞ。別にエイミーじゃなくても、案を出したリンでもいいし、ラミリアからでもいいぞ!」


 俺は最初は絶対にいやだ。外道でもいい。断固として拒否してやる。


「安心するっスよ。エイミーさん。きっと大丈夫っス」


「エイミーさん。ガンバっ!!」


「二人とも……後で絶対に仕返ししてやるから!!」


 エイミーは半泣きで結界を抜けようとする。ってか、俺が広げているから、エイミーは必然的に俺に近づいて……って俺をよじ登って上に行くの!?


「えっ? ちょっと、エイミーさん?」


「仕方ないんです。私が上に行こうとすると、届かないんですから。私だって恥ずかしいんですから、何も言わないでください。それに、これなら万が一結界に乗れなくても、シオンさんは道連れに出来ますから」


「怖いこと言うなよ!!」


 だが、エイミーの言うことは確かに尤もだ。万が一結界に乗れなくても、俺に密着していれば、地上に落ちる危険はなさそうだ。しかし、エイミーの体が直に当たって、何だか気恥ずかしい。

 エイミーはそのまま俺の肩を使って立ち上がる。上半身はすでに結界の外だ。


「わっ! 信じられませんが、本当に結界に乗れそうですよ。よいしょっと」


 肩からエイミーの重さが消えた。ちゃんと出られたのだろうか?


「大丈夫です。ちゃんと結界の上にいます。でも……立っている場所が透明で見えないってのはすごく怖いですね」


「なに、それはスーラの上でも同じだ」


「それでも、半透明と全くの透明じゃ、違い過ぎますよ。ですから、早く皆さんも来てください」


「よし、じゃあ次だ。ラミリア行け!」


「分かりました。では失礼して…」


 ラミリアがエイミー同様、俺にしがみつこうとする。


「おいおい、何をしている?」


「えっ? 私もエイミーさんのように上ろうかと」


「いや、もうエイミーが上にいるんだから、その必要はないだろう? エイミー手を伸ばしてラミリアを引き上げてくれ」


「えっ? あっはい。ラミリアさんどうぞ」


「……ええ、ありがとうございます。エイミーさん」


 ラミリアは恨めしそうにこっちを見ながら上っていく。すまんな。ラミリアは実は隠れ巨乳なのを知ってるから、密着されると俺が色々と困るんだ。でもちょっと……いや、かなり勿体なかったかな。


「ああっ!? 足がー」


 わざとらしい声とともに、ラミリアの足が俺の鳩尾へダイレクトに当たる。……絶対にわざとだろ! ってか、体勢崩して落ちたらどうする気だったんだったよ!


「あら、ごめんなさいね。オホホ。っと、私も無事に上れました。次はリンさんですか。さあどうぞ」


「ああ、私は大丈夫っス」


 リンはジャンプして結界に飛び乗る。……アイツ度胸あるな。


「ちゃんと降りられるなら、何の問題もないっスよ」


「……ジャンプの衝撃で壊れるとは考えないのか?」


「……考えなかったっス」


 顔面が蒼白になるリン。いや、遅いだろ。


「と、じゃあ俺で最後だな。スーラ、もう少し高くなれるか?」


《任せてなの》


「じゃあそのままスーラも結界を抜けてしまおう」


 俺がそう言うと、スーラはもう少しだけ高く伸び、結界を抜ける。俺はそのまま結界に降り立つ。スーラは、先っぽが俺に絡みつくと、シュルシュルと巻き尺が戻る要領で短くなっていく。


「よし、これで後は結界を修復して……」


 俺は【魔力無効化】を解除する。すると結界に空いた穴は、次第に小さくなっていき……綺麗に閉じた。


「これで完了か。……ん? どうした?」


「シオン様? 最初から今のように、スーラさんを伸ばせば、私やエイミーさん、ラミリアさんが苦労して結界に上ることもなく、皆が仲良く降りれたのではないんスか?」


「ん? ああ、四人同時は穴が小さくてな。だからあれは使えなかったんだよ」


 これは嘘だ。確かに穴は小さかったが大きくすればいいだけのこと。さっきの行動は俺の番になって初めて気が付いたのだ。


「騙されてはいけませんよリンさん。あの顔は、自分の番になったから、咄嗟に思いついたって顔です」


 しまった! ラミリアは俺の考えを誰よりも正確に見抜ける特技を持ってたんだった!

 そして、何故か俺もラミリアが考えていることは、何となく分かる。本当に何でだろうな?


「シオン様? 後で思いついたらそれでいいじゃないっスか。何故にいつも誤魔化すんスか? そこ、アレーナも言ってたっスけど、シオン様の悪いクセっスよ」


 まさかのガチ説教だった。くそっアレーナめ。調理場を勝手に使ってるのを根に持って、言いふらかしてやがる。


「はい。……スンマセン」


 結局俺は素直に謝った。だって三人の目が段々と怖くなってきたんだもん。

 くそっ。コイツら旅に出てから、段々と遠慮がなくなってきた。……まぁ旅に出てすぐにこの状態になったら仕方ないか。


 ともあれ、いつ結界の上に乗れなくなるか分からない。つーか、この異常な状態がおかしいのだから、早く脱出したい。俺達は一先ず森の入口に戻ることにした。

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