表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロストカラーズ  作者: あすか
プロローグ
1/468

第1話 異世界人を招こう

 秋の何気ない日常、いつものように退屈な日が始まる。


「さて、と」


 大学に行くため、ベッドから起き上がり、朝の支度を始める。



 俺の名前は九重紫遠(ここのえしおん)、現在は大学三年生だ。大学へは自宅から通っている。

 三年前、俺が高校生の時に両親が旅行先の事故で死んだため姉と二人で暮らしていた。その姉も今年から仕事で一人暮らしを始めたので、今は大学生ながら一軒家で一人暮らしという贅沢な生活を送っていた。


 簡単に身だしなみを整えた後、玄関を出て、ガレージの方に向かう。大学までは自動車通学だ。

 親父の趣味が車いじりだったこともあり、親父の生前は車は三台所持していた為、かなり大きめのガレージだ。

 ただ、親父が死んでからは管理や維持費など大変だという話だったため、姉と相談し俺が使うのを残して残りは廃車にした。



 ガレージのドアを開けようとしたその時、ガタンッと中で大きな物音がした。


 なんだろう? 不思議に思いながらガレージのドアを開ける。中は真っ暗だ。俺はすぐ横にあるスイッチを押し電気を付ける。明るくなったガレージの中は普段とは違った光景が広がっていた。



 まず目に入ったのは一台の車。そしてその奥にいる一人の男。

 ただし、その車は前半分しかなく、後ろ半分、後部座席から後ろが存在していなかった。


「はぁっ!?」


思わず大声で叫んでしまう。そしてそばに立っている男に詰め寄る。


「おい!! この車を壊したのはお前か!」


 俺は勢いに任せて男に掴み掛かろうとしたが、相手に近づく直前に思いとどまる。もしこの男が危険人物なら……って、間違いなく危険人物だろ! 誰もいない倉庫で真っ暗な中、車を破壊する奴だぞ!

 ……いや、そもそもだ。この男は一体はどうやってここに入った?

 ガレージにはもちろん鍵が掛かっている。入口のシャッターも外からはリモコンがないと開かないため、俺以外は入れないはずだ。


 そして今この場で最も気になる点、破壊された車の後ろ半分はどこにあるのか? ということだ。辺りを見回してもどこにも見当たらない。


 俺は男を凝視する。男は意識が混濁していてボーっとしている。目の焦点があってないような気がする。何だ?もしかしてここで危ない薬でも使ってたんじゃないだろうな?

 そして怪しさに拍車をかけているのが服装だ。まるで漫画やゲームに出てくるような冒険者のような服装だ。コスプレか?

 コスプレして薬をキメてて人の家のガレージに不法侵入して車を破壊。今すぐにでも警察に届けたほうがよさそうだ。



「ん、ここは?」


 俺がそう考えていると突然男がハッとしてキョロキョロと辺りを見回す。どうやら我に返ったようだ。そして俺と男の目が合う。ヤバいか!? 俺は突差に身構える。


「お、おい、あんた、ここは地球か?日本か?」


 予想外過ぎる質問に戸惑う。こいつは一体何を言ってるんだ?それすらも分からなくなるくらいトリップしていたのか? それとも何か、コスプレ中で今は役になりきっているのか?


「あ、ああ。ここは日本だ。間違いない」


 とりあえず俺は当たり障りない返事をした。答えなくて怒らせたり刺激はしたくない。


「そっか………やっと辿り着いたんだ。よかった」


 男の言葉には妙に実感がこもっていた。心底安堵したような表情を浮かべている。演技だとしたら大したもんだな……と思う。


「っ! そうだあいつらは!? ………おい! アイリス! クミン!」


 男が急に叫んだかと思うとまた辺りを見渡す。そして何かを見つけると急にしゃがみ込んだ。

 俺の位置からは半分になった車が邪魔で見えない。少しだけ横にずれながら男の足下を見る。

 すると男の足下には二人の女性が倒れていた。


「えっ? 死んでる!?」


 その光景に俺は思わず叫んだ。


「違う! 縁起でもない! ……良かった、どこにも異常はなさそうだ。二人とも眠っているだけみたいだ。なぁよかったら手を貸してくれ!」


 手を貸せと言われても…どうすればいいんだ?と、倒れている女性を確認すると、俺は二人がただの人間ではないことに気がついた。

 二人とも男と同じような冒険者スタイル。これだけならただのコスプレと思っただろう。


 一人は頭に獣耳とお尻にはもふもふの尻尾が生えている。

 もう一人は一見普通の人のようだが耳の先端が尖っている。まるでエルフのようだ。

 問題はこの二人のコスプレが偽物ではなく、どう見ても本物にしか見えないことだ。

 そして日本人とは思えないような顔つき。寝ていて目を閉じているが、かなりの美人だとわかる。


「おい! 手伝ってくれないのか!?」


 俺が見とれて動かなかったから、男が叫ぶ。


「あ、ああ。すまない……じゃない! あんた、一体何者なんだ? うちのガレージで何してたんだ!!」


 思わず一瞬頷きかけたが、そうじゃない。まずはこいつらが何者か調べなければ。


 俺の言葉に男が大げさに驚く。そこで初めてこの場所を確認したようだ。そして車を見て真っ二つになっているのを確認する。

 男はしまったなぁといった顔になった。


「あ~そうだよな。いきなり現れたらビックリするよな……地球の常識を忘れかけてた。ハハハ」


 そう言って男は右手で後頭部を掻く。何を言ってるんだコイツは?


「すまん、この自動車を壊したのは多分俺達だわ。いや、勿論わざとじゃないぞ! これには事情があってだな。とりあえず話を聞いてくれないか?」


 俺は黙って頷く。話を聞かない訳にはいかないし、このまま逃げ出すわけにもいかない。


「とりあえずその事情とやらを聞かせてくれないか? 警察へ連絡するかはそれを聞いて判断する」


 俺の警察と言う言葉に男が過剰な反応を見せた。


「警察っ!? 帰ってきて早々警察はヤバいよなぁ……。分かった! ちゃんと説明するから警察は勘弁してくれ」


 男は慌てて説明を始めた。


「驚かないで聞いて欲しいんだが、俺達三人は地球とは違う世界からやってきたんだ。ああ、疑わしいのは分かる。だからまずは落ち着いてくれ。だからっそこ! 帰ろうとしないで!」


 俺は男の話を聞きながら扉の方へ少しずつ足をすり寄らせてたのだが、すかさず止められる。


「本当だって! ちゃんと証拠も見せるから。ほらあそこ! 空間の揺らぎが見えるだろ?」


 男が車の後方を指さす。透明で気がつかなかったが、後部座席があった場所の少し先に目を凝らしてみると確かに揺らぎというかぶれているように見える。

 見たことはないが蜃気楼ってこんな感じに見えるのだろうか?


「見てろよ」


 男は足下に落ちていた小石を揺らぎに向かって投げた。すると小石は揺らぎの中に消えていく。落ちた音も奥の壁に当たった音もしない。


「こいつはゲートと言って、別世界同士を繋げるんだ。で、向こうでゲートを作って地球と繋げたんだが、地球のどこに繋がるかは分からなくて…偶々ゲートがここに出来た為、ちょうどここにあった車が半分だけ異世界に飛んで行ったみたいだ」


 俺は驚きのあまり男の言葉があまり耳に入ってこない。何それ? ゲート? 異世界?

 俺はほぼ無意識にそのゲートに触ろうとした。


「おい止めろ!! 近づくと飲み込まれて異世界に行くぞ!!」


 男の叫びに思わず手が止まる。


「ここに入ると異世界に行ってしまうのか?」


 俺は男の方を振り向き尋ねる。


「ああ、だからゲートがあるうちは近づかない方がいい。出来れば今はここから出た方が安全だろう」


「そのゲート? とやらはどうなるんだ? ずっとこのままなのか?」


「使われた魔力がなくなれば消える。ただ、完全に消えるまでは三日から五日はかかると思うからその間は近づかないようにした方がいい」


 俺は試しに落ちてた石ころを投げた。するとまるで吸い込まれるように石ころは消えていった。


 車の断面図を見てみる。断面はキレイに切断されている。凹んだ後もないし、切られた感じでもない。どうやったらこんな風に切断できるのか見当もつかない。だが男の言う通りにゲートとやらに吸い込まれたとしたら…


 この男の言ってることは事実なのか? 少なくともこの光景を見せられると単純に嘘とか妄想ではない気がする。


「詳しい話が聞きたいから…とりあえず家の中に入らないか? 二人を休ませよう」


 悩んだ末、ひとまず男の言うことを信じ、家に招待することにした。


「分かった。助かる。ああ、俺の名前はソータ。で、ここで寝ているのはエルフのアイリスと獣人のクミンだ。クミンは俺が連れて行くからアイリスを頼んでもいいか?」


 男が思い出したように自己紹介をしたてからクミンを抱き抱えた。


「ああ、俺の名前は九重紫遠(ここのえしおん)だ。この子を連れて行けばいいんだな」


 俺の方もソータに名前を教えてからアイリスを抱き抱えた。邪魔な荷物は腰につけていたポーチを除いてひとまず置いておく。

 アイリスは予想以上に軽く、そして柔らかい。俺は内心でドキドキしながらも平静を装う。それにしても近くで見るとこの耳が本物だと分かる。本当にエルフなんだ。


「言っておくが、変なところは触るなよ!」


 俺の内心を見透かしたかのようにソータが睨みをきかす。


「さ、触らねーよ! ってか先に行くなよ! 俺の家だぞ」


 俺は誤魔化すように慌てて答え、男を追い抜いて家へ向かう。


 俺はこの出会いで日常が退屈ではなくなりそうだと確信した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ