スマホの行方
目を覚ましたのは、自分の部屋だった。
「あれ?なんで?」
俺…カラオケ屋に居たよなぁ。
それで…急に眠くなって。
「え?どうやって帰ってきたん?」
別に、頭は痛くない。二日酔いじゃない。
「カラオケ…誰と?」
全然思い出せない。俺は一人でカラオケなんて行かない筈だ。だから、誰かと行った筈だ。ん?カラオケなんて行ってないか?歌った記憶もない。
あれ?昨日、仕事終わったあと、何してた?
「腹が減って、ハンバーガー食べて…?」
駄目だ。思い出せない。
今何時だ?ベッドの横の時計を見た。
9時37分。
え?
9時38分!
1分進んだ。…じゃない!
「遅刻じゃん!!ヤベェ!」
起き上がると、自分はスーツ姿だった。
うわぁ…どうする?このまま行くか?いや、もう行くしか無い!
ガチャ!
バタン!
え、誰?誰か玄関から入ってきた!
「もうさぁ〜!アンタ、何やってんの!!」
真弓だった!あれ?玄関の鍵も掛かって無かった?
「なに〜⁉なんでアンタ、スーツ着てるの〜?はぁ、まさかそのまま寝たの⁉」
真弓はイライラしていたが、今は相手をしている時間はない。
「ごめん!俺、遅刻なんだよ!すぐ出てくから!」
真弓が部屋の中で何かを探し始めた。
「あ?今日、会社休みじゃないの?休日出勤?」
見つけたリモコンでクーラーをつけると、部屋唯一のリラックススペースである、大きめのビーズクッションに腰を下ろした。
「今日、日曜日だよ!会社行くの?」
え!
まじで!
良かったぁ〜!
「そっか〜!!焦ったぁ!今、すっげー焦ってた!」
「ってゆうか、アンタ、玄関鍵も閉めないでスーツ着たまま寝て、しかもこの部屋チョー暑いし、死ぬよ!」
ん?
死ぬ…死ぬー…死ぬ?
「なに?」
何か思い出そうとしてる俺に、真弓が聞いてきた。
「いや〜、なんか、最近誰かに死ぬって言われたような…?」
気がする。でも思い出せない。誰だった?
そう、つい最近。
「なぁに〜?まさか会社でいじめられてるの?」
「んなことね〜よ。それより何の用?何しに来たん?突然?」
アポもなく、こんな朝っぱらから、勝手に玄関開けて入ってきた俺の彼女に、理由を聞かねばならないだろう。
「電話したよ!昨日もしたし!アンタが出ないから、様子見に来たんでしょ!」
あれ?そういえば、スマホのアラーム聞いてない。いつも、6時半には鳴るはずだった。
一通り部屋を見渡したが、俺のスマホは何処にも見当たらなかった。着ているスーツのポケットにも、カバンにもない。
「あれぇ?ちょっと、スマホないわ!まゆ、一回鳴らして!」
真弓に鳴らして貰ったが、何処からも着信音も、バイブの音も聞こえなかった。
「どっか、忘れてきたんでしょ。スーツのまま寝てたんなら、昨日はどっかで飲んで来たんじゃないの?そこにあるんでしょ!」
真弓は何度も電話したのに、繋がらなかったことに怒っているのか、口調がきつい。
昨日?
昨日が思い出せない。
今日が日曜日なら、昨日は土曜日。土曜日は会社は半出のはずだった。今思い出せるのは、いつもの店でハンバーガーを食べたこと。でも…それって確か…夜だったよな。ハンバーガー食べて、カラオケ行って…?ん?カラオケに、誰と?
「まゆさ〜、俺とカラオケ行ったっけ?」
「は?いつ?行ってない。」
よく…思い出せないが、多分スマホを忘れたのはカラオケ店だろう。そんな気がする。
「ちょっと、スマホ取りに行ってくるわ。まゆ、どうする?」
「あのねぇ、今日は映画行く約束だったでしょうが!忘れてんの⁉」
そうだった!このあいだ約束したっけ。
「駅前で待ち合わすはずだったでしょうが!一向にこないし。電話も出ない!」
「あ〜そうだったわ!ごめん!うっかりしてた。悪いけど、ちっと待ってて。すぐ戻ってくるから。それで昼飯食いに行って、そっから映画行こう!」
クーラーの効き始めた部屋に彼女一人残して俺は出発した。