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少年とカラオケ

 さっき店の中で声を掛けられたとき、凄く違和感があった。

 少年はかなり大きな声で喋っていたのに、周りの人たちは誰も気にしていなかった。

 俺が喋ったときには、周りの客達は一斉にこっちを振り向いたと言うのに。

 こいつはなんか…無視しちゃいかんような気がする。

 「君…もしかして、俺のこと死んだと思ったの?」

 何言ってんだろう、俺。

 「違います!いや、えっと〜そうなんですけど…あー…やっぱ、聞こえてますよね…僕の声。」

 「さっき見てたメモ帳みたいなの何?見せてくれる?」

 「え?そ、それはちょっと…」

 さっきまで、突然声を掛けられ、名前を呼ばれてドキドキしてたが、今度は何故か凄くイライラした。この少年の態度が、非常に苛立たしい。

 「おまえ、誰なんだよ!」

 精一杯、苛ついた声で叫んでみた。

 「きゃ!」

 女性の声がした。後ろから歩いてきた女子高生の声だった。

 急に俺が叫んだからびっくりしたらしい。

 でも、女子高生はそのまま俺たちの横を通り過ぎて行った。

 女子高生の後ろ姿を、しばらく目で追っていた少年だったが、女子高生が充分離れたことを確認すると、俺のほうに向き直した。

 「やっぱり…このまま逃げるわけには…行かないですよ…ね。」

 「当然だろ!何?急に声掛けてきて、俺の名前知ってたり、車にぶつかって死ぬとか!何なんだよ!説明しろよ!」

 少年は困った顔をして、今にも泣き出しそうだった。

 「君、どこの学校の子?そこに交番あるから一緒に行こうか!」

 「いや!それはちょっと…!梅津さんが困ることになるから…」

 「何で俺が困るわけ?」

 「すみません…」

 急に、少年は辺りをキョロキョロと見渡した。

 「やっぱり、事故は起こってないみたいですね…」

 「事故なんか起きてねーよ!」

 なかなかイライラが収まらない。

 「僕、やっぱり間違えたみたいで…なんとお詫びをしたらいいか…」

 「何をどう間違えたんだよ!」

 「え〜と、それが〜、う〜ん、こーゆー場合、どうすればいいんだろ…?」

 少年は頭の中を整理するかのように、両目をギュッとつぶった。

 そして、目を開けたと同時に言った。

 「僕、死神です。」

 「は…?」

 「だから、貴方をお迎えに来たんです。」

 なるほど…この子、中二病か。

 でも、中二病だからって俺の名前を知ってる理由にはならない。

 「君、大丈夫?」

 一応、可哀想な子なんだろうから気遣ってみた。

 「死んだ貴方を迎えに来たんです。僕は死神だから…。でも日にちを間違えてしまって…!」

 雨が降ってきた。

 「本当にごめんなさい。変なことを言ってしまって。もう死んでいると思って声を掛けてしまって。」

 「……………。」

 「あの…さっき言ったこと、忘れてもらえませんか?」

 「え…?」

 「さっき、そこの店の中で言ったこと…貴方がいついつ死ぬって、僕言っちゃいましたよね?聞かなかったことにして下さい。」

 少年は深々と頭を下げた。

 この子の言ってることが本当なら、俺は死神に、頭を下げられてることになる。

 「な、なぁ…君…つまり…俺は本当は来年の今日死ぬ予定なのに、一年間違えて、早く迎えに来てしまったって言うこと?」

 「え?あ〜、あ〜そうなんですけど…いや、いやいや、あれ冗談です。気にしないで下さい…」

 少年は苦笑いを浮かべた。

 だが気にしないなんてことできるわけない。俺はあの店で気づいてしまってるんだから。

 この少年が、俺以外の誰にも見えていないし、声も聞こえてないってこと。

 さっき店の中で、俺が喋ったときに周りに座っていた客が何人かこっちを見た。

 最初にあれだけ響く大きな声で、あいつが俺に話掛けて来たときは、周りは誰も気にして無かったのに、俺がそれよりもだいぶ小さな声で喋ったときは、周りは皆、俺のことを気にしていた。それに、俺が店を出ようと席を立ったとき、隣に座っていた客の女がつれの男に言っていた。

 『ねえ、あの人何一人で喋ってんの?こわーい!』

 雨が強くなってきた。

 「なあ、ちょっと雨も降ってるから、別のところで話してもいいかな?」

 「う〜ん…いいですけど…」

 何だかよく分からない。

 とにかくこの少年は、本当に死神かどうかは知らないけど、おれにしか見えないみたいだし、声もまるで、エコーがかかっているかのようにやたら響いて聞こえる。

 多分、俺だけに。

 その割には俺から逃げようとするわけでもないし、本当にそんな非現実的な存在なら、消えてしまえばいいだけなんじゃないの?

 「じゃあ、近くにカラオケ店あるんで、そこに行きませんか?」

 少年が言った。

 「カラオケ…?」

 何で知ってるんだ?

 「そうそう、カラオケ。カラオケなら個室だし、梅津さんが一人で喋ってても誰にも見られないし。」

 なるほど…。

 「あ、でも梅津さんちでもいいんですけど、僕がお邪魔してもいいなら。」

 やっぱり、逃げようって気は全くなく、俺と話す気満々みたいだな。

 「カラオケ屋でいいよ。ちゃんと説明してくれよな!」

 自分ちになんか恐くて連れて行けるか!



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