少年のミス
その少年は、茶色い髪に白いシャツ、黒いズボンを履いていて、首から赤い紐が通されたメモ帳のようなものを下げていた。
どこにでもいる高校生のような感じだ。
やけに響くその声を除いて。
「梅津智さん…。あなたは今日、あそこで死んだんです。車にぶつかって、頭を強く打って、即死ですね。」
いきなり知らない子に、自分は死んだって告げられて、俺はどうすればいいのかわからない。いやいや、それより…。
「何で、俺の名前知ってるの?君、誰なの?」
急にはっきりと声を出したからか、多少愛想笑いを浮かべて喋っていた少年は、真顔になった。それだけではない。おれが喋ったことに驚いたのか、周りに座っていた客たちも一斉にこっちを見ている。
「あ…れ…?」
少年が驚いた顔をしている。
「おかしいな…?」
不思議そうな顔をして、窓の外、駐車場の出口と、俺を交互に見ている。
一向に、俺の質問には答えようとはしない。
「梅津さん…梅津、智さん…ですよねぇ?」
今度は少し小さな声で、確認するように聞いてきた。
「そうだけど…だから、さっきも聞いたけど君誰なの?」
また、周りの客たちがこっちを見ている。
少年は俺の正面の席に座ってきた。
「ちょっと、待って下さい…。」
そう言うと、首から下げていたメモ帳をパラパラとめくりはじめた。
ものすごく、ドキドキする…。
いや、てゆーか怖い…
「梅津智。28歳。男性。会社員。一人暮らし。2018年8月25日、立ち寄ったファストフード店の前で、駐車場から出てきた赤い車にぶつかり死亡。」
「何、それ…」
「って書いてあるんだけどなぁ、梅津さんで間違い無いですよね?」
なに言ってんのこの人。
「梅津は俺だけど…27歳だけど…」
しまった!なにまともに相手してるんだろう!
「えぇ⁉書き間違い⁉」
少年が急に困った顔をしだした。
「もしかして…もしかして…」
急に、言葉に詰まったようだ。
「あの…君?」
「い、今って…二千何年ですか…?」
「2017年だけど…」
「げ、ヤバイ!」
少年はそう言ったきり何も喋らなくなり考え込んだ。30秒ほど考え込んだだろうか。突然、少年は立ち上がり、席から離れようとした。
「いや、ちょっと待って!」
俺は慌てて呼び止めようとしたが、少年は立ち止まらずそのまま店から出ていこうとしていた。
何だか分からんが、あいつ俺の質問に答えてないし!
しょうがなく俺も店を出て、少年を追いかけてみた。
何なんだ!いきなり名前を呼ばれて!いきなり連れて行こうとしたり!
いきなり、俺は死んだっていわれたぞ!
何なんだよ、くそ!
しかも、言いっぱなしで逃げやがって!
少年にはすぐに追いついた。
すぐそこの道路にいた。
立ち止まって、腰を落としアスファルトを熱心に見ている。何かを探しているようだった。
「なぁ、ちょっと!」
少年に声を掛けたが、こっちを見ようともしない。
「ちょっと!俺の質問に答えて。誰なんだよ、君!」
一瞬、こっちを見た。
「…すいません…なんか…手違いが…あったみたいで…」
バツが悪そうに少年が答えた。
「なんでもないんです…。もう、わ、忘れて…」
いやいや、何なんだよ、まったく!
少年は首から下げていた手帳をギュッと握りしめた。