その9 オレツの探し物.2
オレツは必要な荷物を整えると、ツマンティーヌの元へ向かった。
「ツマさん。俺ちょっと野暮用で人間界行ってくるね」
「え!!?」
仕事中だったツマンティーヌが顔を上げる。
「ななななななんで!?」
「用事があって」
「急ぎなの!?」
「うん」
ツマンティーヌの唇がきゅっと結ばれた。
そして少し顔に影がかかる。
「……お供はつけたの?」
「ううん。まだ。あー、そっかつけてた方が何かと良いよね」
その言葉にツマンティーヌがホッと息を吐いた。
「誰つけようかな」
幹部皆忙しい。勇者が来なくても魔王城の維持や領土の管理にバタバタだ。オレツも一応補佐と、勇者が来たときの即戦力として動いているけど、何だか最近は音沙汰無しである。
平和なのは良いことだ。
「これ、付けてて」
「?」
ツマンティーヌからふわふわの黒マリモに尻尾と耳が付いた生き物が手渡された。
「もこもこクロマリモさん。私の魔力を食べて育ったから強いし、何かあったら連絡手段になる。普段は影に隠れてるから、名前を呼んだら出てくるわ。この子はモクちゃんね」
「よろしくモクちゃん。てかこれ重力濁流層に生えてる草じゃない?」
「ええそうよ。可愛いでしょう。種から育てたらこうなったの」
「…………ツマさん。新種作ったんだね……」
こうして魔界の生き物は増えていく。
「早く帰ってきなさいよ!!」
「うんうん、お土産楽しみにしててね」
オレツは人間界へと歩いていく。といってもまっすぐ行ったら即攻撃されるので、境界線をなぞるように歩く。まっすぐ行けないのならせめて横移動で距離を稼いでいる。転移魔法で行けばいいじゃないかと思うが、転移魔法は何かと制限が多い。
転移魔法を作ったやつが恐ろしく几帳面なやつで、何でか世界を正方形の線で覆ってやるとか言って座標を縦横高さの正方形の距離で移動しかできなくなってしまったのだ。
なので、主要な拠点を押さえられている。
多分、転移した瞬間拘束されるだろう。なんせオレツは人気者なのだ。
ならば歩いていくのはどうか?
それも出来ない。世界一の魔術によっては網目状の結界が張られている。鳥などの魔力を持たないものは素通りだが、魔力を持つものは絡まる。
人間側の精一杯の魔族に対する対抗策である。
それを抜けるためには魔力を消す薬を死ぬ覚悟で飲むか、転移魔法のみ。
雲よりも高く飛べば問題ないが、オレツは残念ながらそこまで飛べない。なので地味ではあるが安全地帯まで歩いていくしかないのだ。
森の中にはたくさんの動物がいる。基本おっかない魔獣達だが、オレツが強いのが分かるので近付かない。快適な散歩日和。
是非ともツマンティーヌと歩きたかった。
「さてこの辺かな」
オレツが向きを変えると、人間界側には大きな崖が聳え立っていた。何処までも壁だ。しかし、此処で転移なんかしたら岩の中に転移してしまう。なので此処はは人間の警戒が最も薄い場所だ。
だが、オレツには問題なかった。
「ふぅー。せいっ!!!」
オレツは深くしゃがみこむと高く跳躍した。そして更に風の魔法で高く飛び上がり崖よりも高い位置に到達すると、素早く転移魔法を発動させた。
一瞬で景色が後ろに伸びて戻る。
そして落下した。
「ととっ。よし!成功!」
少しよろけたが見事な着地。体の鈍りもそこまで無いようで安心した。後ろを振り返れば魔界。
「さて、急がないとな」