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その7 新年の大掃除

「新年明けましておめでとうございます。今年も魔界繁栄、魔王様のご健康をお祈りしております」

「うむ」


魔界も新年を向かえ、各地域から色んな種族が集まって来て、我らが魔王ツマンティーヌへ新年の言葉を述べている。そして貢ぎ物。虹色に輝く竜王山の卵石。黒いバラの花束が100束。綿雲で作ったドレス。エメラルドダイアモンドをふんだんに使った角飾り。その他諸々。


「うむ」


決まった挨拶、決まった返し。これが朝からずーーーっとでツマンティーヌは「うむ」と言いながら頷く人形のようになっていた。確かに豪華なドレスを身に付けて美しい人形のようではあるが。

部下達も走り回り忙しそうにしている。


「ふぁああー……」


そんな中、一人、オレツだけは暇そうにしていた。

理由は魔界でただ一人の人間であるから。そもそも魔族と人族は戦争していたから敵同士。いてはならない存在なのだ。


魔王城内ではだいぶ馴染んできたものの、未だに良い印象を持たれてない魔族もいるのだ。それが、更に馴染んでいない奴らの前に出てみろ、また戦争が起こる。


しかし、部屋の中で籠りきりっていうのも退屈すぎて。欠伸が止まらない。

可愛い姿のツマンティーヌも見られないし。


「はぁ……。 ん?」


気配察知に何か引っ掛かった。

普段は閉じているが、あまりにも暇すぎるのと、面白いのが無いかと全開にしていれば、センサーに魔族とは違う気配が引っ掛かった。数は10程。繁みに隠れて様子見をしている所か。


「魔力量はやや多いくらいか。この前のと違う勇者だな」


一概に勇者といっても一人ではない。複数いて、魔力量、身体能力、戦闘能力を総合的に見た上で、一人でも魔界を動き回れる素質がある者を勇者と呼ぶ。もっともオレツは全てにおいて規格外のある意味化け物だったが。


「………………よし!」


どうせ暇だし、ツマンティーヌの邪魔をさせない&仕事を増やさないようにしよう。そう思い立ったら、前、岩地獄層のドワーフのルビーが作ってくれた偽物の角を取り出して装着した。

オニキスの角は本物そっくりで、よーく見ないとバレない。


そして出来るだけ魔族っぽい格好に着替えると、魔王城入り口に転移、素早く気配を消して門を突破すると、センサーに引っ掛かった地点に向かった。












「今日はなんか知らんがあちこちから魔王城へと集まる悪魔が多い。きっとまた侵略するための作戦会議だ。奴らの思い通りにはさせない、出来るだけ多く倒しながら作戦会議を滅茶苦茶にしてやる。いくぞ!」


「オオー!!」


繁みから飛び出て向かおうとした瞬間、目の前に全身黒ずくめの悪魔が飛び出してきた。


「な、何!?」


黒ずくめの悪魔の、悪魔にしては珍しい紫色の瞳が煌めいた。


「ツマさんの邪魔はさせないよ」













ツマンティーヌは大きく伸びながら欠伸をした。

ようやく来客が落ち着き、お昼休みを取ることが出来たからだ。


「座りっぱなしは辛い」

「同情いたします」

「変わってくれる?エトマンド」

「それは出来ません。私は魔王ではなく補佐ですから」

「ぶぅ」


隣に立つ魔王補佐官、トッペルゲンガーのエトマンドがすまし顔で答える。今日はいつものお気に入りの人間の顔ではなく、ツマンティーヌが淋しくないようにと色彩違いのオレツの顔をしている。


「……オレツに会いたい」

「挨拶がすみましたらね」

「その顔やだ」

「こうして私が徐々に周りの魔族に慣らしていけば、スムーズにオレツ様が馴染まれるかと思いますが」

「………………なんか……わかってはいるけど、装飾品みたいに晒すのがやだ」

「後々旦那様になられるのでしょう?嫌でも少しでも摩擦は減らしておくべきです」

「わかったわよ……」


納得はしてないけど、と、ツマンティーヌが心の中で思っているであろう言葉をエトマンドは安易に想像できた。


その時。


「ツマンティーヌ様大変です!!!」


見回りにいってた部下が慌ててやって来た。


「何?」

「外に大量の勇者ーー」

「この忙しいときにやってきたの?」

溜め息が漏れる。


「ーーの山が出来ております」

「はい?」


つまりどう言うことか?


エトマンドと顔を見合わせ見に行くと、魔王城を取り囲むように気絶した勇者ご一行の山が出来ていた。


「目撃情報によりますと、紫色の瞳の悪魔が蹴散らしていた、と」

「紫色の……、!!」

「これは、オレツ様がやられたようですね。ツマンティーヌ様?」


エトマンドがツマンティーヌを見ると、赤く染まった顔を両手で押さえてブツブツ言っていた。


「これどうされましょう? 業火の谷に捨てますか?」

「いえ、せっかくオレツが殺さずわざわざ気絶させているってことは恐怖を植え付けたって事よね。そのままそっくり人間界の境界に捨てておいて」

「かしこまりました」


部下が去っていく。


「私にバレないようにごみ掃除なんて、オレツやるじゃない」












一方的その頃、オレツは。


「まさかあんなに潜んでいたなんて知らなかったなぁー、ビックリしたわ」


最初の勇者を討伐したら、救援を呼んでいたのかタイミングのせいか、そこらから新しい勇者ご一行が沸いてきて、軽く掃除のつもりが巨大な魔王城をぐるり一周するはめになってしまっていた。疲れたオレツは風呂に入りながら、勇者から剥ぎ取ったブローチ達を見る。これを100個集めたらツマンティーヌに素敵なアクセサリーを作ってあげよう。



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