その4 設置
「モジナベー!ペンと紙貸してー!」
「オレツ様ぁ?」
髪の毛がインクになっている女型の悪魔が振り返りオレツを見付けた。モジナベは大事な書物や魔方陣の数式を食べる活字食い蟲の悪魔だ。オレツが近くまで来るとモジナベはこてんと頭を傾けた。
「良いですけどぉ、何に使うのですかぁ?」
「ツマさんに良い感じのお風呂をつくってあげようと思って」
「まぁ、それはよい考えですねぇ。きっと喜んで下さいますぅ」
腰鞄から昼に食べ終えたまっさらな本の適当なページにオレツはせっせと設計図を描いた。その設計図を覗いてモジナベと、近くを歩いていたケンタウルスのシャリが覗き見た。
「これはこれは、また斬新な…」
「この道具はどうやって集められるのですかぁ?」
「海の層に沈んでないかなー、って。ほらたまに外と接続したときに迷い込んで沈没する話を聞いたから」
「ああ、なるほど」
「ならアイサが詳しいんじゃない?リヴァイアサンだし」
「よし、訊いてこよう」
海の層のセイレーンの腰掛けになっている岩場に着くと、オレツは思い切り息を吸い込んだ。
「アイサぁぁぁ!!!」
波が荒立ち、そこの方から大きな影が伸び上がってきて、盛大な飛沫を撒き散らしながらリヴァイアサンが姿を表した。大きな海蛇に魚のヒレが付き、鯰の髭と角が生えた姿だ。
「んんんー? だぁれ? あ! オレツさま!! どうしたんですか?」
リヴァイアサンの頭のところが崩れ、巨大な女性の姿が現れた。下半身はヒレのついた海蛇の姿で、人魚の様だ。
こちらへと大きな波を立てぬように近付いてくるアイサ。リヴァイアサンの異常につられて次々に人魚やセイレーン、マーマン達も海面に上がってきた。
「外と繋がったときに沈没した海賊船とかない?」
「探せばあると思うけど、 なんで?」
「ツマさんに素敵なお風呂をつくってあげようと思って材料探し」
「あらん! 素敵なお話ねえ 設計図はあるの?」
「あるよ」
設計図を取りだし掲げると、海の者達がそれを見て顎に手を添え頷いた。
「確かつい最近沈んだやつならちょうど良いんじゃないかしら?」
「船首も確か宝石の羊だったわよね!」
「それいい!それに決定!」
「待ってて!すぐ引き上げてくるから」
みんな揃って潜り、しばらくすると立派な装飾が施された小型客船が引き揚げられた。
大きさもちょうど良い。内装も改造すれば充分イケる。
「ありがとう、早速設置してみるよ!」
マグマ層に持っていって設置して見たら、ちょうどマグマの海で走る船みたいになった。あとは内装を弄くり回せば完成だ。
「ツマさん待ってろよー!」