その28 プレゼント
「ねぇねぇ、どうしたのよオレツ」
「いいからいいから」
目隠しをしたツマンティーヌの手をオレツが引いている。
廊下をゆっくりと、とある部屋を目指して歩いて行く。
本当はお姫様だっこで連れていっても良いんだけど、せっかくだし二人で歩いて行きたい。
廊下を歩いているオレツ達を微笑ましく、働いている魔物達が手を止めて見守っている。
コツコツと足音が響いて、角を曲がる。
みんなでツマンティーヌに内緒で今日まで来た。
大変だったんだ、言い訳が。
誤魔化しが。
何せ聡いから、ツマさん。
それでも頑張ってなんとか今日まで隠し通した。
さぁ、着いた。
足を止めるとツマンティーヌも足を止める。
「さぁ、ツマさん。目を開けて」
目隠しを外して、ツマンティーヌに目を開けてもらった。
「! わああ!」
ツマンティーヌの目の前には真っ白のドレスが。
「え?ええ?? これ、もしかしてオレツが作ったの!?」
「そうです!って、言いたかったけど、これはみんなの合同作品。アクセサリーは俺とにーちゃん達。生地はクラトネやマイツルさん、そしてこの魔王城のみんながそれぞれ最高の素材を使って作り上げました!」
口に手を当てて涙ぐむツマンティーヌ。
「ありがとう…、みんな」
恐る恐る手を触れる。
「魔力に応じて変化するんだよ。体格も勿論、色も望んだものに変えられる」
世界に一つだけのドレス。
「これ、着てみても良いかしら?」
「もちろん」
カーテンが開かれた。
そこにはとても素晴らしいフランス人形のようなツマンティーヌが顔を赤らめて立っていた。
たっぷりの生地のフリルに包まれ、まるで花の妖精。
「先に行くほどに淡い紫色になっているね」
いつも紺色や紫色を身に付けていたからだろうか。
とても良く似合っている。
「さ、ツマさん」
手を差し出すと、小さな手がちょこんと乗せられた。
頭の角飾りとティアラが慎ましくも美しく光を放っている。
「どうかしら?似合っている?」
そう聞かれた。
「うん。とっても綺麗だよ、ツマンティーヌ」
魔界、いや、人間界のどこを探してもツマンティーヌよりも美しい人はいない。
夜。
お披露目が終わり、二人で城の外で夜空を見上げていた。
二人きりだ。
エトマンドが気を利かせてくれているから、邪魔はない。
「オレツ」
「なに?ツマさん」
ツマンティーヌの手がオレツの手に触れる。
「ずっと、言ってなかったことがあるの」
なんだろう。
黙って先を促す。
「オレツは、人のままでありたい?」
「どういう意味?」
意図が見えない。
「私のものになったら、私の伴侶になったらね」
「うん」
「オレツを私の力で人間から魔人にしないといけないの。昔からの決まりで、他種族と結ばれるときは、ずっと一緒にいられるように変えるしかないの」
ツマンティーヌの手が少し震えている。
だけど、オレツはどこか他人事のように。
「ふーん」
と言った。
「ふーん、て。私は真剣に…」
「俺はさ、別に人間であることに固執しているわけじゃないし、むしろ人間界にいた頃よりも此処にいる方がとても居心地がよかった」
人間界では常に化け物扱いされていた。
一部は崇拝もされていたけど、結局オレツを人間として見ていたものは身内を除けば殆どいなかった。
「だから、ツマさんと一緒にどこまでもいけるなら」
ツマンティーヌの手を握る。
拒絶はされなかった。
ツマンティーヌの正面で膝をつき、従順な騎士のように誓ってみせよう。
「俺をツマさんの婿にしてください」
顔を真っ赤にしたツマンティーヌは、それでも嬉しそうに微笑んで。
「はい」
と返事をした。
それから半年後、魔界で大きなお祝いがなされた。
魔王様と元人間の男と結婚をしたというニュースが全世界に広まり、大いに驚かせた。
「ほら、ツマさん!今度はエンシェントドラゴンのぬいぐるみを作ってみたよ!」
髪から覗くオニキスに似た角が光る。
オレツが抱えるそれを見て、ツマンティーヌが喜びながらも叫んだ。
「流石に実物大は寝台に入らないわよーー!!!」




