第九篇
○気まぐれな太陽
君の笑顔はまるで気まぐれな太陽
いつもは見せてくれないその表情を
僕だけが見ることができる
でもその眩しさに僕は目をそらしてしまうんだ
だから僕はすりガラス越しに君を見つめる
そうして初めて見る君の素顔を僕は未だ知らない
○夢のはらわた
君の腹から止め処なく流れ出る夢のように
僕の恋心も世界を変えていければ良いのに
世界はずっと残酷で僕は何もかもを諦めて
いつかきっとと願いながら
ブランケットに縋って淡い泥のような夢を見る
○途絶
ぶくぶくと
水でふやけた胎児が
一個の人間として生まれ
さらさらと
皮のくっきりとした老人が
一個の人間として死んでいく
乾いていくのは心ばかりではなく
肉体も同じこと
思想も哲学も観念も
全てを一緒くたにするところの無理解が
現象としての身体を腐らせていく
どこから来てどこへ行くのか
そんなことは記憶に訊いてみれば済む
最後には何も分からないまま
虚無が全てを呑み込んでいく
そんなことはあり得ない
内側に溜まった汚泥で
井戸の底から見上げる空が曇るだけのこと
慰めはいらないが
慰めることもしない
親愛の情などはまやかし
一個の人間として生まれた以上
どこかのポケットへ落ちていくまで
互いを弾き弾かれながら
途絶のときを待っている
○漂泊
真贋というと
本物か贋物のどちらかしかないように思えるが
そのどちらでもない間にいる彼らは何者なのだろうか
春になれば陽気を浴びに街へ出る人々も
秋になれば落ち葉を踏みしめ踏みしめ帰路につく人々も
私の見えないところで彼らは確りと生きている
人が人として生きていればどちらでも構わないんじゃないのか
ところで彼らを眺める私は何者か
自分だけは何者でもないという涼しい顔で
いつか彼らに虚を見抜かれるのを恐れながら
今も未確定のままでありたいと願って
○顔ゑション
冬の間しか知らなかったあなたは
夏の顔を見せる前に私の前から去っていった
顔を天に突き出して綿雪を浴びるあなたは知っていても
アブラゼミの喧しいベンチで横になるあなたは知らない
ベッドに染み付いたあなたの体温は知っていても
湿気に汗ばんだあなたの匂いは知らない
どこへ行けばあなたに会えるのだろう
どこへ行けばあなたと話せるのだろう
私もまだ雪解けの顔を見せていないのに
○初出
・気まぐれな太陽 - 平成30年7月4日
・夢のはらわた - 平成30年7月29日
・途絶 - 平成30年8月26日
・漂泊 - 平成30年9月11日
・顔ゑション - 平成30年9月13日




