第八篇
○冬を置いて
三ヶ月後は梅雨の頃
貰ったクッキーの缶詰の賞味期限の頃
三ヶ月前はジョンが撃たれた頃
あなたをまだ知らなかった頃
私は何もしらないまま生きているけど
三ヶ月後にきっとクッキーを頬張りながら生きていようと思った
だから今は冬を置いて先に行くよ
○夏至
もっと先に待っているものと思っていた夏至は
気付かぬ間に暮れようとしていた
さよならをいう暇もないままに去っていくあなたは
まるで
まるで
その先が思い浮かばない私は
別れがあったことすらも忘れてしまった
どうしようもない堕落者なのです
でも本当は
忘れてしまいたい別れもあるのです
○鏡
私は気付きました
今迄は鏡を見ていたと思い込んでおりました
今迄は自分を見ていたと思い込んでおりました
でも違ったのです
私は見ていたのではなく見られていたのです
そのときから
私は見る者としての生を歩まねばならなくなったのです
○即興如水
疎と密のはざまに盛衰する泡沫の日々
世界を一点透視図法にて切り取るカメラ
象牙の塔や霞が関を写し撮るヘリコプター
見上げるのは丁字路の頂点
やがて訪れる終末を死として体験するために私は生きる
○結晶
結晶化した昼の光の瞬きに
僕は失われた夢の影を見る
まるでいつかどこかで出会った誰かの
縊られた未来を見据えるよう
流れていく時間の一粒一粒が
誰かの夢を叶えるのと同時に
線路から突き飛ばして失墜させていく
僕はどうしていいのか分からないまま
微睡みの世界に浮かんでいく
全てのことはまるで夢の世界の裏返し
○初出
・冬を置いて - 平成30年3月10日
・夏至 - 平成30年6月21日
・鏡 - 平成30年6月23日
・即興如水 - 平成30年6月26日
・結晶 - 平成30年6月28日