第六篇
○アウフヘーベン
生きている限り 生を受けた限り
あなたは無謬ではいられない
低く高いところから見下ろして
自分だけは汚れないようにと身動きもせず
今ここにいることからも逃げ出して
鎖を断ち切ると息巻いて
結局は時代の軛に繋がれている
そんなあなたを拒絶できるのはあなただけ
そろそろ自分の存在を認めてあげなさい
鼠色の汚れた姿を見つめてあげるのです
生きている限り 生を受けた限り
あなたは無謬ではいられない
でも聖人君子にはなりたかったなあ
○街路灯
街路灯を部屋に連れ込んでダンスするとき
あなたの瞳に映った私の顔はがらんどうで
うつろう意識がさらさらと消え去っていく
宝石なんてもう要らないと言っても聞いてはもらえなくて
今夜は月が出ないからと手を取り合うのを
一条の光が静かに見つめていた
○縁
行けども行けども見えぬその光を胸にして
いつか見た曇天のように淡い志を持って
やがて見る青空の下に立つことを望みに
我らは倦むことなく世界をかき分けていく
だがもしも歩みを止めてしまったならば
縁は刃となりて君を討つ
○出来合いの退廃
人の色褪せる気配を身の内に感じるのは
それは一等強い体験の金字塔で
茨の道のように綺麗な場所を歩もうとしているわけではなくて
欲望の敷き詰められた巌の上を
人のいない静かで厳しい道を歩もうと思っているのだから
青空の照り返しに瞳を灼かれたとしても
やがて風雨の来ることを
臓腑を浚っていく風の来ることを願いながら
今はただ歩むのみ
今はただ己の無力を嘆くのみ
退廃に身を浸すこともできなければ
太陽の下に身を曝すこともできない
日の当たる部屋にて退廃を夢想することしかできず
光陰は矢のように進むだけ
○金字塔
金字塔を打ち壊せ
金字塔を打ち壊せ
人々の共有できるところの業績を打ち壊して
それが文明の造り上げた幻想に過ぎないことを
式日の下で曝け出してしまえ
肉体の蠢くリヴァイアサンのように
見えざる人々の手によって成し遂げられた何かを
一人の英雄の手に掴ませるなかれ
我ら同じ太陽の下に生まれてきた者たち
全ての権威を打ち壊せ
全ての金字塔を打ち壊せ
○初出
・アウフヘーベン - 平成29年11月16日
・街路灯 - 平成29年12月2日
・縁 - 平成29年12月29日
・出来合いの退廃 - 平成30年2月4日
・金字塔 - 平成30年2月4日




