第十二篇
○GSを聞きながら
五十年前の昼は昼として存在するとして
こちらとあちらとを分け隔てているものは何だろうか
建物や科学技術の変化だけが
我と彼とを分け隔てているのだろうか
だとしたら何という貧しさ
何という狂おしさ
何という短さ
シーラカンスの瞬きのうちに過ぎゆく時を
僕らはあくせくしながら
坂を歩いていく
小早川中納言の変節を見下ろす弁当がらたちと
算盤が築いてきた中空構造は堅固に続いて
穢土の夜ははるか遠く
しかし二千六百年の幕政的死産児を
太字で教えられる子らの虚ろな行く末を案じるとき
やはりそこにある坂は
どちらに傾いているものか知れたものではない
モーニング・グローリーの可憐な朝に目覚めたなら
後はただ毒に溺れてしまえば済む
熱情的な昼の勢いと
直線的な夜の装いをさすらった後に見つけた港の衣擦れは
GSではないシティ・ポップの系譜
王政復古の夢を見たり
古代魚の化石を見たりして
転倒した先に待つものは果たして何ぞや
私は手を止め、ブランクという名の概念を示して筆を置くのみである
○都会
一次ソースとしての歌を聴きながら
僕は君のことを思い浮かべる
明かりの灯るホテル
街灯の照らす国道沿い
どうして僕は夜を感じるのだろう?
それはきっとこの歌のせい
何でもないような商店街とか
昼間でも薄暗い地下街とか
そんなものを想像しても良いはずなのに
僕は文明の光というものに引きずられすぎる
そうして君を探しに出かけても君はどこにもいない
それはそうさ
君はいつだってどこにも存在しないのだから
○秋が来たりて
その骸に群がる蟻を見ながら
僕は何事かを訴えようとしていた
遠い山に影を落とす雲のように
僕もまた足元で行われている何事かに影を落とす
夏は終わった!
どうしようもない寂寥に包まれながら
僕は靴底の窪みに命を助けられる蟻のように
何者かに守られながら生きていることを知った
どこへ行こうか
どこへ行けるだろうか
誰かが待ち受けるあの山の彼方へ
僕らは今
舟を漕ぎ出さなければならない
○常温で保存された魂
掌でからからと鳴るものを
私はいつから卵であると勘違いしていたのだろう
どうしたって訪れる終わりの時を前にして
私は砂浜に神の真名を書き記す
行けたら行くよという断り文句は天使たちには通じなくて
いつからか茜を湛え始めた空の下で
常温で保存された魂を
くしゃくしゃに握りしめるでもなく
海へと放り投げることしかできなかった
○私は亀
炭酸の抜けた後のラムネのような気分になって
あの子のことを窓から見下ろす
見下される彼女は見上げた存在で
いつもにこにこと春を蒔き散らしている
ああ、どれだけ新聞を折り重ねればあの月に手が届くのだろう
ペンを滑らせるはずの手は手遊びで忙しい
もし時間の前借りができたならきっと追いつけるはずなのに
そんな私は亀だから
アキレスのようなあの子には追いつけない
いつまで経っても四十九日が過ぎてさえも
○初出
・GSを聞きながら - 令和2年3月4日
・都会 - 令和2年7月19日
・秋が来たりて - 令和2年8月28日
・常温で保存された魂 - 令和3年3月20日
・私は亀 - 令和3年3月24日




