第十一篇
○涙の色
じんとした目頭から溢れ出る
涙
あくびをして溜め込んだのとは違って
感情を溜め込んだその
涙
は色のない透明色をしていて
でもそこには何かしらの想いが詰まっていて
鼻の脇を通り過ぎていくときに感じるひりひりとしたものが
その
涙
の味を教えてくれる
流れに流れた
涙
はどこへ行くのか
涙
を呼び起こした感情だけがその
涙
の行く先を
その行く先を知っている
○Iの不在
雨の夜はうるさくて
人の気配の消えるのが寂しくて
窓外に更けていく夜の密度は上ずる
ぽつりぽつりと吐き出す声を
投げ返してくれる無口な土壁も
そばにいない誰かの代わりにはならず
ただ何かが欲しいから
ライブカメラを映した画面を背にしながら
指先でバレエを演じる
雨も声も音も
心の空白を埋めることはできず
そもそも心がどこにあるのかさえも知らないけれど
情報の奔流の片隅に言葉を放流する
○スポーツ
旗を掲げるときがやってきた
あらゆる人種を飲み込んで
あらゆる性格も厭わない
透明な国の旗を掲げるときだ
権威も扇情も必要ない
スポーツ
記録されることはなく記憶されるばかりの
スポーツ
大人も子供も皆等しく白線に並ぶ
スポーツ
そんなスポーツを演じられる国は人知れぬ里にある
企図されて初めて進行していく時代は
目に見えぬ何かを打ち壊し
同時に目に見えない何かを生み出した
記録と時間に概念や生活
その国は規格から外れた人間で構成される
今は人知れぬ里にあるその国は
いずれ七つの海を制覇するだろうか
いつか権威となってしまうだろうか
人間がその肉体を捨てぬ限り
その肉体を美しいと思える限り
スポーツは衰えることなく続いていく
全ては物事の裏表
打ち壊すべきは打ち壊し
生み出すべきは生み出し
その先に待つものは
太陽系の破裂だろうか
ならば今を懸命に生きるのみ
そのために必要なものこそ
我らのスポーツ
○天下
雨や降れ降れ
雪や来い来い
雨や降れ降れ
雪や来い来い
仕事中の皆さんも
昼寝中の猫さんも
皆等しく大地に根を張る以上
水分を吸収しなければならないのだ
雨や降れ降れ
雪や来い来い
雨や降れ降れ
雪や来い来い
如何に天を穿とうが
如何に土を嘗めようが
皆等しく大地に根を張る以上
苦しみも悲しみも共有しなければならないのだ
雨や降れ降れ
雪や来い来い
雨や降れ降れ
雪や来い来い
私は雨を待つ
私を雪を待つ
しかし
それらを引き受けるだけの勇気はどこにも
○夏は二度と現れない
蝉が鳴きやむのと
夏が終わるのとは同時で
人はそこに一つの終末を見る
人はどうして次の夏があることを知っているのだろう
いつからそのことを知っていたのだろう
秋を経て冬が来たりて春も過ぎた先に
どうして夏が待っていると自信を持って言えるのだろう
あなたはどうして次の夏があることを知っているのだろう
いつからそのことを知っていたのだろう
母や父から教えてもらったのか
それとも見知らぬ誰かから
私は次の夏がないことを知っている
一度死んだものが蘇るはずもないのだから
ところで海の果ては滝になって落ちていくだけ
私の世界ではそうなっているのだから
だから夏は二度と現れない
もしももう一度夏がやって来たなら
そのときは安心して私を忘れてほしい
私は舞台から押し出されて消えているから
○初出
・涙の色 - 平成31年4月1日
・Iの不在 - 令和元年6月30日
・スポーツ - 令和元年7月3日
・天下 - 令和元年8月1日
・夏は二度と現れない - 令和元年8月13日




