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第一篇

○死に向かう僕らは

 そして死に向かう僕らは今日もハイウェイを北上する。オレンジ色の明かりが鼓動のように降り注ぐ。窓の外の空の上の奥の方の点滅する光。あれは飛行機だろうか衛星だろうかそれとも円盤だろうか。その答えが分からないうちにトンネルに入る。ずっと前にこの道を通ってきたような気がするけれどそうでないことに気付く。この世界に産み落とされたときのことがふと頭に浮かんだのだ。

 僕はどうしてこんなところにいるのだろう。どうしてこの世界に産み落とされたのだろう。きっとその答えは藪の中。僕らは後続車にせっつかされながら前へ前へ進むしかないのだ。それはとても悲しいこと。でもそれが運命なのだ。その先に待つのはあの優しいひとかもしれない。見ててごらんきっとそこまで行くからね。

 やがて死に至る僕らは今日もハイウェイを北上する。やがて死に至る僕らは今日もハイウェイを北上する。やがて死に至る僕らは今日もハイウェイを北上する。……




○眩暈

 ああくらくらと眩暈がします。こんなところで立ち止まっていては危ないのにどうしたことでしょう。手すりを求める私の手は虚空を掴むばかり。私の身体は奈落の底に落ちていくんです。きっとそうなるのです。

 現実の世界がどんどん遠ざかっていきます。階段の脇を行く車の走行音も火事現場に急行するヘリの音もファズをかけた音の塊となって私を包みます。そしてきっと私は階段を転げ落ちていくんです。

 ぱっと私の手を包む何か。この温かみを最後に感じたのはいつだったか。冴えないけれど優しい目をした誰か。私を助けてくれたのか。それは分からないけれど私は眩暈の中できっと恋に落ちていくんです。




○夢の間

 逢瀬に逢瀬を重ねてみても決して出会えぬ宝のような

 全き姿のあなたを探して今宵も私は光のなか

 酒が注がれ金が飛び交う煌めくネオンのその下で

 私はきっとあなたに会えると信じ続けて喉を焼かれて

 気付いたときには車のなかで夢をひねもすひとりきり

 夢の間で出会えたあなたはさっとどこかへ消え去るけれど

 命の瞬き感じられて私はきっと幸せなのです

 私はきっと幸せなのです




○乱反射

 まだ見ぬ君へ

 まだ見ぬ愛しき君へ

 今日はとても風が心地よいです

 いつかこの気持ちを分かち合えるのだと思うと

 もう涙が溢れてしまいそうになって

 僕はここに生まれてきて良かったと本当にそう思えるのです

 いつか見たプールの水面に光がきらきらと輝いていたのをふと思い出しました

 そんな幼いころの記憶を君に伝えたい

 どこかのマンションのベランダで夜の都会を眺めながら僕は君と語り合いたい

 もし君が眠気を感じたとしても僕はそれを無視して話し続けてしまうかもしれない

 そうしたならきっと君はマットレスを窓際に持ってきて

 そこで手を握りながら僕が語るのを聞いてくれるかもしれない

 手を握りながら

 そうしたなら僕らの世界は繋がって

 君は君の思い出を語ってほしい

 そうしたなら僕らの世界は繋がって

 僕は君がここに生まれてきて良かったと本当にそう思うでしょう

 まだ見ぬ君へ

 まだ見ぬ愛しき君へ

 今日の海はとても静かです




○星間連絡船

 帰れぬ夜を

 あなたは何度過ごしたことでしょう

 あのまほろばの日々の味わいを

 あなたは今も追い続けているでしょうか

 愛しき人の言葉が

 今日もこの胸に広がります

 青函連絡船を

 星間連絡船と

 勘違いしたあの過ちを

 過ちと知らず

 星の間を漂う夢想が

 あの日の胸に広がりました

 帰らぬ人はあの蝦夷の彼方に

 今はその名も残らぬ海の向こうに

 セイカン連絡船も無き今では

 短冊にこの想いを綴るばかりです

○初出

・死に向かう僕らは - 平成28年2月9日

・眩暈 - 平成28年2月9日

・夢の間 - 平成28年3月28日

・乱反射 - 平成28年8月24日

・星間連絡船 - 平成28年8月28日

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