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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
四章 機神と大会
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紹介

 そうこうしているうちに騎士の人たちが何人も立ち並んだ物々しい一画に辿り着いた。近づくと警備をしているらしい騎士の人から誰何されたけど、ジュナスさんが少しやりとりを交わすと無事通してもらえることになった。


「――ガイウス様はこちらでお待ちとの――」

「ウル様ぁっ!」


 それから少し歩いたところにある部屋の前で立ち止まった途端、ちょうどそこに立っていたヒエイを吹き飛ばす勢いで扉が開いて歓声と共に侍女服姿のシグレが飛び出してきた。


「お待ちしてぐおぉっ!?」


 そのまま喜色満面で駆け寄ってこようとしたところを開いた時にも勝る勢いで閉じられた扉に弾かれて再び部屋の中へと消える。


「……お見苦しいところを見せました。少々お待ちください、王」


 こわれそうな勢いで扉を閉じた張本人のヒエイはさっきぶつけたらしいところを軽く押さえるような仕種をすると、それだけ言い置いて一人部屋へと入っていった。


「……らしいからちょっと待っててね?」

「あ、ああ」


 突然の出来事に目を白黒させている仲間たちに断りを入れて待つこと少し。蝶番が痛んだのかギィと少し音をさせながら再び扉が開き、中からひょっこりと顔を覗かせたのはタチバナ。今日は侍女服――というかこれもうメイド服って言った方が良さそうな可愛らしい服装だ。もうだいぶん男の娘が板についてきちゃってるな、この子。


「始祖様、皆様、どうぞ」

「それじゃあ、お邪魔しまーす」


 どうやら入っていいらしいので遠慮なく足を踏み入れると、ガイウスおじさんの屋敷の応接室くらいはある部屋だった。見た感じ一通り調度品は揃ってるけど、真ん中にはテーブルがない代わりにいくつかのソファがそれぞれ向かい合うように配置されている。

 そしてそのソファの一つにガイウスおじさんが堂々と腰を落ち着けていた。すぐ隣にある別のソファにはエリシェナとカイウスが並んで座っている。ついでに部屋の片隅ではうなだれながら正座しているシグレにヒエイがこんこんとお説教をしていたけど、まあ見なかったことにしてあげよう。


「やっほーガイウスおじさん、直接会うのは久しぶりだね」

「よく来た、ウル。そちらは例の仲間とやらか?」

「そうだよ。リクスにケレンにシェリア。エリシェナはもう知ってるよね?」

「はい。お久しぶりです、皆様」


 そう言ってにこやかに再会を喜ぶエリシェナ。それを見たリクスが「まさか公爵様の娘さんだったなんて……」と若干遠い目をして、ケレンも一見いつもの余裕ぶった態度に見えて「やっべー不敬罪とかにならないよな?」なんてことを小声で呟いている。前に会った時もエリシェナが貴族だってことは気づいてたのに、なんで今更動揺してるんだろう? ちなみにシェリアはいつも通り軽く会釈するだけで、特に動揺した様子は見あたらない。


「ところでガイウスおじさんたちだけ? レンドル閣下とかも一家で来てるんじゃなかったっけ?」

「レンドルは観覧席で社交をしておる。私は急にお前が顔を出すと言うので一時的にこの部屋を借りただけだ」

「わたし達はウル様がいらっしゃると聞いたので、お爺さまに連れてきてもらいました」


 どうやらこの部屋はやんごとなき人たちが誰かと面会するための応接室みたいなものらしい。どうりで窓のたぐいがないわけだ。ここじゃ観戦なんてできないだろうにって思ってたけど、無用の心配だったらしい。


「それと、レンドルよりお前に伝言だ。『あれを使う時はこちらの状況も考えろ』とのことだ」


 その伝言に一瞬首を傾げたものの、すぐに言わんとすることに気づいた。無線魔伝機(マナシーバー)はこの世界じゃまだ知られてない技術の産物だから使う時は人目をはばかってたわけだけど、ヒエイ側の方まで気を回してなかったのだ。


「……ひょっとして、人がいっぱいのところで着信した?」

「おかげでレンドルが質問攻めの矢面に立つことになったな」


 ぎゃあああっ! やっぱりやらかしてた!

 うわぁ、どうしよう……いや、もうやっちゃったんだからどうしようもないのはわかってるんだけど、次にレンドル閣下に会う時が怖い。にこやかに青筋立ててる顔が幻視できるレベルだ。普段の貴族然とした理知的な様子はよく知ってるんだけど、それ以上に初遭遇時のインパクトが強すぎて未だに敬称取って話ができないくらいなんだよぉ……。


「――それで、そこな若人は自らの名を私に知らしめる機会をふいにするか?」


 初対面の時に感じたあの逆らっちゃいけないオーラを思い出して内心でガクブルしていると、不意にガイウスおじさんが緊張ゆえか固まってしまっているリクスたちを見ながらどこか揶揄するように聞けば、ハッと我に返ったリクスたちが居すまいを正した。


「も、申し遅れました! おれ――自分はリクス・ルーンと言います! ヒュメル族で、カッパーランクの臨険士(フェイサー)です!」

「お、同じく、ヒュメル族のケレン・オーグナーであります!」

「……ヒュメル族、シェリア・ノクエスです」


 お貴族様のガイウスおじさんが相手なせいか、しゃちほこばった名乗りを上げるリクスとケレン。特にケレンは自分から名前を売りに来たっていうのに冷や汗までかいてるや。だからかいつもとほとんど変わらない雰囲気のシェリアが妙に大物めいて見える。


「結構。私はヒュメル族、ブレスファク王国がレンブルク公爵家前当主、ガイウス・メラ・レンブルクである」

「ヒュメル族、レンブルク公爵家当主が娘、エリシェナ・ルス・レンブルクです。あらためてお見知りおきください」

「レンブルク公爵家当主が子息、カイアス・ロド・レンブルクだ」


 それぞれゆったりとソファに腰掛けたまま自己紹介を終えると、不意に真顔のガイウスおじさんが口を開いた。


「縁の者がおそらく少々どころでない世話をかけていることだろう。手に負えないようなら見放してくれて一向に構わんが、それまでは目付役として同道してもらいたい」

「ちょっと、ガイウスおじさん。人のことを危険人物かなにかみたいに言わないでくれないかな?」

「あの婆さまの同類がどの口でそのようなことを言う。報告は受けているのだぞ? 行く先々で騒動を引き起こしおって、まったく」


 ちょっとあんまりな言い分に口をとがらせて反論すれば、心底あきれ果てたと言いたげにため息を吐くガイウスおじさん。確かに色々と騒動が起ったところに嬉々として首を突っ込んでいった自覚はあるけど、別にボクが原因ってわけじゃないんだからね?


「い、いえ! おれ――自分達の方こそいつもウルに助けられてばかりで……」


 そんなガイウスおじさんの言葉を聞いたリクスは直立不動のままどこか悔しげに言葉を紡ぎ――


「――でも、いつか必ずウルを助けられるような英雄になってみせます!」


 なぜかいきなり小っ恥ずかしいことを全力で宣言した。あまりの緊張にテンパったのかな? 隣のケレンも緊張を忘れたのか、『こいついきなり何言ってんだ?』って顔で幼馴染みを見やっている。ただ、唇の端がつり上がってるところからして単純に呆れてるだけじゃなさそうだけど。


「……ふっ、よい気勢だ。ならば励むといい、若人よ。さすればいずれ道は開かれよう」


 そしてそんなリクスを見たガイウスおじさんは不敵な感じの笑みを浮かべた。何か面白いものを見つけたような、それと同時に懐かしい物を見るような不思議な目だ。


「かけたまえ。それほど時間はないが、共にいる者から見たそやつのことを聞きたい」

「は、はい!」


 ガイウスおじさんに促されて対面のソファに腰掛けるリクスたち。同じようにボクも座ろうとしたら「お前は邪魔だ」と部屋の隅に追いやられた。


「お仲間方も、目の前に本人が居ては話しにくいこともあるでしょうから」


 ふくれっ面のボクに付き添うジュナスさんが苦笑混じりのフォローを入れてくれる。確かに客観的にボクの様子を聞きたいのに本人から横槍が入るのは鬱陶しいだろうけど……この扱いの差、解せぬ。


「始祖様。元気出して?」

「あー……ありがと、タチバナ。キミは相変わらずいい子だねぇ」


 こちらもボクに付いてきたタチバナが心配げな様子で背伸びをしてまで頭を撫でてくれたおかげで、ささくれた気分がだいぶん和らいだ。ホント、マキナ族のみんなは純粋ないい子たちばかりだ。


「お待たせいたしました、王。そして遅ればせながら武闘大会とやらでの順当なご活躍、心よりお慶び申し上げます」

「うぅ、こんな時までお説教なんて……あ、ウル様! 本戦……でしたっけ? とにかくおめでとうございます!」


 そこに一通りお説教を終えたらしいヒエイとシグレも混ざってきた。


「うん、ありがと。いやー、余裕かと思ってたけど思ったより大変だよ。人間ってすごいってあらためて思った」

「それほどのものでしょうか? ただの人間に王が後れを取るとは思えませんが……」

「そりゃ能力全開で行けば無双できるだろうけど、それじゃおもしろくないでしょ? それにマキナ族は能力任せの戦い方しか知らないから、人間の磨き上げた戦闘技術は侮れないんだよ」

「へー、そんなにですか? いくらでも吹っ飛ばせそうですけど」


 ヒエイの疑問へ応えるのを聞いて懐疑的な顔をするシグレ。これはよくない兆候だ。どんなに強くても、相手をなめてかかったら絶対どこかで手痛いしっぺ返しを食らうのは世の常識。族長としてしっかりたしなめておかないと。


「人間を舐めちゃダメだよ、シグレ? 極まった人はその力ずくを平然と受け流すんだから」

「始祖様の言うとおり。人間はすごい」


 意外なところから同意の声が上がった。マキナ族の中でもどちらかというと戦闘に興味が薄いタチバナだ。


「ふぇ、ウル様はともかくなんでタチバナがそう言うの?」

「料理に使う技術、カラクリよりずっとすごい」

「確かに、外に出てから食した料理は奥深さでいえば里の物とは比べものにならない。服や建物に関しても我々の技術は幼稚と言ってもいいほどだろう。ならば戦闘技術に関しても同様と言ったところでしょうか、王?」

「まったくその通りだね」


 さすがタチバナ、ワルクの役名を贈っただけのことはある。職人らしく自分の好きな分野とはいえ、人間の持つ技術についてとっくに感銘を受けていたようだ。それはヒエイにも通じるところがあったらしい。うん、この子たちに外の世界を経験してもらっておいて本当によかった。

 ただ、その辺りのことはわりとおおざっぱな性格のシグレには理解しがたかったのか、未だに納得しかねると言いたげな顔をしている。仕方ないなぁ。


「じゃあシグレ、武闘大会が終わったら帰って模擬戦しよう。人間の戦闘技術ってやつを味わわせてあげるよ」


 ふっふっふ、素のスペックに驕る人外種族代表に、元人間のボクが人間の技術ってヤツを思い知らせてあげよう!


「本当ですか!? やったーっ!! 楽しみにしてますね、ウル様!」

「王、その後で構いません、是非自分とも模擬戦を!」

「ぼくも!」


 そうしたらみんなの食いつきが半端なかった。いやまあバルトの役名を持つシグレはわかるけど、なんでヒエイやタチバナまで? 戦闘大好きってキャラじゃなかったよね、キミたち。


「まあ、それくらいいいけど――」

「ありがたき幸せです、王!」

「始祖様大好き!」

「あうぅ……わたしだけじゃないんですね……」


 了承したらなんか知らないけどヒエイとタチバナの好感度がアップしたようだ。うーん、そろそろ天元突破しそうな気がするなぁ……。シグレだけはちょっとがっくりしてるけど、だからって嫌がってる様子でもないから気にしないでおこう。


「相変わらず慕われていらっしゃいますね」


 そんな風に一喜一憂する三人を生暖かい目で眺めていると、エリシェナがにこにこ笑顔でやってきた。例によってシスコン気味なカイアス君がしかめっ面で付いてきている。


「皆さんいつもウル様のことで賑やかで、羨ましいくらいです」

「ボクとしてはここまで慕われるような理由が思い当たらないんだけどねー」

「でしたらやはりお人柄ではないでしょうか? ただ自然にしているだけで愛されるのでしたら自覚がなくてもいたしかたありませんよ。わたしも見習いたいものです」

「そんな大げさな……」


 ボクがマキナ族の雛形だってことが大きいと思うんだよね。創造主のイルナばーちゃんのことも手伝ってたし、それでみんなには『すごい人』って認識されてるのが原因なんじゃないかな。マキナ族はみんな子供みたいに純粋な子ばかりだからね。


「それはそれといたしまして、グラフト大武闘大会本戦出場、おめでとうございます。遅ればせではありますが、お祝い申し上げます、ウル様」

「うん、ありがとうエリシェナ」

「ふん、姉上との約束をやぶらなかったことだけはほめてやる!」


 おっと、早速カイアスのツンいただきました。


「やだなー、ボクがエリシェナとの約束破るわけないでしょ?」

「とうぜんだ! 姉上を悲しませるなどゆるされることではない!」

「だよねー、可愛い子をがっかりさせるのはダメだよね」

「そうだ! 美しい姉上を落ちこませることなどあってはならない!」

「カイウス、落ち着いてください……ウル様もそのくらいにしてくださいませ」


 相変わらずちょっと煽ったらおもしろいようにヒートアップしてくれるカイアスだけど、今回はすぐにお姉ちゃんからストップがかかってしまった。ただ、ちょっと困った様子ながらもほんのり頬を染めて恥ずかしがるエリシェナの胸キュンものの表情を見れただけでも満足だ。


「まあ、戦うことなら得意中の得意なんだ。誰よりも活躍してみせるから楽しみにしててよ」

「はい! 微力ではありますが、精一杯応援させていただきます!」

「この僕に稽古をつけたことまであるんだ。そんなお前が無様をさらすことはゆるされないぞ!」


 片や目をキラキラと輝かせてストレートに、こなたどこか不機嫌そうにテンプレートなツンデレ台詞での激励。これはますますロヴなんかに負けてられないね。




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