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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
四章 機神と大会
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敵意

 お待たせしました、お久しぶりです。引き続き楽しんでもらえれば幸いです。

=============


 武闘大会の二次予選は一日休みを置いてからってことらしく、中日となった今日は朝からそれぞれ自由行動だ。それならとばかりにウルがシェリアを引っ張って街の中――と言っても第二外壁の周りなんだが、ともかく嬉々としてあっという間に人混みに紛れていきやがった。あいつが奔放で突拍子もないのはそろそろわかってきたが、付き合わされるハメになったシェリアにはお気の毒様としか言いようがないな。

 ……もっとも、当の本人はいつもの無愛想顔にしてはどこかまんざらでもなさそうな雰囲気を出していたわけだが。あいつら本当に仲いいよな。一応はオレとリクスの方がシェリアとの付き合いは長いはずなんだが……やっぱり性別か? 本人いわく無性らしいし、男のオレらじゃ取っつきにくいだろうしな。それとも見た目か? あいつお子様体型なところに目をつぶれば完全に美少女だしな。オレも実態を知らなければ是非ともお近づきになりたいほどだ。

 ……そういやウルがオレらに正体明かした時はシェリアだけさも知ってたかのように平然としてたな。あの時もう知ってたってことは、その上でオレらに何の話しもなかったわけだから、つまりは秘密の共有か? 隣で羨ましそうな顔を隠しもせずに見送ったリクスのためにも、この辺のことはせめて予測くらいは立てておきたいところだ。

 それはさておき、せっかく帝都くんだりまで来たんだから少しは見聞を広めないともったいない。と言うことで、大会側から『今日は休め』って言われてるにもかかわらず時間があるなら少しでも特訓したいなんて言い出す馬鹿をなんとかなだめすかし、気の置けない男二人連れだって帝都見物としゃれ込んだ。


「――いい気なもんだな、リクス」


 そうしてのんびりと通りを歩いていると、後ろからいきなり聞き覚えのある嫌な声が幼馴染みの名前を呼んだ。できれば聞こえなかったフリをしてこのままどこかに姿をくらましたいんだが、そんな機転の利かない相棒が立ち止まって驚き顔で振り返るからやむなくオレも同じようにするしかない。そうすればそこには予想通り両手剣(ツーハンドソード)を背負ったあいつがいた。


「イルバス……」


 敵意満面の面相とご対面したリクスが戸惑うようにその名前を呼ぶ隣で、内心『うげぇ』なんて思ったことはおくびにも出さない。誰だって理由のわからない敵意を向けてくる相手に会ったら同じように思うだろうさ。青二才のオレが表情に出さなかったことを褒めてもらいたいってもんだ。

 ……ウルのやつみたいに嫌そうな顔ができたらなんてすっきりすんのかね?

 ふと、こいつに会うたび全力で嫌っていますって態度を隠しもしない仲間の姿が浮かんだ。いやはや、偶然とはいえあいつとシェリアが別行動してくれてて良かった。毎回今にも殴りかかりそうな剣呑な目つきばっかしやがるから、端から見てるこっちが冷や冷やするんだよな。あいつの正体を知ってからは止められる気がしないから余計にだ。


「仲間のおかげで二次予選に進めたそうだな。予定通りってところか」

「いやー、ホントにウル様々だよな。その様子ならそっちもきっちり一次予選突破できた感じか?」

「……ああ、そうだ」

「さすが! 同期の中じゃ飛び抜けてたもんな! やっぱ実力あるやつは違うぜ!」


 嫌味を隠しもしないセリフに対してリクスが言葉をつまらせた代わりに、あえて普段通りお気楽な調子で聞き返した。そうすればおどけるオレを見てイルバスは少し眉を寄せ、けれど律儀に答えを返してくる。今までの数少ない交流を見る限り、どうも根は真面目なやつらしいんだよな。ホント、これで嫌味さえ言ってこなけりゃな。

 ……でもまあ、オレらの今の境遇を見たら嫌味の一つも言いたくなるだろうな。

 結局、昨日の一次予選はウルがフィリップとか言うゴールドランクの臨険士(フェイサー)からせしめたメダル十八枚を加えて、その後も何度か戦闘はあったものの増減なく時間切れになった。最終的にウルが『パーティなんだから均等配分だ!』って言って聞かなくてそれぞれ七枚ずつが戦果だ。

 それを今朝方組合(ギルド)でウルとリクスが五枚で二次予選の出場権と交換して残りは換金、オレとシェリアは手持ちをそっくり換金って結果になった。シェリアが二次予選に出ないってことでウルのやつがめちゃくちゃごねてたが、まあそれはいい。

 何が言いたいかっていうと、ぶっちゃけオレらだけじゃ早々にメダルを取られてお終いだったところ、ウルがいて率先して暴れてくれたからそれだけのメダルが集まったようなもんだ。イルバスの言い方はムカつくんだが、言い分に対しては反論の余地がない。オレだって立場が逆だったら羨ましくないなんてとうてい言えそうにない。


「……ふん、お前は運がいいよな。だが、次からはその運は欠片もあてにならないぞ?」

「……そのことはわかってるよ」


 イルバスの揶揄するような嘲るよな台詞にリクスは引き締めた表情で応じた。二次予選は複数の組に別れて乱戦する形式だが、組合(ギルド)でパーティの登録をしているやつは分散して配置されるらしい。たぶん、『仲間に頼らずどこまで戦えるか』ってのを見る感じなんだろう。

 ウルのことはまったく心配していない。あれは多少の腕自慢が何人束にかかっていったところで笑いながら返り討ちにする絵面しか思い浮かばない。今回は不参加だが、シェリアだって早々遅れは取らないだろうってことは想像できる。けど、パッとしない平凡な魔導器使い(クラフトユーザー)のオレは開始数分刻で伸される未来が見えてる。

 その自覚があるからこそ大会メダルはそっくり臨時収入に換えたんだが、リクスはウルと同じように二次予選へと進むことを望んだわけだ。


「ま、お前くらいじゃまだまだだって! 他のやつに胸借りるつもりで行ってこいよ! 心配しなくてもあっさり吹っ飛ばされたら指さして笑ってやるからな!」

「いや、できれば笑わないでくれよ」


 どうにも気合いが入りすぎてる様子な相方の背中をバシバシ叩きながらいつものように茶化してやれば、リクスの顔はたちまち苦笑に変わった。そうそう、それでいいんだよ。お前に深刻ぶった顔は似合わないんだからな。

 そんなことを考えた瞬間、イルバスの視線がギロリと俺を捉えた。


「……お前はわかって言ってるのか?」


 おおっと、なんか知らんがこっちに飛び火した!?


「ん? わかってってどういうことだ?」


 内心しくじったと思いつつも、何がこいつの気に障ったのかを探るべく軽い調子を装いつつ聞き返す。するとその言い方がどうやらお気に召さなかったようで、ますます眉間に寄せている皺を深くして睨まれた。もう同年代だとは思えないような形相だ。気の弱い子供が見たら泣き出すんじゃないか?


「……身の程ほどを弁えない馬鹿がしくじれば、巻き添えを食うのは周りにいる奴だ。ならお前は手遅れになる前にこいつを止めるのが当然だろう」


 けれどイルバスは明らかに機嫌が悪くなったにもかかわらず、律儀にもそんな答えを返してくれた。それを聞いたリクスが顔をうつむけたのが視界の端に映る。まあそうなるのも仕方ないよな。なんせついこの間、まさに指摘された通りのことをやらかしてしまってるわけだし。俺もあの時のことは、もしもウルが飛び込んでこなかったらと、思い返すたびに未だ冷や汗が流れる。イルバスの言い分は一々もっともだ。

 ……けどな、それはそれ、これはこれだ。


「なるほどな! さすが同期の中では(・・)期待の星! お説ごもっとも! 平々凡々な俺らにとっちゃ実にありがたーいお話だ!」


 満面に笑みを浮かべてみせながら言い放てば、イルバスの眉が片方ピクリと跳ねた。どうやら言葉に含ませた棘をしっかり受け取ってくれたらしい。


「けどまあ残念! 俺はこいつの腰巾着を自称してるもんでね! 我らがリーダーの決めたことなら例え火の中水の中! 危険だってわかっていようがどこまでもついていくつもりなんだよな!」

「おい、ケレン! なんのつもりで――」


 おっと、リクスも俺の雰囲気に気づいたのか何か喚きだした。いつもはこういうことには鈍いのに、さすが付き合いの長さは伊達じゃないな。

 けどまあ、今はお前は黙ってろ。相手が同期だろうが実力は格上だろうが、それこそ王侯貴族様だろうが関係ない。

 何も知らない赤の他人に親友を馬鹿にされて、あげく黙ってたとあっちゃ、男が廃るってもんだろ。


「それに、良く言うじゃないか、運も実力の内だってな! あんたが知ってる通り、リクスも運の良さにかけちゃ負けてないぜ?」

「ケレン!」


 締めの言葉に添えて、あえて見下すように笑ってやる。いつもなら絶対しない明らかな挑発。さすがに見とがめたリクスが制止しようと肩を強く掴んできたが、それを無視して睨み据えてくるイルバスを真っ向から見返す。

 どう言いつくろったって今更言ってしまったことが取り消しになるわけがない。これで向こうがキレれば俺なんかあっさり吹っ飛ばされるだろうが、そんなことはかまいはしない。むしろ手を出した時点で俺の中じゃ向こうの負けだからかかってこいってとこだ!

 けれど予想に反してイルバスは眉間の皺をいくらか和らげると、怒りの中にいろいろな感情を混ぜたような、実になんとも言い難い顔になって口を開いた。


「……お前、いつか必ずこいつの巻き添えで死ぬことになるぞ。しかも最悪じゃ、お前は死んでもこいつは生き延びる」

「ああ、それは本望だな!」


 今更過ぎる言葉に間髪入れずに言い返してやった。本当なら、俺はあの日(・・・)に死んでたはずだったんだ。そんな俺がこいつの代わりに死ねるなら、死に方としては上等な部類だ。


「……なら、勝手に死ね」


 そのままどれくらいにらみ合いが続いたのか。イルバスは吐き捨てるようにそれだけ言ってきびすを返し、いつの間にか遠巻きにできていた人垣の中へと姿を消した。

 それを見送った途端、知らず大きく息が漏れると同時に肩の力が抜けた。どうやら柄にもなく緊張してたようだ。まったく、自分から喧嘩を売っておきながら情けないな。


「ケレン……急にどうしたんだよ? いつものお前らしくなかったぞ」


 リクスもリクスで大事になることなく終わったことにホッとした様子を見せながら、けれども顔をしかめて問いただしてくる。まあ、らしくないって言う意見には俺も賛成だが、俺にだって譲れないところはあるんだから仕方ない。


「仲間が馬鹿にされたんだ。そうなればいくら温厚な俺だってカチンとくるさ」


 肩をすくめて嘯き混じりに言ってやると、リクスは(ドラゴン)が剣を投げつけられたような顔になった。かと思ったら眉を寄せたひどく疑わしそうな顔で探るように聞いてくる。


「おれ、しょっちゅうお前に馬鹿にされてる気がするんだけど。最近じゃウルにも」

「おいおい失敬だな。いつ俺やウルがお前を馬鹿にした?」

「いや、だってお前、何かあるたびにおれの失敗談を言いふらしたりあることないこと言ってきたり……」

「あれは単にお前の反応がおもしろいからからかってるだけだよ」


 しれっと言い放つと愕然とした様子で大口を開けて目を見開くリクス。そうそう、そう言う素直な反応をしてくれるところがいいんだよ。断言してもいいと思うが、ウルの方も似たようなもんだろう。こいつのあわてふためく様子を眺めるなんとも愉悦混じりの笑みは間違いなく楽しんでる証拠だ。俺にはわかる。


「――あれ、リクスにケレンだ」


 そんなやりとりをしていると、最近じゃずいぶんと聞き慣れた破天荒児の声が聞こえてきてギクリとする。これが噂をすればって奴か?

 慌てて声のした方を振り向けば予想に違わず外套をすっぽり被って目深にフードを降ろした小柄な姿。すぐ隣には鮮烈な赤髪をさらしているシェリアもいる。


「お、おう、ウルにシェリアか。こんなところでどうしたんだ?」

「いや、それボクのセリフなんだけど? 天下の往来で人だかりができてたからなんだろうって思って覗いてみたら二人がいるんだもん」


 俺の問いかけに対して不思議そうに首を傾げながら聞き返してくるウルを見て素早く頭を巡らせる。ここでイルバスとちょっと悶着があったことを知られるとまずい。バレでもしたらこいつのことだ、今からでもちょっと殴り倒しに行ってくるとか言いかねない。

 ただ、何をしてたかとか聞いてくるってことはついさっき来たばかりだ。少なくともイルバスがここを離れてからで間違いない。つまりは当事者の俺らが迂闊なことを言わない限り余計な騒動には発展しないってことだ!


「ああ、実はさっき――」

「ちょっとばかりチンピラに因縁付けられたんだが、なんとか穏便に引き取ってもらえたところなんだよな!」


 今まさに真っ正直に事の次第を口走りそうになったリクスを慌てて遮って適当な話をでっち上げる。主語をぼかしただけであながち間違っちゃいないから早々感づかれないだろう。合わせて相棒に目配せして釘を刺すことも忘れない。さすがの以心伝心で、何か言いたげな目で見返してきはしたものの、リクスは大人しく引き下がった。よし、これで余計な面倒ごとは回避できそうだ。

 そして当のウルはと言うと、さっきとは反対側に首を傾けながら再び尋ねてきた。


「因縁を付けられたって、ちょっとぶつかっただけで骨が折れたとか大げさに騒いで法外な慰謝料請求されるみたいな?」

「お、おう、そんな感じだな」


 話を合わせるために一応頷きはしたものの……なんだよその質の悪い因縁の付け方。そこは普通、謝るのがどうのこうのってところだろ。どういう発想したらそんな因縁の付け方思いつくんだよ。怖いわ。

 相変わらずのどこかぶっ飛んだ思考に内心戦慄している俺を知ってか知らずか、ウルはなにやら訳知り顔で頷いた。


「どこにでもいるんだねーそんな馬鹿。じゃあちょっとそいつの人相とどっち行ったか教えてくれる?」

「いやいや待て待て、教えてどうなるって言うんだよ?」

「え? そいつが言った箇所をちゃんと折って、その上で慰謝料たたきつけてくるだけだけど?」

「そんなことだろうと思ったよ……」


 真顔でそんなことを言い放つ問題児に呆れを通り越して疲労すら覚えた。まだ短い付き合いだが、ウルが本気で言ってるのはわかる。その特殊すぎる種族のせいか、こいつは敵対した相手には微塵も情け容赦がないんだよな。


「……今からわざわざ探すのも面倒だろ? お前が絡まれたわけでもないんだし、せっかく穏便に引き取ってもらったんだからそれで流してやれよ、な?」

「確かに面倒だね。じゃあもしボクの方に絡んできたらそうすることにするよ」

「その時は思う存分やってやれ」


 げんなりしながらも言い諭せば、存外あっさりと引き下がってくれたことに安堵すら覚えた。願わくば、顔も知らないチンピラがウルに変な因縁をつけませんように。不幸な誰かが悲惨な目にあったとしても俺はもう知らん。


「――それで、リクスもケレンも観光? ならせっかくだし一緒にまわろうよ!」

「ああ、いいな。どうせならみんなで行ったほうが楽しいだろうしな。なあケレン!」


 そして一転した様子で無邪気に言ってくるウルと、その提案に嬉々として食いつくリクス。まあこいつの反応は予想通りとして……。

 チラリとシェリアの様子をうかがえば、美人が台無しないつもの仏頂面は心なしか期限が下降して行ってる雰囲気を放っている……気がする。少なくとも朝方ウルに強制連行されていった時よりは下になっているだろう。けれど言い出したのがウルだからか、そこまで本格的に嫌がっているわけじゃない……だろう、多分。そろそろ一年の付き合いになるって言うのに、シェリアの顔色だけはいまいち読み切れない。


「ま、俺に反対する要素はないな。シェリアはいいのか?」

「……構わない」

「じゃあ、決まりだね!」


 そのまま仲間内でわいわいいいながら帝都をぶらつく中、ずっとイルバスのことが頭の片隅に引っかかっていた。いつもそうだが、話しかけてくるのはあいつからだ。俺もリクスも理由はわからずとも嫌われているくらいは察してるから、用もないのにこっちからわざわざ話しかけようとはしていない。明らかに火種になるってわかってて交流を深めたいなんて言う物好きは早々いないだろう。

 なのに、あいつはいつも俺らを――特にリクスを見かければわざわざ寄ってきて忠告じみた嫌味を投げつけていく。それとなく周りの人間からイルバスのことを聞いてみたが、その時の話で受ける印象は一貫してひたむきに自分を磨く真面目な堅物だ。嫌いな相手だからって会うたび嫌味を言うような性格のゆがんだ奴とは正反対で、だからこそそこが引っかかる。むしろ相手が苦手な奴だろうと嫌いな奴だろうと、それなりの態度で接してきそうなものなんだが……。

 そこまで考えて、ふとその可能性に思い至った。敵意剥き出しだったからそうとしか思えなかったわけだが、ひょっとしてあれは忠告じみた嫌味じゃなくて、嫌味に聞こえてしまった忠告なのか?

 思わず立ち止まって振り返ったが、視界に求める姿はなかった。


「ケレン、どうした?」

「……いや、なんでもないさ」


 目聡く俺の様子に気づいたリクスに軽く頭を振って応えた。今は気にしても仕方ない。今度会ったら、一度あいつと一対一で腹を割って話せるようにしてみるか。

 そう心に決めると気分を切り替える。せっかくの機会なんだ。帝都見物を堪能しよう。人が多ければそれだけ可愛い娘に巡り会う可能性も高くなるってもんだ。



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