遭遇
明けましておめでとうございます。今年も是非お付き合いをお願いします。
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「……なんか、思ってたよりも集まらないものなんだね」
「……そうね」
「だな。まあ想定してしかるべきだったかも知れないがよ」
そこそこ広めな通りの真ん中で立ちつくしつつ、手で大会メダルをもてあそびながらなんとなく呟くと、すぐそばでくつろぎ体勢のシェリアとケレンが同意を返してきた。
現在時刻は予選が始まって日もだいぶん傾いてきたころ、制限時間のおおよそ半分が過ぎたんじゃないかってところだけれど、ボクの手元にはまだ三枚分の大会メダルしか集まっていなかった。
いや、始まるまでは五枚なんてすぐだと思っていたんだよ。実際に鐘が鳴ると同時に襲いかかってきた五人パーティを返り討ちにして五枚、次点で近くにいた四人は別のところに行ったみたいだけど、ちょっと移動したら遭遇した三人パーティを倒して三枚の計八枚が手に入った。ちょうど頭数で割れたから、この次点で各自の手元には大会メダルが三枚。一次予選開始早々に折り返し地点になったわけだ。
そこまではびっくりするくらいに順調だったんだけど、それ以降の対戦相手は会う人会う人のことごとくがとっくにメダルを取られた人ばかりになっていた。考えてみればそれも当然で、一次予選突破の条件は半日経った時点で大会メダルを五枚持っていること。だけど、逆に言えば予選が終わるまでは例えゼロ枚になっても他から取り返せるチャンスがあるわけだ。
で、そんな取られた組の人たちが血眼になって大会メダルを得ようと躍起になっている中、『暁の誓い』はメンバー全員が若いせいかおいしい獲物と見られるようで、遭遇する相手は一切の例外なく交戦することになった。当然ことごとく返り討ちにしたけど、相手は大会メダルを持っていないからいくら倒しても手持ちのメダルが増えることはない。
まあでも、それで得るものがなにもないかって言うと、実はそうでもなかったりする。
「リクス、まだ行けそう?」
「……ああ、大丈夫だよ」
ケレンの隣に座り込んでいるリクスに声をかければ、さっきまで肩でしていた息を少しずつ落ち着かせながらのしっかりとした返事があった。
この無駄に思える連戦で得られるもの――その一つがリクスの対人戦の経験だ。
与し易しと見えるのかどうか、理由はともかく戦闘中はリクスに攻撃が集中することが多かった。ボクならうんざりしそうな状況だけど、強くなることに意欲的なリクスにとってはベテランの胸を借りるいい機会に感じられるようで、本人からよっぽどのことがない限り手出しは無用と宣言されていた。
おかげでパーティで一番動き回ることになり、一戦ごとにこうしてちょっとした休憩を挟まなければならないくらいなんだけど、その顔はいつも以上に清々しそうだ。
「本当に、二人には感謝しないといけないな。特訓のおかげかこれまでより相手の動きがよく見えるよ」
「そっか。それならボクも特訓した甲斐があるかな」
疲労の中にも達成感を滲ませる笑顔でお礼を言われ、本当に効果があると思ってなかったから内心で驚きつつも無難に返事をする。
リクスの言う特訓は一次予選開始までの五日間でやった分のことだ。訓練用にその辺で拾った木の棒で斬り結びながら逐一隙や甘い部分を指摘するという意外にちゃんと指導みたいなことをしていたシェリアと違い、ボクは同じ木の棒を使いながらも平常出力で出せる最速でひたすらタコ殴りにしただけである。
攻めるにせよ避けるにせよ防ぐにせよ、相手の動きが見えなければ対処のしようがない。なので『速い動きに慣れておけばいいんじゃないか』と思ったボクは手と言わず脚と言わず頭と言わず、叩けそうなところをひたすら叩きにいった。さすがに威力は加減していたから大怪我にまではならなかったけど、あちこちに痣やらこぶやら傷やらを作っては『治癒』の魔導式で治療を受けてを繰り返していたリクスは若干涙目になっていたように思う。
ぶっちゃけ出典は前の世界の記憶にあるバトルものだったから効果があるかもわからず、しかも結局ろくに防げず避けれずで終わったから失敗したかなーなんて思ってたけど、どうやら本人的にはしっかりと効果があったようだ。最初の二人がかりをしのげたのもそのおかげだ、とのこと。
そっち方面は疎いからシェリアにそれとなく聞いてみたけど、実際動きは段々と良くなっていってるらしい。多少の傷ならケレンやボクが治してしまえるから、あとはしっかり休憩さえ取れれば連戦も大丈夫という素敵仕様なおかげのようだ。
そんなこんなで、リクスにとってはこの上なくいい修行の場になっているみたいだった。良かったね、大会に出場した一番の目的が達成できそうでなによりだ。
そんな風にのんびりしていると、『探査』に捉えていた反応の一つがこっちに近づいてくるのに気づいた。このまままっすぐ来ればちょうどボクたちにかち合うだろう。さっき撃退したパーティはとっくに追い払っているので、もし用があるとしたら疑問の余地なくボクたちにだろう。
「リクス、まだ休憩いりそう?」
「いや、大丈夫だ、もう動けるよ」
そう言ってリクスは立ち上がったけど、客観的に見てだいぶんお疲れ気味だ。動きに精細がないというか……まあ、あれだけぶっ続けで戦ってたら無理もないかな。
「おいおい、フラフラじゃないか。情けないな、リクス。俺を見習えよ」
同じことをケレンも感じたらしく、絶好の機会とばかりに茶化しにかかる。ちなみにパーティ内で一番体力がないはずのケレンがここまでぴんぴんしている理由は単純、離れた所から魔導式で援護しているだけだからだ。基本的にボクがそばにいるおかげでほとんど動かなくていいから体力を消耗しないだけで、決して自慢できる状況じゃなかったりする。
「……そうだよな。ケレンやウルはともかく、シェリアもまだまだ余裕なのにおれだけへばるのは格好がつかないよな」
「……これからいくらでも鍛えられるわ」
しかしながら真面目なケレンは正しい比較対象と比べてスタミナのなさを痛感している様子だ。チラリと視線を向けられたシェリアは軽く肩をすくめて素っ気ない返事を返したけど、ふとなにかに気づいたように視線を飛ばす。その先はちょうどボクが捉えた反応が来る方向。どうやら彼女も気づいたらしい。対象との距離はおおよそ三十ピスカ。確かラキュア族ってなにかしらの感知能力があるみたいなこと聞いていたけど、感知できる範囲はそのくらいのようだ。
「……一人、近づいてくるわ」
シェリアの警告を聞いた二人の動きは素早かった。それぞれに武器を構えて彼女の視線の先へと注目する。何の疑問も挟まずに動くその様子から、二人のシェリアへの信頼度がうかがえるね。
ボクたちが注目する先には、すでに人影が一つ見えていた。なんの障害物もない通りの先から近づいてきたんだ、三十ピスカにも近づけば見えて当然だ。
ただ、本当に一人しかいないことに首を傾げた。この一次予選、パーティ単位で動いた方が有利なのは確かで、事実これまで戦闘になった相手は例外なくパーティだった。
だというのに今近づいてくる相手は完全に一人。『探査』の反応を見ても合わせて隠れながら動いているようなものもないんだから、意外なことこの上ない。
「――やあやあ。君達、メダルはまだ持っているかな?」
しばらくして普通に声が届く程度まで近づいたその人物は、やけに気安く尋ねてきた。見た感じ、二十代後半くらいの男性ヒュメル族だ。細身の長身で整った顔立ちに波打つブロンドヘアーといった、典型的なイケメンである。一般人が着るよりも上等そうな服の上から装飾の凝った軽金属鎧を装備していて、手には細剣、腰には堅短剣と完全にフェンサーっぽい出で立ちだ。ついでに言えばどっちの武器にも魔導器っぽい反応がある。
実ににこやかかつフレンドリーに話しかけては来たけど、内容を聞くまでもなくここにいる時点で一次予選出場者――つまりこの優男はまごうことなき敵である。
「持ってません――って言ったら信じてもらえますか?」
「僕としては信じてあげたい気持ちもあるんだが、状況が状況だからね。嘘をついていないかくらいは確かめさせてもらうことになる」
一度出会い頭にメダルの有無を聞かれて、素直に答えたら問答無用で戦闘になったことから学習したリクスがひとまずはぐらかすように答えると、穏やかな言葉を使いながらも手にした細剣でヒュヒュンと空気を切ってみせる優男。その剣先の速度がけっこう速いことに加えて最後に突きつけるような体勢でピタリと止めて見せたことから、相当扱いに慣れていることをうかがわせてくれる。
「ああすまない、申し遅れたね。僕はこういう者だ」
そして思い出したように言うと、細剣を持った手を微動だにさせないまま反対の手で懐から何かを取りだした。六角の縁取りに個人情報が刻まれたプレートはボクたちも見慣れている臨険士の登録証。どうやらフィリップ・ウェヌスという名前で戦闘方法の欄には舞剣士なんていうのが刻まれていた。
……まあ、優男改めフィリップが示したいのはこの距離じゃかなり目が良くないと読み取れないようなプロフィールじゃなくて、それが刻まれている金属が金色に輝いていることだろう。
ストーンランクを除けば、登録証に使われるプレート部分の材質はランクに対応した物が使われる。つまり金色のプレート付きを持っているってことは、目の前の優男がゴールドランクだってことだ。
「うげぇ……」
それをしっかりと認識したんだろう、ケレンがものすごく嫌そうな顔になってうめいた。リクスなんか顔を引きつらせているし、シェリアもいつも以上に険しい表情になっている。無理もないか、臨険士の中でも実質上から二番目に分類される実力者ってことなんだ。シェリアでもシルバー一歩手前だから明らかに格上。三人がかりでもたぶん勝てないだろう。
そんな中、真っ先に反応を返したのはケレンだった。
「わかりました。無駄に痛い目に合いたくないんで、メダルは大人しく渡しますよ」
そう言うと素早く大会メダルを一枚だけ取り出すと軽く放り投げた。それをフィリップは一度器用に細剣で弾き上げれば、綺麗に反対側の手に収まる。
「悪いね。ここまで守り抜いた一枚だろう?」
「まあ、俺らはカッパーになりたてですからね。正直予選突破は難しいって思ってましたから、むしろ気が楽になりますよ」
まったく悪いとは思っていなさそうなフィリップのセリフに、ケレンは肩をすくめながらそう言ってリクスを促した。
「ほら、リクス。受付でもらった分、ちゃっちゃと渡しちまいな。俺らじゃゴールドランク相手にゃどう転んだって勝ち目はないんだからよ」
「あ、ああ、そうだな。そうした方がいいよな」
応じたリクスも剣を降ろして取り出した一枚のメダルを投げ渡す。へえ、上手いなあケレン。あからさまな脅しを受けてすぐに一枚だけを渡すことで、メダルを持っていることは認めつつも何枚持っているかまで言及されないようにしたわけだ。まさか相手も十代の若者が複数持っているとは思わないだろうし、敵わない相手に対して被害を最小限に抑えられる。リクスも言い回しで見事に察して同じようにするところはさすがは幼馴染みだね。
「君も素直だね。きっと長く臨険士を続けられるよ――ところで、手持ちは本当にこれだけかい?」
が、どうやらフィリップには通用しなかったもよう。
「いやいや、それだけですって。俺らじゃ逃げ回るのに精一杯で、集められる余裕なんて――」
「しばらく前の話なんだがね、たまたま出会ったパーティにまだメダルを持っている相手に心当たりはないか聞いたんだよ。そうしたら彼らはある子供ばかりのパーティが持っていると教えてくれたんだ」
ケレンの言葉を遮ったフィリップは変わらないさわやかな笑みのまま、けれどその視線だけが鋭くなったように感じた。
「どうも彼らも挑んだようだけど、あっさりと返り討ちにあったみたいだね。見たところカッパーランクでもそれなりの腕前は持っているように見えた彼らをかなり一方的に撃退したんだ、似た実力の相手なら結果も同じだろう。なら、その中に一組二組、まだメダルを持っていた相手がいたって考えても不思議じゃないと思わないかい?」
うわぁ、完全に読まれてるね。これはケレンの咄嗟の機転よりもフィリップの洞察力に軍配が上がった形かな? さすがのケレンも苦虫を噛み潰したような顔をしているよ。今回は相手に『もっと持ってるんじゃないか?』って疑われた時点でアウトだしね。もうフィリップが納得いくまで確かめられる未来しかない。
――まあ、そんな話はおいといて。
「ねえねえ、そう言うフィリップは何枚持ってるの?」
高まる緊張もなんのその、空気を読まずに割って入ればフィリップの視線がボクの方に向く。
「……名乗った覚えはないんだが、それともどこかで会ったかな?」
「安心して、初対面だよ。名前は登録証に書いてあったからね」
「へえ、この距離で読み取れたのかい?」
「目がいいのは自慢の一つなんだ。それで、フィリップは何枚メダルを持ってるの?」
感心した様子のフィリップに重ねて問いかければ、少し考えるような顔になったかと思うとすぐに笑顔に戻って応じてくれた。
「思ったよりメダル持ちの出場者に会えなくてね。これまでで二十八枚、今渡してくれた物を合わせてやっと三十枚なんだよ」
予想以上に持ってたよこの人! 六回一次予選を突破できる量を集めてまだ物足りないって雰囲気をかもし出してるってことは――
「五十枚集めて二次予選免除でも狙ってるの?」
「その通りだよ。恥ずかしながら、乱戦というのが少々苦手でね」
やっぱりか。本気で狙ってる人いたんだ、あの特別ルール。正直シャレか何かで設定したんじゃないかって思ってたよ。
……でも、よく考えてみたらあのムリゲーかと思えたルールも限られた人なら難しい話でもないのかもしれないね。
なにせ大抵の出場者はパーティ単位で行動してるはずだ。それをたった一人で倒せる実力があるなら、一度に三枚四枚とメダルが手に入れられる。四人のパーティなら五十回前後戦わないといけないところを四分の一で済ませられるんだから、そうなれば一気に実現可能に思えるようになる。
つまりはこのルール、一部の強者に有象無象をふるいにかけてもらうことを期待しているわけだ。例えばロヴとかフィリップとかロヴとかロヴとか。
ほぼ間違いなくこの街のどこかで無双しているごわ髭傷だらけの顔が脳裏に浮かんだ。こっちに来てからはまだ見かけてすらいないけど、参加するって言ってたから必ずいるはずだ。あれだけ堂々と宣戦布告を受け取ったのに出場できてなかったら指さして笑ってやろう。
まあでも、フィリップがたくさんメダルを持ってるならなおさら都合はいい。
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