表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
四章 機神と大会
85/197

予選

「と言うことで、四人分登録お願い!」

「はい、承りました。手続きを行いますので、登録証(メモリタグ)の提示をお願いします。参加費用はお一人様五万トロンになります」


 とりあえず申告すれば、ここまで文句もいわずに待っていてくれたプロフェッショナルな受付嬢の人がすかさず手続きを始めてくれた。ちなみにトロンはグラフト帝国の通貨単位で、一トロンが一エキュー、百トロンが一ルミルとものすごくわかりやすいレートをしているみたいだ。完全に一対一になっている通貨価値といい、両替することなくルミルで支払いができたことといい、王国と帝国の対等かつ良好な関係がうかがい知れるね。ちなみに、ルミルみたいな上の単位はないらしい。

 それから手続きが終わるまでの間、出場登録をする間に初出場の人向けに大会の説明をしてくれるとのことだった。ケレンも詳しいルールとかは聞いてなかったみたいだからありがたく説明を受けることにした。

 まず、このグラフト帝国主催の武闘大会、正式名称は『グラフト大武闘大会』というらしい。ブレスファク王国のイベントごとと違ってなんのひねりもないストレートなネーミングは笑うところなのかもしれない。武芸大好きなお国柄のようだから、わかりやすければそれでいいってことなんだろう、たぶん。

 大会の区分は大まかに分けて一次予選、二次予選、本戦の三つ。毎年軽く五千人を超える参加者が集まるからこうやって数を絞っていくんだそうだ。

 まず一次予選。これがなんとグランディアの街を舞台にした市街地遭遇戦方式らしい。参加者は各自一つずつ特性のメダルを渡され、それを一人五枚以上集めることで次に進めるとのこと。ルール自体はなんでもありで、積極的な殺害や建物の破壊は禁止されているものの事故や流れ弾は許容範囲。だからたいていは仲間たちとパーティを組んでメダルを集めるようだ。パーティだと有利だってケレンが言ってたのはそういうことらしい。

 そして二次予選はいくつかのブロックに別れてのバトルロワイヤル。基本的に同パーティは分散して割り振られるらしく、対集団戦技能や立ち回りなんかが必要とされるとのこと。

 そして本戦が出場者による一対一の完全トーナメント形式。ここまで勝ち残ってきた猛者達が繰り広げる真剣勝負で、大会一番の見所だそうだ。

 ちなみに大会の間中、ラウェーナ神霊教会に所属する高位の神官がたくさん詰めているから死なない限りは傷を癒してもらえるようだ。この世界の神様は実在する上に、祈れば守護や癒しなんかに限定してだけど本当に奇跡を起こしてくれるから、まさに至れり尽くせりな状況だ。まあ機工の身体なボクがお世話になることは確実にないだろうけど。


「――では、出場手続きは完了いたしました。こちらがそれぞれの登録番号になりますので、当日の受付時にお名前と一緒に申告してください。一次予選の開催は五日後となりますので、それまでにしっかりと準備を整えておくことをおすすめします」


 その他にも一通りの説明を受けたところで登録証(メモリタグ)を返してもらい、登録番号なる数字の書かれた紙を受け取ったボクたちは、そのまま組合(ギルド)を出て宿泊施設へを目指した。


「開催までけっこう時間があるんだね。その間どうする? 観光でもする?」

「……ウル、シェリア、お願いがあるんだ。当日まででいい、おれに稽古を付けてくれないか?」


 その道中で開催日までどうするか聞いてみると、なにやらリクスが決意を滲ませる目つきでそう言ってきた。


「武闘大会に出るからには、おれもできるだけ上を目指したい。でも、自分の実力がそれほど大したことはないっていうのもわかってる。たった五日の付け焼き刃ですぐに強くなれるわけがないことも。――それでも、おれは少しでも君達に追いつきたいんだ」


 ……初めて会った時からずっと思ってたけど、リクスってなんでこんなに真っ直ぐなんだろう。そんな顔でそんなお願いをそんな言葉で言われたら、どうあっても手伝ってあげたくなっちゃうじゃないか。


「……先に言っておくけど、ボクは戦闘は得意でも人に教えられるようなものは持ってないよ。それでもいいの?」

「ああ、構わない」

「そっか、それなら喜んで! シェリアはどうする?」


 快く引き受けてから同じことを頼まれたもう一人に尋ねれば、シェリアはボクとリクスを見比べるようにした後でポツリと答えた。


「……合間にウルがわたしの相手もしてくれるなら、やってもいいわ」

「あ、ボクともやってくれるの? それならむしろボクからお願いしたいところだったんだ!」

「そう」


 意外だけどむしろ望むところな条件付きだったので即行で頷いた。リクスに稽古を付ける以外にもボクと戦いたいなんて、やっぱりシェリアは戦闘大好きだったりするのかな?


「あ、ありがとう二人とも!」

「よかったな、リクス。『応急』の準備はバッチリしておいてやるから、安心してボコられてこい」

「え? いや、さすがに魔導式(マギス)が必要になることなんてないんじゃ――」

「あっれー? 短期間で少しでも強くなりたいっていうのに、リクスったら痛い目なんか合わずにすむなんて思ってるのー?」


 意地の悪い笑みを浮かべて肩を叩いたケレンに対してリクスが何か言うのを遮り、にっこりと笑顔を浮かべてズイと詰め寄る。そうするとリクスの表情が変な形に引きつった。


「い、いや……でもほら、武闘大会もあるし、後に響くような怪我とかをしたら出場することもままならなくなるかもしれないから――」

「大丈夫だよ」


 慌てた様子で弁解し出すリクスに、特大の笑みを向けながら断言した。


「治癒系の術式はボクもしっかり押さえているよ。最悪でも骨折くらいなら半日あれば治るはずだし、安心してね?」


 直後、天下の往来にリクスの悲鳴とケレンの爆笑が響き渡った。




 リクスやシェリアと特訓をしつつ、空いた時間でちょこちょこグランディアを観光しなが過ごすこと五日。今日は待ちに待った武闘大会一次予選の日だ。


「――確認しました。では、こちらが大会メダルです。健闘を祈ります」

「ありがとう!」


 組合(ギルド)の北支部前にできている長蛇の列――厳密に言うと城壁にある門から伸びている大会参加者の列に並んでしばらく。やっと順番が回ってきたボクは臨時に設置されたらしい大会受付で名前と登録番号を告げて、確認が取れたところで一次予選参加に必要な大会メダルを受け取った。手の平一杯サイズのメダルは銅製のようで、片面には剣や槍、斧に弓、籠手や杖などなど、思いつく限りの武器が放射状に所狭しと並べられているような、ある意味らしい図案だ。裏返してみると、立派なお城を背景に雄々しく翼を広げる(ドラゴン)が描かれていた。これ、駅や街中でもちらほら見たことあるや。帝国の紋章か何かかな? 毎年大会のたびに製造されてるそうだけど、描かれている武器の細部にまで拘りが見えたりこれまで見かけた紋章なんかよりもずっと精緻だったりと、なんとなくだけどグラフト帝国の武闘大会へ向ける溢れんばかりの熱意を感じる。

 ちなみにこれ、五個で二次予選への出場権と交換してもらえる他、一次予選が終わった後で一個一万トロンで大会運営が引き取ってくれるらしい。参加費用が五万トロンだから、十一個集めたら二次予選に出場できて、かつ黒字になる計算だ。ついでに言うと五十枚集めれば二次予選をすっ飛ばして本戦に出場できるらしい。グラフト帝国は出場者を全力でふるいにかける気満々である。

 なお、どう頑張っても運営側が黒字になるところは前の世界の記憶にある宝くじを彷彿とさせるシステムだ。上手くできてるもんだね。


「……いよいよなんだな」

「まあ、俺らくらいじゃ予選突破ができれば大金星だ。新調した武器の慣らしが目的だと思って、そんなに気張らず気楽に行こうぜ?」


 隣の受付で同じようにメダルを受け取ったリクスが緊張をはらんだ声で呟いたけど、直後にいつも通りの気楽な調子で幼馴染みの肩を叩くケレン。シェリアは相変わらず口数が少ないけど、外から見た感じじゃ特に緊張しているようには見えない。

 ひとまず全員が無事にメダルを受け取れたようなので、同じように受付を終えた出場者の流れに従って門をくぐった。

 実はこの門、グランディアの外から来た人だと十日以上の滞在証明書なるものが必要だそうで、ここから先に入るのは全員初めてだったりする。なんでもこの城壁――『第二外壁』から先は完全に帝都市民のためのもので、理由を尋ねた門衛の人いわく、治安維持その他諸々の観点から執られている処置だそうだ。

 帝都グランディアは皇城を中心にしてほぼ完璧な同心円状に広がっていて、その間をぐるりと囲う大きな三つの壁で区切られている。中心にある皇城と周辺を囲うのがそのまんま『皇城壁』で、この中にだいたい重要施設が集中しているらしい。

 そこから次の『第一外壁』までの間がいわゆる高級住宅街、さらにそこから外側の『第二外壁』までが一般的な市街地。ここまでが帝都市民のための街で、グランディアのほとんどを占めている。帝国の上層部が揃って『力ある者は力なき者を守るべし』という武人気質なために帝都市民は手厚く庇護されていて、常に帝国の騎士団が巡回しているおかげで犯罪発生率の低さは大陸でもトップクラスとのこと。

 そして第二外壁よりも少しだけ外側に広がっている辺りに帝都の外から来た人向けの施設が集中する形式になっているそうだ。当然のように宿屋や臨険士(フェイサー)組合(ギルド)、ボクたちが泊まっている宿泊施設の他にも魔導列車の駅なんかがある。門衛の人によれば第二外壁の外だと騎士団の監視がかなり緩いおかげで治安は並だけど、その分自由で雑然としているらしい。なるほど、市民を保護しつつ、外から来る人には堅苦しさを感じさせないようにするために中と外できっちり区分けしているわけか。たぶん、滞在証明とかも『外でちゃんとお行儀良くしてましたよ』ってことを調べるためなんだろうな。

 で、そんな感じで本来はまだ越えられないはずの第二外壁をなんで今ボクたちがくぐったかというと、今回の一次予選の舞台になるのがなんと第一外壁から第二外壁の間にある一般市街だからだ。一応街の各所に帝都の騎士団の人たちが監視よろしく立っているのが見えるけど、それでいいのかグラフト帝国。

 帝都市民の安全を全力で放り投げる運営方針はともかくとして、街の地図を見る限りじゃグランディアの半分近くという広大なフィールドに散らばってのメダル争奪戦。受付自体は朝も早くから行っているけど、予選の開始自体は開会式が終わって正午の鐘が鳴ってから。それまでに好きなところに陣取るようにってことらしい。

 これはルールを聞いたケレンと立てた予測だけど、一種の入場ゲートになっている第二外壁の門――東西南北に四つあるみたいだけど、そこを中心として出場者が散開していくものと思われる。あんまり過密地域にいれば連戦に次ぐ連戦ですぐさまバテるだろうけど、かといって過疎っている場所にいれば予選終了まで誰にも遭遇できないという悲しい状況になりそうだ。二次予選に行きたければ適度な辺りを見極めることが重要になってきそうだね。


「――で、あの人達はなんだろう?」


 言いながらボクが見やったのは、現在進んでいる門から伸びる大通りの両端。そこに立ち並ぶ外壁の外と変わらない四角い建物の屋上にひしめき合っている人たちだ。老若男女様々な人がいるけれど、ほとんどの人が薄手で通気性の良さそうなゆったり目の服という、この街で暮らしている人によく見かける格好をしている。ということは、普段ここで暮らしている帝都市民のみなさんかな? 


「あれじゃないか、組合(ギルド)で説明聞いた時に言ってた観客ってやつ」

「やっぱりケレンもそう思う?」


 明らかに双眼鏡って感じの道具を持ってる人が何人もいるからそうじゃないかとは思ってたけどねー。通りに沿って押し合いへし合いしている様子は、前の世界の記憶にあるマラソンや駅伝の沿道で応援する人たちがいる風景と重なるものがある。

 通り過ぎる時に建物の間を見たら頑丈そうな板が屋上に渡してあって立派な通路になってたし、文字通り高みの見物ができる体勢が万端だ。遠目には大通りを跨ぐような、もはや橋としか言いようのない通路まで設置されている始末。まさかこのために同じ高さな屋上付きの建物でそろえてるわけじゃないよね、帝都を造った人?

 ……そういえば帝都の外からも武闘大会を見に来る人がいるんだよね? 市民のみなさんは元から舞台の中にいるからいいとして、他の見物客の人たちはどうするんだろう?

 そう思って今通り過ぎたばかりの街門を振り返ってみれば、すぐに答えがわかった。

 全開放されている門の中央は大会参加者とその受付が陣取ってごった返してるんだけど、両端の空いている部分から受付なしで中に入ってくる人たちが見えた。そしてそんな人達を、街門付近に待機している騎士の人がすぐに近くの建物に案内している。どうやらそこから屋上観戦席に通じているようだ。ここまで見る限りじゃ屋上づたいに市街のあちこちに行けるようになってそうだし、後は参加者と同じように好きなところで観戦ができそうだ。


「観客への故意的な攻撃は失格を通り越して即捕縛ものだって聞いてるけど、流れ弾はあるかも知れないのによくやるよね」

「それくらいは覚悟の上で見たいんだろ? 実際問題、殺しは禁止とはいえ戦うことを生業にしてる連中の真剣勝負なんて、一般人なら早々お目にかかれないからな。帝国自体が強い奴大好きなお国柄だし、こんなまたとない娯楽を逃したくないんだろうよ」


 ボクの素朴な疑問にケレンが的確な考察を披露してくれた。なんというか……脳筋国家ここに極まれり?

 まあ実際に建物は全部二階建て以上だし、近接主体の地上戦じゃよっぽどのノーカンでもない限り遠距離攻撃が飛んでいくことは少ないだろう。通路になってる橋なんかに命中したら大惨事かも知れないけど、それは観客のみなさんもわかっているのか全員が頑丈な建物の上に陣取っている。

 この状況だと参加者が積極的に狙おうとしない限り危険は少なそうだし、万が一そんな不心得者がいたら街のあちこちに立っている騎士の人たちがすぐに取り押さえるだろう。審判代わりの騎士の人たちへの攻撃は当然、建物への積極的な攻撃も厳禁だし、ボクたちが気にする必要はなさそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ