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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
四章 機神と大会
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鉄道

 ※2018.8/8:時間単位の変更・修正

 翌日のお昼前、旅支度を終えたボクたち『暁の誓い』は帝都を目指して出発した。と言ってもまず目指すのは街の外じゃなくて北側にある施設だけど。


「――おおー、やっぱりレイベアの駅ってでっかいね」


 目の前にある大きな建造物を見上げながら感嘆の声を漏らした。けっこうな数の人がひっきりなしに出入りしているそれは、高さは普通の建物の三階か四階分、敷地面積だけ見れば公爵家の庭を含めたお屋敷の数倍。装飾のたぐいは少ないようだけど、逆にその無骨な雰囲気が似合っていて個人的にグッドだ。一応観光で見に来たことはあるけど、列車に乗るわけでもないから遠目に見ただけだったんだよね。

 そう、ボクたちは魔導列車に乗るためにここへやってきたのだ! 聞けばなんと、レイベアと帝都を直接結ぶ路線があるらしい。互いの国の友好関係を象徴するために敷設された、通称『盟約路線(オースライン)』。元々はお偉いさんが行き来するのが楽になるようにって敷かれたとのことだけど、それだけだと採算が合わないから料金割り増しながらも一般利用が可能だそうだ。いいね、列車旅。ちょっとファンタジーからは外れるけど、それもまた良し!


「――で、どうやって乗るの?」

「いや、おれに聞かないでくれ、魔導列車に乗るのは初めてなんだよ」


 振り返って素朴な疑問を投げかけてみると、困惑顔のリクスが返事をした。どうもブロンズランク以下なら魔導列車に乗らなければならないような遠隔地の依頼はないらしい。まあ、一人前に満たない臨険士(フェイサー)じゃそれも当然か。ついでに言うと料金も乗合馬車なんかに比べれば桁が違うから、金欠にあえぐ低ランク臨険士(フェイサー)が利用する機会は皆無とのこと。そっか、こっちの世界だとまだ鉄道の方がお高いのか。


「へっ、まあ任せておけって! 下調べは昨日のうちにバッチリだからな!」


 代わって自信満々に一歩を踏み出したのは我らがパーティの頭脳担当、ケレン。彼は迷う様子もなく正面に見えるアーチ状の大きな入り口に向かう。その自信ありげな様子を見て一瞬リクスと顔を見合わせると、三人揃って素直に後を追った。


「シェリアは魔導列車に乗ったことある?」

「ないわね」


 一応確認してみれば素っ気なく返ってくる応え。うん、まあ予想はしてたよ。つまりはここにいる全員が乗車素人、頼みの綱はケレンが仕入れたって言う事前情報のみ。つまり『暁の誓い』の旅立ちが順調なものになるかはケレンにかかっている!

 ……なんて大げさなことを考えていたけど大きいとはいえ公共施設で大した冒険があるはずもなく、あっさりと乗車券販売口まで辿り着いた。それなりに人がいるおかげでできている列の一つに並びながら、ケレンからこの世界の鉄道利用法を聞く。

 それによれば料金は基本的に一駅いくらと決まっていて、その分を購入した証明として乗車券が渡されるらしい。それを目的地までの駅の数分購入して、駅を出発ごとに一枚を消費って形なんだとか。

 で、普通の国内線ならそれでいいんだけど、盟約路線(オースライン)は途中に補給所みたいな所に寄りはするもののレイベアと帝都それぞれにしか駅がないため、一種のプレミアムチケットになっているんだとか。まさに専用線って感じだね。まあ直通って言うのに途中で何度も止まってたら形無しだろうし。

 さらにさらに、座席は一般席、個室席、客室席にランク分けされていて、乗車券も順にお高くなっていくらしい。ちなみに一般席はずらっと並んだ長いすに早い者勝ちで座る形式で前の世界の記憶にある電車やバスとほぼ同じ、個室席は文字通り少し余裕のあるコンパートメントってタイプ、客室席はホテル並の設備を整えた部屋を貸し切りにできる、いわゆるファーストクラスだそうだ。それぞれの車両は対応する乗車券以上を持っていないと行き来できない仕組みらしい。


「――じゃあ個室席にしよう!」

「いや、ウル、さすがにそれはおれ達の財布が厳しい――」

「あ、それは全部ボクが払うから心配しないで」


 何てったって、今回の遠出はボクのわがままみたいなものだしね。しかも前回の報酬、それぞれ装備を新調したみんなと違って更新の必要がないボクはまるまる残ってるから財布は暖かい――と言うか溢れそう。

 ボクの現在の所持金は一万二千とんで七十二ルミル。その全部が硬貨であまり両替とかもできてないからそれなりの重量になってて、ボクが持つ分には問題ないけどそのうち巾着が重さに耐えかねて破れそうだ。だからこういう時にちょっとでも軽くしておきたいというなんとも贅沢な事情もあったりする。まさか自分がこんなブルジョワな問題を抱えることになるとは思ってもみなかったけど、これ、超高額の報酬になる高ランクの臨険士(フェイサー)の人ってどうしてるんだろう? 今度ロヴに聞いてみよう。

 ちなみに、ケレンは前回の報酬が入った時点でボクに借金を返している。やっぱり緊急依頼の報酬が大きかったみたいだ。


「その申し出はありがたいけど、おれ達なら一般席で十分だよ。そっちならなんとか買える料金だし」

「せっかくの列車旅行なんだから、パーティ水入らずで行きたいんだ。そんなわがままに付き合ってもらうんだから、ボクがお金を出すのは当然でしょ?」


 特別線なので普通の魔導列車以上にスピードを出せるけど、今日の昼に出発して車内で一泊、明日の昼に帝都到着の予定だそうだ。そういう行程なら個室になってる席で気楽に過ごしたい。シェリアも見ず知らずの人と一緒にならざるを得ない一般席よりは楽だろうしね。


「だからってウルに全額払ってもらうのは――」

「まあまあリクス、ここは素直に甘えとこうぜ? 旅は快適なのに越したことはないんだからよ」


 渋い顔をしているリクスの肩を叩きながら訳知り顔でそう提案するケレン。うん、やっぱりケレンってこういう時にほとんど遠慮しないよね。そういう風にもらえるものはもらうって姿勢、嫌いじゃないよ。


「でもケレン、パーティの仲間なのにおれ達はウルが頼ってばかりっていうのは――」

「思い出せ、リクス。こいつこんなナリだがジェムドルビーだぜ? しかも生粋の戦闘民族と来れば実力が違うのは当然だし、稼ぎも違ってくる。遠からずこうなることはわかってただろ?」

「そうかもしれないけど……」

「だから、それ以外で力になればいいんだよ。互いの不足を補い合うのが仲間だろ? 実際こいつは戦闘とコネと所持金以外じゃまんま素人なんだから、俺らが手助けする余地は十分にあると思うぜ?」

「……そう、だな。わかったよ。ウル、いつもすまない。今回も甘えさせてもらうけど、何か力になれることがあればいつでも遠慮なく言ってくれ」


 ケレンの説得が功をそうしたらしく、ボクが料金を持つことを承諾したリクス。しかもこのくらいのことでなにやら決意したような目で真っ直ぐにボクのことを見返してくる。ホント真面目だよね、ケレンとは正反対だ。でもそこがいい! あとケレン、マキナ族は戦うために生まれたけど、敵を見かけた瞬間「ヒャッハー!」って襲いかかるようなことはしないよ? そこだけは間違えないでね。


「わかったよ。シェリアもそれでいいかな?」

「わたしは個室席の料金くらい出せるけど……そうね、せっかくだからお願い。その代わり、向こうに着いたら何か奢るわ」

「ん? 別に奢ってもらう必要もないよ?」

「わたしの気持ちの問題よ。少しくらいは何か返させなさい」

「そういうことなら喜んで」


 シェリアはシェリアで割り切りと切り替えが早いよね。なんとなく友達っぽいやりとりみたく思えるのはボクだけかな?

 そうこうしているうちに順番が回ってきて、窓口のお姉さんから個室席四人分の乗車券を購入した。越境料金も含まれているとかで、お値段合わせて四千ルミル。まとめて出したからけっこうとんでったように思えるけど、一人当たり千ルミルだからちょうどヴィントへのおひねり二回分くらいだ。……そういえばポンと出して呆れられてたっけ? うん、気にしないでおこう。

 とにかく乗車券も手に入れたしと窓口から離れた。その途中でなんとはなしに並ぶ人の列を眺めてみたんだけど、臨険士(フェイサー)組合(ギルド)で見かけた覚えのある顔がけっこう混ざっていた。ボクたちと同じように武闘大会に出場するためなのか、それともどこか遠方の依頼を受けたからなのかはわからないけど、臨険士(フェイサー)の魔導列車利用率は案外高いみたいだ。


「……あ」


 そんな中でものすごく見覚えのある一行を確認。刈り込んだ茶髪に両手剣(ツーハンドソード)を背負うがっしりした体つきは間違いなくイルバス。まわりにいるのも前回の護衛依頼で一緒になったパーティ『轟く咆吼』のメンバーたちだ。向こうはこっちに気づいていないようでなにやらおしゃべりしているようだけど、優秀なマキナイヤーは『グラフトの武闘大会』って単語をきっちり拾ってくれた。

 ……あいつらも来るのかー。いや、イルバス以外のメンバーは普通にいい人たちだったよ? 全員が男だからかお互いに気安い感じでやりとりしてる仲のいいパーティだと思うけど、リーダーのイルバスがあれじゃあねー。

 ここにいるってことは今日の便に乗るんだろうけど、向こうも一般的なカッパーランクになりたてだし、買うとしても一般席だろう。ここは早々に魔導列車に乗り込んで面倒ごとは回避が吉だね。

 そんなわけで一応は知り合いのパーティをスルーして乗り場に向かう。特別線である盟約路線(オースライン)はプラットホームも特別らしく、他の国内線とは離れた場所に設置してあった。ホームからして乗車専用と降車専用に別れてるみたいで、同然のことながらボクたちは乗車用のホームに入る。


「おおー、これが魔導列車! 格好いい!」


 まず目に入ったのが、目の前にデデンと鎮座まします機工の巨体。発車予定時刻から三十分ほど早いけど、もうすでにスタンバっていらっしゃる。ホームからの高さだけでも三ピスカはあるね。先頭から最後尾までは目測で二百ピスカに足りないくらいかな? カラクリからレイベアに来る途中で見かけた魔導列車よりも明らかに一回りほど大きい。

 一番先頭の車両は、前の世界の記憶にある新幹線に近いかな? 車両の前方高い位置に運転席らしき場所があって、その下にスカートまで一体化したなだらかな曲面が続いている。特筆するべき点は、なかなかにメカメカしい外観には運転席以外の窓が一切見あたらないこと。たぶんSLみたいに一両まるまる機関車両なんだろうな。後続の客車に繋がる出入り口もないみたいだし、運転席への乗り込みも完全に別だと見える。

 その後ろには客車が連結されている。ただし、縦に二列並んでいる窓の配置からして基本的に二階建て車両(ダブルデッカー)らしい。連結している七両の内前三両は窓の横の間隔が狭く、四、五両目は少し開いて、後ろ二両は一つ一つが大きく枠取られているのがわかる。たぶんだけど、前から一般席車両、個室席車両、客室席車両ってなってるんだろう。

 車両に合わせたホームも普通に徒競走ができそうな直線だけど、途中で三箇所ほど柵で区切ってある。ちょうど先頭車両や窓の間隔が変わる客車との境目にあることから察するに、この時点から乗車券に合わせて乗降口を区切っているんだろう。今もそれぞれの車両の入り口には係員らしき人が立っていて、乗り込もうとする人の乗車券を確認しているのが見える。


「なんて言うか……すごいな」

「やっぱエレンハウル系の魔導列車はすげーな! 間近で見ると迫力が段違いだぜ!」


 その迫力に息を呑むリクスと、語り部の吟遊を聞いている時の幼馴染みみたいに目を輝かせているケレン。というか、ケレンがこんな純粋な子供みたいに憧れの表情になるなんて珍しいね。なんか専門用語っぽいのまで口走ってるし、これはなかなかの好き者と見た! うん、その気持ちはすごくよくわかるよ!


「……乗るならさっさと乗りましょう」


 そんな仲間を後目に淡々と促すシェリア。どうやらこの立派なメカを前にしても特に感慨を覚えたりはしていないみたいだ。これはたぶん感性の問題だね。れっきとした女の子のシェリアにはこの感動がわからなくても仕方ない。うん、仕方ないことなんだ。

 そんな素っ気ないシェリアの言う通りに客車に向かう。乗車券を確認する時に係員の人に聞いたけど、予想通り前から順番に一般、個室、客室車両になっているとのこと。それぞれの乗車券に日付入りのスタンプを押してもらってから客車に乗り込んだ。


「一階と二階、どっちにする?」

「そりゃ二階だろう!」

「だよね!」


 ケレンとの合意を経て意気揚々と二階席を確保すべく行動開始! 短い階段を上れば正面に通路を真ん中にして両側にズラリと小部屋が並んでいて、それぞれがスライド式の扉で簡単に隔離できるようになっているのが見えた。

 やっぱり二階の方が人気があるのか小部屋のほとんどが埋まっていたけど、なんとか一室の確保に成功! 三人がゆったり並べるくらいの座席が窓を挟んで向かい合っていて、その上には人が余裕で寝ころべそうな荷物置きらしき棚がある。窓を覗けばたくさんの人が行き交うプラットホームの様子が、二階建ての建物から見下ろすのとほとんど同じくらいの風景として映し出されていた。


「いい眺めだね――ん、あれって?」


 ちゃっかり窓際の席に陣取りながら景色を堪能しているとそれに気づいた。広々としたホームを挟んで列車とは反対側――つまり入り口側にズラリと並んでいるのは、どこからどう見てもお店だった。食堂らしきものは当然として、なにやら様々な雑貨が置いてあったり弁当形式にして食べ物を売っていたりと、かなりの数の店舗が軒を連ねている。

 これはあれだ、前の世界の記憶にもある、大きな駅とかでよくある売店街とまったく同じ風景だ。魔導列車のインパクトが強くて気づかなかったけど、たぶん土産物屋とかそのまんま弁当屋とかなんだろうな。と言うかこの世界にもあるんだ、駅弁。


「買い物できたんだ。うわ、失敗したなー」

「なんだ? 何か必要な物でもあったのか?」


 思わず漏れたボクの呟きに、正面の窓際席をしっかりと確保して荷物を棚に上げていたケレンが拾って聞いてきた。


「ほらあれ、お弁当売ってるんでしょ? ああいうのがあるってわかってたらちゃんと買いに行ってたのに……」

「いやいらないだろ。携行食はしっかり用意してきてるんだし、それ食えばいいだろ」

「えー、携行食―?」


 物の限られる野営ならそんな文句は言わないけど、目の前でおいしいものが売ってるんだからそっちを食べたいって思うのが人情じゃないか。


「ウル、君って基本的に食べなくてもいいんだよな?」

「しっかり三食食べることは人の文化的な生活の基本だよ、リクス」


 ケレンの隣に腰を落ち着けながら若干呆れた風に行ってくるリクスにはしっかり反論しておく。世の中には必要はなくても欠かすべからずってことがたくさんあるんだぞ。何よりボクが『食事』をしたい。


「……別に、降りても大丈夫そうよ」


 そんな時、ボクの隣に座ってじっと外を眺めていたシェリアがポツリと言った。


「どういうこと、シェリア?」

「何人か列車の方から駅の店に向かってるわ」


 言われてボクも人の動きを見てみると、確かに客車から降りたとしか思えない人が見せに向かうのがちらほら見受けられた。


「ホントだ。乗車券があれば発車まで乗り降り自由なのかな?」

「そうなんじゃないかしら」

「やったね! そういうことならちょっと行ってくる! あ、みんなの分も何か買ってこようか?」

「付き合うわ」

「あ、じゃあおれも行くよ。ケレンはどうする?」

「席取りと荷物番がいるだろ。俺が残るから行ってこい。あ、もうついでだから俺の分も弁当適当に頼むわ。代金は後で出す」


 そんな感じでケレンを留守番に、三人で連れ立って個室を出る。念のため係員の人に聞いたら乗車券を見せれば大丈夫だとのことだったので、安心して駅弁を買いに行けた。

 ……ちなみに、出発してしばらくしてから車内販売が始まった。よくよく考えなくても丸一日列車に乗ったままなら当然そういうのがあるよね。わざわざ駅弁を買う必要はなかったみたいだけど、若干割高だったから良しとしよう。


 前回、前々回のアクセス数が一週間を通してなかなかのものに。これが挿絵効果か……。

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