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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
四章 機神と大会
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予定

 連載していることを聞きつけた友人が素敵なイラストを恵んでくれました! この回の後書きに載せておきますので、是非見ていってください。

「リクス! ボクその武闘大会に参加したい!」

「え、ウルは参加したらまずいんじゃないか?」


 仮にもパーティを組んでいるのだからとリーダーに意思表示をしてみると、なぜかものすごく意外そうな顔で即却下された。解せぬ。


「どうして!?」

「いや、だってほら、ウルはその……種族のこととかあるんだろ?」


 ボクが抗議の声を上げると、奥歯に何かが挟まったような物言いをするリクス。ああ、ボクの身体の秘密のことか。いやでも、この前あれだけ暴れたんだからもういいんじゃないかって思えてきた。見た目だけじゃ中身まで機工製なんてわからないくらい精巧な造りなのは知ってるし、武装がすごいってことにしてしまえばなんの問題もないよね。


「――いくら武闘大会だからって、この前みたいな武器を使ってたら死人が出るだろう?」

「あ、そっちの心配?」


 どうやらリクスはボクが『全力』状態で挑むつもりだと思っていたらしい。いや、さすがにやらないよ? プラチナランクのロヴにも『本気』状態でなんとかやり合えたんだから過剰戦力になるのは目に見えてるし、そもそも本格的に『兵器』として戦う出力で人間に勝ったってなんのおもしろみもないじゃん。


「そっか、リクスにはボクがそんなに進んで人死に出すように見えるんだー……」

「え……あ、いや、そんなつもりで言った訳じゃ――」

「おいおいリクス、見損なったぜ? 仮にもパーティ仲間を殺人鬼みたいに言うとか、さすがにないと思うぜ?」


 がっくりと肩を落としてあからさまに悲しげな雰囲気をかもし出せばてきめんにうろたえ出すリクスと、そんな幼馴染みにニヤニヤと意地悪げな笑みを浮かべて絡んでいくケレン。


「ほれ見ろ、あのウルの傷ついた姿。まだ十五になりたてのガキだぜ? お前の心ない一言がどれだけ心を抉ったのか、俺にも計れないな」

「ご、ごめんウル!」

「……うっ、ぐすっ」


 堪えきれなかったように鼻をすするとますます慌てた様子のリクス。


「本当に悪かった! おれにそんなつもりは全然なかったんだ! ただちょっと、ウルの活躍を思い出したらやりすぎるんじゃないかって少し心配になっただけで――」

「おいリクス、お前は慰めのつもりなんだろうがそれ墓穴掘ってるだけだぞ?」


 だいぶんテンパっているらしく、ボロボロと本音を漏らすリクスに対してケレンが呆れたように突っ込みを入れる。


「やっぱりボクのこと、信用してないんだ、ううっ……」


 ボソリと呟きながら袖で目元をぬぐって見せれば、リクスの焦りはますます加速する。


「ああっ、おれの馬鹿! ごめんウル! この通り、なんでもするから許してくれ!」


 おっと、予想より早くキーワードが出てきたぞ。


「……今、何でもするって言った?」

「言った! 言ったから頼む、許してくれ!」


 聞き返せばしっかりと返ってくる言葉。よし、言質取ったよ!


「じゃ、みんなで帝都に行こう!」

「え……?」


 目的も達したことだし泣き真似をスッパリやめて満面の笑みを浮かべてみせると、見事にリクスの顔が引きつった。その隣では爆笑寸前の様子でお腹を抱えているケレンがボクに向かってサムズアップしている。こっちの世界でもこの仕種の意味は変わらないらしい。ちなみにシェリアはここまでの茶番を呆れたような顔で見ていただけだ。


「――騙したのか!?」

「ちょっと、人聞き悪いこと言わないでよ。疑われて悲しかったのはホントなんだよ? それを全身で現してたのに……」


 そして直後に言質が取れて嬉しくなったので普段通りの態度に戻しただけである。騙す? いいえ、切り替えが早いだけです。


「うっ……それはごめん」

「でも、なんでもするって言ったよね? じゃあグラフト帝国の帝都に行きたいな! 外の世界を見て回るのはボクの目的の一つだし連れて行ってよ! まあ、今回はちょうど武闘大会があるみたいだけどね!」

「え、いや、その――」

「まさかイヤとは言わないよね? 自分から言い出した約束を破るの? ふーん、そっかー、殺人鬼呼ばわりされたこと、絶対に許してあげないよ?」

「いや、殺人鬼って言ったのはおれじゃなくてケレンで――」

「ゆ・る・さ・な・い・よ?」


 なにやら抗弁し出すリクスの言葉を遮り全開の笑顔で一語一語を強調しながら詰め寄れば、しばらくあちこちに視線を彷徨わせた後で諦めたかのようにがっくりとうなだれた。


「……わかったよ、帝都に行こう」

「やった!」


 完全勝利にボクが思わず跳び上がる横で、なんとか笑いの発作を治めたらしいケレンがポンポンとリクスの肩を叩く。


「まあ、俺らもついでに大会に出れば、比較的安全な状況で新しい武器の慣らしができるからそう悪い話でもないと思うぜ? 万が一勝ち進めれば名前も売れるしな」

「……うん、そうだな。そうだよな」


 なにやら折り合いを付けているらしいリクスは放っておくとして、ここまで会話に加わってこなかった友人のことを思い出して慌てて向き直った。


「あ、ゴメンねシェリア、ボクが勝手に次の行き先決めちゃった形になって」

「……まあ、構わないわ。たまにはそういうのも悪くなさそうだし」


 そうするとシェリアは若干呆れた様子ながらも軽く肩をすくめて問題がないってことを伝えてくれた。よかった、聞いてる限りじゃかなり人が集まるみたいだし、シェリアはそういう所を嫌がるんじゃないかって遅まきながら思ったんだけど、心配ないみたいだね。


「――というわけで、ボクたちも帝都に行くね!」

「付き合いの割に仲いいよなぁお前ら。ほどほどにしてやれよ?」


 改めてロヴに向き直って宣言すると、呆れつつも笑いを堪えている様子のロヴ。ふふん、いいでしょう?


「それでロヴ、さっきの言い方だと武闘大会に出る気なんだよね?」

「あたぼうよ! 毎年これを楽しみにしてんだ、出ねぇ理由がねぇな!」


 ついでにと思って確認すれば、即座に肯定が返ってくる。うん、やっぱりね。そういうの好きそうだもんね。

 よし、そうなら武闘大会でのボクの目標は決まりだね!


「じゃあ、次はボクが勝つからね!」


 ニヤリと不敵に見える笑顔を浮かべ、ビシリと指を突きつけて宣言した。昇級依頼で模擬戦をした時はしてやられたけど、『兵器』としての名誉のため、イルナばーちゃんの最高傑作としての誇りのために、今度こそは勝ってみせる!

 そんなボクの思いを受け取ったのか、対するロヴは面白いものを見つけたみたいな顔をして傲然と言い放つ。


「おう、やれるもんならやってみろよ、新人(ルーキー)。オレぁ逃げも隠れもしねぇぜ?」

「言ったね? 吠え面かかせてあげるよ!」

「ぬかせ、まだまだ一人前(カッパー)程度に負けるオレじゃねぇぜ!」


 前哨戦とばかりにお互いに笑みを浮かべて火花を散らす横からリクスのため息とケレンのはやし声が聞こえてきた。




「――というわけで、しばらく帝都に行くことになったよ。明日には出発かな」


 所変わってレンブルク公爵邸。そろそろお馴染みになった応接室で、ボクはガイウスおじさんにそう言った。つい今朝方決まった次の遠出を知らせるためだ。

 するとそれまでボクの話を黙って聞いていたガイウスおじさんが「ふむ」と頷く。


「なるほどな。では、向こうで会うこともあるだろう」


 ……ん? どういうこと?


「『向こうで会う』って……なんで?」

「わからぬか? 一族を導く者として、お前も私の講釈を受けた方がよいのではないか?」

「遠慮しておきまーす。で、なんで?」


 勉強させられそうになったのを軽く流すと、位を譲ったとはいえこの国の大貴族様が他の国の首都で会える理由を尋ねる。そうするとガイウスおじさんはなぜか一度咳払いをすると、よく通る低い声で話し始めた。


「まず知っておくべきこととして、我が国とグラフト帝国の間は数世代に渡って極めて良好な関係を築いている。周辺諸国からは『武の帝国、魔の王国』と呼ばれている関係だな」


 毎年大規模な武闘大会が開催されることからもわかるように、グラフト帝国は武芸を尊ぶ気質があるらしい。いわゆる脳筋国家らしいけど、その分軍隊は大陸で随一といってもいい精強さを誇っているんだとか。対してブレスファク王国は『魔導国家』と呼ばれるほど魔導や機工が盛んであり、国民の生活水準はもちろんそれらを大量に配備した軍隊も極めて強力とのこと。へー、そうだったんだ。まあ前の世界の記憶でも機械化した近代軍は中世以前の軍隊と比べものにならないしね。

 で、何の因果かそんな二強国家が隣り合っているわけで、普通ならいつ戦争が起こっても不思議じゃない一触即発の関係になりそうなもんだけど、賢明な昔の王様達はそれを良しとせずに長く続く友好関係を選んだそうな。

 以降、王国からは魔導技術の提供を、帝国からは戦技指導員の派遣を定期的に行う持ちつ持たれつの関係になったらしい。そんな感じでトップツーが仲良くしてるおかげでこの大陸は比較的平和だそうだ。

 で、交流の一環としてお互いに国が主催する大きな催しに国の上層部を招く風習があるとのこと。そして王国では招待を受けるのは侯爵以上の貴族が持ち回り式になっていて、今年はちょうどレンブルク公爵家が担当の年だったようだ。


「――あれ、でもこの前の魔導技術博覧会(マギス・エクスポジション)には他の国の人は来ないみたいなことを聞いたんだけど?」

「あれも広く知れ渡っているが、あくまで国内の技術者、研究者が主催しているのでな。多少は国からも出資してはいるが、あくまで開催は民間であるからして、他国の貴人を招くには向かぬ。もちろん国が主催する会は別にある」


 そっちは魔導技術競技会(マギス・コンペディション)とかいうらしい。なんかややこしい名称だね。博覧会との違いはあらかじめ発表されていたテーマに沿った作品を持ち寄って、どれが一番優れているかを競い合うらしい。研究発表会の傾向が強かった博覧会と違って聞いてるだけでもそっちの方が盛り上がりそうだし、他の国のお偉いさんを招くにも良さそうだ。

 ちなみに今年の開催はまだだいぶん先とのこと。そっちも面白そうだから開催する時は是非とも見に行かなきゃね。


「エリシェナも以前から楽しみにしていたのだが、聞いていなかったのか?」

「聞いてなかったよ。他に話題がたくさんあったから話す暇もなかったのかな?」


 屋敷に来るたびにおしゃべりを楽しんでいたけど、もっぱらお互いに知ってる物語を教えたり感想を言い合ったりっていうのが多かったからね。あとはボクの活動報告とか。


「まあ、そう言うことなら時間があれば向こうでもお話しできるね」

「私としても、お前の性能をこの目で確かめる機会に巡り会えるとは僥倖であるな。なにしろ前代未聞の戦果を後から聞かされるばかりだったのだから」

「あはははー」


 じろりと睨まれてスッと視線を逸らす。いやー、この前も大変ご迷惑をおかけしました。でも必要だったことだからシカタナイヨネ。


「まったく、秘匿する身にもなって欲しいものだ」

「正直もういいんじゃないかなって思ってます」

「お前が当家に来てからまだ半年と経っていないのだがな。もう少し慎重になるべきではないか?」

「だからって秘密優先でムダな犠牲を出すのはボクたちの掟に反してるんだよ。ボクが生まれてから十五年も秘密が守れたのは外と一切接触しなかったからだし、ボクたちが外に出るようになればそのうち知られるようになると思うんだ」


 あくまでボクが秘密にしたいのは種族としての第一印象を良くできる状況にしたいからだ。そのためにも先行部隊であるボクやヒエイ達がいい行いをした後で周知するのがいいのかな?


「……わかった。ではマキナ族の認知に関してはその方向で進めよう」

「お手数をおかけします」

「そう思うなら少しは自重してはどうだ?」

「反省はするよ? でも後悔はしない」

「……その辺りは婆さま譲りか。まったく、親子揃って――」


 そんなガイウスおじさんのぼやきを、勢いよく開かれた扉の音が遮った。


「――ガイウス様! その武闘大会って言うの、わたし達も連れてってください!」


 友人からいただいた当物語の主人公、ウルのイラストです。タイトルは『「ばちぃっ」するウル』。

挿絵(By みてみん)

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