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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
三章 機神と機工
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終結

 そう考えた直後、後方から飛んできた電撃が見事に命中して今し方ボクに襲いかからんとしていた魔導体(ワーカー)が一瞬硬直する。


「――っは!」


 そのタイミングで跳び上がった人影がアームの可動部分に目にも止まらぬ連撃を浴びせ、耐久度を超えたのかアームがあらぬ方向にひん曲がる。


「うおおぉぉぉっ!」


 同時に裂帛の気合いと共に振り下ろされた一撃がもう一方のアームの可動部分を見事に捉え、甲高い音と共に断ち切られたアームが地に落ちる。


「せい――やっ!」


 思いがけず稼いでもらえた時間を使ってサンラストで受け止めていた一機を力ずくで押し返し、その反動も上乗せして胴体部分に跳び蹴りをかました。自重プラス各種装備の重量を余すことなく乗せた一撃は魔導体(ワーカー)の装甲を脚甲の形にひしゃげさせ、そのまま後ろにいた一機を巻き添えにひっくり返らせる。


「やるね、ありがとう!」


 トドメに二機まとめて胴体部分をレインラースの鎌で串刺しにしながら言った。見事な連携を見せた仲間たちは、もう近くにいた別の一機に三人がかりで襲いかかっている。


「これくらい当然よ」

「ま、一機ずつならなんとかなりそうだ。けど大半はそっちでもってくれよな、ウル!」

「でも予想以上に硬いから、最後まで武器が持つかどうか……」

「その時は遠慮なく撤退してよ? さすがに丸腰の人が戦場にいるのはダメだからね?」

「う……わかったよ」


 お互いに近くで絶えず動きながら軽くやりとりを交わした後、そこからはひたすらに鎌で斬って盾で叩いて脚で蹴っ飛ばしてスクラップの量産に励んだ。幸いと言っていいのかどうか、縦横無尽に暴れ回るボクの方が脅威度は高いと認識したのか魔導体(ワーカー)のほとんどがボクの方を優先して攻撃してきたおかげで、三人はほとんど見向きされていなかったようだ。

 それでもボクがダメージを与えた機体を狙って確実に行動不能に追い込んだり、攻撃後のどうしようもない硬直する瞬間に襲いかかってきた魔導体(ワーカー)を足止めしたりと地味に活躍をしてくれた。特に『探査』の調子がよろしくないおかげで死角からの攻撃に対してちょくちょく反応が遅れたけど、そのたびにフォローしてくれたのは正直ありがたかった。いくら痛みを感じないとはいえイルナばーちゃんに創ってもらったこの身体、好きこのんで傷を負いたいとも思わないからね。

 そんな感じで着々と魔導体(ワーカー)軍団の数を減らしていっていたけど、とうとうリクスの剣が脚の一本を折ったところで半ばから折れてしまった。


「あ――くそっ、ここまでか!」

「いや、並の店で買ったにしちゃよく保った方だろ。上出来上出来」


 肩で息をしながら恨めしそうに折れた剣を見つめるリクスと、荒い息のまま肩をすくめるケレン。


「リクス、早く退きなさい」

「いや、シェリアもだからね? その状態の剣でどうしようって言うのさ」


 息を弾ませながらしたり顔でリクスに撤退するよう指示を出すシェリアに対して、行動力を失ったばかりの一機を両断しつつ突っ込みを入れておく。彼女が愛用している二本の握剣(カタール)は、どっちも目に見えて刃こぼれがひどい。ずっと金属の塊を切り続けてたらそうなって当然だけど、あれじゃもうただの鉄の棒と変わらないんじゃないかな?


「でも、まだ敵が――」

「大丈夫、あれくらいならボク一人でどうにでもなるよ」


 そう言って振り返った戦場は大量のスクラップで埋まっていた。そのほとんどはボクが真っ二つにするか串刺しにするか叩き潰すかした分で、どれも動力部分をしっかり壊したおかげでただ静かに骸をさらしている。所々にぎこちなく駆体をぎこちなく動かそうとしているのもいるけど、そう言った個体は仲間たちの連携によって攻撃手段や移動能力をことごとく潰されてるから近づきでもしない限りもう無害だ。

 そんな中、まともに動ける状態で残っているのは二十三機。全部が離れたところから無駄な銃撃を繰り返していた機体ばかりだ。たぶん援護のためだったんだろうけど、ボクがバリアを張っているせいで半分風景と化していた。さすがに味方がほぼ壊滅した今、銃撃は継続しつつもそれぞれが接近してきている。


「あー……俺は残った方がいいか?」

「気持ちは嬉しいけど、ケレン、さっきから蓄魔具(カートリッジ)使ってないでしょ? 手持ちは尽きて自分の魔力使ってるんじゃない?」

「……よくそんなこと見ててる余裕あったな、おい」


 ボクが指摘すると呆れたように肩をすくめてみせるケレン。『探査』が不調とはいえ『全力』状態のボクにとっては敵としてそれほど脅威じゃない魔導体(ワーカー)が相手だ。みんなが窮地になったらすぐに助けられるように時々様子を見るくらいはできていた。

 買い込んでいた予備の蓄魔具(カートリッジ)はまだあるはずだけど、それも全部宿の荷物の中だろう。なにせ出先から飛び出してきてそのまま戦場に直行だったからね。様子を見る限りまだいくらか余裕はありそうだけど、まだ戦闘が終わったとは言えない状況でギリギリまで粘ってもらう利点はほとんどない。


「ここまでけっこう助かったよ。後はボクに任せて、ここを離れるかそこら辺の残骸の陰にでも隠れるかしておいて」


 言いながら再度の先制攻撃用に『雷撃』の魔導式(マギス)を威力マシマシで準備。けっこうバラけてるから一網打尽って訳にはいかないだろうけど、二、三機くらいならまとめて鉄くずに変えられるはずだ。


「――わかったよ。気をつけて」

「『気をつけて』はボクのセリフかな。じゃ、仕上げにかかるよ」


 三人が近くの残骸に身を隠すのを確かめてからサンラストの『障壁』を解除。同時にレインラースを握った指先から『雷撃』を解き放った。


「ばりばりぃっ!」


 瞬く間もなく強烈な電撃の直撃を受けたのは一番近づいてきていた三機。それぞれ一瞬駆体をでたらめに痙攣させた後でピクリともしなくなったのを視界の端に納めつつ、みんなのそばにいる必要もなくなったから『全力』の全力( ・・ ・・・)で地面を蹴った。

 まるで早回しのビデオ再生みたいに景色が動き、狙いを定めていた一番遠くにいたはずの魔導体(ワーカー)がもう目の前。わざわざ勢いを殺す理由もないからそのままサンラストを前にしてぶちかましをかければ、まるでビリヤードの球みたいに吹っ飛んでいく魔導体(ワーカー)。あまりにも衝撃が大きすぎたのか脚部もアームも可動部分からちぎれ飛び、胴体部分も原形を留めていないほどひしゃげているのが見えた。

 遅れて後ろから聞こえてくる鈍い爆発のような音。まさかいきなり自爆した奴でもいたのかと思って慌てて振り向いたけど、なんのことはない、ボクが蹴った反動で地面が爆発した音だった。うん良かった、ちょっと焦ったよ。

 安心したところで手近にこっちを向こうとしている最中の一機がいたから軽く跳びかかってレインラースで真っ二つにした。さらに続けてもう一機――ってもう、面倒くさいな! 下手に一機ずつ位置が離れてるせいでまとめて潰せない!

 そんな感じでちょっと苛立たしく思いながら他の魔導体(ワーカー)の配置を確認したところ、なんの偶然か五機ばかりがおおよそ一直線上に並んでいるのが見えた。


「うわ、らっきー」


 思わずこぼしながらレインラースの柄を捻り変形機構を作動。横に広がっていた刃がスルリと戻って斧形態になり、さらにそこからお互いに近づきつつ、傾きを付けながらせり上がる。あっという間にそれぞれの刃の上端部分がピタリとひっつき、巨大な鎗の形が完成した。


「飛んでけ!」


 すかさず鎗形態になったレインラースを肩に担ぐような構えから全力投射。赤熱する大鎗は衝撃波を伴いながら一直線に空中を駆け抜け、進路上にあった魔導体(ワーカー)の胴体をことごとく抉った後、はるか先で大地を爆散させた。

 ……あ、ヤバイ、やりすぎた。あれ絶対深々と埋まってるよね? 後で回収しないとなのに、掘り出さなきゃダメじゃん。

 ちょっと衝動に身を任せすぎた結果を反省しつつ、残りの十二機を見渡した。相変わらず射撃しつつボクのことを取り囲もうと動いているようだ。弾は展開し直したサンラストの『障壁』の前じゃ意味もないし、もうこれここでこのまま集まってくるのを待ってた方が一網打尽にできるんじゃないかな?

 そう思ってサンラストを腕を覆うだけの最小形態にして『障壁』の範囲を周辺一ピスカ程度にしつつ、特大の『雷撃』を放つべく可能な限りの魔導回路(サーキット)を描いていく。さあおいで、射程に入った瞬間がキミたちの最後だよー。

 持つ物のなくなった右手を指鉄砲にして高々と掲げ、包囲を狭めてくる魔導体(ワーカー)を待ち構える。描いた魔導回路(サーキット)と今までの戦果からおおざっぱに有効射程距離を割り出して、一番離れたところにいる敵が範囲に踏み込むまであともう少し――

 と思ったところで不意に魔導体(ワーカー)の動きが停止した。それも一機二機じゃなくて生き残りが全部同時だ。撃ちまくりだった弾幕もピタリと止んで、何もせずにただその場に立ちつくしている。


「……なに?」


 急なことに思わず二、三度瞬いて首をかしげた。しばらく待ってみたけど動き出す様子もなく、いぶかしく思いながらも術式を維持したまま一番近くにいた一機に歩み寄る。アームの可動範囲に入り、目の前に到達しても微動だにしない様子に壊れたのかとも思ったけど、耳を澄ますと中から駆動音が聞こえてくるからそういうわけでもなさそうだ。


「……ばりぃ」


 試しに用意していた術式を色々抑えめにして叩き込んでみたけど、目の前の一機はなんの反応もなく沈黙した上に、まわりの魔導体(ワーカー)もそれに対して一切の反応を見せない。まるで『何があっても動くな』って命令されているみたいだ。


「――ってことは、停止命令でも出されたのかな?」


 いきなり動かなくなった理由は察したけど、戦闘中にそんな命令を出す意味がわからずに首をかしげていると駆け寄ってくる足音が三つ聞こえてきた。


「――ウル! あなたいったい何をやったの!?」


 真っ先に駆け寄って来たシェリアが動かなくなった魔導体(ワーカー)をしかめっ面で見渡しながら聞いてくる。その言い方だとボクが何かしたみたいに聞こえるけど、ボクのせいじゃないからね?


「壊れた訳じゃないみたいだし、たぶんだけどこいつらに『停止しろ』って命令がされたんだと思うよ」


 この世界じゃまだ無線って技術は確立していないけど、あらかじめ魔導体(ワーカー)に特定の魔力波形を受け取ったら指定の行動を取るように設定することはできる。とても原始的な無線技術だから複雑なことはできないけど、『行け』と『止まれ』を指示するくらいならなんとかなるわけだ。


「『停止しろ』? 戦闘中に? なんでだい?」

「ボクもそれがわからなくて困ってるんだけど……」

「ああ、それってひょっとしなくてもあれが原因じゃねえか?」


 リクスとそろって首を捻っていると、ケレンがなにやら見つけたらしくヒョイと長杖で指し示した。そっちを見てみればあちこちが破壊された要塞と、その足下で陣形を組んでいる騎士団の人たち。どうやら別働隊の人たちが暴れ回るボクたちを迂回して直接要塞に到達していたようだ。ボクの空けた大穴から何本もロープが垂れ下がっていて、それに次々と取り付いては中へと突入していっているように見える。


「あれ見て察するに、中の制圧ができたんじゃねえか? この魔導体(ワーカー)に指示出してた奴がいるならあの中だろうし、首謀者を騎士団が捕まえたんならまず真っ先にこいつらを停止させてもおかしくないしな」


 ケレンの立てた予測に納得する。いくら戦力が残っていても司令部が抑えられたらそりゃ戦闘続行なんてできないよね。それなら全部叩き潰す必要もないか。


「それじゃ、もう戦闘終了だね。呼出(アウェイク)虚空格納(ホロウガレージ)武装拡張(アセンブリエンハンス)武装解除(パージ)


 術式登録(ショートカット)で『亜空接続』を呼び出してサンラストを格納し、続けて鎧一式を空間の歪みが覆ったかと思えば亜空間に格納されて普段通りの装備に戻る。


出力変更(アウトプットシフト)通常水準(レベルノーマル)


 後は口頭鍵(トリガー)を唱えれば魔素反応炉(マナリアクター)が平常状態まで稼働率を落とし、緋色に染まっていた肌がゆっくりと白を取り戻していった。うん、これで良し。


「いいの?」

「ん? 何が?」

「元に戻したんでしょう?」

「ああ、そういうこと。うん、後は『全力』使う必要もなさそうだからね」


 シェリアの素朴な疑問に端的に答える。戦闘が終わったのに出力を上げたままなんて意味もないし、『必要以上の力を使わない』っていう掟にも反するしね。それに、半大刻以内なら一度限り承認なしで『全力』に戻せるから急な展開になっても対応できるだろう。

 そうしているとやおらケレンが背中から大の字に倒れ込んだ。


「――ぶっは~、疲れたなおい。体力的にもそうだが主に精神的に」

「……そうだな。戦術魔導体(ワーカー)との戦いは魔物とのとはずいぶん勝手が違ったよ」


 そんな風にこぼしながらリクスも座り込み、長々と溜めた息を吐き出している。


「ま、いい経験にはなったわな。後は追加報酬に期待しておこうぜ。俺の場合は大半がウルへの借金返済に消えそうだがよ」

「おれも新しい剣を買わないとなぁ……これよりもいいのが買えるといいんだけど」

「……二人とも、報告するまでが依頼よ。こんなところで気を抜かないの」


 緊張が抜けて一気に脱力したのかぼんやりと報酬のことを話す二人。それを見たシェリアが顔をしかめてベテランの先輩臨険士(フェイサー)らしい忠告を投げた。一応戦闘は収束したみたいだけど、さっきまで斬ったはったを繰り広げていたような場所でぼんやりするのは確かに気を抜きすぎな気がするね。まあ終わった途端に出力を『平常』に戻したボクが言っても説得力はないかも知れないけど。


「とにかく後は騎士団の人に任せておこう。それよりボクはレインラースを回収しなきゃだから、ちょっと行ってくるね」

「手伝うわ」

「あ、待ってくれ、おれも行くよ!」

「うぇ、この流れ俺も行くやつか? はあ、仕方ないな……」

「いいの? ありがとう、みんな」

「嫌なら来なくていいわよ」

「ケレン! 仲間が困ってるんだぞ!」

「誰も嫌とは言ってねーよ。今行く!」


 気がつけば『探査』の情報もクリアになってきていて、けっこうな深さにレインラースが刺さってしまっているのがわかっている。その反応を頼りに、戦闘の後とは思えないほどわいわいと賑やかに騒ぎつつ発掘作業に取りかかった。


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