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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
三章 機神と機工
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出撃

 それからそんなに待つこともなく騎士団の人から声がかかり、集まっていた臨険士(フェイサー)がそろって移動を始めた。ほどなく『緊急城壁』のすぐ近くに展開している騎士団の先遣隊に合流する。

 目の前にそろいの金属鎧を身につけた五百人規模の勇ましい人たちが整然と並ぶ中、荷台に大砲を設置したトラックみたいな魔導器(クラフト)や、いくつもの砲身やアームをくっつけた胴体を載せた四脚の魔導体(ワーカー)などなど、意外とメカメカしいのがかなりの数混ざっていたりする。その様子は前の世界でいう中世の騎士団と近代化された軍隊が合わさったようだ。魔導体(ワーカー)が若干近未来な気がする上に、全身鎧の人がトラックの運転席でハンドルを握っているのはちょっとシュールに見えるけど。

 そのままボクたちは騎士団を追い越して『緊急城壁』のすぐそばまでやってきた。青みの強い光の壁の向こうには見渡す限りの平原で、事前に聞いていた通り敵の姿なんか欠片も見あたらない。所々に小高い丘はあるものの、大型の魔物なんかが姿を隠せそうなほどの大きさはない。ホントにどこから攻撃してきたんだろう?

 平和そのものにしか見えないのどかな風景に首をかしげつつも視線を壁の内側に戻せば、そこでは技師らしき人たちが人の身長の倍くらいはある魔導器(クラフト)を二台設置しているところだった。同じ形状かつ有線で繋がっているところを見ると二つ一組のようで、一定の間隔を空けて『障壁』にくっつけるようにされているのはなんだか門のようにも見える。

 そしてちょっと距離を置いたところにこれまた別の魔導器(クラフト)が三台。そろって大人二人が並べる幅と奥行きに胸の高さくらいはある直方体で、接地部分は小さなタイヤになっている。それぞれに二人ずつ、ちょうどいいあんばいの高さにある手押し用の取っ手をしっかり握ってスタンバイしている騎士の人がいることから、移動させることが前提の魔導器(クラフト)のようだ。うん、やっぱり光景がシュールだ。


「――臨険士(フェイサー)諸君、改めて作戦の概要を説明する!」


 そんな中、一人の騎士の人がボクたちの前に進み出て声を張り上げた。他の騎士の人よりちょっと豪華目の装備を来ていることから察するに指揮官クラスの人だろう。


「これより『城門』を用いて『緊急城壁』より出撃口を作成する! 本来ならば迂回地点での使用になるものだが、一切の敵影が見えない今回に限り最短となるであろう正面を開くこととなった! そして開門に合わせて『移動障壁』を起動、我々が正面からの防護を行っている内に諸君らは散開、周囲の索敵警戒を担ってもらう! その後騎士団は『緊急城壁』前に防御陣を構築、敵勢力が確認され次第速やかに殲滅へ向かう! 諸君らは索敵中に敵影を確認した場合は速やかにこれを報告、可能であるならば騎士団の方へ誘導を行ってもらいたい! むろん、撃破可能と判断したのならば倒してしまってもいっこうに構わん!」


 要するにボクたちは外に出て敵を探せってことだね。本当に索敵だけでいいんだ。まあ攻撃力だけなら戦術魔導器(クラフト)魔導体(ワーカー)がそろってる騎士団の方が圧倒的だろうし、たぶん相手はでっかいだろうからそっちの方が向いてる。付け足しの最後がちょっとフラグ臭かったけど、それは気にしないでおこう。


「何か聞いておくことがあるものはいるか? ……いないようだな。じきに準備が整う。今回は敵影を確認する前から攻撃を受けるという異常事態であり、それ故予測される危険は未知数である! 諸君らには先鋒という最も危険な立場を強いることになるが、この街と人々を守るために、どうかその力を存分に振るってもらいたい! よろしくお願いする!」


 そう言って指揮官の人はしっかりと頭を下げた。口調はちょっと偉そうだけど、その態度からは臨険士(フェイサー)の助力を心から望み、その能力に敬意を払っているっていう真摯な思いがありありと伝わってくる。見回してみればまわりにいる騎士の人たちも頭こそ下げないもののボクたちを見る目に蔑みなんかは見あたらないように思えるし、それらを受ける臨険士(フェイサー)のみんなだってそれが当然って顔をしている。

 ちょっと意外だな。前の世界の記憶にある物語じゃ冒険者系の職業って差別されてるのもあったから『お前らは命を捨てて当然』とか思われてるんじゃないかと思ってたけど、この世界じゃ臨険士(フェイサー)は一定の地位を得ているらしい。まあ魔物が跋扈する世界、組織として高い攻撃力を持ちながらも動きに制約を受ける戦力と、千差万別ながらもどんな状況にも柔軟に対応できる戦力としてお互いに尊重しあってる感じなのかな?


「――準備が整った。諸君らの奮闘に期待する!」


 それぞれの魔導器(クラフト)を担当している騎士や技士の人たちから合図を受けた指揮官の人が頷いて、ボクたちを移動式の魔導器(クラフト)――たぶんこれが『移動障壁』なんだろう機材のそばで身構えている騎士の人たちの後ろに誘導する。


「手はずを確認するぞ! 開門したら二、三パーティごとに飛び出すんだ、間違っても雪崩打って出るなよ! 近くに何かいたらいい的だ!」

「第一陣はワシら『天破の剣』が請け負おう。誰ぞ共に征く者はおらんか?」

「いいぜ、『覇元の戦士』が付き合おう!」

「『雫の薔薇』もご一緒させてもらうわ!」


 そんな風に周囲から次々と声が上がってはほとんどロスなくボクたちが取るべき手順が決まっていく。さすがは緊急依頼といったところか、ほとんどが初対面でそれぞれ別々に行動することが当たり前なはずの間柄なのに、不思議と連帯感を感じた。

 そして真っ先に聞こえたパーティ名、エリシェナに見せてもらったお手製の『ブレスファク王国臨険士(フェイサー)名鑑』で見たことがある。どれもゴールドランクの臨険士(フェイサー)が一人ないしは二人所属していたはずだ。

 パーティとしてはシルバーランクで、レイベアじゃなくてプルストを拠点にしてるから他の人は載ってなかった。けど、ゴールドランク以上になると国中を、場合によっては国境を越えて方々を飛び回ることが多いらしいから、ここを拠点としている臨険士(フェイサー)の中じゃトップクラスのパーティってことになるだろう。一番危険だと思われる第一陣に躊躇なく名乗りあげるのはさすがって言うべきだね。

 そんなやりとりが一段落するのを見計らったかのように、さっきの指揮官の人がスッと腕を高く掲げた。それと同時に『移動障壁』についている騎士の人たちがそれぞれに操作して目の前に魔力の障壁を出現させる。互いに少し重なるように、それでいて限界一杯に広がった三枚の障壁の幅は、『緊急城壁』にひっつくように設置されている一対の魔導器(クラフト)――おそらく『城門』の間より少し狭いくらいだ。

 そして起動した『移動障壁』を見た途端、臨険士(フェイサー)の間に広がっていたざわめきがピタリと止んで、緊張した空気が漂い出す。


「――開門!」


 言葉と同時に指揮官の人の腕がさっと振り下ろされ、ほとんど間を置かずに『城門』の間にあった『緊急城壁』の障壁だけがスッと消えた。

 間髪入れずに『移動障壁』の取っ手を握って待機していた騎士の人たちが、それぞれに二人がかりで目一杯に力を込めて押し出した。見た目に準じた重量があるらしい『移動障壁』が初めはゆっくり、そしてすぐに勢いを付けて走り出し、ぽっかり開いた『城門』めがけて猛然と突き進んでいった。

 ……どうでもいいけど、全身鎧の騎士様が必死の形相で荷台に乗った重量物を押し出してるかと思うとちょっと笑えてくる。今いるところからじゃ兜の中の表情なんて見ることはできないけど、きっと似たような顔に違いない。

 そんなボクの内心なんかお構いなしに、先行する騎士の人たちのすぐ後ろを追随する臨険士(フェイサー)の人がおよそ三パーティ分。先鋒を名乗り出た人たちに違いない。

 ほとんど一塊になって突撃していった集団は、すぐに『城門』を通り過ぎて街中を囲っている障壁の外へと出た。そしてある程度離れると『移動障壁』を押していた騎士の人たちは急制動をかける。勢いのついた重量物に引きずられて地面にちょっとした轍を刻みながらもほどなく停止、簡単だけど開きっぱなしの出口を守る臨時の壁ができあがった。

 そして先行した三パーティは『移動障壁』が停止するよりも前にパッと左右に分かれて、周囲を警戒しつつ素早く散開していた。


「――よし、今の内に出てこい!」


 ひとまずは安全だと判断したのか、外に出た内の一人が振り返って障壁の内側に残っている面々に呼びかける。それに応じて障壁に近い人たちからパーティごとに、ある程度間隔を空けて続々と城門をくぐって行く。

 ……意外だな。狙ってくださいと言わんばかりに見え見えの出撃で、ほぼ確実に見えない敵からの攻撃があるだろうと思っていたけど、ここまで特になんの動きもない。こうなるとホントに敵がいるのかどうか怪しく思えるけど、かすかとはいえボクが感じた音と振動は紛れもない事実だし、ここまで明確に戦力を動かしているなら攻撃があったことも間違いはないはずだ。

 そうこうしているうちに待機していた人たちは順調にはけていって、すぐに『永遠の栄光』を中心としたボクたちの番になる。


「よし行くぞ。遅れるなよ、上がりたての諸君」


 そう言いながら駆け出したハインツの後を追いかける形で走りながら、地面を蹴立てる足音に紛れさせてそっと術式登録(ショートカット)を呟いた。


呼出(アウェイク)周辺精査(サーチコンパイラ)


 即座に起動する『探査』の魔導式(マギス)から周辺の情報が伝わってくるけど、それは障壁を境に著しく感知しづらくなっている。でもまあこうなるのは知ってた。なにせこのレーダーみたいに使える魔導式(マギス)は魔力を放って対象を感知しているわけで、物理はともかく魔力を遮断するタイプの『障壁』とはとても相性が悪い。

 それでも人一人分くらいの面積ならすぐに迂回できるからあまり問題にならないけど、街を覆う規模となるとほとんど遮られてまともな情報が入らなくなるわけだ。まあそこに『魔力を遮断する壁がある』ことはわかるからまったくなんの役にも立たないわけじゃないけど、この場合一番ほしい『緊急城壁』の外側の情報は目で見た方が早い状況だった。街を守るための『障壁』が物理魔力両方に備えていないはずがないと思ったから、街を囲う光の壁を見た瞬間『探査』を使う意味がないと悟っていた。そもそも感知可能半径からして街のど真ん中で使っても仕方がなかったっていうのもあるけど。

 でも、『障壁』の外に出るなら話は別だ。三百ピスカの範囲なら障害物があろうと問答無用で感知できるし、精度を落とせばもっと広範囲もいける。幻惑狼(ミラージュウルフ)みたいに姿を隠す能力があるような相手でも魔力の分布を直接感じ取るから問題なく見つけられるし、遮断されているならそこに『遮断している何かがいる』ってことはわかるから、こんな状況じゃまさにうってつけだ。

 そして『城門』の間をくぐり抜けた瞬間、一気に伝わってくる情報量が増した。それはまあ仕様通りだからなんの問題もないんだけど、そこに今まで感じたことのない妙な感覚があって思わず首をかしげる。なんというか……この辺り一帯に靄が掛かってる感じかな? いつもより個々の保有している魔力が感じづらい。なんだろう、こんなの初めてだ。


「おっかしいな……」

「ウル? どうしたの?」


 思わず漏れた呟きに反応したのはすぐ隣を走っているシェリア。確かシェリアってラキュア族の特性なのか、感知能力高かったよね? ちょっと聞いてみよう。


「『探査』使ってるんだけど、なんかすごく感知しづらいんだ。シェリアはどう?」

「――特に変わった感じはないわ。いつも通りね」


 互いの秘密に関わることだからギリギリ聞こえるくらいの小声で尋ねてみると、少し間を置いてから同じくらいの音量で答えが返ってくる。そっか、シェリアの方は異常なしか。感知方式が違うのかな? よく知らないから比較しようにもできないな。どこかで詳しく聞いておけばよかった。

 いつも頼りにしてる『探査』の魔導式(マギス)があんまり役に立たないのは予想外の痛手だけど、それがダメならみんなと同じように自分の目で確かめればいい。幸いここは隠れるところが極端に少ない平原だ。探索はまるっきり素人のボクでも何か異常を見つけることくらいはできるだろう、たぶん。



 リアルの忙しさが続いているため、しばらく一週間おきの更新とさせてもらいます。これ以上延びないようにしたいなぁ……。

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