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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
三章 機神と機工
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友好

先日ブックマーク件数が50件に達しました。いつもご愛読ありがとうございます。

「ボクの話っていうのは、前来た時にサリアさんに頼んだ伝言の詳しい内容なんだ」


 ともかく、そういうことでサリアさんにも是非聞いておいてもらいたいと結論づけると、何か言いたげな表情をしているアリィはスルーして前置いてから、ずっと来ていた外套を脱いだ。


「確か『イルナ様の夢の結晶が会いに来た』、でしたね。正直私には意味を計りかねましたが……」

「サリア、お師匠様は『いつか必ず、大切なものを絶対に傷つけず、脅威から守り抜く存在を創り出す』ことが夢だって言ってたんです」

「『創り出す』? イルヴェアナ様がそうおっしゃったということは機工に関することなんでしょうけど、それが完成していて会いに来たとなれば魔導体(ワーカー)ですか? しかしどこにそんなものが――」


 アリィの補足を受けて思案していたサリアさんの目が、いそいそと上着を脱いでいたボクに向けられた。その目がボクの顔を見た瞬間一杯に広がったけど、すぐにスッと細められた。


「……まさかとは思いますが、その前になぜ服を脱いでいるのですか、ウルさん」

「論より証拠ってよく言うから、とりあえず見やすいようにしようかと思って」


 あれだけで大方察したらしいサリアさんの前で肌着も脱いで上半身をさらし、なぜか頬を染めて見とれているアリィは置いといて術式登録(ショートカット)を口ずさむ。


呼出(アウェイク)周辺精査(サーチコンパイラ)


 そしてお馴染み『探査』の魔導式(マギス)魔導回路(サーキット)が緋色の輝きをもって体表面に描かれると、アリィもサリアさんも顔中に驚愕を浮かべた。


「これは……まさか魔導式(マギス)ですか?」

「――すごい! 基本は感知系ですね。でもあちこちに知らない術式が……これで効果範囲はどれくらいなんですか!?」

「標準の術式ならおおよそ半径三百ピスカってところだね」

「三百――!? これだけの魔導回路(サーキット)でそんなに……」


 ただ単に体の上に幾何学模様が現れたことに対する驚きを表すサリアさんに対して、瞬時に術式を読み取りその内容により大きな驚きをみせるアリィ。驚く部分がそれぞれ違うのが面白いけど、この辺は魔導士かそうでないかの違いかな。


「こんなのもあるよ」


 そう言いながら一度『探査』の術式を放棄し、右腕を中心にして『爆轟』の魔導回路(サーキット)を描いていく。あ、もちろん発動しない程度の魔力しか流さないよ? こんなところであんな爆発を起こしたらとんでもないことになるからね。


「……アリィ、これも魔導式(マギス)なんでしょ? 効果はどんなものなの?」

「えっと、これは……爆破系? さっきのと同じような圧縮術式がありますから、予想される倍率からして……必要になる魔力を供給できるのなら家の一軒くらいは吹き飛ばせそうですね」

「なっ――!?」


 アリィの考察を聞いて絶句するサリアさんだけど、これにはボクも少し驚いた。アリィは未知の魔導回路(サーキット)を含んだ術式を、類似点のある術式の増幅率から逆算してのけたわけだ。しかも目で見てただけなのに解析と計算が異様に早い。普段の様子からそんなに優秀な感じは全然しなかったけど、さすがはイルナばーちゃんの一番弟子なんだね。正直見直したよ。


「これがボクたちマキナ族――イルナばーちゃんが創り出した種族の特性の一つだよ」


 それから驚き醒めやらぬ二人にマキナ族についておおよそのところを語った。今みたく自在に魔導回路(サーキット)を描けること、身体のほとんどが緋白金(ヒヒイロカネ)でできていること、本質的には『兵器』だってことなどなど。


「――魂を持った、『生きた魔導体(ワーカー)』ですか。にわかには信じがたいですが……」

「お師匠様、本当に夢を実現させたんですね。よかった……」


 言葉通りボクの言ったことがなかなか信じられないようで見定めるような視線を向けてくるサリアと、逆にそのまま全部信じ切った様子で感激の涙まで流してみせるアリィ。それぞれ性格がよくわかる反応をしてくれるけど、ひょっとしたらイルナばーちゃんを知ってるかどうかっていうのも関わってくるかもしれない。なにせガイウスおじさんやジュナスさんは、イルナばーちゃんのやったことってだけでアリィみたいにすぐに信じてたしね。

 ……まあそれはそれでいいとして、いくら感激したからって人の裸身をぺたぺたと触ってくるのはどうかと思うんだ。純粋な好奇心がそうさせるてるんだろうなっていうのはアリィの表情からわかるけど、一歩間違えたらただの変態になっちゃうんじゃないかな?


「……アリィ、そろそろやめなさい。あなたにその気がないのはわかるけど、端から見てたらただの変質者よ?」


 どうやらボクと同じことを思っていたらしいサリアさんがため息混じりにそう言うと、さすがのアリィもハッと我に返ったようだ。


「ご、ごめんなさい! そんなつもりは全然きゃあっ!?」


 そして今し方自分がしていたことを改めて客観的に考えたのか、みるみる顔を赤くすると大慌てで飛び離れて、そしてお約束のように散らかったままだった製図機材に蹴躓いて仰向けに転んだ。でも、たぶんやるだろうなーって予測してたおかげで慌てず騒がず一蹴りで近づき、半分くらい傾いていたアリィの身体をしっかりと抱き留めることができた。


「はーい、落ち着いてね。似たようなことは思ってたけど別に気にしてないからさ」

「あ、その、ごめんなさい! それと、ありがとうございます……」


 顔を真っ赤にしたまま消え入りそうな声でお礼を言ってくるアリィ。どうやらこのままじゃある意味目の毒みたいだから、しっかりアリィを立たせると脱いでいた服をさっさと着込むことにした。


「……アリィの粗相は脇に避けるとしまして――それで、あなたは何を望んでいるのですか?」


 そしていつもの装いに戻ったところで、それを見計らったようにサリアさんがそんなことを聞いてきた。ただ、ボクとしては問われた意味をつかみかねたので、首をかしげて問い返す。


「ボクが何を望むかって、どういうこと?」


 そうすればサリアさんは目を閉じて何度か深呼吸をした後、なぜか決死の覚悟を滲ませる表情で口を開いた。


「あなたの言葉を全て信じるのなら、今私達の目の前にいるあなたはこの街の一区画程度容易に吹き飛ばせるような危険な存在ですよ? 抵抗する術を持たない一般人としては、その動向を把握しておきたいと思うのは不思議なことでしょうか?」

「サリアっ! お師匠様が創り出したウルさんがそんなことするはずないでしょう!」

「アリィは黙っていてください。これは私達の生死すら関わる話なんですから」


 その開けっぴろげな言い分にアリィが血相を変えて食ってかかるも、サリアさんは鋭い視線と言葉でそれを封じ込め、気迫のこもった眼差しで改めてボクを見据えた。


「率直に言いましょう。唐突に現れて正体を語り、その力を誇示したあなたは明確な脅威であり、私達にはそれに抗う術がありません。そんな状況に持ち込んで、あなたは私達に何を望むのですか?」


 ……うん、まあ、こういう反応も予想してたことだ。なにせボクたちマキナ族は『兵器』だ。たった一人、生まれたままの姿だったとしても村の一つ二つは簡単に滅ぼせる程度の力は持ってる。そんな相手とわかって普通に接しろだなんて、普通の人にとっては無茶な注文だろう。

 かくいうボクだって、全身にいつでも起爆できる状態の爆弾を巻き付けた相手がいたら、少なくともお近づきになりたいとは思わない。むしろガイウスおじさんといいアリィといい、なんの躊躇もなくあっさりと受け入れてた方が異常なんだってことくらいはわかってる。

 ――それでも、改めて正面から言われるとなかなかキツイものがあるね。サリアさんの言ってることは全部事実だから、何も言い返せないっていうのが余計にね。

 ……でも、だからこそわかってもらう必要があるんだ。


「そういうことなら、できればこれからも仲良くしてほしいな。それがボクの望みだよ」


 内心なんておくびにも出さず、望んでいることを率直に言葉にした。それを聞いたサリアさんは厳しい眼差しのままスッと目を細める。


「……どういう意味でしょうか?」

「そのままの意味だよ。マキナ族としてはむやみやたらと力を使うことはないし、それで誰かを傷つけるなんてもってのほかだ。ここに来たのもたまたまお店を見つけただけで、イルナばーちゃんに縁のある人がいるってわかったから会いに来ただけで、正体を話したのもボクが話しても大丈夫そうだって思ったから」


 信用を得るためには行動で示すしかない。けど『兵器』が行動を起こすような状況なんてそうそう起こらないし起こってほしくもないから、言葉を重ねるしかない。そして言葉はいくら重ねたとしても、一つ混ざった嘘がわかっただけでそれまでのことをひっくり返してしまう。

 だから、ボクは嘘を言わずに思ったことを、起こった事実を、伝えたいことを率直に伝えることにしている。


「その上でせっかくできた縁なんだから知り合いとして、できれば友人としてこれからも付き合っていきたいなって思ってるんだ」


 サリアさんの視線を真っ向から見つめ返しつつ、前の世界の記憶を持ったうえでこんな身体に生まれついたとわかった時から決めていた信条に従って、飾らず素直な言葉でボクの想いを伝えた。

 そのまま見つめ合うことしばらく。ふっとサリアさんの目に宿っていた険しさが和らいだように感じた。


「……あなたのような人ばかりなら、世の中はもっとよくなるんでしょうね」

「いや、それはさすがにどうかと思うよ?」


 世の全ての人が兵器並みの力を持ってたら、下手をすれば些細な喧嘩のたびに地形が変りかねない。いやでも、逆に考えてみれば下手に喧嘩なんかできないから意外と平和になるかもしれない。


「全人類兵器化計画か……」

「何か非常に不穏なことを考えているみたいですが、わたしが言いたいのはあなたの内面に関してですよ? あなたのようになんのてらいもなく自身の想いを口にできる人ばかりになれば、といった話です」


 ボソリと呟いた言葉を拾ったサリアさんが呆れたような顔でそんなことを言ってくれるけど、それもそれで問題があるんじゃないかな? ボクも嘘はつかなくても真意を伏せたりはぐらかしたり、言葉を選んで誤解を誘ったりなんかはよくやるし。ある意味賑やかになるのは保証するけど、平和になったりはしないんじゃないかな?


「ともかく、まずは失礼な発言をお詫びさせてください。私があなたを見定めるためにはどうしても必要でしたので」


 そう言って腰を折ると深々と頭を下げてくるサリアさん。言い方からしてさっきのキツイ言葉はわざとだったらしい。


「そういうことなら気にしないけど、無理はしないでね? どうしても恐いっていうならなるべく来ないようにするからさ」


「正直なところ、完全に恐れがなくなったわけではありません。けれど、あなたという人物に関してはそれをふまえた上で付き合っていくことはできると思いました」


 ボクがそうしたからか、なかなか素直な感想を言ってくれるサリアさんがふっと顔を緩めた。


「それに、こんな商売をしていれば悪意のある脅威なんて見慣れます。それらに比べたら友好的な脅威なんてものの数にも入りませんよ」


 どうやらサリアさんにとって、生きた兵器なんて恐れるに足りない存在らしい。商売の世界って恐いんだね。


「……ウルさんのお話って、それでおしまいですか?」


 ボクが垣間見えた未知の世界に内心で戦慄していると、これまでずっとボクとサリアさんをおろおろと見守っていたアリィが安堵した様子でそう聞いてきた。


「うん、そうだね。伝えたいことはだいたい伝えたと思うよ」

「だったら、この後時間は大丈夫ですか? もし大丈夫ならお師匠様が新しく創った術式についてお話を聞きたいんですけど」

「それなら喜んで付き合うよ。今日一日は時間があるからね」


 期待に顔を輝かせての魔導士らしいアリィの言葉に、思わず笑いを漏らしながら胸を叩いて請け負った。毎晩の趣味にしてはいるけど、魔導式(マギス)談義なんて専門的なことなかなかできるわけじゃないから、こういった話ができる相手がいるのは素直に嬉しい。いくつか組みかけで行き詰まった術式なんかもあるし、その辺に対する意見なんかももらえれば何か解決の糸口が見つかるかもしれない。いやー、ものすごく楽しみだね!

 さっそくとばかりにアリィとそろって部屋にある研究机に向かい合って、そこで唐突にケレンからの頼まれごとを思い出した。なので趣味に没頭する前にと振り返り、アリィに生暖かい目を向けながら黙々と散らばったままだった機材を片付けているサリアさんに尋ねてみる。


「そうだ、サリアさん。今後このお店で何か魔導器(クラフト)を買う機会があるかもしれないんだけど、その時に知り合い割引とかしてもらえないかな?」

「それは脅迫でしょうか?」

「あー……ゴメン、そんな気は全然なかったんだけど……」

「いえ、冗談です。あなたにそんなつもりがないのはわかってます」


 すまし顔でそんなことをのたまってくださったけど、ボクの身の上を考えると笑えない冗談だ。というか、サリアさんが冗談を言うなんて思ってもみなかった。


「えーっと、ダメで元々のつもりだったから無理になんて言うつもりはないよ?」

「いえ、どうやら新しい技術を提供してもらえるようですし、その対価としてなら少々勉強させてもらうくらいはやぶさかではありませんよ」

「そう? それでいいなら今度来た時によろしくお願いするよ。その時はたぶん仲間も連れてくると思うから」

「わかりました。我が工房一押しの品をそろえてお待ちしていますよ」

「ウルさん、準備はできましたよ!」


 予想していた以上の好感触であっさり交渉が終わると、その間にも図面や研究ノートなんかを用意していたアリィが弾んだ声で言ってきた。その分量はなかなかのもので、これはボクも本格的に用意をした方が良さそうだ。


「わかったよ。ここって記写述機(メモリルーラー)はないかな? ボクの分はだいたい記録晶板(オクタメモリア)に保存してるからあった方が便利なんだけど」

「それなら下の工房の奥に最新型のを置いてます! 今から一日魔導師(プロフェス)権限で押さえますので、そっちで話をしましょう!」


 ものすごくいい笑顔で即答したけど、それって職権乱用になるんじゃないですか、シュルノーム魔導器(クラフト)工房の魔導師(プロフェス)さん? まあ本人が楽しそうだし、それで困るのはボクじゃないから別にいいか。

 そう結論づけて、ボクとアリィはお互いに資料を抱えて場所を移動した。うん、今日は充実した一日になりそうだ。




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