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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
二章 機神と仲間
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来訪

 新章開始です。

 ここまででブクマしていただいた皆様、ありがとうございます。これを励みに頑張ります。

「今日もいい天気だなぁ……」


 抜けるような青空を見上げながら誰にともなく呟いた。

 今ボクがいるのはブレスファク王国の王都レイベアの郊外で、目の前には街へと続く街道が平原のただ中で真っ直ぐに伸びているだけだ。時刻に関してはお昼までだいぶある頃合いで、時々行き交う人が時々街道の外れで一人突っ立っているボクに気づいては、不思議そうな視線をよこしながら通り過ぎて行っている。

 王都で密かに進行していた大惨事を図らずも阻止した日から一日間に挟んだ今日、なんでこんな所にいるかって言うと、そろそろ到着するマキナ族の子たちをいち早く迎えるためだ。

 本来なら邪教集団の撲滅と邪霊の退治を終えたその日夕方には着く予定だったんだけど、事件のせいでご無沙汰だったマキナ族の里との定時連絡を思い出して無事と事件の解決の報告――無線魔伝機(マナシーバー)と荷物はボクと連絡が取れなくなった時点で手はず通り回収してもらっていた――したところ、ボクの身の心配から解放されて感極まった様子だったコハクから旅程の遅れを教えられたのだ。

 どうやらこっちに向かっている三人はボクが連絡できなかった間にいろいろあったらしく、鉢合わせた魔物の群れを殲滅したり盗賊の襲撃に遭ってる現場に行き会わせたり、それを助けて最寄りの街まで同行を求められたりとしたため到着予定が今日の今頃になったとのこと。いいなぁ、ボクが旅した時は道中なんのイベントもなかったからうらやましい限りだ。

 まあその遅れが出たおかげで、できた時間で早急にやっておきたいことの大半をこなせたから、ボクとしてはちょうどよかったって話になる。邪教集団に潜入する時に取り上げられて売り払われた装備も必要分はしっかり戻ってきたから、今のボクの装備はこの街に来た時とまったく同じだ。

 あ、もちろんすでに店売りになってた分はちゃんと提示されてた金額を払ったからね? 多少怪しい雰囲気のお店だったけど、売った方はともかく買った方に罪はないし。

 ――そう言えばこっちに向かっている三人、盗賊とやり合った時に多少マキナ族の特性を人前で使ってしまい、ボクの言いつけを破ることになったとひどく落ち込んだそうだ。

 けど、マキナ族の正しいあり方を考えれば秘密よりは人命の方が優先だ。むしろボクとしてはそこでためらうことなく人命を選んだ三人を褒めてあげたいくらいで、そのことはコハク経由で伝言してもらって安心させてある。

 ボクの方でも、限られた相手とはいえすでに人前で結構おおっぴらに使ってるし、どうせそう遠くない内に広まる話だ。ガイウスおじさんは呆れたようなため息を吐いて額を抑えていたけど、そうしないといけなかったんだからしかたないよね。

 ――それはさておき、ここで待ち始めてから結構時間が経っている。そろそろ姿が見えてもいいはずだ。


「……おっ、あれかな?」


 外套に付いているフードを被った状態で、片手を額の前でひさしみたいにかざしながら王都に向かってくる人たちを物色していると、遠目にそれらしき人影が見えてきた。

 まだまだ豆粒サイズにしか見えないけど並んで歩いている、端から順に大、大、小になっている三つの人影は、それぞれ膝丈はある外套で体をくるんでしっかりとフードまで装着している。

 パッと見ただけなら徒歩での旅をしている人がよくしている格好でしかないけど、それだけでなんでそうじゃないかって判断したかと言うと、道行く他の外套を羽織った人たちは外套の前を少し空けたり、フードが付いていても被らずに後ろで垂らしているからだ。

 それもそうだろう、うららかな春の陽気が降り注ぐ今日この頃、じっとしてれば心地よくても長距離を歩いたりすれば当然暑くなる。そんな中で今のボクみたいに外套をピッタリと閉じてフードまで被っている人なんてよっぽどの物好きか後ろ暗い人か、あるいはマキナ族みたいに気温の寒暖なんて気にしないような種族くらいだ。それに人数と身長もちょうど待ち人の特徴に当てはまるしね。

 とにかく、ボクが見えたってことは向こうも見えるってことだ。なのでフードを払って日光の下だとムダに目立つ真珠色の髪をさらす。


「おーい!」


 そうしてからおそらくは目的の相手だろう人影に向かって大きく手を振った。さすがにこの距離じゃ声は届かないだろうけどそこは気分の問題で。

 すると思惑通り向こうもボクに気づいたらしく、一拍をおいてみるみるうちにその姿が大きくなっていく。どうやら走り出したみたいだ。もうちょっとなんだからそんなに急がなくてもいいのに。

 ……ところでさ、三つの人影の後ろで猛烈な土煙が巻き上がっているのはどういうわけかな? まさかこんなところで全力ダッシュしてるわけじゃないよね? 仮にそうだとしてそろそろスピード落とさないと行きすぎるって言うかむしろ加速してないしかも正面衝突コースっ!?

 一切速度を緩めることなくすぐそこまで迫ってきた存在に戦慄する暇もあればこそ、先頭を走っていた大きい人影が力を溜め込むように体をたわめ――


「ウルさぐへっ!?」


 跳躍しかけたところを、わずかにスピードが落ちた一瞬で横に並んだもう一つの大きい人影が繰り出した跳び蹴りを受けて、奇妙な声と共に進路を逸らされる。蹴りを放った方もその反動を上手く利用してボクとの衝突を回避し、そのままの勢いでボクの両脇スレスレを通り過ぎていった。

 反射的に動きを追って振り返れば、一方は綺麗に着地して、轍を刻みながらも無理なく勢いを殺していて、もう一方は受け身も取れなかったようで、全身を地面に打ち付けた後で勢いのままゴロゴロと盛大に転がっていた。どっちがどっちかはお察しだ。


「……なにやってんのさ」


 呆れを隠さずその姿を見送っていると、外套を引かれるた。何かと思ってそっちを向けば、三人組の内残った小さい一人が、手袋をした手を伸ばしてボクの外套をつまみながら見上げていた。小柄なボクよりもさらに小さい、十歳手前に見える顔立ちの子だ。走っている内に脱げたようで、フードの取れた頭が真珠色の煌めきを見せている。


「始祖様、久しぶり」

「うん、久しぶりだねタチバナ。ちゃんと止まってくれたんだね、いい子だ」


 どこかぼんやりした表情を動かすことなく言葉少なに挨拶してくる幼年男性型のマキナ族――タチバナ。

 その足下に深い轍が刻まれていることを見留ながら頭をわしわしとなでれば、ひなたぼっこをする猫みたいにスッと目が細められた。これでもそれなりの付き合いだ。表情が乏しいだけで喜んでいるのはわかってる。もし尻尾なんかが付いていればブンブン振られているに違いない。


「わざわざの出迎え恐れ入ります。お変わりのないようで何よりです、我らが王よ」


 そんな声にタチバナの頭をなでつつ振り向けば、跳び蹴りをかました方――ヒエイが王様にかしずく臣下のように膝をつき頭を垂れた体勢になっていた。こちらもフードは外れたらしく真珠色の髪を外気にさらしている。


「キミも相変わらずみたいだね、ヒエイ。そんな大げさなことしなくていいって前から言ってるよね?」

「はい。しかし、これこそが自分の王へ対する敬意を表現いたしますのにもっともふさわしいと信じる次第で――」

「あーうん、その話も前に聞いたから。とりあえず立って」


 その申し立てに諦めのため息を吐きつつ促せば、ヒエイは素直に立ち上がった。そうすれば相手が高身長男性型のため、身長差の関係で今度はボクが見上げる形になる。


「……やはり王を見下ろさなければならないのは忸怩たるものが――」

「いやそんな生まれた時に決まるどうしようもないことを気にされてもボクが困るだけだから」


 なぜか納得しかねるらしいヒエイに軽く突っ込みを入れておく。


「うう……お久しぶりですウル様ぁ」


 そんなやりとりをしていると、残った一人が力ない様子で近づいてきた。そして背中を丸めた姿勢で、恨みがましそうな視線をヒエイに向ける。


「せっかく久しぶりに会えたって言うのにウル様の目の前で蹴飛ばすなんて、ひどいじゃない」

「文句を言う前に己の行動を省みろ。あんな勢いで飛びつけば王に無駄な被害を与えてしまうだろうが」

「ウル様ならあれくらい大丈夫よ!」

「自分は敬意を持てと言っているのだ! だいたいお前は常日頃から考えなしの行動を繰り返しているのだからして、里でもない場所で粗相を犯せばそれがそのまま王の恥となってしまうことを――」

「ふぇ~ん、ウル様助けて~!」


 なぜか唐突に始まったヒエイの説教に、涙目になった高身長女性型のマキナ族――シグレが涙目になりながらボクの後ろに隠れた。身長差の関係で全然隠れ切れてないけど。


「……今はそこまでにしておこうか、ヒエイ。シグレも久しぶり。元気だった?」

「はーい、シグレはいつだって元気です!」


 苦笑しつつヒエイをたしなめてそう言えば、シグレはさっきまでの様子を一瞬で消して片手を上げながら申告してくる。この子も相変わらずの様子だ。そう思いながら真珠色の髪に付いていた土を払ってやる。


「……王、甘やかしてはシグレがつけあがるだけですよ?」

「大丈夫、これからお世話になる人はそんなに甘い人じゃないから心配しなくていいよ」

「えっ?」

「ならばいいのですが……シグレ、この機会にしっかりと相応の態度を身につけるように」

「えっ?」

「始祖様、僕、料理、頑張る」

「うん頑張ってね。上手くなったタチバナの料理、楽しみにしてるから」

「頑張る!」

「え、え? ウル様、さっきの冗談ですよね、ね?」

「さて、どうだろうね。すぐに会えるから自分の目で確かめてね」


 そんな感じで和やかなやりとりを交わしていると、ふと街道を歩く人たちの視線に気づいた。ボクたちの様子を見ていたらしいほとんどの人たちが、そろってあっけにとられたような顔で視線を向けている。中にはその場で立ち止まっている人もいるほどだ。

 ……まあいくら街道から少し離れているとは言え、あれだけ派手な土煙を立てた後でその原因らしき人物たちが、初めて見る真珠色の髪をさらしながらのんびり立ち話してればイヤでも注目を集めるか。しかもマキナ族はボクも含めて美形ばかりだ。目立つなって言う方がムリだろう。

 ここまで注目されるまで気づかなかったなんて……どうやら久しぶりに同族に会えたのが自分でも思っていた以上に嬉しかったみたいで、知らない内に舞い上がっていたようだ。これ以上は余計な騒ぎを呼び込んでしまうかも知れない。ここはさっさと移動するのが吉だろうね。


「それじゃあそろそろ行こうか。ガイウスおじさんも待ってるはずだしね」

「承知しました、王」「わかった」「うう、恐い人だったらいやだなぁ……」


 フードを被り直しながらボクが促せば、思い思いの返事をしつつ三人とも倣うように外套のフードを被った。うん、怪しさは増したけど美形顔が隠れたおかげで注目度は下がることだろう、たぶん、きっと。


「街の中は結構人が多いから、はぐれないように付いてきてね」


 この時間帯の人混みを思い出して注意を付け加えつつ、ボクたちマキナ族一行はガイウスおじさんの屋敷を目指した。



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