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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
一章 機神と王都
23/197

交錯

 あっという間に標的を視認できる距離まで近づくとさっきの奴らと似た格好なのを確認し、速度は緩めないままナイトラフを突き出して三度引き金を引いた。

 特に足音を隠す努力もしてなかったから向こうも誰かが近づいてきてることはわかってただろうけど、ボクが速すぎたからかそれとも銃撃が予想外だったからか、驚いたように立ち止まった三人にそれぞれあっさりと光弾が命中――次の瞬間小さな爆発が引き起こされて悲鳴と共に吹き飛ばされていった。

 あれ、しまった通常弾のつもりだったのに弾種を『炸裂』にしてた? そういえばさっき点検の時適当に回してそれっきりだったっけ。

 思わぬ結果に一旦足を止め、改めてナイトラフの回転弾倉(リボルバー)状の弾種選択機構を確かめた。……うん、バッチリ『炸裂』になってるや。このままじゃ予想外の被害が出そうだし、『通常』に切り替えとこう。

 改めてナイトラフの設定を切り替え直してたった今吹き飛ばすことになった三人に歩み寄った。一人はボクもいる足場の上で、残り二人は元水路の方に落ちてうめき声を上げている。ただし足場に残った一人は右腕が、元水路に落ちた二人はそれぞれ左足と腹部が吹っ飛んでいた。間違いなくさっきの炸裂弾のせいだね、被害箇所が着弾地点と一致するし。


「――ま、いっか」


 予定以上の被害にほんの少しだけ考えてそう結論づける。どうせ仮定邪教集団の一員なんだ。宗教の自由自体は否定しないけど、平気でなんの関係もない人たちを拉致監禁するような『悪人』にくれてやる情けなんてこれっぽっちも持ち合わせていない。因果応報、自業自得だ。そもそも情け容赦なんてしないって決めてきたんだし、今更この程度気にする必要はないね。

 内心の考えに何度も頷きながらこの三人は放置を決定。ついでに少しだけ戻って横道の様子をのぞいてみるけど、脱出の時と変わらずに倒れ伏した覆面が五人。うん、こっちも放置で良さそうだ。

 それだけ確認すると特に急がずさらに奥へと歩き出す。今もさっきも関係者は奥の方からやってきたんだ。ならこのまま進めば自然と目的地にたどり着くはず。

 そうしてしばらく進んでいると、また探知範囲に反応を捕らえた。今度は人型が四つ――だけどそのうち一つに小さな反応が右の手首あたり付随している。これは……何か魔導器(クラフト)でも持ってるかな? なんにせよ倒してしまえば問題なし。

 そう思って距離を詰めるべく再び駆け出すと、一拍を置いて反応が動いた。例のおまけがくっついてる一人が他の三人から距離を取るように後ろへ下がったようだ。少ししてそれに気づいたのか、残り三人も動きを止める。どうしたんだろう?

 探知した様子に首をかしげつつもすぐに見えた人影に向かってナイトラフを向けて四連射。


「ぎゃっ!」「がっ!?」「ぐあっ!!」


 高速で飛んでいった光弾はなにやら戸惑った様子だった三人の覆面にそれぞれ悲鳴を上げさせた。――そう、上がった悲鳴は三つだ。

 最後の一発、一番奥にいた一人に向けた一発だけは命中寸前で飛び退かれたせいで何もない空間を通り過ぎていっただけ。

 ……外したんじゃなくて、避けられた?

 そう理解して改めてその一人を見る。飛び退いた勢いのまま元水路の上に綺麗に着地した相手は、これまでの奴らと違って覆面を被ったりローブみたいな服を着たりしていなかった。ザンバラ髪に無精髭を伸ばした見るからに男の顔は意外に若くて、ボロっちい外套をまとった体躯は細すぎず太すぎず。チラッと皮鎧(レザーアーマー)を着込んでいるのも見えた。


「……偶然かな?」


 呟きながら男に向かって立て続けに引き金を引くも、そのことごとくが当たらない。それどころか――


「うわっ!?」


 風を切り裂いて飛来してくる物体に気づいて慌てて床を蹴る。直後にボクがいた空間を通り抜けて壁に当たったそれがキンッと甲高い音を立てた。その時一瞬目に映ったのはナイフみたいな細身の剣。たぶん投擲用の短剣(ダガー)だ。

 そのままボクも元水路の底に着地――


「わわっ――と!?」


 した瞬間を狙ったように飛んでくる投擲用の短剣(ダガー)をなんとか避けて無理な体勢ながらも応射した。そうすれば男の方も慌てず騒がずひらりと光弾を回避する。

 そうしてボクと男は少し走ればすぐになくなるような距離を置いて対峙した。こっちの一挙一動を見逃すまいとするような視線を受けながらボクも改めて目の前の男を観察する。

 機工の身体の恩恵か、これでも射撃は得意な方だ。これくらいの距離なら走っていても人間大の的を外さない自信があるし、現にさっきも今も覆面の奴らを一発で撃ち抜いた。

 けど、目の前の相手はそれを見てから避けていた。目が良いい人でやっと視認ができるほどの速度の弾丸を、だ。あれだけ撃っても全部避けたってことは偶然じゃないだろうし、さらには短剣(ダガー)の投擲で反撃してくるおまけ付き。しかもその速度が尋常じゃない。銃弾に迫る程の速さと鋭さは、ボクじゃなければまともに当たってたんじゃないかって思わせるほどだ。この人、明らかに強い。でも――


「――そんなのは関係ないかな」


 それだけ呟いて、ボクはなんの躊躇もなく地面を蹴った。


=============


 俺はその界隈では『胡蜂』と呼ばれていた。自慢じゃないが腕利きに数えられる口だ。

金さえもらえりゃなんでもやる。討伐、探索、盗みに殺しなんでもござれだ。

 特に殺しの仕事はいい。たいていはなんの心得もないヤツを始末するだけで大金が転がり込んでくるんだから笑いが止まらない。しばしば腕の立つ護衛がいたり、稀に本人がかなり使えるヤツだったりするがそれはそれで一興。適度な運動は報酬を受け取る時の充足感となって返ってくるんだからな。

 それを考えれば、この仕事は儲けはボロいが刺激としては少しばかり物足りなかった。

 やることは簡単に言えば『警護』なわけだが、その後ろ暗い連中は相場の倍を吹っ掛けてやったのになんの躊躇いもなく了承しやがった。その上三日に一度下水の封鎖区画に秘密裏にこしらえた拠点へ顔を出してくれればいいと来る。

 ここまで来ると逆においしすぎる話に疑念が湧いたが、それも雇用条件の一つ、連中が指定する日と前後一日は拠点に詰めているよう言われて、その通りにした時に納得したもんだ。狂信者って連中はやっかいだが、自分達が信じるものに関わらない限り意外とおおらかヤツが多い。今回もその口だろう。

 さすがに『儀式』とやらは俺でも胸くそが悪くなるようなものだったが、雇われている身で口を挟むことほど馬鹿なことはない。そうである以上、適度に距離を空けてさえいれば何もしなくても大金が舞い込んでくるんだ。それに比べりゃ俺の不快感程度安いもんだ。

 強いて文句を言うなら運動不足か。よほど上手く動いているのか警護が必要になりそうな侵入者の類も一切なく、かといって一つ仕事を受けている以上他の話に手を出すのは筋が通らない。このままじゃ腕が鈍りそうだというのが最近の心配事になっていた。



 この日も契約通りに前の日から拠点に詰めていて、今は『儀式』とやらのために集まった連中を壁にもたれて立ちながら何とはなしに眺めていた。

 どいつもこいつも素顔やナリを隠すためにそろいの黒い覆面に黒ローブを身につけている。俺にも何度か身につけるよう勧めてきたが、こっちは仮にも警護役だ。今まで必要になったことが一度もないとはいえ、あからさまに動きを阻害するような装備を身につける理由にはならない。

 そのうち全員が集まったらしく、『導師』サマとやらが妙にもったいぶった仕草と言葉遣いで『儀式』の始まりを告げたのを聞き流し、その指示に従って『贄』を連れてくる役目の連中がこの場を離れるのを目で追った。

 今回は今までと違い、なにやら『贄』の確保にトラブルがあったばかりかこいつらの存在を嗅ぎつけたヤツがいたらしい。ただ、そいつは何を思ってか街中で人目もはばからずにこの連中のことを探し回った結果、数日と経たないうちに捕まったあげくついでとばかりに『贄』にされるらしい。

 どう考えてもただの馬鹿だが、今までなんの横槍もなかっただけにその変化が少しばかり気になっていた。考え過ぎかも知れないが、こういった勘を馬鹿にすると後でえらい目を見るのはこんな稼業をしてるヤツの間じゃ常識だ。

 その勘が正しかったらしいのは、さっきの『贄』を連れてくるヤツらが消えた水路の先から届いた爆音が証明した。それなりに距離があるのかたいした音量でもなかったが、なにやら得体の知れない呪文を唱え続けていた連中も何人かが気づく程度の音量はあった。

 いぶかしげ――いや、自分達のしていることを考えれば不安げな様子の連中は無視してこの場で一番偉いヤツに視線で問えば、『導師』サマは少し考えた様子でかたわらにいた『遣い』の一人になにやら話しかけ、それを受けて頷いたそいつが下っ端らしい三人に指示を出した。どうやら様子を見てくるように言ったらしくそいつらが急ぎ足で例の水路の方へと消えていき――

 しばらくして聞こえてきたのは再びの爆発音。さっきのより規模は小さいようだが明らかに近づいたそれが三つ、苦痛の悲鳴を混じらせて耳まで届く。

 再び呪文の詠唱が途切れる中、俺は背中を預けていた壁から離れた。


「客のようだ。俺が行く。何人か寄越せ」


 それだけ言って踏み出せば、視界の端でなにやらやりとりが交わされた後、三人ほどの下っ端が俺と共に水路へと踏み入れた。

 水路脇の足場を進んでほどなく、隠す気のない足音が行く手から聞こえてきた。それを聞いてまだ距離があると判断した瞬間、足音の間隔が短く鋭くなる。

 明らかに駆け出している。つまりこの距離でこっちの接近に気づいた?

 まだ気配を捕らえ切れていない段階で向こうに気づかれたのはまずい。咄嗟に飛び退って同行してきた下っ端を壁にする。


「――どうしました?」


 一拍遅れて俺の行動に気づいた下っ端共が足を止めて振り返るが、それに応えるよりも相手の気配を捕らえることに集中する。こいつらも足音が近づいていることはわかっているんだろう、戸惑いながらも進行方向に向き直ろうとして――

 視界の先に水路の明かりを反射した煌めきが見えたと思ったら、まばゆい光弾がなんの前触れもなく飛んできた。


「ぎゃっ!」「がっ!?」「ぐあっ!!」


 それぞれを狙って飛んできた四つの光弾は三つが正確に下っ端共を撃ち抜いた。そして迫る四発目を、咄嗟のことで無駄に大きく飛び退きながらもなんとか回避。すぐ横の水路に降り立ちそいつを目で捕らえた。

 幻想的な虹色の髪を翻す小柄に見えるそいつは、右手に剣をひっさげ、左手の魔導銃を突き出すように構えながらこちらへと走っていた。

 予想外の姿に驚くのも一瞬、すぐさま向けられた魔導銃から次々と放たれる光弾を避ける。不意に想定外の攻撃を受けた先ほどとは違い、視認できる状態なら直線でしか飛ばない銃弾は慣れれば避けるのも難しくなく、隙を突いて抜き打ちざまに投擲用の短剣(ダガー)を投げ放つ。


「うわっ!?」


 的確に頭を狙ったそれは妙に素人くさい悲鳴を上げつつも大きく跳ぶことで回避されたが、着地点を狙い澄ましてもう一投。


「わわっ――と!?」


 そうすれば着地直後の不安定な状態にもかかわらず、思わず感心するほどの身のこなしで回避してみせるどころか、お返しとばかりに崩れた体勢にもかかわらず驚くほど正確な射撃が返ってきた。

 それを危なげなく回避して侵入者とおぼしき相手と対峙。どうも相手は耳にしていた例の馬鹿と一致する特徴を持っているが、それならその両手にある見まごう事なき武器はどうしたのか。まさか捕らえた時にあんな目立つ物を見逃したとは思えず、さりとてこの拠点にあんな壮麗かつ実用的な武器がこの拠点に存在していないのはとっくにわかっている。

 加えて目の前の相手をどうにも読み切れない。それこそ一走り程度の距離にいるにもかかわらず妙に気配が薄く、先ほどの着地した時に響いたのは体格の割には重い音だった。射撃の腕もかなりのものらしく、反応からして身体能力も高いだろう。

 なのに目の前に無造作に立つ姿は隙だらけのガキで、攻撃を受けるたびに声を上げるのはいかにも戦い慣れていない。腕利きなのか、素人か。

 対応を決めかねるが、それでも――いやむしろ気を抜いていられる相手でないことは間違いない。


「――そんなのは関係ないかな」


 改めて気を引き締めたのと同じくして、そんな呟きと共に相手が地面を蹴った。射撃を繰り返しながらみるみる距離を縮めてくる中、こちらも回避しつつ短剣(ダガー)の投擲を織り交ぜる。思った通りに無駄のある動きながらもことごとくが回避され、それでも馬鹿正直に正面から距離を詰めてくるのを待ち受ける。無駄に長引かせる趣味はない。狙うのは交錯の一瞬。

 強敵との刹那の駆け引きを交わす時のようなヒリつく感覚に頭の片隅で意外さを覚えながらも、虹色の頭が間合いに入った瞬間動いた。

 半歩踏み出したのに応じるように型もなく逆袈裟に切り上げられただけの剣を、半身をずらすことで紙一重で回避。そのまま右手の中の投擲用短剣(ダガー)を投げずに目へと突き入れる。

 次の瞬間驚くほどの反応で首を逸らして回避され当然のように突き出した右手が頬をかすめて通り過ぎ――

 この瞬間を狙って流し込んだ魔力に反応して魔導器(クラフト)が起動、手首にはめていた腕輪を起点にしてヌラリと光る刃が飛び出るのを信頼して逸らされた相手の頭を払うように腕を引き戻し――

 致死の刃に気づけない相手が無防備にさらしている首筋を引き裂いた。

 ――()った。

 いつもとはどこか異なる感触を覚えつつもそう確信し、すでに勢いのついている相手を避けるために身体を翻――


「うりゃっ!」


 そうとして気の抜ける声と共に左肩から右の脇腹にかけて灼熱を感じ、そして次の瞬間激しい衝撃と共に宙を舞った。


=============


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