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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
八章 機神と神霊
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迎撃

 軽く作戦会議をしてから掛け声一発、開けてもらった通用門から仲間と共に戦場へと駆け出す。そうして敵の戦列を注視していると、少しして動きがあった。砲撃を続ける中からボクたちに一番近い三機が、その照準をこちらへと向け直す。

 自律型の魔導体(ワーカー)は世間で想われているほど融通が利かない。なんせイルナばーちゃんですら臨機応変な対応なんて無理だったんだ。ならいくら最新型でも戦況に応じた判断なんてできるはずもなく、せいぜいが『障害物を遠距離から破壊』や『探索しつつ目標がいたら攻撃』なんて命令をいくつか組み合わせる程度で、どう変わるかわからない戦況に完全対応できる複雑な命令なんて夢物語。この状況なら大半がボクたちの方へ照準を向けるのが妥当な対応なはずだ。その半面、判断のタイムロスは機会に近いから人間よりもよっぽど早い。

 だから、最低限の魔導体(ワーカー)だけが動きを変えたって言うなら、必ずそれを指示した人間が近くにいるはず。そしてそれはボクの作戦にはとっても都合のいい状況だ。


「――反応が遅いけど適切、やっぱり近くにいるよ! 作戦通りに!」

「「「応!」」」


 頼もしい応答を聞きながら、飛んできた魔力弾を展開した『障壁』で弾き飛ばす。二度三度と余裕で耐え抜いたのを見てボクたちが予想以上の防御力を持ってたことに気づいたらしく、指示が出たのかさらに四機が砲塔をこっちに向けたけど、そのころにはボクたちの方も射程圏内だ!


「そいじゃ、景気づけに一発行くぜ!」


 リクスのすぐ隣を滑るように走っていたケレンが見せつけるかのように手をかざすと、彼の周囲一帯の空間に光の幾何学模様が編み上げられ、かざした手の先を終端として収束した魔力が魔導体(ワーカー)めがけて撃ち出された!

 性質の近いそれはボクの張った『障壁』をすり抜け、魔導体(ワーカー)の間に飛び込むと地面に当たって弾けた。するとどうだろう、着弾地点を中心に半径五ピスカ強がズズッと盛り上がり、それに巻き込まれるようにしてこっちの砲塔を向けていた七機とさらに周囲にいた四機が派手にひっくり返った! ケレンの十八番、魔導式(マギス)の『操土』による足場崩しの規模が大きくなったやつだね。

 そう、ケレンったら魔力生命体だからかマキナ族の性質に寄ったからなのか、とにもかくにも『魔法』を使えるようになっちゃったみたいなんだよね。しかも元が魔導器使い(クラフトユーザー)だからか、邪霊や悪魔が描いたような原始的な魔導回路(サーキット)じゃなくて、人間が洗練していった正規の魔導式(マギス)魔導回路(サーキット)を描けるようで、生きた杖タイプの魔導器(クラフト)みたいになっている。


「おー、いい感じにはまったな。あと頼むぜ、相棒!」

「ああ、任せてくれケレン!」


 それを見てスピードを上げると、ボクよりも前に飛び出て肉迫するリクス。『障壁』の範囲外だけど、向こうが対応しきれていないおかげで砲塔は全部外壁を睨んだままだから問題なし。


「はあっ!」


 ひっくり返ってもがいてる一機に駆け寄って、渾身の勢いで武器を叩きつける。まともに身動きできない状態とは言え、腐っても戦闘用の魔導体(ワーカー)、生半可な刃なら攻撃した方がへし折れるだろうけど、リクスが持っているものは違う。

 白金の地金が高熱を帯びて紅くなっているそれは、まごうことなき緋白金(ヒヒイロカネ)の輝き。カラクリ謹製の蓄魔具(カートリッジ)対応式量産型ガンブレード、ホープ! ロヴも納得の逸品が今のリクスのメインウェポンだ。と言ってもこれまでの幅広剣(ブロードソード)とサイズ感が一番近かったからで銃としての運用はまだまだおまけだけど、剣としての機能は一級だ。

 綺麗に関節部を捉えたホープは鈍い音共に目標を叩き斬り、目標の戦闘能力を確実に奪った。そのまま立て続けに関節へ攻撃を加えて、ほどなくスクラップの一丁上がり。以前のアドバイスを覚えてくれてたみたいで何よりだ。


「おっと悪いな、俺が見てるぜ」


 そんなところへようやく狙いを変えることができた魔導体(ワーカー)が砲撃を放ったけど、ケレンが素早く『障壁』を張ってインターセプト。そのままお返しとばかりに『雷撃』を放ってショートさせている。さすが幼馴染、連携はバッチリだ。


「こっちも行くよ!」

「ええ」


 少し遅れてシェリアと共に戦列へ突入。こけてるのは相方に任せて、ようやくこっちの方に砲塔を向けようとしている一機めがけてレインラースの腹をフルスイング! ゴシャッって感じのいい音と共に、そのまま直線状の機体も巻き込んで派手に吹っ飛んだ! おっし、これで四分の一くらいは中破くらいに持って行けたかな?

 そんなボクの背後では、シェリアがひっくり返っている魔導体(ワーカー)を素早く的確に置物へと変えていってくれている。その手にある握剣(カタール)も当然緋色に染まる白金製。元々実力は申し分なしなスピードファイターに折れない欠けない刃が備わったんだ。まさに鬼に金棒、おかげでリクスの比じゃない速度でガラクタが量産されていく。

 ちなみにシェリアの武器だけど、カラクリで生産していた武器の中じゃしっくりくるものがないからってわざわざ新造したやつだ。その名も『ジョイ』シリーズ。新造したとは言っても型を取って鋳造しただけだから、ホープの時ほど労力はかかっていない。今は先行量産型しか作れてないけど、そのうちボクの武装のラインナップにも加えてようかと画策中だったりする。友達とお揃いの武器っていいよね!


「はい場所交代!」

「わかった!」


 もう一回ボーリングもどきを敢行して被害を拡大させたところでリクスチームと戦場を入れ替える。さすがに攻撃力の違いがあるせいで、向こう側の無事な機体がリクスを狙い始めてたからね。半分以上ひっくり返ってるこっち側なら安心して任せられる。


「――ってちょっとケレン、デコボコさせ過ぎでしょ!? 障害物多すぎ!」

「おう悪い、何とかしてくれや!」

「ボクはいいけどシェリアもいるんだからね!?」

「これくらい大丈夫よ」


 遮蔽も兼ねたのか、魔導体(ワーカー)をひっくり返すために使われた『操土』の小山が乱立しているのが予想以上に邪魔だったから文句を言っておいたけど、シェリアはお構いなしに射線を取ろうとまごついている魔導体(ワーカー)に襲い掛かっていく。心なしか今のフィールドの方がさっきよりも動きやすそうだ。まあボクもぶっ飛ばしとその巻き込みで楽ができなくなったってだけで、ちゃんと倒して行けばいいだけだから問題ない。

 そうして『暁の誓い』だけであっという間に半壊状態になった魔導体(ワーカー)部隊は、もう完全に隊列を崩していた。攻撃の届いてない端っこの方のはまだ外壁に向かって砲撃してるけど、それ以外は明らかにボクたちを排除するべく動いている。

 でもシェリアは動き回ってもボクの張ってる『障壁』の内側からは出ないように立ち回ってるし、リクスのところはケレンがしっかり防御してるから、砲撃はほぼ無効化してるせいで数の有利を活かせてない。そして近接戦闘じゃ場慣れしてる上に有効打を持ってるボクたちの方が有利だ。


「よーし、ここまで状況整えたら――」


 戦況を見てそう漏らした折も折、鬨の声が聞こえたかと思うと固く閉ざされていた門が大きく開き、内側で期を窺っていた騎士団の人たちが雪崩を打って突撃してきた! よし、打合せ通りのナイスタイミング!

 ボクたちを囲う輪の外側にいた魔導体(ワーカー)慌てたように騎士団へ砲撃を向けるけど、こちら側の戦力には守りなら追随を許さない神霊様がいる。門の上で堂々と戦場を見下ろしているラウェーナが手をかざせば、騎士団の人たちを守るように『障壁』が張り巡らされ、石壁を簡単に抉る光弾も泡がぶつかるよりもあっけなく霧散するしかない。

 ここまでボクたち相手だけでも苦戦してる状況に、さらに神霊直々の守護を受けた騎士団のご登場だ。まだ剣や槍が主流だけど銃手もいる近代寄りの統率された戦闘集団は、最新鋭の戦闘用魔導体(ワーカー)と言えども十分に脅威。すでに半壊状態で陣形のへったくれもない現状なら――


「ウル、こいつら退却しだしたよ!」

「よっし、予想通り!」


 リクスが声を上げた通り、動きのとれる魔導体(ワーカー)は砲撃を中断すると、町から離れる方向へと移動し始めていた。ラウェーナから最近の襲撃の話を聞いてからひょっとしてとは思っていたけど、やっぱりだ。

 邪教連中はラウェーナを倒すことを狙ってるんだろうけど、そもそも世界規模で奇跡をお届けできる実質神様レベルの魔力生命体とかどうすりゃいいんだって話だ。だからちょっとずつでも削って行こうとしてるんだろう。神霊もなんだかんだで魔力生命体なんだから、量産した魔導体(ワーカー)の物量で押せば行けるかもしれない。悪魔と神霊の直接対決だと双方消耗するけど、魔導体(ワーカー)にやらせればラウェーナは性質上守ることしかできないし、万が一殴り返されてもダメージは魔導体(ワーカー)だけだ。意外と有効だと思うんだよね。

 実際の話、オーラル学院襲撃の時は動死体(ゾンビ)の圧倒的物量に霞んでたけど、ここに来たのと同型の魔導体(ワーカー)を大量投入してたわけだから、手段としては意外と現実的だったんだと思う。でもラウェーナの話を聞く限りじゃ、襲撃は一度につき一ヵ所で、ついでにある程度被害が出ると撤退していたとのこと。

 距離を無視できて物量に任せるならできるだけ同時かつ多くの場所を襲撃した方がいいし、最後の一機まで使い潰した方が迎え撃つ側の被害が大きくなるのは誰だってわかる話だ。なのにそうしない上に全滅しないうちに引くってことは、戦力に限りがあるからだろう。まあ最新鋭の魔導体(ワーカー)を無尽蔵に用意できるかってことだから、さすがの邪教徒共にも無理があるってことだね。


「シェリア、お願い!」

「任せて」


 逃げ遅れている魔導体(ワーカー)と不自然じゃない程度にやり合いながら声を上げれば、頼もしい返事と共にシェリアが撤退中の一機に肉迫し、斬りつけるフリをしながら一方の握剣(カタール)を手放すと、装甲の隙間へ貫手のように触れた。

 一拍を置いて魔導体(ワーカー)の反撃を危なげなくかわすと、手放した結果装甲に弾かれ宙を舞う握剣(カタール)を器用に回収しながら素早く距離を取る。そうすれば攻撃を受けた魔導体(ワーカー)は追撃に移ることもなく、他の機体と並んで撤退していった。


「……行けた?」

「上々よ」

「さすが!」


 逃げ遅れの最後の一体をぶった切りつつ首尾を確認すれば、澄ましたお顔での成功報告が返ってくる。よし、ここまではほぼ作戦通りだ。あとは肝心のラウェーナだけど。


「どう、ラウェーナ? 位置わかる?」

「うん、今のところ大丈夫」


 被害らしい被害もなく魔導体(ワーカー)の撃退に成功して勝鬨を上げる騎士団の人たちのそばにいたキーパーソンに確認すれば、順調に進行中だってことが確認できた。よーし、後は最後まで気づかれなければ完璧だね。


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