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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
八章 機神と神霊
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対話

「ねぇケレン、キミってそもそもどうやって喋ってるかわかってる?」

「なんだ突然? そんなもん普通に……いや待て、そういや今の俺ってどうやって喋ってんだこれ?」


 確認のつもりで聞いてみたけど、どうやらケレン的には何の自覚もなかったらしい。まあ普通はいつもどうやって喋ってるかなんて意識している人はいないだろう。体の構造が喋れるようにできてて、日常的に使ってるから喋れるものは喋れるわけだし。

 じゃあ全身もれなく機工や魔力でできてる人はどうやって喋ってるのか? マキナボディは骨格と筋肉は生身を参考にしているけど、内臓はその限りじゃないから肺も気管もないし、当然声帯もない。ケレンも人型を取っている間なら無意識に生前の身体を模っているかもしれないけど、今みたいに機魂器(アニマキナ)に籠ってる時とかどうやってるんだって話だ。

 ボクも生まれた当初は生身を再現したって聞いてアンドロイド的なイメージを持ってたけど、イルナばーちゃんから構造について教えてもらった時は疑問に思ったもんだ。それを口にしたら、神霊っていう実例があったからそれまで気にしてなかったばーちゃんも興味を持って、色々調べた結果が『思念として魔力に乗せて発しているんじゃないか』っていう仮説だった。片手間の研究だったから実証までは行きつかなかったものの、意志一つで操ったり思念を宿した不思議生命体になったりするのが魔力なんだから、それくらいできてもおかしくないだろう。

 

「――と言うことでケレン、ちょっと出てきて神霊様の話をもう一度聞いてみて?」


 その辺りを軽く説明しながらお願いすれば、少し渋られたけど人型を取ってくれる。そうして試しに神霊様に喋ってもらえば思った通り、ケレンにもしっかりと言葉が聞こえるようになった。


「どうなってんだ?」

「たぶんだけど、機魂器(アニマキナ)の容器にしてる魔導器(クラフト)のせいだろうね」


 機魂器(アニマキナ)はほぼ無敵なマキナ族唯一の急所と言っていい。だから専用の魔導器(クラフト)で囲って十分な防御力を持たせているわけだ。

 そして精製過程からわかるように魔力が大きくかかわるアイテムだから、魔力攻撃が直撃すればそれもダメージになる。そうなれば当然、他の魔力の干渉を防ぐための仕組みも実装しているわけで。

 

「そのせいで神霊様の思念が乗った魔力を遮断しちゃってるんじゃないかなって」

「あー、なんかそんな機能があるって言ってたっけか。で、俺はこうすればその外側に出られるから、こっちの状態になれば遮るものもないから聞こえるようになると」

「そういうことだね」

「えっと、つまりウルは神霊の声がどうやっても届かないってこと?」


 たどり着いた結論にケレンは納得した顔になるものの、察しのいいリクスが困り顔で根本的な問題を指摘してくれた。確かにボクはどう頑張ってもケレンみたいに機霊化できないから、このままだと胸を掻っ捌いて自分の機魂器(アニマキナ)を取り出さない限り神霊様と会話ができないってことになる。さすがにボクもそこまで猟奇的なことはしたくないし、やられた方も困るだろう。

 でも、たぶんその必要はないだろう。

 

「神霊様、ちょっとお手数だけど、ボクに強めに魔力をぶつける気持ちで喋ってくれないかな?」


 そう頼んでみたところ、当人は少し考えるような時間を置いて頷いてくれた。そうして気合を入れるかのような顔で口を開く。

 

「――私の声、聞こえる?」

「あ、聞こえた聞こえた! 予想通り!」


 気持ち小さ目な気がするけど、無事に神霊様の声が届いた。邪霊や悪魔の声はちゃんと届いてたことを考えると、要は『強度』の問題じゃないかって思ったんだけど、まさにその通りだったわけだ。

 これは想像だけど、例えるならボクはしっかりした造りの家の中にいる状態だ。その上でたぶんだけど、神霊様は善性の塊みたいなもんだから、誰かに語り掛ける時も優しくそっとって感じなんじゃないかな? でもそれだと壁越しじゃどう頑張っても聞こえない。逆に邪霊や悪魔みたいに相手の迷惑を考えず喚き散らしてるから、それが壁越しでもいやでも聞こえるってことだ。

 ただ、この理屈で言ったら声を乗せた魔力は通常の魔導式(マギス)よりも相当強力ってことになっちゃう。その辺りはなんか別の法則が働いてる臭いから、その内研究してみようかな。うまくいけば夢のテレパシー装置とか作れそうだよね。


「あれ、でもお前、それならなんで俺もウルも、お互いの声とか他のマキナの連中の声とかは聞こえてたんだ? 特に意識的に魔力出してたわけじゃないよな?」

「ああ、うん。そっちは確証ないけど、たぶん魔力の性質が近かったせいじゃないかな?」


 その辺りの説明をしたところ、首を傾げたケレンに推測を伝える。ボクたちの中枢部分に使っている対魔力防御も、ざっくりと言ってしまえば他と同じく異なる魔力同士が相殺するっていう原理を利用している。

 だからマキナ族同士レベルで魔力の性質が近ければほぼ素通りするだろうし、機霊化してからケレンの魔力もほぼ同じになってたので、同じ理屈が当てはまったんじゃないだろうか。蛇足だけど、ケレンの魔力の性質が変わったから登録者(レジスター)の登録をし直したりもした。

 何はともあれ、これでようやく話ができるようになったわけだ。わざわざ大声出してもらってるような形になってるのがちょっと申し訳ないんだけど。


「神霊様、試してもらってなんだけど、余計に魔力を放出するのって疲れたりしない?」

「大丈夫。やっとお話ができた」


 そう言ってふんわりと笑った神霊様は、スッと近づいてきたかと思うとボクの頬に片手を添えた。ちょ、共闘した経験があるとはいえいきなり距離近くない!?


「改めて、初めまして、遠き同朋。私は、皆からラウェーナと呼ばれてるよ」


 なんか微妙に同類扱いされた? そう言えば盟主にも同じようなこと言われたし、魔力生命体的にはマキナ族も同じカテゴリに入るのかな? 確かにどっちかって言うと本体は機魂器(アニマキナ)の方で、マキナボディは代えも利くし。


「えーっと、じゃあボクの方からも初めまして。ボクはマキナ族、始まりの機人でイルヴェアナ・シュルノームの子、ウルだよ。あの時は助けてくれてありがとう」

「イルヴェアナ・シュルノーム。聞いたことある名前だ。皆によくしてくれたとか。お元気?」

「残念だけど、ちょっと前に帰らぬ旅立ちを迎えたよ」

「そう……ごめんなさい、良き旅路であらんことを」

「気にしないで。もう色々と整理はついてるから」


 そのままの流れでリクスたちもそれぞれ神霊様改めラウェーナに名乗って歯が一段落。いろいろ聞きたいことはあるけど、とりあえず本題から取り掛かるのがいいかな。


「それで、ボクに招聘依頼を出してたって聞いて来たんだけど、何の用かな?」

「依頼?」


 え、そこで首傾げるの? 依頼した当人が依頼について理解してないってどういうことかなー。陰謀か、陰謀なのか?


「僭越ながらラウェーナ様、お呼びになられたお相手が臨険士(フェイサー)とのことでしたので、依頼と言う形を取らせていただきました」


 だけど脇に控えてた神官の人が捕捉を入れてくれたおかげで納得がいった。そりゃ神霊様が直々に組合(ギルド)に出向いたとかだったらもっと大事になってただろう。この様子だと当人はボクに会いたいって要望だけ出して、神官の人の誰かが招聘依頼って形にしたんだろうね。


「依頼……うん、いいかも」


 対してラウェーナも何かしら納得したようで、一つ頷くと改めて言葉を発した。


「ウルに依頼したい。『悪魔』退治、その手伝いを」

「……『悪魔』ってこの前力を合わせて撃退したあいつ?」

「うん」

「詳しい話、聞こっか」


 およそ三月前、ボクがオーラル専修学院留学の護衛中の襲撃事件で姿を現した『盟主』と呼ばれた悪魔。ボクが今まで遭遇した不死体(イモータル)の中でも飛び抜けてヤバいあいつは、ラウェーナ的にも見過ごすことはできないとのことだ。なにせ世界が好きすぎる奴の成れの果てと、何もかも滅ぼしたいくらい世界を憎んでる奴の極致だ。どうあがいたって仲良くなんてできるはずもない、まさに不倶戴天の相手だ。

 そしてあの時は長期戦が確定したところにタイミングよくラウェーナが現れてくれたおかげで何とか撃退まで持って行けたわけだけど、どうも神霊っていうの悪魔の存在を感知できるらしい。

 なので怨敵の気配を察知したラウェーナは急いで分け身と言うか映し身と言うか、そういう意識が同期した分身を飛ばしたとのことだった。曰く、急に現れた気配を不審に思って偵察するつもりだったらしい。で、悪魔が確認できたら本体がやってきて対抗すると。

 だけど、そこで単体で邪竜モードの悪魔となんとか渡り合ってるボクを発見。同時にヤバい悪魔の存在も確認できたけど、周囲は怨念魔力が吹き荒れ過ぎてて本体が転移できるような状況じゃなかった。

 そこで精霊体(スピリット)の性質として攻撃手段の乏しい分身ラウェーナは、ボクに協力することで悪魔を弱らせながら転移の隙を作りだそうとしたわけだ。けど、その前に肝心の悪魔がその思惑を察知したのか撤退した。これがラウェーナ視点の事の顛末だったそうだ。


「アレは滅ぼさないといけない。でも、今はどこにいるかわからない」

「なんで――いや、さっきあいつが暴れ出したやっと気づいたって言ってたっけ? それまでもどこかにいたのは明らかなのに」

「うん、アレはそれまでもどこかにいた。今もどこかにいる。でも、わかったのはあの時だけ」

「はーん、つまりはかくれんぼが得意ってわけか、その悪魔」

「……それってまずいんじゃないか、ケレン? 悪魔ってあれだろう、武闘大会の時に出てきてウル達が何とか倒した」


 核弾頭よりタチの悪いマジもんの厄災がずっと世界に潜伏しているって言う事実に、今更ながらリクスが顔を青くする。ボクも『うわぁ』って思う気持ちは一緒だけど、同時になんか記録に残る『悪魔』らしくないと思うんだよね。過去の事例は数少ないけど、どれも一度現れたら滅ぼされるまで見境なく暴れまくって甚大な被害を残していったってあるのに、盟主はどうにもコソコソしてる感じがある。実はまだ弱くて雌伏中なのかって可能性もあるけど、あいつとバトった一帯は向こう数年不毛地帯になるみたいな報告を聞いたし、何より相対して感じた尋常じゃないプレッシャーからそうじゃないってわかる。


「アレを探す手伝いはみんなにお願いしたから、きっと見つけてくれると思う。でも、みんなは戦うことが好きじゃないから」

「探すのは教会がやるから、討伐に手を貸して欲しいってこと?」

「うん」


 そんなの個人に頼むことじゃないと思うけど、悪魔退治となれば複数国家の連合軍でゴリ押しするしかないから、単体で渡り合えるボクを持ち出さない理由がないらしい。まあ確かにあんな怨念渦巻く戦場とか、一般人なら近づいただけで死にかねないだろうしね。プラチナランクなら案外平然としてそうな気がしなくもないけど、あの辺は人外領域だからノーカウントで。


「どうかな?」

「どうって……うーん、あいつをぶちのめす機会がもらえるっていうのは願ったり叶ったりだけど……」


 こちとらあいつらのせいでいろいろメチャクチャにされた分があるからぶっ飛ばしに行けるのはありがたいけど、万全の態勢で突撃するためにはリミッターの介助が必要だ。そうなるとリクスたちには近くまで同行してもらわなきゃならないけど、それはまた仲間を危険な目に合わせることに他ならない。比喩でも何でもなく死ぬような目に遭ったって言うのに、また同じようなことを彼らに求めるのはちょっと――

 そんな思いを口にしようとして、だけどそれは不意に鳴り響いた乱打される金属音に遮られた。町中に響き渡っているだろう焦りを感じさせるような音からして、警報の代わりかな?


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