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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
八章 機神と神霊
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不変

「えっと……申し訳ないけど、ロック。ケレンの言う通り、必要もないのに依頼を出すつもりはないよ」

「……いや、オレの方こそ考えなしだった。すいませんでした」


 ため息を吐き、申し訳なさそうな顔をしながらもキッパリとノーと言い切るリクスに、ケレンの言葉がクリティカルしたらしいロックは反省の色を示す。


「だけど、おれ達はお互いに臨険士(フェイサー)だ。相手がどんな風に活動するかなんて、縛れるものじゃないだろう?」


 そしてどこか気取ったセリフを続けたのはリクス。言った当人は何やら自信ありげな様子だったけど、後輩ズは戸惑い気味にお互い顔を見合わせている。ボクはなんとなく言いたいことがわかったけど、これは滑ったかな?


「あ、あれ? えっと……」

「おいリクス、慣れないことはしない方がよかったんじゃないか? しかも通じてないようだぜ」

「う……お、おれだってケレンやウルみたいにかっこいい話し方もできるって……」

「不慣れな後輩相手にやろうとしてる時点でねーよ。こういうのは言う方も聞く方も場数がいるんだぜ、相棒?」


 思ったような反応がなくて戸惑うリクスに容赦なくダメ出しをするケレン。うん、後輩相手に格好つけたい気持ちはわかるけど、盛大に滑ってちゃカッコ悪いよね。しばらくはこのネタでからかえそうだ。


「ほらどうした? 首傾げてる後輩にわかるように説明してやれよ」

「お前……わかって言ってるだろ、ケレン!?」

「自分の発言は自分で責任取らないといけないんじゃないかぁ? このままだとよくわからないことを言う先輩ってなるんじゃないかぁ!?」

「く……わ、わかったよ! あー、その……『暁の誓い』として依頼を出すつもりはないけど、もし君達が同じ方面の依頼を受けたなら、途中まで一緒に行くくらいはできるよって言いたかったんだ」


 追い打ちで自分の発言を解説するという羞恥プレイもこなすハメになり、傍目にわかる程度に顔を赤くした我らがリーダー。だけどその甲斐あって、リクスが言いたかったことを理解したロックは目に見えてテンションが上がっていた。


「――明日、絶対に合う依頼を受けるぞ!」

「え、あ、うっス?」

「……好きにすればいいじゃん」


 そうしてお通夜気味な雰囲気から脱したロック達は、今日の依頼報告のために約一名の軽い足取りに引っ張られるようにして受付に向かった。元気になったのはいいけど、肝心なことわかってるのかなあれ?


「明日条件に合う依頼が張り出される確率については考えてるのかな?」

「まあないわけじゃないんだから細かいとこ気にすんなよ、ウル! でないとそのうち禿げるぞ?」

「種族的に禿げないもーん。伸びもしないけどさ」


 まあボクたちも同じ条件で探してるわけだけど、どっちかっていうとついでだからロックたちに取られたとしても特に問題はない。あとはちょうどいい依頼がなくてもついてきそうな雰囲気が少し心配だけど、ブロンズランクの報酬相場から考えたら依頼もなしに遠出する余裕はないだろうし、さすがにそうなったらブロンズランクの苦労を知ってるリクスも止めるだろう。

 次にボクたちは、しばらくぶりとなる『空の妖精』亭に向かった。ずっと定宿にしてたけどここ三月ほどロクに泊まったりしてなかったから、置きっぱなしにしてたキャンプ用品とかの大型備品がどうなってるか少し心配だね。


「いらっしゃいま――ウル! それに『暁の誓い』のみんな!」

「やっほーイスリア、久しぶり」

「『久しぶり』じゃないわよ、もう!」


 宿に入ったとたん、イスリアは座っていた椅子を蹴立てて立ち上がったかと思うと、カウンターを飛び出してものすごい形相で詰め寄ってきた! え、なんでそんな顔してるのなんかめちゃくちゃ怒ってる!?


「邪教のあいつらがまた何か大暴れしたって聞いて心配してたんだからね!? いやまああなたは心配いらないのかもしれないけど、なのにぜんっぜん顔も見せないで!」

「あー……うん、ゴメン。一気に色々あってそこまで気をまわしてる余裕がなかったって言うか……」

「それくらいわかってるわよ!!」


 そっかーわかってるのかーならどう言えばいいのかなー。

 うかつに何か言おうなら倍の勢いでまくしたてられそうな剣幕に若干遠い目になったけど、一度叫んで少しは発散できたのか、大きく息を吐くと仕方ないって言いたげな笑みを浮かべた。


「まったくもう……大きな荷物は置いてあるけど本当に全然帰ってこないで、てっきりお見限りになったのかと思ったわよ」

「いやー、さすがに大事な装備を置いてよそに行ったりはしないかなー……あ、その荷物どうしてる? 長く空けすぎて捨てちゃったとか?」

「大事な常連様の荷物よ、ちゃんと倉庫に保管してあるわ。埃を払うくらいはしてるけど、後で痛んでないかは確かめておいて」

「わかったよ。ありがとう」

「それと……」


 そして落ち着きを取り戻したらしいイスリアは、いつもから一人足りない顔ぶれを見て眉を八の字に下げると、相手を気遣う優し気な声になった。


「リクスさんから聞いたわ。ケレンさんのことは本当に残念だったわね。臨険士(フェイサー)御用達の宿屋なんてやってると、帰ってきたお客さんが減ってたり、そもそも誰も帰ってこなかったりってことは時々あるけど、あなた達は特に仲が良かったのを見てたから余計にそう思うわ」

「あー……」


 そんないたわる言葉をもらって何とも言えない気分になったボクは、チラリとリクスの腰――ここに来るまでにしれっと本体に戻っていたケレンに視線をやった。およそ二月前にリクスとシェリアがカラクリへ向かう途中でレイベアに立ち寄って、その時にイスリアへ事の顛末をかいつまんで伝えたことは聞いていた。その時はまだケレンが機霊になってなかったみたいで、復活できるかも未確定だったから触れてなかったとのこと。

 だからケレンについては当然知らないわけだけど……さっきも思ったけど、身内としてはかなり微妙な気持ちになるよね。いや気遣いは第三者からしたらむしろ当然で、一度死んだ人間が形は変わったとしてもピンピンしてる方が非常識なのはわかってる。


「うん、大丈夫。その辺は色々解決したから」

「そう……いや待って、『解決』? 吹っ切れたんじゃなくて?」


 微妙な言い回しに耳ざとく気づいたイスリア。どうせこれからもここにお世話になるんだし、さっさと顔合わせしてもらうとしよう。


「ほらケレン、もったいぶってないで姿見せなよ」

「いやウル、お前な……せっかく奇跡の再会だってのに、もうちょっとこう、劇的な演出とかしてくれてもいいんじゃないか?」

「あいにく劇作家とかじゃないんで無理な相談ってもんだね。やりたいなら自分でどうにかして」

「好きなようにやらせてくれるなんて、ありがたくって涙が出るね」

「今って涙出せるの?」

「いや無理なんじゃないか?」


 なんて馬鹿なやり取りを挟みつつ、姿の見えない声に目をぱちくりとさせるイスリアの前で、再び人型を出現させるケレン。


「ごきげんよう、愛しのイスリアさん。不肖ケレン、あなたに会うために旅立ちから戻って参りました!」


 そして仰々しくお辞儀をしてみせる姿を見て最大限に目を見開いていたイスリアは、たっぷり二十四秒の沈黙を挟んで胡乱気な目をボクに向けた。


「……どういうことなの、ウル?」

「いろいろと奇跡的なことが重なって、『聖霊』みたいな何かになったんだ、ケレン」

「セイレイ……え、『聖霊』? ケレンくんが? うっそぉ……!?」

「嘘じゃないですとも! これも愛のなせる御業! この奇跡を愛しのイスリアさんに捧げ――」

「今そういうのはいいから!」


 例のごとく芝居がかった言い回しで迫りくるケレンをバッサリ斬り捨て、顔を押し返そうとした手がそのまま突き抜けていったことでギョッとした顔になるイスリア。まあ見た目は生前のままでも実体のない魔力の塊だからそうなるんだよね。逆にケレンから触れることもできないわけだけど。

 それから少しバタバタしながらかいつまんで話をすれば、イスリアもようやく納得がいったようで落ち着いてくれた。


「はー……お客さんから色々と奇跡的な体験を聞いてきたけど、今回はその中でもとびっきりね。世界って本当に不思議」

「それはボクも思う」


 大きな声じゃ言えないけど、ボクなんか転生なんてとびっきりの不思議の実体験者だし。でもまあ、魔法っぽいのがありなこの世界なんだし、逆に何ができてもおかしくないって吹っ切れちゃった感じはあるんだよね。


「でもよかった。あの時のリクスさん、今にも無茶しそうな顔してたから」

「……はは、心配させてすみません」

「本当に、ここまであたしを心配させる臨険士(フェイサー)なんてそういないんだからね? ――さてと」


 気まずげなリクスに悪戯っぽく微笑んだイスリアは、気持ちを切り替えるようにパンッと両手を打ち合わせた。


「いいことがあった日には盛大に祝わないと嘘よね! 夕食はたっぷり用意しておくから、ぜひたくさん注文してね」

「そのいいこと、ボクたち的には二月くらい前の話なんだけど?」

「固いこと言わないでよ。せっかくなんだしあたしにもお祝い気分を味わわせてちょうだい。腕によりをかけるからさ、父さんが」

「そこは『あたしが』ってなるところじゃないの」

「いいのよ、あたしは父さんに『厨房には入るな』って言われてるから!」

「宿屋の娘としてそれどうなの?」

「料理なんてできる奴に任せればいいじゃないか。そのくらいでイスリアさんの魅力が減ることはないさ。そうでしょう、イスリアさん?」

「そうね。だからあたしの旦那様には料理ができる人じゃないとね」

「おいリクス、今度俺にも料理教えやがれ!」

「え、いや構わないけど、ケレンはその体で料理なんてできるのか?」

「包丁くらい持てなくてもいくらでもやり様はある!」

「それから多くは望まないけど、ちゃんと触れ合える人がいいかな~」

「ウルー! どうにかしてイスリアさんに触れるようにしてくれー!」

「……いい加減、うるさいわね」

「げふぅ!?」


 そのまま騒がしくすったもんだしてたら、痺れを切らしたらしいシェリアの魔力パンチが中心のケレンをぶっ飛ばした。魔力生命体だから物理は効かないけど、ちょっとでも魔力を纏っていたらその限りでもないのだ。ただ、誕生の経緯のせいか魔力の性質がボクと近いらしく、お仕置き効果が激減したのがちょっと寂しいかな。

 そんなバカ騒ぎを挟みつつも無事に今日の宿を確保して、せっかくだから晩御飯はちょっと豪勢に行くことが大決定。食事が不要になったケレンが拗ねるポーズをしたけど、イスリアがわざとらしく残念そうにしたらコロッと態度を翻したから問題なしだね。

 さて、明日の準備を整えたらガイウスおじさんに顔を見せに行かないと。とりあえず機霊のことは報告しておくべきだよね。本人を連れて行った方が話も早いと思うんだけど、たぶん嫌がるだろうなぁ。

 あ、そうだ、今度アリィのところにケレンを連れて行こう。きっといい意見を聞かせてくれるはずだよね。でもお互いそのまま時間を忘れて熱中しそうだから、時間に余裕のある時にね。




 翌日、新しい登録証(メモリタグ)の受け取りと依頼の物色に組合(ギルド)へやってきたボクたちを待っていたのは、一枚の依頼書を手に目を輝かせるロック。どうやら毎朝恒例の依頼争奪戦で新しく張り出された、ちょうどの南の方に遠出が必要な採取依頼を確保できたらしい。その運の良さと執念は逆に感心するしかよね。


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