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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
八章 機神と神霊
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招致

 魔導車のハンドルを握り、見慣れた賑わいを見せる大通りを軽快に走らせることしばらく、久しぶりに見る臨険士(フェイサー)組合(ギルド)の看板が目に入った。


「もう着くよ、シェリア、リクス!」


 ブレーキを踏んで減速しつつ後部座席に知らせれば、応じる声と共にごそごそと降りる準備を始める二人がバックミラーに映る。出発当初は物珍しそうにしていたけど、さすがに三日目ともなると慣れるらしい。

 ほどなく組合(ギルド)のすぐ前に停車して運転席から降りると、何とはなしに背伸びをした。いや別に疲れるような身体じゃないけど、ずっと運転してたから気分的にね。

 さてさて、おおよそ三月ぶりのレイベアで臨険士(フェイサー)組合(ギルド)ってことで何か変わってることはないかとその辺を見回してみたけど……なんだろ、風景的には特に変わりないんだけど、妙に周りの視線が集まってる気がする。


「なんか注目されてる? 久しぶり過ぎたかな?」

「どっちかっつーと俺らの乗ってきた魔導車が珍しいんだろ。見たことない型なわけだし」

「なるほどそっちか」


 その声に納得して振り返ると、そこにあるのはカラクリからここまで乗ってきた魔導車の『ゲイルズィル』。前の世界の記憶にある軍用ジープを参考にして創り上げた逸品で、全体的にレトロ風なこっちの世界の車両と比べると変わった見た目だろう。全体的に独特な魔導回路(サーキット)が刻まれてるのもより一層ってところかな。

 まあ前の世界のボクも車の詳しい構造なんて知らなかったようだから、ギアチェンジとかサスペンションとかは曖昧な情報を基に試行錯誤を重ねたし、中に使われてる技術的には完全にこっち仕様だから、異世界由来なのは実質外観くらいなんだよね。

 そしてカラクリだとこっちのタイプが基本だから、逆に現代の一般車両を手に入れる方が難しい。なので注目を集めちゃうのは仕方がないって割り切るしかないね。

 それはそれとして、シェリアとリクスが下車して、車内に荷物が残ってないことを確認してからゲイルズィルに手をかざす。


呼出(アウェイク)虚空格納(ホロウガレージ)――っと」


 術式登録(ショートカット)で『亜空接続』を呼び出して、魔導車一台を亜空間に収納。これで路上駐車で往来の邪魔になることもないし、誰に盗まれることもないから防犯もバッチリだ。

 ちなみに、収納試験当初は術式が甘かったりマーキング用魔導回路(サーキット)の規模が足りなかったりで、同型機が三台帰らぬ車となりました。おかげで十分データが取れたから、今じゃそんなこともないのだ。


「……何度見てもすごいよね。また召喚できるんだろう?」

「もちろんだよ! まあ約束通り、緊急事態でもない限り使うつもりはないから安心してね」

「そうしてくれると助かるよ。さすがにカッパーランクなのに魔導車持ちなんて不相応だからさ」


 ついさっきまでゲイルズィルがあった空間を眺めながら、何とも言えない顔をするリクス。この辺はできる限りの備えをしておきたかったボクと、ちゃんと段階を踏んだ上で臨険士(フェイサー)として強くなりたいリクスとの妥協点だった。確かに何でもかんでも楽しちゃ面白くないっていうのはわかるから、ボクとしても選択肢が増やせた時点で満足してるので問題はない。


「……余計に注目されてるみたいだけど?」


 そんなシェリアの指摘に再度周りを見れば、露骨に何人もが足を止めて真ん丸にした目をこっちに向けていた。うん、いきなり魔導車一台がきれいさっぱり消えてなくなったら普通驚くよね。解せる。


「あー……まあ今更だし気にしない方向で行こう!」

「ははは……」


 開き直って組合の入り口をくぐるその後ろから、疲れたような笑い声のリクスと溜息を吐くシェリアが続く。

 今はもうお昼をだいぶ前に過ぎた頃合いだ。まばらだけど誰もいないわけじゃないロビーは、ボクたちが入ってきて一拍を置くと軽くざわめきが起こった。護衛依頼からこっち三月近く顔を出してなかったせいか、『久しぶりに見た』とか『くたばってなかったんだな』的な声をマキナイヤーが拾ってくる。そして当然、人数が足りないことに気づく人もいるようだ。

 有名になったもんだなーって内心思いつつも、いちいち相手にする理由がないから、ひとまずラウェーナ神霊教会からの指名依頼についてチェックしよう。


「こんにちはー。久しぶりでーす」

「ウルさん! やっと来てくれましたか!」

「えーっと、色々あったからさ。顔出さなくてゴメンね?」

「本当ですよ! 護衛依頼の報告時にでもちゃんと来てくれていたら、教会からの指名依頼が二月も未処理なんてことにならなかったんですからね! ……その、ケレンさんのことは残念だったと思います」


 ガラガラの受付越しにヘラっと挨拶してみれば、顔なじみの受付嬢の人が驚きと安堵が入り混じったような顔で出迎えてくれた。一応謝意がなくもないことを伝えればお小言が飛んできたけど、最後に曇り顔で付け加えられた一言には苦笑だけ返しておく。


「ガイウスおじ――前公爵さんから聞いたよ。どんな内容なの?」

「えー……形式的には招致依頼ですね。臨険士(フェイサー)組合(ギルド)が認めた特定の相手からのみ受注するもので、依頼の詳細を内密にしたい場合が多くなります。詳細については依頼主の下に出向いてとなりますので、厳密に言うと一般的な依頼とは異なります」


 なんか聞いたことない分類の依頼みたいだけど、要するに「とりあえず来てくれ。詳細はそれからだ」ってタイプの依頼みたいだ。詳しく聞いてみたら、住所不定の高ランク臨険士(フェイサー)に内密な依頼をしたい場合が主な使いどころらしい。こんな形でプラチナランクとかを呼び出し放題なのかと思ったけど、そもそもこれを頼める依頼主がめちゃくちゃ限られる上に、依頼料も普通の倍くらいかかるとのこと。

 ついでに内容自体も非合法なのはご法度らしく、依頼を聞いた臨険士(フェイサー)がその旨を訴え出たら組合(ギルド)の総力で報復行動に出るほどのものだとか。つまり、まっとうな仕事ではあるけど、法外な料金を払ってでも内密にしておきたい事情があるお偉いさんがするような依頼ということだ。うん、ガイウスおじさん、なんか通信で聞いたよりも相当大ごとな気がするんだけど!? どうりで受付嬢の人、珍しく声を潜め気味なわけだよ!


「なんか聞かなかったことにした方がいい気がするのはボクの気のせいかな?」

「そんなこと言わないでください! ラウェーナ神霊教会からの招致依頼なんて、反故にした日には臨険士(フェイサー)組合(ギルド)の今後に大きな影響を与えかねないんですよ!?」


 そんなこと言われても、「なんか知らないけど呼ばれてるみたいだぞー」ってくらいの軽さで伝えられたのに、蓋を開けたらこれだよ? ちょっとぐらい愚痴っても罰は当たらないんじゃないかなぁ。


「まあボクもわざわざ呼び出す理由は気になるし、その依頼受けるよ」

「ありがとうございます! では、手続きしますので登録証(メモリタグ)の提示を――」

「あ、ゴメン。それ無くしてそのまんまだった」


 そうだったそうだった。ボクの登録証(メモリタグ)、ケレンのための機魂器(アニマキナ)として溶かしてそれっきりだったんだよね。シェリアとリクスはカラクリに向かう前にオーラルで再発行したみたいだけど、事件以来外出自粛でレイベアもスルーしたボクができるわけもなく。

 まあボクの登録証(メモリタグ)最終更新がレイベアの支部だから、今ここで再発行してもらえればそれで問題ない。手持ちの財布から手数料を出して、ついでに教会からの招致依頼の手続きも進めてもらう。登録証(メモリタグ)の受け取りは明日になるみたいだけど、わかる範囲の依頼内容くらいは確認しておかなきゃね。


「えーっと……呼び出し先はロブランの大聖堂? 地名の方は聞いたことない名前だね。知ってる?」

「確か南の方にある町だったと思うけど……」

「お前らもうちょい地理も頭に入れとけよ? ブレスファク王国でも一番デカいラウェーナ神霊教会の聖堂がある町だよ。逆にそれ以外の特徴がないくらいの田舎町だって話だけどな」

「へー。そういうのってもっと人が多くて大きい街にあるもんだと思ってたけど、なんで?」

「さすがにそこまで詳しくはねーよ。なんか魔力の流れがどうとかって理由で僻地に建てたって話だ」

「十分知ってるじゃん。まあ、とりあえずそこに行けばいいんだね。仲間はついてきても大丈夫なのかな?」

「――え、あ、はい。指名自体はウルさんですけど、パーティの仲間が同行することについては構わないと教会からは言われてます」


 うん、目を白黒させてキョロキョロしてた受付嬢の人から最後の確認も取れたし、待ち受けてるだろう大事以外は特に問題はなさそうだね。


「了解だよ。じゃあ明日、登録証(メモリタグ)を受け取ったら出発するよ。みんなもそれでいい?」

「うん、大丈夫だ」

「せわしないわね」

「ゴメンね、シェリア。もうちょっとからゆっくりして行く?」

「別に、構わないわ」

「ありがとう!」

「なら、ついでにそっち方面で受けられる依頼がないか見とこうぜ」

「それもそうだね。じゃあ今残ってるヤツだけでも先に確認しとこうか」


 そうしてパーティの合意が取れたところで依頼掲示板の前に移動。うーん、さすがに昼も過ぎてちゃいい依頼は残ってないね。あるのは常時依頼の採集と討伐、後は懐かしの清掃くらい。この辺はわざわざ受けなくても現物を持ち込んだらいいし……あ、護衛依頼残って――ってだめか、行き先が反対方向だ。うーん、これは明日の朝に新しい依頼が張り出されるのを待つしかないかな? それでダメなら途中で立ち寄る街の臨険士(フェイサー)組合(ギルド)に期待するしか――


「リクスさん!? 戻ってたのか!」


 唐突に背後で上がった驚きと喜びの入り混じった声に振り向けば、そこには見覚えのある三人の姿。ちょうど帰ってきたところなのか、組合(ギルド)の扉をくぐったばかりらしい。


「ロック、それにタウとベール。久しぶりだね」


 同じく声に反応して振り返ったリクスが何気ない調子で軽く手を上げたけど、それを見たロックは一気に顔を曇らせて足早に寄ってきた。


「……久しぶりです」

「あーその、前にあんなこと言っておきながら長い間顔も見せずにいてごめん。調子はどうだい?」

「えっと、タウは少し前に、オレはついこの間ブロンズランクになれたんだ。ベールも筋がいいらしくて、もう少ししたら上がれそうで……」

「そうだったんだ。うん、昇格おめでとう! 三人一緒に行動してるってことは、やっぱりパーティを組んだのかな?」

「まあ、そんな感じで。ベールもブロンズランクになったら正式に登録することにしてるんだ」

「……別に待つ必要ないって何度も言ってるだろ」

「うるせぇ、オレは待ってたいんだよ。お前もそうだろ、タウ?」

「あー、まあ、そっスね」


 そんな風に近況を報告してくる後輩たち。どうやらけっこう仲良くやってるようだね。なんか若干タウがロックに振り回されてる雰囲気があるけど、それもそれでよきよき。


「それで、その……リクスさんの方は、その、色々大変だったって」

「ああ、そうだね。自分の力不足を改めて思い知ったよ」


 そう言いながら機工仕掛けになった左腕に視線を向けるリクス。見た目にもこだわったかっこいいメカアームだけど、生身に比べれば異形に分類されるそれは、明らかな傷跡でもある。

 同じようにそれを目にしたロックは何かをこらえるようにグッと身体を強張らせ、もう一つの決定的な欠落にも目を向けたようだ。


「噂じゃ聞いてたけど……その、リクスさんはやっぱり……」

「ああ、えーっと……その――」

「はっはぁ! 一度世話しただけの後輩に心配されるなんて、先輩冥利に尽きるってもんだな!」


 言いにくそうにしながらも切り出されたロックの確認に、けれどリクスが何とも言い難い顔をしていると割り込んだ場違いなほど明るい声。それを耳にしたロックは当然、タウとベールもギョッとした顔で慌てて周りを見回す。けれどそこにいるのは三人を除けば、ボクとシェリアとリクスだけ。

 そもそも死んだ『はず』の人間の声が聞こえてきた時点で耳を疑う話だけど、ちょっと周りの様子を見れば今のを聞いたのが自分だけじゃないってわかるだろうしで、ロックたちからしてみたらますます混乱するしかないだろうね。


「……ケレン、わかってやってるよな?」

「さて、何のことやら?」

「うーん、これはたち悪いねー。これは不死体(イモータル)になっちゃってるかなー? だとしたらボクも責任をもって滅ぼさないとかなー?」

「おい待てやめろ、早まるなウル! お前が言うと洒落にならねーだろうが!」

「だったら心配してくれた後輩をからかってないで、さっさと姿を見せてあげなよ色男」

「ちっ、しょうがねーな。もうちょっと慌てふためくのを見てたかったんだがなー」


 そうしてボクたちの呆れ交じりの視線が向けられた先――リクスの腰に固定された拳大の魔導器(クラフト)から虹色のきらめきが漏れ出した。それは可視化するほどの魔力がそこに集まっている証拠。まるで堰を切ったみたいにどんどん溢れ出すそれは、意志を持っているかのようにリクスの傍らに留まるとあっという間に形を整えて――


「よう、後輩共。頼れる『暁の誓い』参謀、不死身のケレンさんだぜ!」


 人型を取った魔力が一瞬光ったかと思えば、そこに残ったのは以前と変わらずふてぶてしい笑みをケレンの姿。ついさっきまで絶対にいなかった人間の斜め上な登場の仕方に、気のせいじゃなく静まり返った組合(ギルド)の中で陽気なケレンの声だけが場違いに響いた。


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