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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
八章 機神と神霊
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連絡

 明けましておめでとうございます!(遅い

 前に宣言した充電期間もいっぱいとなりましたので、連載を再開したいと思います。良ければまたのんびりお付き合いください。

 大型魔導器(クラフト)の操作音と駆動音が第三加工室に陣取っていたボクは、黙々と続けていた作業の成果を変性加工機(トリートメンター)から取り出した。すべての工程を終えて出てきたのは、緋白金(ヒヒイロカネ) の外殻で組み上げられた、白く鋭いシルエットを持つ人間の左腕を模った機工肢。これこそまさに、ここひと月強の集大成!

 まさにカッコイイロボットの腕そのものな作品を目の前に掲げて、矯めつ眇めつ品質チェック。うん、ゆがみもズレも一切なし。パーフェクト!


「――よし、ついに完成だー!」


 機工の腕を高々と掲げて快哉を叫べば、周りで固唾をのんで見守っていたマキナ族の子たちが一斉に歓声を上げた。うんうん、みんないつもの業務をほとんど放り出して機工肢の研究開発に打ち込んでたんだ、感慨もひとしおだろうね。族長権限でやらせたのはボクだけどさ。


「さっそく着けてあげないと。いつもの所かな?」

「はい、今日も第二訓練所に集まってます!」

「わかった、ありがとね。じゃあ、行くよ!」


 そうしてみんなを引き連れて急ぎ足で通路を進み、意気揚々と第二訓練所の扉をくぐった。


「おーいリクス、ついに完成したよー!」

「あ、ウル――って、そんなに乱暴に扱っていいのか!?」


 自慢の作品をブンブンとこれ見よがしに振り回しながら駈け寄れば、訓練に集中していたリクスがそれを見て泡を食ったような顔で迎えてくれた。カラクリの中ってことで装いは訓練用の軽装だけど、その分目につくのがその左腕。

 骨組みにワイヤーを張っただけのようなというかそのまんまというか、緋白金(ヒヒイロカネ)製とはいえシンプルに過ぎる義肢。パッと見でかなり痛々しいけど、これは訓練用のプロトタイプだから致し方ない。靭性緋白金(ヒヒイロカネ)を筋肉代わりにする方式は人体構造を基にしているものの、魔力駆動は普通の人だと慣れないことにはろくに動かせないからね。開発中でも訓練できるようにすることで、時間を無駄にしないための処置だ。


「さっそく付け替えるから、そこに腰掛けて、ほら!」

「わかった、わかったから落ち着いてくれよ」


 気持ちが急くままリクスを部屋の端にあるベンチに座らせる。機工肢は肩の付け根を支点に取り外しができるように施術してあるから、工具さえあればすぐに取り換え可能だ。


「――これでよし! 動かしてみて」


 接合に問題がないことを確かめてから促せば、一つ頷いたリクスはたった今着けたばかりの腕を、ダンベルでも持ってるみたいにゆっくりと曲げ伸ばしを試した。それから速度はそのまま手を握ったり開いたり、関節ごとに可動範囲の許す限り回してみたりといろいろ確かめるように動かしていく。

 うん、ぎこちなさが抜けきらないものの、随分と滑らかに動かせるようになってるね。最初なんて加減がわからなかったせいで、いきなり跳ね上がった腕に顔面強打してたりしたし、それに比べればはるかに上達したもんだ。


「動きは問題なさそうだね。重さとかはどうかな?」

「……うん、これくらいなら問題ないよ」


 そう言って腕全体を軽く振って見せる。金属の塊なそれは迂闊に動かしたらバランスを崩しそうなほどの重厚さだけど、そんな見た目に反して徹底的な軽量化を施したおかげで危なげはない。

 当初はマキナ族の腕と同じものをあてがおうとしたんだけど、そこで想わぬ問題が発覚。義肢にするには重すぎたせいで、寝転がった状態からろくに起き上がれない。手を借りて何とか起き上がったとしても、ちょっと油断した瞬間腕の方へと大転倒だ。冷静に考えれば、比重の重い金属がぎっしり詰まった塊が身体の一方にだけくっついてたらそうなるよね。マキナ族は全身がそれで、かつ十二分な出力があるから問題にならなかっただけだったわけ。

 そういうことで、急遽生身の人間でも問題なく使える機工肢の開発がマキナ族総出で始まったわけだ。いろいろ試してリクスが許容できる重量を計って、そこに収まるような配分を何通りも試して強度と出力を確保できる設計を模索して。

 最終的には骨格部分にパイプ状にした剛性緋白金(ヒヒイロカネ)を採用して、靭性緋白金(ヒヒイロカネ)の量を限界まで絞り、細くなり過ぎた見た目を補うために外殻で覆うという形に落ち着いた。骨も外殻も減量のためにできる限り薄くはしているものの、元からその硬度は折り紙付き。さらに加えていざという時は内側に刻んだ『硬化』の魔導式(マギス)にまで魔力を流すことで、ボクですら傷をつけるのに苦労するレベルの強度を実現している。蓄魔具(カートリッジ)も使えるように機構を組み込んでいるから、魔力切れにもバッチリ対応だ。

 この世界の技術レベルを考えたら、もはやオーパーツと言ってもいい出来だと思うんだ。マキナ族自体がそんな感じだけどそこは気にしない方向で。

 ともあれ普通にやったら年単位の開発だったんだろうけど、生まれた時から基礎知識はバッチリなマキナ族の子たちと人海戦術で無理やり工期を短縮したおかげで、短期間で何とか形になってくれたのだった。だから一緒に来た子たちも、その出来栄えを見てとっても満足そうにしている。


「うんうん、我ながらいい出来だよ! 最強の左腕を持つ英雄、いいよね!」

「あはは。確かにかっこいいかもしれないけど、今のおれだとまだ全然使いこなせてないよ。まともに戦えるようになるかも怪しいし」

「そこは頑張ってとしか言えないけど、でもリクスなら絶対大丈夫だよ! 協力ならマキナ族一同惜しまないから!」

「うん、何から何までありがとう、ウル」

「いいってことよ、仲間でしょ!」


 そうして気合を入れたリクスは、さっそく新しい腕を使いこなすための訓練を始めた。いろいろな速さで各関節を曲げ伸ばしする準備運動をしてから、相手役に手を挙げたマキナ族の子と組手だ。最初はまだ思うように動かせない片腕に合わせてスローペースだったけど、徐々にスピードを上げていって、対処できなくなったところで倒されたらリセットしてを繰り返す。

 そうやって限界動作をひたすら重ねることで、戦闘動作を身体に無理矢理覚えさせるというなかなかハードなものだ。それを疲労でぶっ倒れるまでやるのがここ最近の日課になってるもんだから、リクスの身体が心配ではある。

 だけど、何かに憑りつかれたみたいに自分を追い込む気迫は生半可な言葉を跳ねのけるし、実際に最近は日毎に目に見えて腕の動きがよくなってるから、早く復帰したい気持ちがわかるボクとしては強く止められない。できるのはせいぜいマキナ族のみんなに日々のケアを頼むことくらいだ。とりあえず、今のところ問題は起こってないからそれで良しとしてる。


「……まあ、大丈夫かな」


 機工肢の実用テストも兼ねてしばらく様子を見てたけど、特に異常を訴える様子もないようなので他の仲間の様子を見に行くことにした。


「シェリアとケレンがどこにいるかわかる?」

「お二人でしたら朝から第一訓練場にいらっしゃいますよ。今日は攻性魔導式(マギス)を交えた鍛錬がしたいと言っていましたので」

「え、シェリアが?」


 ケレンはともかく、戦闘スタイルが完全物理なシェリアまでどうしたんだろう。まあこの世界の魔法使いって魔導器(クラフト)さえ使いこなせれば誰だってなれるから、手札を増やすことにしたんだろうか?

 なんにしろ見に行けばわかるかと思い直したところでふいに響き渡るチャイム音。あれだ、前の世界の記憶にある「ピンポンパンポーン」って感じの。


〈――業務連絡です。ウル様、ハシバミから『ガイウス様からお話がある』と通信が入りましたので、管制区画までお越しくださーい〉


 どうやらボク宛に通信が入ったらしい。出向組の子に無線魔伝機(マナシーバー)を渡してあるのは初めの方に言っておいたけど、ガイウスおじさんからの通信要請なんて初めてだ。何かあったのかな? ちょっと後ろ髪を引かれる気分だけど、こっちを先に対応しないと。

 ちなみにハシバミは現在レンブルク公爵邸でお世話になってる子の一人だ。ヒエイとタチバナを含めた五名が現在向こうにいて、その内ローテーションで入れ替わる予定だったりする。

 とりあえず急ぎ気味で管制区画にやってきたボクは、迎えてくれたコハクにお礼を言いつつ前見た時よりさらに私物の増えたオペレーター席に座った。


「お待たせ、ウルだよ」

〈あ、王様! コハクにも伝えましたけど、ガイウス様から連絡したいことがあるって話です〉

「うん、了解だよハシバミ。ガイウスおじさんもそこにいるのかな?」

〈はい! 今替わりますね〉

〈――やはりこれは有用性が図り知れんな。これでまだ開発途上なのだったか、ウル?〉

「そうだよ。今はまだカラクリの本体と子機が少しだから大した問題も出てないけど、数を増やしたら絶対何か問題が起こるからね。同時に使っても混線しないようにしたり、通信距離を延ばすために中継用の機材を作ったりさ」

〈叶うならば優先的に研究開発を行ってほしいものだな。完成した暁には我が国で真っ先に導入したい〉

「その内できると思うよ、頑張って長生きしてね。ところで話があるって聞いてきたんだけど、無線魔伝機(マナシーバー)のことなの?」

〈いや、本題は別だ。厳密には私からの話と言うわけではないのだがな〉

「? どういうこと?」

〈ウル、お前にラウェーナ神霊教会から面会したいという申し出があるようだ〉

「ラウェーナ……あー」


 その固有名詞を聞いてだいたい二月前の一件を連想する。どういう経緯か邪竜退治に力を貸してくれた神霊様。幽霊が昇天したような消え方でまた会おう的な言葉を残してくれたっけ。その関係かな?


〈どうやら教会に呼び出されるような心当たりがあるようだな〉

「一応戦友ってことになるのかな? この前の留学で邪竜になった悪魔との戦い、あれで力を貸してくれたから撃退できたんだけど」

〈概要は聞いておる。神霊の助力を得ての邪竜退治など、まるで吟遊詩人の語る勲のようだな〉

「それはどーも。でもなんでそんな呼び出しがガイウスおじさん経由で?」

〈そも、この話を持ち込んだのは臨険士(フェイサー)組合(ギルド)の者だ。聞けば一月よりも前からお前を指名しての依頼として招聘が出されていたそうだ〉


 話を持ち込んだ相手からガイウスおじさんが伝え聞いた話によると、まず神霊様からある人物――まあボクだけど、とにかく会いたいってお願いされたらしい。自分たちが敬愛する神霊様から直々に頼まれた教会の人達は、聞かされた特徴から張り切って素性を調べたそうだ。そんな余裕もなかったから特に名乗ったりしてなかったから難航しても仕方ないだろう人探しだけど、特徴的な見た目と聞き間違い用のないシチュエーションってことで、エリシェナの留学が終盤に差し掛かる頃には特定できてたみたいだ。

 ただ、その時は接触の機会がまるでなかった。なにせあんな大事件の後だ。オーラル学院はいつもより警備が厳重になってて、許可がなければ部外者お断りだから入ることもできない。それなら出てきた時にと思っても、あの時は後始末に忙しい街へ行くのは自粛するのが学生間での暗黙の了解になってたから、ボクたちも留学が終わるまでは大人しく学院の敷地内で過ごしてた。

 これじゃあさすがにどうしようもないってことで、次善の策としてボクが本拠地にしてるレイベアで指名依頼を用意した。これならいずれ留学の護衛依頼を終えた報告をするだろうし、そうでなくてもレイベアを拠点とする臨険士(フェイサー)ならほぼ確実に訪れる。これなら間違いなく目的の相手に伝わるし、正式な依頼の形を取っているからまず断られることもないって寸法だ。組合(ギルド)としても教会の、それも神霊様直々のお願い事となれば、絶対確実に伝えるだろうしね。

 ただ、そこにちょーっとだけ誤算があった。


〈しかし、お前は戻るなりこちらに報告の一切を任せ、カラクリへと発ったであろう?〉

「まさか前の依頼も終わらない内から指名依頼が入ってるなんて思わなかったからねー」


 そう、リクスの腕をどうにかすることで頭がいっぱいだったボクは、依頼の完了報告自体は依頼人だけでもできるって決まりに甘えて、レイベアに入る直前でエリシェナ一行から別れると、そのままカラクリに直行したのだった。当然、教会からの指名依頼なんて気づくはずもなく。

 そういうことで、レンブルク公爵家から完了報告だけ受けた臨険士(フェイサー)組合(ギルド)は困惑する羽目になったらしい。それでもボクがレイベアを拠点にしてることは伝わってるから、そのうち帰ってくるだろうと待つうちに一月が経過。

 その間ボクからの音沙汰も一切なく、度々教会から指名依頼の状況を聞きに来たりするもんだから大弱り。先方は急ぎではないと穏健だけど、組合(ギルド)からしてみれば内容が神霊様直々のお願いが元だとなればそうもいかない。職業柄怪我人を抱えることが多い組合(ギルド)としては、神霊式(ルキス)であっという間に治療ができる慈護者(コーラー)をたくさん抱えている教会と気まずい関係になるのは避けたいだろう。

 そしてついには藁にも縋る思いで、直近の依頼者でボクと懇意にしてることが明白なレンブルク公爵家に何かしら伝手がないかと泣きついてきたそうだ。


〈――故に、強制ではないが、そちらで成すべきことに区切りがついたのなら早々に帰還してやると良い。私としても、神霊直々の招聘ともなれば興味が尽きん〉

「りょーかい。ボクとしても神霊様がわざわざ呼び出す理由は気になるから、一段落したら戻るよ」

〈折を見て伝えておこう。ではな〉

〈――はい、替わりました! それじゃあ王様、切りますね〉

「うん、連絡ありがとう。みんなにも頑張るように伝えてね、ハシバミ」


 そうして通信を切ったところで、横から見ていたコハクが小首をかしげて尋ねてきた。


「すぐに出発しますか、ウル様?」

「ううん、まだ他にやることも残ってるからね」


 最優先だったリクスの新しい腕についてはちょうど完成したところだ。あとは使い勝手を見ながら調整するくらいだけどボクがいればできるし、区切りはついてるって言える。

 だけどこれまでかかりきりだったから、後回しにしてたこともあるわけで。具体的に言うとオーラルの事件で喪失した装備の修理や新造、あと拡充。まあこっちはベースになる量産品をカスタムすればいいだけだからそんなに時間はかからない。

 そして並行して仲間たちの装備更新と、必要ならその説得だね。手の届かないところは仕方がないって割り切ってたつもりだけど、やっぱり何もできずに仲間をなくすなんて経験はイヤだ。せめてボクが用意できる最高の装備があれば、前回みたいなのっぴきならない状況でも生存率は上がるはず。マキナの試練? 始祖の仲間ってことで特例を通します。異論は認めない。そして間違いなく本人たち以外からの異論は上がらない。

 まあ諸々含めて一週間から半月ってくらいかな。あの時いきなり現れて力を貸してくれた理由も聞いておきたいし、マキナ族の子たちにも引き続き協力してもらおう。

 そう決めたボクは今後の予定を頭の中で組みつつ、仲間たちの下へ行くために足早に管制区画を後にしたのだった。



 良ければ評価・登録よろしくお願いします。感想など頂ければなお嬉しいです。

 あと、誤字報告してくれた人ありがとうございます。めちゃくちゃ助かりますのでまた是非よろしくお願いします!

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