根源
「ヴィント、どうも奥の方にまだ魔導体が残ってるみたいなんだけど、そっちの方も見れたりする?」
「その程度でしたらお安い御用ですが、その前に一つご報告すべき事柄が」
推定敵射撃位置周辺を更地にしてから似たようなのが他にないかヴィントに探してもらおうと思ったけど、何やらヴィントには気になることがあるらしい。指揮官適性極高の相手がわざわざ挙げてくる報告とか聞く以外の選択肢がないよね。
「わりと面倒な感じのヤツかな?」
「ある意味ではそうとも言えるかもしれません。この異常発生の発生源と思しき事象に関してです」
思ってた以上に重要だった! それ今回の騒動を一発で終わらせられるかもしれないヤツじゃん!
「最優先事項じゃん。特定できたの?」
「さすがにそれほどの知を得られるほどの力は私にはありません。ですが、来たる波濤の軌跡を遡れば、自ずと災禍の根源も知れましょう」
つまりあいつらが来る道を逆にたどってどこから湧いてきてるのか予測を立てたってことか。戦場を俯瞰視点で見れるなら確かにそうだろうね。でもそれって逆に言えば割と早い段階から察知してたってことじゃないのかな?
「口ぶりからしてだいぶ前から特定してた感じだけど、今まで誰かに言ったことのある様子じゃないよね。なんで?」
「ご明察であり、もっともな不審です。ですが、源泉に至るには激流に抗う必要があります。耐えるに全てを注ぐ戦士達に、死の行軍を強いるなどとてもとても。ですがこれほどの武威を苦も無く振るう『虹髪』ならば」
原因をどうにかしようにも、当然そのためにはあの大群の中を強行軍するしかない。まあ確かにさっきまでの状況でそんなこと言っても厳しいだろうね。一か八かで提案に乗るひともいただろうけど、高確率で戦力分散からの減少に繋がる。表立って戦ってるわけじゃないヴィントからしたら、そんな提案はしづらいだろうね。
だけど、あっさり大群を蒸発させてなお余裕なボクなら行けると踏んだわけだね。いいよ、その信頼に応えなきゃ機神の名が廃るってもんだ!
「いいよ、その怪しい場所ってどこ?」
「ここからですと、遠目にあの小山が見えるでしょうか。流れを辿れば、おおよそあの辺りが最も可能性を秘めているかと」
そうして便とが指さす方へと視線を向ける。えーっと、あれか、オーケー把握した。
「じゃあ、ちょっと行ってくるよ。ヴィントもついてくる?」
「叶うならばそう願いたいところですが、かような大群に進んで飛び込みながら、突き進むべき英傑にこの身を守れと強いるも無粋。友の目を借り見届けるにとどめましょう」
あー、なるほどあくまで自分が戦う気はないのか。というかそもそも攻撃手段がないのかな? 今のところ見たことあるのは遠距離通話に浮遊、遠視にマーキング……うん、見事に便利系だね、可能性はあるか。まあ護衛対象がないなら遠慮なく全力を出せるしね。
「了解だよ。それじゃ、引導渡してくるね!」
最後に盛大な乱射で大群を一時押し留め、間髪入れずに街壁からダイブ! まあさすがにひとっとびで戦場を飛び越すのは無理だね。
「呼出・虚空格納――武装変更・舞険士!」
だから空中で『亜空接続』を呼び出して、敵味方入り乱れる乱戦状態を突破するには邪魔なサンダロアを収納。代わりに引っ張り出したスノウティアを引っ提げて、着地地点にいた熊っぽいのを重量かける重力加速度で踏みつぶす。
「くっ、何が――お、お前は!?」
「うん? あ、ジュダスだ」
生々しいと言うにはちょっと湿っぽい音と共に爆散した熊の残骸を運悪くひっかぶる羽目になった誰かさんの声に聞き覚えがあったから振り向けば、いかにも奮戦してましたって感じで損傷してる装備をさらに腐りかけの肉片で彩ったジュダス。両隣で慌てて顔を拭ってるのはお仲間さんだね。偶然の遭遇だけどちょうどいいや。
「キミの仲間のおかげで最後に何とか間に合ったよ。ココルにお礼は言ったけど、一応キミにも言っておくよ。ありがと、キミにはもったいないくらいのいい仲間だね」
「……礼を言われるようなことでもない。それよりもお前、どこから――いや、まさかさっきからの砲撃は――」
「あーゴメン、ちょっと急いでるから何かあるなら全部終わってからにしてね」
相変わらずムカつく応えが返ってきたけど、ひとまず言うべきことは伝えたから残りは全部後回しだ。
だからなんか急に慌ただしくなったジュダスは置いて駆け出す。この場所からだと目的地は見えないけど、進むべき方向はきっちり補足済みだ。行く手の敵はぶった斬り、味方の脇を通り抜けながらついでにお相手を辻斬りして、溢れ出す魔力に誘引された動死体を引き連れて逆流を形成しながら戦場を爆走。ほどなくして上から無理矢理作り出した空白地帯へと抜け出した。おっと、向こうからは新たな団体さんがご来場してくるところだ。お目当ては魔力駄々洩れのボクかな? いやぁ、人気者はつらいね。
前からは新たな大群、後ろからはかなりの範囲から釣れた大群。挟まれた? いいや違うね、一網打尽にできるチャンスだ! 『探知』に意識を向けて主戦場及び前方集団までの距離にあたりをつけて走るスピードを調整、並行して魔導回路を描く。ルナワイズは使えないから瞬間で展開はできないけど、基本式に三秒、調整に二秒あれば十分。だから接敵と展開完了はほぼ同時!
「ばりばりぃっ!!」
選択したのは当然特効が証明済みの『雷撃』、範囲はボクを中心に後ろの戦場を巻き込まない最大! 本物の雷鳴クラスの轟音と共に、荒れ狂う紫電が動く屍たちを内側から容赦なく焼き尽くす!
視界に映る動死体が肉の焦げる臭いと共にバタバタと倒れ伏していく中、術式を維持したまま残骸の絨毯を踏みしめてそのまま突撃! そうすれば向こうからやってきては順次焼かれていく。誘蛾灯でもこんなに蛾が寄ってくるわけないだろうってくらいの爆釣具合だ。ほーら、最高の餌がやってきてやったぞ脳なしども。惹かれて寄ってきた端からあの世に送り返してあげるよ!
そんな調子だから進撃に支障が出るような障害は皆無と言っていいだろう。強いて挙げるなら残骸がそこら中にばらまかれるからちょっと走りづらいけど、そこは脚力に任せて強引に突破だ。あ、ヤバ、残ってた木に雷撃が直撃して引火した! あとでちゃんと消火するから許して!
なぜか山火事の心配をしながら死体ロードを駆け抜けることしばらく、ヴィントに示されたおおよその場所が近くなったところで『探知』に妙な反応を捉えた。具体的に言うと反応がほとんど返ってこない範囲がぽっかりとあるのを見つけた。こうなる条件は不自然なほど高濃度な魔力がそこに発生していること。つまりはそこでなんかやらかしてるわけだね? わかりやすくていいね、よし吶喊!
ヤツらの手の内も把握しておきたいところだし、一旦『雷撃』を終了して戦闘用意! 源流に近づいてきたせいなのか動死体の物量が落ちた気がするけど、それで困るわけもないから遠慮なく強行突破だ。
そうして見えた問題のアンノウン地帯。森の中にできた広場みたいな感じの場所だけど、周りの樹がいい感じに枝葉を伸ばしてるせいで本来見えるはずの空がほとんど見えない。これ多分上から見れたとしてもここに何があるかわからないんじゃないかな?
そんな秘密基地にピッタリな素敵空間のど真ん中に、続々と動死体を吐き出している空間のゆがみと傍に配置された魔導器。なるほど空間転移系のギミックか。そりゃ保存してる限りいくらでも出てくるわけだ。そういえば盟主も当たり前の顔して転移してたね。イルナばーちゃんがあんまり乗り気じゃなかったせいで発展途上の分野、地味に術式が気になるんだけど。
で、出てくる動死体は動やってるのかある程度秩序を以てひしめき合っていた。そんな文字通りな肉壁の後ろにズラリと並んだ見覚えのある戦闘用魔導体と、さらにその後ろに見るからに怪しい恰好の人間が徒党を組んでボクを出迎えてくれた。多少甘いところが見えるけど、それでも迎撃準備万端なご様子。まああれだけ派手に電撃バリバリしながら近づいてたらそりゃ準備整えるよね。
でもまあ、そのくらいの備えじゃ焼け石に水だよ。
「やあ邪教徒ども、お届け物だよ!」
内容物は圧倒的暴力による蹂躙と言う理不尽ね。代金は発送払いだから遠慮なく受け取ってよ。クーリングオフ? 残念ながら受け付けておりませぇん!!
「呼出・虚空格納、武装変更・壊戦士!」
示し合わせた魔導体からの一斉砲撃のただなかにノーガードで飛び込みながら、ナイトラフを放り投げた手でレインラースを引っ張り出しざまに肉壁を薙ぎ払う! そして爆発するように木っ端みじんになった肉片のカーテンをぶち抜くように向こうの砲弾が殺到するけど、知ったこっちゃない。戦闘時に防御する理由を知ってる? それはダメージや衝撃を抑えるため。
「効かないよそんな攻撃!」
機工の身体に半端な魔力攻撃は通じない、ノックバックは突撃状態の金属塊を押し戻すに能わない。ならば機神が躊躇う理由はなし!
最短最速で敵陣のど真ん中をぶち抜いて躍り出たのは空間のゆがみの目と鼻の先。未だに湧き出しが止まらないこいつはどこかに繋がってるんだろう。それが邪教徒の拠点だって言うならこのまま乗り込んで行ってもいいけど、行き先不明じゃリスクが高すぎる。どんな術式使ってるのかはぜひ知りたいところだけど、こっち側にあるそれっぽい魔導器は、規模からしてもたぶんマーカー専用の機材だろう。
「呼出・虚空格納!」
だから最優先はこのはた迷惑な四次元ポケットの排除だ。再起動した『亜空接続』をスノウティアの剣先に設定し、それをそのまま歪みの中へ突っ込んだ! 空間に干渉する系の魔導式に同系統の別術式を噛ませるとどうなるか? 昔、前の世界の記憶を端に発する好奇心のままに引き起こした大惨事が、今ここに再現される!
二つのゆがみが重なった瞬間、その境目から目に見えてゆがみがひどくなる。それが加速度的に全体へと波及して、まるで渦を巻くように歪みがねじれにねじれて――
ピキリ――と、音にすればたったそれだけなのに、何かが致命的な段階まで進んだってことを本能的に感じる異音。ここまでコンマ数秒と腹を括るくらいしかできない猶予の直後。
ガラスを叩き割る音を数百倍に増幅したような轟音と共に空間が弾けた。局所的に『核撃』にも匹敵する衝撃波がほとばしり、周辺の物体を根こそぎ吹っ飛ばす。もちろんボクもその例に漏れず、邪竜に殴られたくらいの距離を飛ばされて地面をゴロゴロ転がって、ようやく勢いを殺したところで状況を再確認。
とりあえず爆心地を見れば、気味が悪いくらいきれいなクレーターができていた。空間のゆがみは影も形も見当たらず、とりあえず一番の目的は達成できたようだ。
次に周辺被害だけど、ざっと見ただけでもここにいた動死体の大半がご臨終だ。戦列を並べてた魔導体も軒並み大破、邪教徒どもは……うん、予想はしてたけど原形留めてないね、ざまぁ。
そしてボク自身の被害は――うわぁ、ミストグリードがボロ雑巾みたいになって、体表があちこち削れてるや。一応動かすのには支障ないけど、爆心地に近かった右手とか特に悲惨だね。そして渦中に直接突っ込まざるを得なかったスノウティアは、持ち手に無数のヒビが入った上で刀身のほとんどが消し飛んでいた。レインラースにも亀裂入ってるし。
「これだから空間系の魔導式って気軽にいじれないんだよねぇ……」
こうなることはわかっていたとはいえ、これまででも記録的な被害にため息が出る。自分以外が使った空間干渉を強制的に止めるには現状これ以外に方法がないんだけど、たびたびこんなことやってたらさすがのマキナ族でも身がもたない。まあやらかしちゃったときは肩ごと腕一本持ってかれたから、あれに比べたらマシではあるんだけど。あの時はイルナばーちゃんにしこたま怒られたなぁ。
さて、思ったよりあっけなく終わっちゃったね。盟主の方もそうだったし、邪教徒って終わる時はあっさりなんて掟でもあるのかな? 何か証拠品とか――あらかた木っ端微塵だからムリか。まあいいや、次出くわした時に考えよう。
とりあえず『復元』起動して――おおう、損傷が多すぎて修復速度が亀の歩みレベルだ。これはもうどうしようもないし、とりあえずナイトラフを回収して、引火させちゃった森を消火しながら戻るか。
そうして動死体の残党もなるべく片付けながら帰還したわけだけど、いつになくズタボロな格好で戻ってきたボクにリクスが激しく動揺して、シェリアがガチで取り乱すなんてレアすぎる状態になった。うーん、今回は色々と失敗しすぎだなぁ。
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