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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
七章 機神と留学
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急転

 そんなわけでレインラースを振り上げながら勇んで突撃……んー、見た感じボクにもバフがかかったんだと思ったけど、妙に動きづらいのはなんで? 魔力量的にもジュダスパーティが使ってた神霊式(ルキス)より高倍率でかかりそうなものなんだけど、それ以前の問題として動こうとすると意図しないところも反応して、なんか引きつってる感じになるんだよね。

 うん、まあ、原因として考えられるのは一つしかないんだけどね。


「あー……神霊様神霊様。ひっじょーに言いにくいんだけど、この強化状態やめてもらえるかな? 身体の構造上全部魔力で動かしてるから、たぶん余計な干渉を起こしてるんだ」


 踏み出しかけて止まった状態のまま遠慮がちに声をかければ、体を覆う光が戸惑うみたいに明滅したかと思うとスゥっと離れた。よし、動作確認……うん、問題ないね。神様のありがたいバフがデバフになるとか予想外にもほどがある。

 そうしてなんとなく気配を感じて隣を見れば、さっきの透けた人が不思議そうな顔でこっちを見ていた。パッと見だけど、気に障ったとかそんな感じじゃなさそうだ。


「とりあえず気持ちはもらっておくから、その分も邪竜への攻撃に回してくれると助かるかな」


 なのでひとまず提案してみれば、神霊は頷きを返して再び光を放った。それに合わせて邪竜を覆う光が強まって一層暴れ出したところを見ると、結構な有効打が入ってる様子。どういう理屈でそうなってるかはわからないけど、今ならボクも通せるんじゃない? それじゃ、改めて吶喊!


「死にさらせぇ!」


 体を覆う光を何とかしようと躍起になってるおかげで完全ノーマークのところを、真正面から駆け寄って一切の憂いなく全力の振り下ろしを叩き込んだ! そうすれば甲高い音は立ったものの、ほんの少しだけど食い込むような手応えが返ってくる。よし、確実に防御力が落ちてる! よっしゃフィーバータイムだー!

 巨体でのたうち回る邪竜を避けつつ何度も同じところを狙ってレインラースを叩きつけていると、とうとうアホみたいに硬い鱗が砕ける感触! ここだ、ここしかない、畳みかけるぅ!!

 両手でぶん回してたレインラースを引くと同時に片手を離し、それを抜き手の構え。なんか必死に砕いた甲殻が再生し始めてるようにも見えるけど、これくらいならまだこっちの方が早い!


「はぁああああああ!」


 気合い一発打ち出した手刀は、限界まで圧縮したゴムみたいな手応えを無理矢理押しのけ突き刺さった! さすがに中身は甲殻ほどの強度はないみたいだ。まあ全身鉱石みたいにしたら物理的に動けなくなるだろうからシカタナイヨネ。

 そして同時に発揮される『浄化』の効力で、肉質が徐々に柔らかくなっていくのがわかる。それを受けてさらに暴れる邪竜だけど、ここで離されるわけにはいかないとレインラースも完全に手放して意地でしがみつく。ここで逃げたらたぶんまた防御貫きからやらないといけなくなると思うんだよね!

 だから機工の身体の頑丈さに賭けて、巨体ごと叩きつけられようが地面とサンドイッチにされようが、ただひたすらに耐えて『浄化』の効果を発揮し続ける! 頑張れボクの身体、今こそ燃えろマキナ魂ぃ!

 そんな中、ふと目の前が真っ黒に変わった。あれ、視界がおかしくなった――じゃない、邪竜の身体が怨念魔力に戻ってる? 『浄化』が効いた? それにしちゃ急すぎる気が――


「うぼ――どわぁあああ!?」


 怨念魔力が勢いよく噴き出して、怯んだところに痛打を受けて吹っ飛んだ! くっそ、さてはただじゃ引き剥がせないってわかってしがみついてる周辺ごと魔力に戻したな!? 生物ベースの身体でリアクティブアーマーもどきとかホントに何でもありだね!? チクショウ、また防御抜くところからやり直し――


「……写し身ごときが忌々しい。が、気付かれたことは我の落ち度か」


 吹き飛び中にそんな憎しみ籠りまくりの声が聞こえたからハッとして邪竜を見れば、その巨体が一瞬で全部怨念魔力に還元されて、そのままあっという間に収縮すると盟主の姿をかたどった。そして幾何学模様を浮かべる腕で背後を薙げば、それによって引き裂かれたかのように空間が歪む。


「時が来れば、貴様等は、必ず滅す」


 そう宣言しながら歪みに飛び込んだ盟主の姿が消えたところでようやく着地。そのまま撤退と見せかけての不意打ちを警戒して様子を窺ってたけど、一向に襲ってこないし何なら充満してた怨念が少しずつ薄れていってる気がする。えーっと……撃退成功ってこと、なのかな? えー、なんか納得いかないんですけどー。


「正直助かったってとこだけど、なんだかなー」


 あのままだと延々殴り合うハメになってただろうから仕切り直しができるのはいいんだけど、逃がしちゃいけないヤツを逃がしちゃったって考えるとね。マキナ族的には悪魔なんて滅殺以外の選択肢はないんだけど、なんか当たり前のように亜空間を利用した転移を使ってたし、次に補足できるかどうかがまず怪しい。下手したらまた今回みたいにいきなり襲撃される可能性もあるしで不安しかない。

 ……まあ、うだうだ言っても何かが変わるってわけでもないよね。


「はあ、つっかれた~」


 ぼやきながらその場で大の字に寝転がった。体力的には疲労の感じようもないんだけど、ばら撒かれる怨嗟の波動とか純度三百%の悪意を一身に浴びるとかその中でミリ単位でしかダメージを与えられないとか、精神的というかもっと奥の方で今までにない疲労を感じてる。できれば二度とやりたくないけど、イルナばーちゃんにもらった使命的にあれはどうにかしないといけないのが確定してるから、それを考えれば今からでも気が滅入ってくる。

 そんな風に空を眺めながら気分を沈ませていると、視界に窺うようにのぞき込んでくる人影――いや人影って言っていいのかな? 普通に透けてるし、なんならさっきよりもかなり透明度が上がってるし。

 まあなんにせよ、今回の功労者であることには変わりない。盟主が撤退を選んだのだって十中八九この人の援護があったからだろうしね。


「あー、神霊様神霊様、手伝ってくれてありがとう。ボクだけだったら決着つけるのに時間かかってただろうし、この辺りも壊滅状態だったろうから」


 そうお礼を言えば、心配そうだった表情が笑顔に変わった。そのまま何やら口をパクパクさせてるけど、マキナイヤーには特に何も聞こえてこない。


「えーっと、なんか喋ってる? ゴメン、理由がわかんないけど聞き取れないや」


 とりあえず不具合を伝えてみたところ、不思議そうに首を傾げられた。どうやら何か言ってたのは間違いないみたいだけど、なんだろうね。さすがに読唇術なんてものはできないから、何か言いたいことがあるなら頑張ってもらうしかないと思うんだけど。

 ……ところでさ、なんか見ている間にもどんどん透明度が上がってるみたいなんだけど、大丈夫なの?


「あのー、なんか今にも消えちゃいそうに見えるんだけど、それ大丈夫なの?」


 指摘したところでご本人も気づいたらしく、一度薄れゆく身体を見下ろして困ったように笑うと、スッと光に解けた。そして最後の力を振り絞るように光で描き出される模様。それは魔法を引き起こす幾何学模様じゃなくて、この世界で広く使われている一般的な文字。


『また今度、会いましょう』


 そう宙に描かれていた光文字は、少しして溶けるように消え去った。後に残ったのはボクと破壊の限りを尽くされた更地だけ。

 ……今ので神様が消えちゃったとかないよね? 本人もまた会う気満々だったみたいだし、大丈夫だよね? 神霊教会からクレーム付けられるとか勘弁だよ。こっちの世界は記憶にある世界ほどじゃないみたいだけど、それでも宗教関係って面倒くさいだろうことは想像するのも難しくないし。

 ――さて、いろいろ疑問とか反省とか諸々残る戦いだったけど、何とか乗り切ったことには変わりない。もう少しここでこのまま転がってたいところだけど、あんな災害規模での大暴れがあったんだ。多少離れたところで気づかないわけはないだろうし、避難したはずのエリシェナたちも心配してるに違いない。とりあえず、無事な姿を見せないと。考えることはそのあとでも問題ないはず。

 そんな感じで気怠い気持ちで体を起こしたら、目の前に何かが舞い降りてきた。なんだこれ。見た目小鳥みたいだけど、なんか全体的に光ってるんだよね。しかもよく見たら目や足の先まで含めて全体が同じ色だし。そういう魔物でもいたっけ? 


『――そこにウルお嬢さんはいらっしゃいますか?』

「うおっ!?」


 鳥っぽいのからいきなり声が聞こえてきたからビックリした! これ、ヴィントの声? どうなって――って、そういえばヴィントはイウマ族だよね。それに関係があるらしい不思議存在と言えば外せないのがあるじゃん。


「ヴィント? ってことは、これ『妖精』? 初めて見たよ」


 盟主の登場からこっちバカになってたから意識から外してたけど、改めて『探査』で反応を見てみればこの小鳥が魔力の塊だってことはよくわかる。


『はい、私と旅を共にしてくれている子の一人です。風に親しいため、このように離れている所へも声を繋げてくれるのです』


 へぇ、妖精は個体によって特技を持ってるって聞いてたけど、遠隔通話機能搭載とかもあるんだ。ほぼタイムラグなしに双方向通信可能っていいね。しかも無線魔伝機(マナシーバー)と違ってかさばらないんでしょ? 便利だなー。


「ねえヴィント、キミの妖精、ちょっとじっくり見てもいい?」

『その子が同意するならばいくらでも。ですがそれは後にしていただけますか? あなたに火急の知らせがあるのです』

「ん? 火急の知らせ?」


 目の前の珍しい存在に好奇心が頭をもたげてきたけど、ヴィントはやんわりとしながら確かな意思を感じさせる口調で遮った。そういえばさっきから妙に切迫した感がある声だね。何かあったんだろうか?


『落ち着いて聞いてください。あなたの仲間が重傷を負いました。ケレンさんに関しては死に瀕しています』


 ……は?


『今はまだかろうじて持ちこたえていますが、その命は風前の灯火でしょう。最期を看取ることを望むのであれば、可及的速やかな合流を勧めさせていただきます』


 ……え、なに? ボクの仲間が重傷? ケレンが死にかけてる? この人何言ってるの?


「あはは、何それ。冗談にしちゃちょっとタチが悪いんじゃないかな、ヴィント?」

『先刻、突如としてオーラルへ異常発生(スタンピード)が押し寄せました』


 いきなりわけのわからないことを言い出したヴィントへ軽く非難を向けたけど、それに応えたのは淡々としながらもよく耳に通る美声。


『構成する魔物の大半が動死体(ゾンビ)という極めて特殊な異常発生(スタンピード)です。誰もが予期せぬというまずありえない事態でしたが、商都連盟騎士団と臨険士(フェイサー)組合(ギルド)は驚くほどの速さで展開し、防衛戦となりました』


 それはあたかも現実から目を逸らそうとする相手に逃れられない事実を示すかのようで。


組合(ギルド)では緊急依頼が発生し、この地に滞在する臨険士(フェイサー)のほとんどがそこへ馳せ参じました。リクスさん、ケレンさん、シェリアさんもその中に入っています』


 それは当然だろう。こんな状況で英雄志望のリクスが逃げ出すはずがない。そんな幼馴染にケレンは文句を言いつつも当たり前のように続くだろうし、なんだかんだで仲間思いのシェリアは無言で同行するだろう。


動死体(ゾンビ)による異常発生(スタンピード)という前例の少ない事態のため、当初は予想以上の被害が出ました。しかしながらリクスさんを含めた一部の臨険士(フェイサー)の奮闘により戦線が持ち直したのですが――異常発生(スタンピード)の後方より強力な魔導体(ワーカー)が現れ、活躍目覚ましい勇士を狙い済ました魔力射撃を行いました。それにより突出した力を持つ方に多くの死傷者が生じてしまいました』


 動死体(ゾンビ)異常発生(スタンピード)、後ろから魔導体(ワーカー)、狙撃で死傷。そんなキーワードが少し前に体感した状況と符合して、急速に理解が追いついてくる。そう言えばゴドフリーが気になること言ってなかったっけ? 『低級とはいえ本命の戦力を割いてまで』って。つまりはさっきの動死体(ゾンビ)の群れプラスアルファは別動隊で、じゃあ本隊は? 同じ構成なら、あの威力の狙撃も。あんなもの、マキナ族でもなければあらかじめ備えてなければ直撃なんて生身の人間じゃ到底――


「――っ! どこにいるのっ!?」

『この子が案内してくれます。どうかお早く』


 言うなり飛び立った小鳥の後を間髪入れずに追う。見かけによらない速さの飛翔に甘えて遠慮のない全力で駆けているはずなのに、どうしてだろう。

 まるで亀の歩みのように遅く感じられて、ひどくもどかしかった。


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