抗戦
予約投稿ミスってました申し訳ありません。m><m
ええい、ひとまず現状の再確認だ!
とりあえずあれに直撃したら行動不能待ったなしだから回避一択。『障壁』で防御もいいかもしれないけど、半端な魔力だったら四重でも一瞬で貫通されそうで迂闊に試せない。
そして現状出せる出力が『本気』レベル。それで邪霊と戦った時はそれで丸々一晩くらいかかってたから、目の前のこいつを削り切ろうと思ったら最低でも十数日はかかるだろうね。周辺被害を考えなきゃとことん付き合うのもありかもしれないけど、ここ学院のすぐ隣で都市の近郊なんだよね。うん、ムリ。
火力を上げようにもリミッター解除のためにはリクスたちが必要だし、当然直接呼びに行く暇なんてあるわけない。悪魔を放置したらどうなるかなんて想像したくもないね。
仮にどうにかして来てもらったところで怨念光線の乱射祭りだ。今も現在進行形で派手に森が開拓されていってるわけで、迂闊に近づこうもんなら流れ弾で消し飛ばされる未来しか見えない。そんな犬死になりそうなところに大切な仲間を呼び込むなんて絶対イヤだね。
状況的にはわりと詰み。というかこいつ邪教徒に盟主様とか呼ばれてたよね? 名称の雰囲気からして要するに邪教のトップでしょ? 悪魔を召喚するような組織のトップが規格外の悪魔だったとかはもうこの際いいとして、つまりは前の世界のゲームで言えばラスボスとか裏ボスがひょっこり湧いて出てきたってことじゃん、ふざけんな!! そういうヤツは大人しくアジトの奥でふんぞり返ってろよ!!
「――よし、うだうだ終わり!」
内心で盛大に悪態だけつくと、気持ちを切り替えて怖気の根源を睨み据える。理不尽を理不尽で殴り飛ばす、それこそが唯一イルナばーちゃんがボクたちに課した、マキナ族の存在理由であり証明。例えラスボスだろうが裏ボスだろうが、一ダメージでも入るんなら死ぬまで殴り続ける覚悟を改めて決めた。
だからと言って効率を投げ捨てるわけじゃないから、まずはできることの確認からだね。
とりあえず、これまでの経験から『魔氷』みたいな相手の魔力を奪う系の魔導式が有効なのはわかってる。ただしあれは無理矢理引き出した魔力を水分の生成と冷却に回して消費してるから、この盟主とかいうヤツをどうにかしようと思ったら、それこそ周りの空間いっぱいを氷で埋め尽くしてもまだ足りないだろう。
じゃあ魔力そのままに放出すればいいかっていうのも違う。それは今まさに本人がやってることとほぼ変わりない。収束されてるかと指向性があるかどうかの問題だ。単純な放出で下手な設定しようもんなら、怨念魔力で『核撃』をぶっ放すかそれ以上の被害になるだろう。
となると……狙うとしたら魔力の相殺か。盟主の怨念魔力を別の魔力に変換、それをそのままぶつけることができたら、術式を維持してるだけでその内消滅してくれるはず。問題は魔力の変換となると馬鹿みたいに長大な術式が必要になることと、魔力変換からの相殺が通じるかってこと。つまりは実践あるのみ!
「呼出・虚空格納――武装変更・術紋士!」
ひとまずの方針が決まったところで『亜空接続』を呼び出して、ナイトラフとデイホープを片付けた。お気に入りの武装だけど、銃程度の威力と物理攻撃だと盟主相手じゃ水鉄砲よりも役に立たないからね。
そして代わりに取り出したのは白いフーデッドローブ。作ってみたはいいけどたぶん使うことはないんじゃないかなって思ってた衣服型の武装、ミストグリードだ。
一見何の変哲もないローブに見えるけど、その実布地に見える全部が軟性緋白金で、それが見えないところで何重にも折り重なっているから、表面積は体表に比べて数十倍になる。
そう、これの目的は直接的な攻撃じゃなくて、マキナ族の特性である『体表に術式を描画できる』っていうのを最大限活用するために、体表――描画範囲を大幅に広げること。
ざっくり言えば機神モードの時のマントを本体だけでも使えるようにしたわけだ。ルナワイズと同系統の魔導式拡張用兵装ってところかな。
でも正直なところ、普段使いするような魔導式は研究して圧縮したから本体の体表で納まるし、研究目的ならそれこそ記写述機使った方がやりやすいし見やすい。実戦で使うとしたら主戦場から離れたところで大規模術式組んでどかーんだろうけど、それやるくらいならサンダロアで『核撃』でもぶち込んだ方がずっと早い。
そんな『王道ファンタジーのテンプレート魔法使い』をコンセプトにした浪漫武装なわけだけど、戦闘しながら長大な術式をリアルタイムで組み上げ&改変するっていうのには最適だ。本来想定した状況とかけ離れてるのはこの際気にしない。
まあ問題があるとすれば、こんな慌ただしい状況で装備することになるなんて考えてなかったから、着こまないと装備できないっていうことなんだよね。怨念砲の嵐を避けながらローブを着込むとかどんな曲芸だよ。まあやるっきゃないわけだけど。初っ端怨念砲が直撃したせいで学院の制服はぼろきれ状態だし、ある意味ちょうどいいかもね。
というわけで、距離を取りつつ右に左に転がりながらなんとか袖を通していく。前ボタンで留めるタイプにしといてよかったって思ったよ。頭からすっぽり被るなんてしてたらまず間違いなく被弾してたね。
「……何をしている?」
「お色直しってところかな。人様の身支度は見ないのが礼儀だよ?」
何の気まぐれか盟主が不思議そうに口を開いたから、軽口を叩いてやったら即座に特大の怨念砲が飛んできたからハリウッド回避! まあ戦闘中にわざわざ服なんか着こむとか、傍から見たら舐めプにしか見えないか。
それでも何とか装備完了だ。『魔力変換』の魔導回路は確かルナワイズにも書き込んでそれっきりだったと思うけど……お、あったあった。基幹部分だけでしかも多少は圧縮した術式なのに、この時点でミストグリードを三割以上使わないと描画しきれないってね。これに調整のための術式を山ほどくっつけないとダメなんだけど、果たして描画しきれるのか……まあやってみないと何とも言えないし、他に有効そうなことも思いつかないからダメ元でもやるしかないわけで。
ともかくこれにてようやく準備完了――よし、検証開始だ!
ひとまず既存の『魔力変換』で対象の魔力をボクの魔力に変換するよう設定して、さらにそれを内部に取り込むんじゃなくてそのまま放出するよう改変。あとは対象の魔力に接触するだけだけど、いきなり本丸に突っ込むほど無謀じゃない。幸いというか、直の魔力ならバカみたいに乱射してくれてるから事欠かない。
というわけで、回避しがてら効果を確かめるべく怨念砲に手を添えるようにして触った。これの効率を見て魔導回路にどんどん付け足したり改変したり、さらに圧縮したりしていかないと――って、あ、あれ?
予想外のことに戸惑っているところへ容赦なく次弾が来たから大きく避けつつ、ついさっきまで怨念砲に触れてた思わず手を見た。今の感触、間違いない。
「怨念籠りまくりの魔力のくせに、変換効率良すぎない?」
おかしいでしょ、基幹術式だけだと一パーセント未満でも変換さえできれば上出来ってレベルのはずなのに、いじるまでもなく最低でも四割くらいってなんなの? マキナ族同士で使う『同調』には及ばないけど、それでも普通じゃあり得ないくらいの効率だ。どういうこと?
――うん、いやまあ、わけわかんないけどこの際理屈は後回し! 今は想定以上に変換効率がいいっていう事実だけあれば十分だ! つまりは思い付きの作戦が想像してたよりも有効そうってことなんだからね!
というわけでレッツ調整! こっちの術式追加して試すと――お、結構上がった。じゃあバニアス循環使えるから次はコルス式増幅で――ん~いまいち。クロッツ式の方は――お、いい感じいい感じ。これならベースはブーリア定理回路で規定値は取れるから、あとは攻撃転用だしボクからの魔力も組み込む形にして――ん? 乱射が止まった?
「煩わしい、もろともに滅べ」
唐突な攻撃中断に首を傾げた瞬間、盟主がちょっとイラっとした感じで呟くのが聞こえた――と思ったら差し出した手の先にサッと幾何学模様を描いて、尋常じゃない量の魔力を一気に凝縮しだした! ちょっと待ってそれもうほぼ『核撃』だよね!? あいつ直射砲が当たらないからって面制圧に切り替えやがった!
自分も確実に巻き込まれるこの距離で馬鹿じゃないのとか叫びたいけど、あの魔力量からしたら防御は簡単だろう。何なら直受けでも強風にあおられてる程度にしか感じないかもしれない。全力で逃げたとしてもどうせボクめがけて撃つんだからまず回避不能、合理的だねコンチクショウ!!
ええい、もうちょっと検証したかったけど今の段階の術式で対応するっきゃない! せめて術式の最終調整――急げボク、あの凝縮速度からしたら猶予はほとんどないよ!
「消えろ」
そして溜まった瞬間、間髪入れずにぶっ放される凝縮怨念魔力玉。ほぼ同時にボクの方も調整完了、間に合え!
「お断りぃ!!」
かざした両手の目と鼻の先で一瞬にして膨張する怨念玉。圧によって吹き飛んだのか、足元から地面がなくなる感覚と同時に浮遊感が訪れる。
姿勢を維持する際中に怨嗟渦巻く真っ黒な世界に飲み込まれかけるも、わずかに遅れて両手を起点に発生した魔力が闇を食い破るように押し返した。いよっし、即興感が否めないけど効果は十分――待って待って押し負けないで!
圧の強まった怨念魔力がジワリと迫ってきたから、慌てて術式にリアルタイム調整をかける。効果を維持しながら書き換えるってなかなか難しいんだけど、できないと一発で飲み込まれるから何とかやり遂げて均衡を取り戻した。セーフ。
すぐ周りで怨念が渦巻いてるのが精神的にめちゃくちゃよくないけど、有効性はこれで確立できたかな。対悪魔術式として保存しておこう。名称は『浄化』っと。
さて、対抗手段は何とか確保できたわけだし、それなら荒れ狂う怨念魔力の真っただ中に残ってる理由もない。体を動かす魔力も十分。
ついでに言えば怨念玉のおかげで物理的にも魔力的にも完全に遮られてるから、ボクが動き出したとしても気づけない。まあそれはボクも同じだけど、直前の立ち位置は把握してるし、あいつ出てきてから一歩も動いてないから九割九分同じ場所にいるだろう。
だから着地した感触があった瞬間、『浄化』を維持しつつ大地を蹴った。目標はボクの踏み込みで五歩の位置!
一歩目、押し寄せる怨嗟は物理的な圧力まで伴っているように思えるけど、そんなものはないとわかってるから強引に押しのけて進む。
二歩目、『浄化』でただ放出するままに任せてる魔力が移動に伴って揺れたけど、溢れる充分量の魔力は一線を崩さない。
三歩目、怨念魔力の圧が減った。籠められた分が底をついたようだ。あとはもう薄れていくだけ。
四歩目、急速に薄れていく怨念魔力に呼応するかのように、『浄化』で放出される魔力も減衰していく。変換する元がなくなったんだから当然だ。だから術式だけはそのまま維持して、右腕を後ろに引き絞る。
五歩目、晴れていく視界の中、目の前に眉を跳ねさせる盟主の無防備な姿を捉えた!
「お前が消えろ!」
そのまま貫手にした右手を、踏み込みの勢いも乗せて全力で突き出した!
狙い通りに胸のど真ん中をぶちぬくと同時に『浄化』の魔導式がもう一度効力を発揮、盟主の内側で異なる魔力が荒れ狂う。果たしてダメージは――
「ぬぁ!?」
っしゃあ、効いてるっぽい! 無表情だったのがあからさまに目を見開いて驚愕してる!
「貴様何を――」
「おっと逃がさないよ!」
飛び下がろうとしたのに追随して手がうずまる状態を維持する。魔力で実体を作ってるせいか、引っかかりみたいなものが全然ないから油断するとすっぽ抜けそうなんだよね。
だけどこのままでいる時間の分だけダメージになるんだから引く理由がない!
「小癪な!」
ボクを引き離すのが難しいとわかるや否や、躊躇いなく至近でぶっ放される怨念砲を左手で相殺。振れる端から変換される魔力は『核撃』クラスすらも乗り切った。直射砲程度でぶち抜けるとは思わないことだね! このまま削り切るまで延々粘着してあげ――
「半端ごときがぁあああ!!」
激怒の咆哮をきっかけに、倍増じゃすまされなくなった怨嗟のプレッシャーが襲ってきて一瞬硬直。そこへ力任せに薙ぎ払うだけの腕が迫って――え、ちょ!?
轟音と共に尋常じゃない衝撃を受けて、総金属製の身体が軽々と吹っ飛ばされた。生身なら間違いなく爆散してミンチになってるレベルの威力だ。マキナ族でも重要機関への影響が心配になるくらいの一撃なんて、今のところジョン君くらいしか思い当たらない。というか見間違いじゃなければ……。
吹き飛ぶ最中に態勢を整えつつ盟主を見据えれば、それが見間違いじゃないことが証明された。振り抜かれる最中あっという間に肥大化した腕は、今や凶悪な爪と闇を固めたような鱗に覆われていた。
「図に乗るなぁあああああああ!!」
変化はそれだけじゃなかった。彫像じみてた無表情が悪魔らしい凶相を浮かべていて、それがそのまま異形へと形を変えていく。首が伸び、残った腕も両脚も形を変えてみるみる巨大化。こじゃれた服はいつの間にか刺々しい甲殻へと置き換わり、禍々しい翼と尾が打ち振るわれる。
そしてボクがやっと着地した時には、目の前に見上げるばかりの巨大な怪物が出現していた。
「黒い竜……」
思わず漏れた呟きの通りにしか見えない盟主だったモノ。ただし生物的な優美さなんてかけらも感じない、見る者全てを狂わせかねない狂気を形にしたかのような外見と、さっきまで感じてた怨嗟がただの泣き声みたいに思えるほど、ただの人間なら触れた瞬間狂い死ぬんじゃないかってほど極悪な怨念は、そいつが完膚なきまでに邪竜の類だってことを主張していた。正直なところボクですら今すぐ逃げ出したい衝動に駆られるほどだ。
だけどそれはできない、したくない。
「それが本性? ありきたりだね」
「滅びろぉおおお!!」
だから固い表情を無理矢理笑みにして煽り文句を口にして、返された怨念ブレスを『浄化』で相殺しながら逃れる。ヤバいこのブレスさっきの『核撃』もどき並みの威力なんだけど!?
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