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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
七章 機神と留学
172/197

一党

「まあどうしてもって言うなら、パーティ同士の模擬戦で決着つけてやってもいいんだぜ? あんたも頼れるお仲間くらいいるんだろう?」


 そんなところへすかさず差し込まれたケレンの提案。確かに一対一じゃなかなか決着つかなくても、団体戦なら戦況しだいじゃどうとでもなるだろう。単純にメンバーの数が多ければそれだけで有利だし。

 でもさ、これ親切に見せかけた心折な提案だよね。ケレンったら完膚なきまでに叩きのめそうとしてるよね? 言った瞬間、チラッと意味ありげに視線を向けてきたからまず間違いない。

 そう、パーティ戦なのだ。そしてボクは『暁の誓い』の正式なメンバー。つまりはそういうことだ。臨険士(フェイサー)ってことがバレたらまずいって状態のままだったらいざ知らず、隠す必要もないってなったんだからボクが参戦しない理由がない。

 だけどさっきの面子を見たら、ジュダスでなくても臨険士(フェイサー)三人と学院生のお嬢様三人(プラスお付き)って判断するだろう。もう完全に初見殺しのトラップだよこれ。当然教えてあげる気なんてさらさらないんだけど。


「いいだろう、パーティ戦で決着をつけてやる!」


 そんな罠が張られているなんて思いもしてないだろうジュダスは二つ返事で了承すると、何か言いたそうな顔になってるリクスに気づかないまま屋外に向かっていった。さすがにパーティ同士でドンパチやるには狭いから、場所を変えるつもりなんだろう。

 そしてそんな背中に駆け寄っていく人が一、二の……四人か。たぶんジュダスのパーティメンバーなんだろう。向こうからしてみたらリクスは三人パーティだろうから、シルバーランクが一人いても五人なら人数差で押し切れるって判断したんだろうね。ご愁傷様。

 ちなみにここで良識的な仲間が思いとどまるようにいうこともあるかと思ったけど、聞こえる限りじゃ『何やってるのふがいない』的なやりとりだ。どうもこの騒動を最初から見てたようではあるんだけど、ジュダスと同じように自負でもあるのか、当然のようにジュダスを止める様子は誰にもない。あと、ジュダス以外全員女性のハーレムパーティだ。


「エリシェナ――」

「どうぞご存分に、ウル様」


 そして一応許可を取っておこうと思って名前を呼んだ瞬間、護衛対象から食い気味なゴーサインが出た。そろそろこのお転婆お嬢様の好みもわかってきたから、このシチュエーションだったらこうなるだろうとは思ってたけどさ。


「まさかとは思うが、参加するのか、ウル嬢?」

「パーティ戦ですからね」

「そうか……彼も気の毒に」


 どうやら察したらしいドランツが気の毒そうにジュダスパーティを見送るのは放っておいて、ひとまず微妙な表情で立ち尽くしているリクスの下に集合する『暁の誓い』。当たり前のように学院勢もみんなくっついてきてるけど、まあそれはいいだろう。


「おい、ケレン。いったいどういうつもりで――」

臨険士(フェイサー)なら舐められてそのままってわけにもいかねーだろ。ついでに組合(ギルド)の本部で名前が売れるに越したことはないしな」

「でも、元々は俺とジュダスさんの一対一で――」

「じゃあ何か? オレらはともかくとして、お嬢様方に延々観戦してもらえってのか? ご所望のお話はまだなんだぜ?」

「う……」


 困り顔でケレンをたしなめようとするリクスだったけど、ウィークポイントを押さえられてあっさり言葉を詰まらせる。確かにジュダスの乱入でエリシェナ希望の冒険譚はお預け状態なんだよねー。あ、もしかして即オーケーが出た理由の一つだったりするかな? ありうるわー。

 それでも何とか撤回させようとしたいんだろう小市民な性格のリクスは言い募る。


「だ、だからって勝手にシェリアやウルも巻き込んでなんて――」

「はっはっは、何言ってんだリクス。仲間を馬鹿にされて黙ってられるようなのがいるとでも思ってんのか? なあ、ウル、シェリア?」

「当然ですね」

「……その、まあ……そう」


 けれど幼馴染の相棒に青筋笑顔で笑い飛ばされて、ケレンから話を振られたボクがお澄ましモードで即答して、珍しく動揺して盛大に目を泳がせながらシェリアが絞り出すように肯定して、困り笑いを浮かべながらやっとあきらめたように溜息を吐いた。

 というか、シェリアったらリクスを馬鹿にされて内心怒ってたんだ。毎日のように鍛えてあげてる相手が舐められたからイラっとしたんだろうけど、つまりはそれくらいには親しみを感じてるってことだから、これはリクスもワンチャンありそうだね!


「それで参謀、どうするつもりです?」

「ウルお嬢さんがちょっと本気出したら秒で終わるだろう?」

「ボクが面白くないから却下」


 それはそれとして、リーダーが納得してくれたところで戦闘プランを聞いてみたところ、予想通りの答えが返ってきたから即ボツにする。無双は嫌いじゃないけど、それは昨日もやったからね。せっかくだからまともなパーティ戦をしてみたいんだよ。ボクがいる時点でムリだろなんて声は聞こえなーい。


「けち臭いな、仲間なんだから楽させてくれりゃいいのに」

「仲間なんですからお互い協力して勝ちたいです」

「はいはいおっしゃる通りに。で、どこまでやってくれるんだ?」

「じゃあ、向かってくるのと余りをまとめて相手するくらいは」

「それじゃいつも通りだな。あとは向こうの戦力見て調整だな。リクス、シェリア、それで行けるか?」

「わかったよ」

「……了解したわ」


 ということで、ざっくり戦術プランを確認してからちょっと辺りを見回し、訓練用の武器が固められてる一画に立ち寄った。いつかのロヴとの模擬戦みたいにガチ武装で訓練なんて危なっかしくて普通できるわけないから、組合(ギルド)の訓練場にはこういうのが充実してる。メジャーな武器なら好みの形状を選べるくらいに種類はあるし、非殺傷系の魔導式(マギス)を搭載した魔導器(クラフト)なんてものもある。

 リクスはもう剣と盾を装備してるからそのまま。さすがに握剣(カタール)なんてなかったシェリアは長めの小剣(ショートソード)を二本選んで、ケレンは愛用のに近い威力重視な長杖(スタッフ)型の魔導器(クラフト)を手に取った。

 それでボクはどうしようか……とりあえず剣は確定として、魔導式(マギス)用に何か魔導器(クラフト)でも――いや、非殺傷系なら自前で用意してもいっか。ジュダスも仕込んでたし、似たような物って思われるだろう。うん、何も問題ないね。

 ならせっかくジュダスがメインウェポンにしてるんだし、剣はやめて槍でも練習しようか。レインラースは槍形態にもできるから、無駄にはならないよね。まあ大抵は斧形態のままぶん回すことになるだろうけど。ならなんで変形機能持たせたって? かっこいいからに決まってるじゃん!


「お前、槍なんて使えるのか?」

「普段使わないから、練習にちょうどいいんです」

「……余裕だな」


 ネイルズの呆れたような声はスルーして、長い棒の先に三角の刃先がついてる一般的なタイプの槍を軽く振り回す――あ、ヤバいなんかちょっとミシって聞こえた。しなりを利用することもあるからその分柔いのかな? 下手に全力で振ったらそれだけでポッキリいきそうだから気を付けないと。


「練習が必要と言うわりには随分と堂に入った扱いに見えるな」

「そうですか? そう見えるなら嬉しいです」


 まっとうに修行してるドランツから褒められてちょっと照れつつ、そろって訓練場の屋外スペースへ移動。特に障害物もない平坦な一画で待ち構えているジュダスパーティの下へと進み出た。どうも先に武器は確保してたようで、ジュダス以外もすでに武器を構えて臨戦態勢だ。メンバーの得物はそれぞれ、戦斧(バトルアクス)長剣(ロングソード)、それと素手ってことは格闘かな? で、長銃型(ライフル)魔導器(クラフト)。ジュダスの槍を含めて前衛四の後衛一ってところだね。


「……なんで君がそこに立っているのかな、学院のお嬢さん?」


 と、ギャラリーの位置で立ち止まったエリシェナたちとは違い、当たり前のように槍を携えてリクスたちに並び立つボクを見て、顔をヒクつかせながらジュダスが聞いてきた。うん、期待してた通りの反応をどうもありがとう。


「『なんで』って、パーティ同士の対戦だからですけど?」

「……まさか、君がそのパーティの一員だと言うのかい?」

「部外者だったらここには立ってないですよ。証拠なら、ほら」


 疑惑全開の目で見てくるジュダスに、基本身に着けてる登録証(メモリタグ)を取り出して投げ渡した。危なげなくキャッチしたジュダスは銀のプレートに目を見開き、そして燦然と輝く紅玉に気づいたようで顔を引きつらせる。

 ちなみにシルバーランク昇格に合わせてフルネームで登録し直したから、ボクが貴族って勘違いしてることだろう。あと性別のところも必須って言われたけど、ダメ元で『中性』って書いたらそれで通った。それでいいのかって思って聞いたところ、マキナ族以外のマイナー種族にそういうのが普通にいるらしい。さすがファンタジー。


「所属は、『暁の誓い』……これがそっちのパーティか?」

「そういえばこっちの名前を知らないんでしたっけ。ケレン」

「ほいよ」


 とどめとばかりにケレンが気楽な態度で自分の登録証(メモリタグ)を投げ渡す。焦ったようにそれもキャッチして切羽詰まったようにボクのと見比べるけど、いくら睨んだところで同じ所属が刻まれているのが変わるはずもない。


「――クソっ、いいだろう!」


 やけっぱちになったように叫びながら登録証(メモリタグ)を投げ返してくるジュダス。五対三だったのが五対四、しかも戦闘に関しては実質ゴールドランクがプラスされてる現状を認識して、ようやく嵌められたことを悟ったに違いない。もしボクが同じ立場だったら「ふざけんな!」って盛大にわめいてるだろうから、気持ちはわからなくもないよ。ざまぁ!

 内心でほくそ笑みながら、明らかにデッドボール狙いな登録証(メモリタグ)を自分の分は片手でキャッチ。わずかに遅れてきたケレンの分は弾くようにして軌道修正&威力減衰して、本人の胸元辺りにシュート。慌てて受け止める様子を『探査』に感知しながら登録証(メモリタグ)をしまって、何やらコインを取り出したジュダスに向かって改めて槍を構える。


「これが地面に落ちたら戦闘開始の合図だ! いいな!?」

「ええっと、じゃあそれで」


 どうやらコイントスをスタートにしたいらしい。まあ無難だよねってことで、チラッと仲間を見回したリクスが代表して承諾。そのまま投げ上げるのかと思いきや。


「言ったな? ココル、支援だ」

「いいの?」

「いいからやってくれ!」


 手の中のコインはそのままに、なんかライフル持ちの無表情っ子に指示を出していた。支援って……スタート前に支援射撃でもさせようっての? 自分で言い出したルールを即行破るとか、控えめに言っても外道だね。

 まあその程度ならボクが動けば何の意味もないから、いつ銃撃が飛んできてもいいように身構えて――


「請い願う。求めるは苦難を耐えうる強き身体。この身に宿るを力となし、御身の奇跡を賜らん」


 けれど無表情っ子はライフルを構えることなく、空けた右手を胸元に持って行くと、服の下にある何かに手を添えながら祈りのような言葉を口ずさんだ。何のつもりだろう?

 そしてその疑問はすぐに解けた。無表情っ子の言葉に応えるように手の下で魔力が反応したかと思うと、その周囲に光でできた幾何学模様が浮かび上がる。かと思うとパッと瞬くように一度強く発光して、呼応するようにジュダスのパーティメンバーそれぞれが柔らかな光に包まれた。

 まるで邪霊や悪魔が使う『魔法』のような一連の現象。というか、性質的にはほぼ同じ『魔法』の系列に分類される現象だ。

 当然のことながらただの人間が使えるものじゃない。そして無表情っ子が理論上は極稀に存在しうる真正の魔法使いだって可能性よりも、もっと一般的な例外だと思った方がいいだろう。


「げっ、神霊式(ルキス)!? あいつ慈護者(コーラー)かよ……」


 同じように正体を悟ったらしいうちの参謀がイヤそうに顔をしかめた。ボクも一応知識としてはあったけど、実際に見るのは初めてだ。俗に『神官』とも呼ばれる、神霊の加護を受けた人間、それが『慈護者(コーラー)』。

 邪霊や悪魔なんかの『不死体(イモータル)』と対をなす存在である『精霊体(スピリット)』。前者が負の魔力生命体だとすれば後者は正の魔力生命体で、その中でも最上位の『神霊』は、ある種の契約を交わした相手からの呼びかけに応じて、契約の印を媒体に本人の魔力を使って遠隔で魔法を使うことができる。それが『神霊式(ルキス)』と呼ばれる、いわゆる神様の力を借りた魔法だ。前の世界の記憶にあるゲームとかだと、『聖魔法』とか『神官魔法』とか呼ばれるタイプのやつだね。その性質上防御や支援、治癒といったことにしか使えないけれど、『霊印』と呼ばれる装飾品一つでそれらが使えるのはかなりの利点だ。

 ただし、神霊式(ルキス)を使える人のほとんどが争いを好まない性質らしく、慈護者(コーラー)イコール神官ってイメージなくらい神霊教会に勤める人が大半を占めているって話だ。つまり、ライフル片手に臨険士(フェイサー)パーティに混じってるのはかなりのレアケースってことになる。


「珍しい人を仲間にしているんですね、ジュダス」

「ちょっとばかりせこくないか、精鋭のジュダスさんよぉ?」

「これは『白天の明星』の基本戦術だ、卑怯だなんて言わせないぞ。もともと先に嵌めたのはそっちなんだからな」

「請い願う。求めるは危機より逃るる速き脚。この身に宿るを力となし、御身の奇跡を賜らん」


 二人そろってのちょっとした皮肉に、けれどジュダスは堂々と言い返して来た。そういう開き直りができる相手は嫌いじゃないんだけどね。

 そして遠慮のないバフの重ねがけ。重複オッケーなんだそれ。確かに戦闘前にバフ積む余裕があるならありったけ積んで当たり前だよね。ボクも手段があるなら絶対やる。まあ、描画された術式からして強化率も高が知れてるし、それくらいはハンデとして認めてあげよう。

 というわけで、ボクもできることとしてあらかじめ槍に魔力を流して――ってなにこれやりづらっ!? いつもの愛用武装がしっかりした水道管に水を流し込んでるとす れば、模擬戦用のこれは目詰まりしてるほっそいストローみたいなんだけど!? 下手に全力で流したらそれだけで槍自体がダメになりそう。

 そういえば普通の武器に魔力流そうなんてしたの、これが初めてじゃないかな? 素材の違いってやつをものすごく実感したよ。まあできなくはないから少し慎重に。


「請い願う。求めるは脅威を見定む天の導き。この身に宿るを力となし、御身の奇跡を賜らん」

「――行くぞ、覚悟しろ!」


 そして三度バフが撒かれる間に何とかこっちも準備完了したところで、ついにジュダスがコインを高々と弾き上げた。途端にピリッと引き締まる空気。ガヤガヤしてたギャラリーも一瞬で静かになって、まさに嵐の前の静けさといったところ。

 そのまま放物線を描くコインが頂点に達して、ゆっくり加速しながら落ちていく。そして目線の高さを横切ったあたりで誰からともなくザリッと地面を踏みしめる音が聞こえて――

 澄んだ音が響くと同時にジュダスパーティが一斉に動き出した。前衛四人はそろって武器を構えつつ踏み込んできて、無表情っ子は少し下がって立ったまま両手でライフルを構える。

 対して『暁の誓い』は完全に待ちの体勢だ。リクスは元々守備重視だし、格上になるボクとシェリアは向こうの出方を窺う余裕があるからね。せいぜいリクスが飛び退ってロッドを構えたのが目立つ動きだ。

 そしてどうも向こうの前衛陣は、作戦でもあるのか明確に狙う相手がいるようだ。ジュダスはボクに、格闘っ子はシェリアに、斧っ子と剣士の子はリクスにとそれぞれ向かってくる。ついでにライフルの狙いはどう見てもケレンだ。ふむ、ランク的にはこっちの最弱なリクスに二人ってことは、速攻でリクスを倒してから格上のボクとシェリアを相手取る腹積もりかな? 他も武器の間合いが近い相手同士で割り振ってるし、きっと数で有利になるまでは防御に徹すれば凌げるって算段だろう。

 まあ、そんなのにわざわざ付き合ってあげる必要はないよね。



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