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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
七章 機神と留学
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決闘

 まあジュダスの実力が想定より上だったらまた話は違ってくるかもなんだけど……ちょうどいいや、ドランツはジュダスのこと知ってるみたいだし、念のため確認しておこう。


「ドランツはあのジュダスっていう臨険士(フェイサー)のことを知っているんですか? 実際のところどれくらいの実力なんですか?」

「それなら俺よりも詳しい人間がいる。人物解説が必要ならそちらが適任だろう」


 そう言って振り返った先には、さっきまでの仏頂面はどこへやら、真剣な目で二人の模擬戦を見ているネイルズ。


「ジュダス・レインスタはカッパーランクで『白天の明星』のリーダー、あと見た通り槍使いだな。若手の中でも実力は確かで、そろそろシルバーランクへの昇格が近いらしい。実力もその辺か少し上ってところだろ。最近だと石鎧熊(グランベア)を討伐したって聞いたな。ただ、難易度の高い討伐依頼を立て続けにこなして図に乗ってるなんて話も聞くな」


 どうも観戦に集中してるみたいでこっちを見向きもしてくれなかったけど、タイミングよくジュダスについて教えてくれたところを見るとこっちのやり取りはちゃんとは聞いていたらしい。悪態ついてたわりには律儀だよね。


「ネイルズはジュダスの知り合いですか?」

「同じ組合(ギルド)に所属してるって程度だ。同業者の情報くらい集めてるもんだろ、普通」


 もしやエリシェナの同類かと思ったら、わりとまっとうな答えが返ってきた。ゴメン一応は臨険士(フェイサー)だけど、そこまで真面目に同業者の情報集めてないや。


「なるほど。そうなると、ネイルズも臨険士(フェイサー)だったんですね」

「……んだよ、だったら何か悪いのか?」

「悪いなんて一言も言ってないですよ。むしろしっくり来た感じです。ランクは何ですか?」

「カッパーランクだ」

「それもただのカッパーランクではないんだぞ。なんと、ストーンから飛び級認定を受けてのカッパーランクだ!」

「おい黙れよ!」


 次いでとばかりに聞いたところで、そんな豆知識を横から挟んできたのはドランツ。その顔はなぜか自分のことのように誇らしそうだ。友達大好きだね。それともひょっとして弟自慢してるような感じなのかな?


「やっぱり学院で講義を受けたからですか?」

「……まあな」


 飛び級できた理由がそれしか思いつかなかったから一応確認してみると、なぜか渋い顔で肯定するネイルズ。だよね、戦技科とかもろにそういうのだし、聞いた話収録科も採取とか探索とか、そういうフィールドワーク系の技術について学べるみたいだし。なんにしたって基礎教育って大事だもんね。


「将来有望ですね。期待してますよ」

「……」


 ここはおだててやる気にさせておこうと思ったら、なぜかムスッとした顔でそっぽを向かれた。解せぬ。


「ところでウル嬢、友人殿の方は大丈夫なのだろうか? どうにも攻めあぐねているように見えるんだが」


 ネイルズとのやり取りに区切りがついたのを待っていたのか、模擬戦を見守っていたドランツがそんな風に聞いてきた。どうやら防戦一方なリクスのことが心配になったらしい。

 けどまあ、ボクとしてはわりと想定通りの展開なんだよね。そもそも槍と片手剣じゃリーチに倍以上の差があるから、リクスから攻撃しようと思ったら槍をかいくぐって肉迫しなきゃならない。槍を持っているのがただの一般人ならそれくらいできるだろうけど、少なくともそれを得物にしてる臨険士(フェイサー)相手にやるのは厳しいものがある。確か槍を剣で倒そうと思ったら三倍くらい強くないとダメなんだったっけ?

 それを考えれば二人は大体同じくらいか、リクスが若干下くらいだ。本人も時々思い出したように攻め込もうとしてはいるけど、そのたびジュダスはきっちり反応して間合いの内側に入り込ませないようにしている。かといってジュダスも防御を突破できないでいるっていう、もういっそ見事なくらいに膠着状態だね。


「ウル様のお言葉を疑うわけではありませんが、このままではリクス様が勝つことは難しいのではないでしょうか?」

「まあ、今の実力じゃリクスがジュダスに勝つのは難しいですね」


 ボクたちのやり取りが耳に入ったのか、ススっと寄ってきて少し心配そうに尋ねてくるエリシェナにあっさりとそう言えば、割と本気で驚いたような顔になった。


「まあ、先ほどはリクス様なら勝利できるとおっしゃっていませんでしたか?」

「言ってませんよ。『リクスでも負けはしない』って言ったんです」


 要はジュダスを煽るために仕掛けた、ちょっとした言葉遊びだ。実のところ、さっきの脳内シミュレーションの結果、様々な槍使いに対するリクスの勝率はおおよそ四割弱って感じだった。

 けどそれは残り六割強が全敗だったて意味じゃない。というか、負けはなくて悪くても勝負がつかずの引き分けだったんだよね。つまりは、今まさに目の前で繰り広げられてる膠着状態なわけだ。同格どころか多少の格上でも大した被弾もないとか、リクスってばいつの間にか前の世界の記憶にあるRPGでいう『壁役(タンク)』みたいな立ち回り方になってるね。

 加えて言うと、リクスは普段から武装したまま走りこんだりして体力を鍛えていて、ついでに少しでも長くボクやシェリアと組み手をするためか、日々防御動作の無駄を減らしてどんどん洗練させていた。

 その結果として、最近じゃスタミナの増加&消費軽減が目に見えて高くなっているのだ。具体的にどうなのかと言えば、ここしばらくはシェリアとの組手でも、リクスがへばるころにはシェリアも大きく肩で息をしてることが多くなっているほど粘れるようになっている。戦闘スタイル的に機動力重視なシェリアの方が圧倒的に運動量が多いことを考えても、半年前じゃうっすら汗ばむ程度だったことを考えれば驚異的な進歩と言ってもいいんじゃないかと思う。その辺りの実感があるからこそ、シェリアもさっき『勝てはしない』なんて言い方したんだろうね。

 そんな風に近頃は持久戦特化な成長が芽吹きつつあるリクスだ。それが本人の希望に合ってるかはおいておくとして、その防御を突破できる威力か速さか手数か、少なくともどれか一つを持ち合わせた相手でない限り、勝つことはできなくとも負けることもまずないと言っていいだろう。そして現にジュダスは完封されてるわけだ。


「まあ格下と思っていた相手に圧勝できない時点で、ジュダスには十分屈辱だと思いますから」

「意外と人が悪いんだな、ウル嬢」


 しれっと言いのけると、ドランツがなんとも言えない表情でそんな感想を述べてくれた。人が悪いとは失敬な。売られた喧嘩はきっちり清算して舐められないようにするのが臨険士(フェイサー)の流儀ってだけなんだからシカタナイヨネ。


「おいおいどうしたよジュダスさん! 格の違いを見せつけてくれるんじゃなかったのかー!?」


 そして割とよく似た思考回路を持ってるらしいケレンが、リクス相手に決定打を打ち込めずにいるジュダスをここぞとばかりに煽る煽る。いいぞーもっとやれー!

 がしかし、それで何かスイッチでも入ったのか、ジュダスは心底忌々しそうに歯を食いしばったかと思うと、ことさら強い一撃を放って――ん? なんか両二の腕あたりに魔力反応が? あ、まさか服の下に魔導器(クラフト)仕込んでたの!? 埒が明かないからってそれ使う気か! ヤバい術式によっちゃそれでひっくり返されることも――


「――らぁあっ!!」


 そんな風に内心焦っている間に魔力が消費されたみたいだけど、予想に反してジュダスから炎やら電撃やらが飛び出すことはなかった。発動失敗? いや、術式に布武がない限り規定量の魔力さえ流せば必ず動くから、普通に装備してる以上あり得ない。となると、目立つエフェクトが出てきにくい強化系の魔導式(マギス)

 一瞬で立てた予想を証明するかのように、次にジュダスが繰り出した裂ぱくの気合を載せた突きは目に見えて攻撃速度が上がっていた。やっぱそっち系かー。焦って損した。


「くっ!?」


 リクスも急にスピードが上がったせいで、肩狙いのそれを左の小盾(バックラー)で捌くのが若干遅れて少し体勢を崩すことに。すかさず速度はそのままに腰狙いの連続付きを放ったジュダスは、エリートを自称するだけの実力はあるようだ。そこは素直に褒めてあげてもいいと思う。

 ただまあ、そのくらいのスピードならボクは当然、シェリアだって余裕で出せるんだよね。何が言いたいかっていうと、リクスにとっては慣れの範囲だってこと。

 崩れた姿勢を無理に立て直そうとはせず、むしろ自分から横に倒れこみつつ体を捻ることで、きわどいながらも突きを回避した。さらには引き戻される槍を剣で払い上げて乱し、受け身から流れるような動作でクルリと一回転して立ち上がると、間髪入れずにバックステップして距離を取ることで対応時間を稼ぐ。結果として到達が遅れてしまったジュダスの三発目は、十分な体勢を取り戻したリクスによってあえなく弾かれた。まあ、単純に肉体強化するだけならこんなもんだよね。

 そして再び陥る膠着状態。ジュダスの攻撃速度は上がったままだからさらに反撃する回数が減ってるけど、それでもリクスはきっちりしっかり攻撃を防いでる。一秒でも長く立ち続けてやるって言わんばかりの姿勢は、まさに『壁役(タンク)』。


「すさまじいまでの粘りだな。剣技は荒削りのようだが……」

「別行動していない時は、毎日しごいてますからね」

「なるほど、ならば納得だな」


 今回は不意打ちが原因だったけど、どんどん追い詰められて体勢が崩れるなんていつものことなリクスは、それでも何とか少しでも長く食らいつこうとしていった結果、あんな器用な体捌きを身に着けたのだった。

 いやホント、最近のリクスって鍛錬になるといい意味でしつこいからね。あんまりにも動きが柔軟すぎるせいで同じスタイルの戦闘データが参考にならなくて、まだまだ経験の乏しいボクだと結構意表を突かれるんだよね。まあ今のところ『平常』出力でも余裕で対処できるし、ボクとしてもいい経験になるから問題ないんだけど。

 ところでドランツと、あとネイルズ。なんで獲物を見つけた肉食動物みたいな目でリクスのこと見てるのかな? 実力も近いだろうからぜひとも手合わせをとか思ってるの? やったねリクス、こっちにいる間の鍛錬相手が増えるよ!


「おうおう、本気出してその程度かージュダスさんよ? うちのリーダーはピンピンしてるぜ?」


 そしてジュダスが隠し玉を使ってなお勝負がつかないことで加速するケレンの煽り。無駄によく響く声が聞こえないわけがなくって、ジュダスの顔には明らかに焦りが浮かんだ。ついでにリクスも焦ったような顔になったけど、たぶんこっちは煽り過ぎとか思ったんだろうね。

 まあそれで無理をして隙でも作ってくれればリクスが付け入ることもできたんだろうけど、ジュダスに目立った動きは特にない。たぶん現状が最高パフォーマンスで、これ以上余計なことをしたら即座に崩れるってわかってるんだろうね。戦闘が華な臨険士(フェイサー)だけど、それも生き残ってこそっていう大前提をわきまえてるからこそかな。だとしたら案外真面目に冒険してたってことになる。

 ただ、魔導式(マギス)を使った時点で最高パフォーマンスも時間制限があるのは確定だ。常時発動型じゃないのは常に魔力を流し続けてないところを見ればわかるし、さっき感知した魔力の具合から予想される魔導器(クラフト)の術式描画範囲と、ジュダスの動きから見て取れる強化倍率から逆算すれば、効果が切れるのはもうすぐだろう。


「――クソっ」


 そう考えたそばから悪態をついたジュダスが攻撃を断念して距離を取った。ほとんど同じくらいにスピードが落ちたというか元に戻ってたし、予想通り魔導式(マギス)の効果時間を超えたわけだ。そのまま無理に続けて隙でも作ってくれたら、リクスが一撃入れられたかもしれないのに、残念。


「えっと、お互い実力もわかったと思うし、引き分けってことにしませんか、ジュダスさん?」


 そうして一旦仕切り直されたところで、油断なく構えながらもそんなことを提案するリクス。基本的に自己評価低めで謙虚だから、このままじゃ延々終わらないってことはわかってるんだろう。鍛錬ならともかく勝ち筋の薄い勝負を延々続ける理由もないから、強くなることにはこだわっても勝ち負けにはてんで無頓着なリクスからしたら当然と言えば当然か。

 だがしかし、ジュダスが肩で息をしているのに対してうっすら汗ばむ程度のリクス。これも単純にカッパーランク帯じゃリクスが体力お化けってだけなんだろうけど、傍から見ればどっちの方が余裕を残しているように見えるかは推して知るべし。


「……まだだ。ろくに反撃もできない半人前に、オレが負けるはずがない!」


 そして相対してるジュダスからすれば、侮っていたはずの相手に譲歩されるように思えるわけで。当然そんな申し出を、端から高いプライドを見せつけてくれたジュダスが素直に受け取れるわけないよね。実際全部防がれてるだけで、ほぼジュダスが一方的に攻撃するだけのワンサイドゲームだったんだから、その気持ちはわからなくもない。

 でもそうなるとまたお互いに決定打のない打ち合いを見続けることになるのかー。それならそれでジュダスの体力が尽きて決着ってなりそうだけど、正直飽きそうだ。


「おいおい、いつまでやる気だよ。その調子だと日が暮れるぜ?」

「……」


 まったく同感だったらしいケレンの追撃に、けれど睨みつけるだけで言い返してこないジュダス。さすがにここまで凌がれた上で『すぐにでも終わらせてやる!』なんて啖呵を切る余裕はないようだ。さて、諦めてないとしたらここからどうする気だろう?


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