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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
七章 機神と留学
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決着

明けましておめでとうございます! 今年もお付き合いいただけるよう頑張ります!^^

 まずは正面から突っ込んでくるネイルズの対処だ。右上からのやや斜めな斬り下ろしと左下から腰を狙った横薙ぎの同時攻撃。普通に考えたら剣一本じゃ捌ききれないだろうけど、それは向こうの思ってるタイミングで攻撃が届けばの話。


「らぁ――」

「ほっ」


 だから右足を前に半身を取りつつ自分から踏み込んで、まずは振り下ろされる途中の斬り下ろしを横から強めに弾く。そうすれば木剣の軌跡は大きく外側にズレて当たらなくなるから、返す刀で左の横薙ぎをきっちり受け止める。

 そしたらネイルズはその場で踏ん張ると、グッと左の木剣に力を込めて鍔迫り合いに持ち込んできた。そして引き戻した右の木剣を腰だめにした突きの構え。なるほど、一瞬でも得物を抑え込んでおいて、その間にって魂胆か。瞬く間に思っていたより的確な判断――だが甘いね!

 突きこまれてくる木剣の内側にサッと左手を割り込ませ、剣の腹を手の甲で押すようにして胴体狙いを外させる。ついでにそのまま滑らせて、柄まで来たところで持ち手ごとガっとつかんで軽く引いてあげた。そうすれば想定以上の勢いに姿勢が泳いだネイルズは、それ以上隙を晒すまいと尻尾も駆使してバランスを取り戻そうとする。けど、そこへ素早く足払いをかければどうなるか。


「――! クソっ!」


 完全に体勢が崩れたネイルズは攻撃に固執せず、案外あっさりと受け身を取りつつ間合いを開けた。たぶんこれ以上粘ってもろくに当てられないってわかったんだろうね。

 なかなか素早い離脱だったけど、崩す前提で構えてたボクには絶好の追撃チャンスだ。だけどあえて見逃す。


「はぁっ!」


 今は訓練中っていうのもあるけど、それより絶妙のタイミングでカバーに入ってきたドランツの攻撃を受け流さないといけなかったからね。うん、なかなか気合がこもっていてよろしい!

 そのまま攻撃は最大の防御とでも言わんばかりに果敢に攻め立ててくるのを捌きながら、意識を『探査』の方に切り替える。そうすればいったん離れたネイルズが、体勢を立て直して後ろに回り込もうとしているのをきっちり捕捉。ドランツがさっきまでと比べても無理に攻めてきてる感じがしてたけど、相方が裏取りすることを見越しての時間稼ぎだね、これ。

 まあ二対一なんだし、普通に考えて挟撃しない方がどうかしてるよね。状況が同じならボクだってそうする。


「――喰らえよっ!」


 そして素早く背後を取ったネイルズは、『してやったり』みたいな笑みを浮かべて全力で双剣を振り下ろしてきた。そのためらいのなさは高評価だけど、せっかくの強襲で声を上げちゃったのは減点かな。これじゃ攻撃タイミング教えてるようなもんなのに。

 まあ、ずっと捕捉してるからどっちにしろ意味ないけど。

 たぶん狙ったんだろう同タイミングできたドランツの右斬り上げを、左足で踏み込みながら前後を入れ替えることで、ドランツの懐に入り込むようにして上へ受け流す。肉付きのいい身体が背中に密着するのを感じつつ木剣を跳ね上げれば、ネイルズの剣をドランツと共同で受け止めるような形に。おっと、二人そろって間抜け面晒してる暇はないよ?

 受け止めた反動を利用するように体を屈ませ、地面につけた左手を支点に両足払いを敢行。仲良くバランスを崩したところに立ち上がりながら木剣を手放し、それぞれをなるべく優しく掌底で押し出してあげた。

 とたんもんどりうって転がる二人を見守りつつ、落下中の木剣を空中キャッチ。ヒュヒュンと無駄に宙を切り裂いてる間に受け身を取ったドランツとネイルズは、弾かれるように間合いを離しながら立ち上がる。

 そしてどっちも木剣を構え直しはしたものの、こっちの様子を窺うように動きを見せない。


「どうしました、もう終わりですか?」

「即席とはいえ、今のすら軽く対処されてはな……」

「……後ろに目でもついてんのかよ」


 ネイルズ惜しい。半径三百ピスカ以内なら全方位把握してるんだよね。言ってもたぶんわからない感覚だろうけど。


「まあ似たようなものです」

「クソっ、本気で化け物だな、お前!」

「おいネイルズ、いくら桁違いだからと言っても、さすがに女性に向かってその発言は――」

「うるせぇ。化け物を化け物って言って何が悪い!」


 そんな吐き捨てるようなセリフを聞いて少しムッとした。自分が手も足も出ないからって人を化け物呼ばわりとか、短絡的にもほどがあるでしょ。


「失敬な。キミと比べたら化け物じみてても、ボクだって勝ったことのない相手もいるんですよ」


 ロヴとかロヴとかロヴとかさ。そしてそんなロヴにすら勝てる人がいるんだから、プラチナランクの臨険士(フェイサー)は総じて人外の領域だ。それに比べたらマキナ族なんてまだかわいい方でしょ。


「嘘言え! てめぇみてぇなのがそうそういてたまるかよ!」

「そりゃ数は少ないですよ。でも確かにいますからね」

「……『井戸の主は山を知らず』とはよく言ったものだな。自分がどれほど狭い世界しか見ていなかったのか、そんな中で知らず驕っていたのかが嫌というほどわかる」


 現実を認めたくないのか見苦しく喚くネイルズと、なんか格言っぽいのを引用して達観した目になるドランツ。今のはいわゆる『井の中の蛙』と似た意味かな?

 まあそれはそれとして、四天王二人がかりで掠りすらしないのを見せつけたんだ。そろそろ頃合いとしてはいいだろう。


「なら、最後に世界の広さの片鱗、味わってみてくださいね」


 ニッコリ笑顔を浮かべながら全力の踏み込み。少し離れたところにいたネイルズの下へ一瞬で到達すると、信じられないとばかりに目を見開くのを視界に収めつつ、構えた木剣を狙ってこっちの木剣を思いっきり叩きつけた。

 そうすればネイルズの木剣は、衝撃を逃がしにくい柄本を狙ったこともあって盛大にへし折れた。出力は『平常』とはいえ、たかだか訓練用の木剣がマキナ族渾身の一撃に耐えられるはずもないから当然だね。ただまあ、そのまま二本目もへし折ったところでこっちの木剣にも致命的なヒビが入ったのは誤算だったかな。まあたかだか訓練用の木剣に耐え切れって言う方も酷かな。

 とりあえず剣としてはもう使えないだろう木剣のことは置いておいて、空いている手を伸ばすとへし折った時の衝撃で柄を取り落としたネイルズの胸倉をがっしり掴む。


「高い所は好きですか?」

「は――ああぁぁっ!?」


 ボソッと囁いてあげた直後、返事を聞く前に振り返る勢いも合わせて強制空の旅をプレゼント。やっぱり人を化け物呼ばわりする子にはお仕置きが必要だよね!

 これでネイルズは武器喪失に加えて空中遊泳中だから放置で良し。ちょっと本気出すみたいなことも言ったわけだし、残ったドランツもそろそろ戦闘不能になってもらおう。

 そう思ってドランツへ再び全力の踏み込み。けれどそこはさすがにエリート。同じ状況を目にしたにもかかわらず、ロックと違って顔を引きつらせながらもしっかりボクから目を離すことはなかったみたいだ。この踏み込みを見るのも都合三度目のせいか、ちゃんと反応して動き出そうとしてる。


「よっ!」

「ぐはっ!?」


 それでも全然間に合ってないのは変わらないわけで、ドランツが構えている刃の部分を左でわしづかみにすると、ひねりを加えることで強引にもぎ取って、代わりに壊れかけの木剣を横殴りに叩きつけた。

 そうすればもんどりうって吹っ飛ぶドランツ。一応加減はしたし、使ったのが木剣の腹で、当たると同時にへし折れたから、再起不能なレベルで衝撃が入ったりはしてないだろう。だがしかし、ドランツ的には言い訳のできない一撃をもらったことになるわけだから、ここまでで分かった彼の性質からして、これで試合終了って意図くらいは伝わってくれるだろう。

 そうして奪取した木剣を持ち直しつつ、最後の仕上げにネイルズの落下予定地点に先回りして駆け込んだ。そのまま空中を見上げれば、意外なことに当人とバッチリ目が合う。どうやら落ちる時に少しでも受けるダメージを減らすために姿勢制御をしたらしく、すでに足の方を地面に向けていた。たぶん立派な尻尾が大活躍したんだろうけど、思った以上に器用で冷静なもんだ。

 それでもさすがに着地場所を変えるなんて無理な話で、そこへボクが回り込んできたもんだから一瞬顔を引くつかせた後、覚悟を決めたような自棄になったような、そんな笑みを無理矢理な感じで浮かべてクルリと身体の上下を入れ替える。あ、これ完全に止め刺しに来たと思ってるね。一応強制空の旅のアフターフォローしたいだけなんだけど、拳を引き絞って迎え撃つ気満々だわ。善意が通じないってつらいね。

 まあでも、その最後まであきらめずに一矢でも報いようとする姿勢、嫌いじゃないよ。

 軽く足をたわめて跳び上がれば、すぐに落下してきたネイルズと交錯する。タイミングがズレたはずなのに、それでもきっちり合わせて顔面狙いの拳を繰り出してきたのは手放しで褒めていいと思うんだ。まあ素直に受けてあげる理由もないから、横から掴んで普通に逸らしたけどね。

 で、逸らした拳は掴んだまま、勢いを導くようにしてボクを中心にネイルズを振り回して諸々の速度を相殺。滞空中に大怪我しないくらいには勢いを削げたから、着地と同時に放り出すとともに逆手に持ち替えた木剣を振り下ろした。

 急に振り回されて少し目が回ったらしいネイルズだったけど、懲りずに素早く起き上がろうとしたところで頭のすぐ横に木剣が突き立てられたらさすがに動きを止めた。


「これ以上続けるなら、足腰立たないくらいに叩きのめしますよ?」

「……くそがっ!」


 仰向けに横たわるネイルズを覗き込むようにしてニッコリ脅してあげれば、当人は苦虫を百匹噛みつぶしたような顔で悪態を吐きつつも、諦めたようなため息とともに体の力を抜いて大の字になった。これは降参と見ていいよね?

 念のため吹っ飛ばしたドランツの方にも顔を向ければ、何とかといった様子で起き上がろうとしているところに目が合った。そして苦笑気味に降参だと言わんばかりに両手を上げて見せる。うん、終了ってことでよさそうだね。


「――お待たせしました、エリシェナ。どうでしたか?」

「はい、とっても素敵でした、ウル様!」


 一仕事やり遂げた気分でエリシェナの元に戻れば、実に満足そうなお転婆お嬢様。どうやらボクのプチ無双が大変お気に召したらしい。何よりだね。

 ただ、当然のごとく他にも何かしら思うところがある人は出てくるわけで。


「……傭兵時代でもお前ほどの実力は見たことがないぞ。何者だお前?」


 わりとマジな目つきでそんなことを言ってくるゴドフリー。試合前の豪快さとは打って変わって、ベテランの傭兵経験者らしく警戒心マックスだ。まあ教え子の中に自分が手も足も出ないような怪物が混ざれば無理もないだろう。


「『今は』ブレスファク王国からの留学生です」


 とりあえず事情を話すわけにもいかないから、遠回しに「何もする気はないよー、無害だよー」って言ってみた。鋭い視線はそのままだったから通じたのかどうかはわからないけど、とにかくそれ以上ゴドフリーから何か言われることはなかった。


「いやはや、我らが四天王がまるで赤子の手をひねるがごとくだとは。これほどの武人が未だ野に隠れていたとは、我が祖国もどうして懐が深いものだ」


 その代わりのように、感心したように手を打ち鳴らしながら進み出てきたのはフィリプス。友好的な笑みはそのままだし、言葉遣いもいたって普通で素直な称賛にしか聞こえない。

 けど、気のせいだろうか、その目だけがどうにも笑っていないように見えるのは。


「しかし、あまり見ない戦い方をするのだね。剣に限らず手足をも縦横に振るうとは、どこの流派の物だろうか?」

「流派とかは特に。強いて言うなら分類的には『剣士』じゃなくて『戦士』だってだけですから」


 気温なんて感じないはずなのにちょっとうすら寒い物を覚えながら、マキナ族の無手勝手戦法をぼかして話す。もともと状況に応じて使い分けるために複数武器を用意しているくらいだ。剣一本で全部切り伏せる意気込みはあいにく持ち合わせちゃいない。

 個人によって使う武器の好みはあったりするけど、守るべきものを守るためならあらゆる手段で戦い抜くのが本来のマキナ族流だ。今の立ち合いだって、もし実戦ならナイトラフで一方的に銃撃して終わりだっただろう。


「なるほど『戦士』か。ならば理を異にするのも道理というものだろう。しかしそれほどの力、よほどの礎がなくば積み上げることも叶うまい?」

「……というと?」

「『騎士』が鍛えるは忠義を示すため、『剣士』が鍛えるは己を磨くためと聞き及ぶ。ならば目の前にいる武人が何を芯に己を鍛え上げたのか、強さに憧れる男児の一人として興味が尽きないのだよ」


 それで一瞬納得したような様子を見せながら、雰囲気はそのままに問いかけを重ねてくるフィリプス。ちょっと遠回しなせいでいまいち何が言いたいのかわからなかったから首をかしげて見せれば、より強くなったような目力と共に求めるところを言葉にしてくれた。うーん、厳密に言うと『最初から強く生み出された』わけだから参考になるかわからないけど……。


「守るため、ですね」

「『守る』? 何をだ?」


 ボクに託された『願い』を端的に口にすれば、ごまかしは許さないとばかりに重ねられた問。そう詰め寄るほんの一瞬、フィリプスの顔から笑みが消えたのを確かに見た。ヤバい、これ思った以上に本気すぎる! 真面目に答えないとダメなやつだ!


「――具体的にこれってものじゃないですね。強いて言うなら、理不尽な脅威にさらされるもの全部を。この目に見えて、この手に届く限りに」


 だからゆっくりと考えながら、イルナばーちゃんから託された想いを改めて言葉にしてみた。厳密に言えば強くなった理由じゃないだろうけど、そうあれと願って生み出され、そうありたいと心の道標にしているんだから、そこまで間違っちゃいないだろう、たぶん。


「……なかなかたいそれた志ではないか。しかし言葉にするほど易くはないだろう。それは理解しての上なのか?」

「そのための武力ですから。腕づくでどうにかできることなら、困難くらい捻じ伏せますよ」

「ふむ、そうか……」


 それで納得したのかそうでないのか、相変わらず目が笑ってない笑顔でじっと見つめ続けてくるフィリプス。なんか視線を逸らすのもダメな雰囲気だけど、微妙に居心地が悪いからどうしたものかと思っていたら、スッと割り込んでくる人影。ご存じ、貴族社会じゃ頼れるお転婆娘様だ。


「フィリプス様もすでにお聞き及びかもしれませんけれど、ウル様はこの半年の間で王国内外にて、いくつか大きな事件の解決に尽力されています。その功績はお父様も認めるほどなのですよ」

「そなたの父上が……真か、エリシェナ?」

「このようなことで偽りを申し上げても意味がありません。ウル様のような素晴らしい『守護者』と遊戯を結べたことは、家名に於いて(・・・・・・)誇る所存です」

「……そうか。そなたがそこまで言にするからには、そういうことなのであろう」


 そんなフォローを聞いたフィリプスは、ようやく納得したとばかりに頷くと元のイケメンスマイルを浮かべた。


「すまないな、ウル嬢。末席とはいえ連なる者としてはどうしても気がかりでな。これも性分というものだと思って容赦してもらえればありがたい」

「はい、気にしなくていいですよ」


 さすがエリシェナ、どういう理屈か知らないけどフィリプスを丸め込んじゃった。なんか謝罪もセットでついてきたけど、男の子として強さに憧れるのは当然だろうし、ここは理解を示してニッコリ笑顔をお返ししておくことにしよう。


「――おい、お前」


 そこへ後ろからかかる声。声の主からしてお目当てはボクだろうと思って振り向けば、復活したらしいネイルズが立っていた。どうにも何かいろいろ言いたげな顔をしていたけど、一度強く目をつむったかと思うと、次の瞬間には炎でも宿ってそうな強い目と共にビシリと指を突き付けてくる。


「いつかぜってー勝つからな!」


 それだけ宣言すると、すぐ横をすれ違うように抜けていった。一切振り返ろうとしないその背中は、まるで目指す場所まで進むことしか知らないと言わんばかりで。


「楽しみにしてますね」


 だから思わずそんな言葉をかけてしまった。だってこう、ネイルズが強さを追い求める主人公みたいで、その高い目標ポジションだって思ったら……ね?

 それが届いたのかどうか、周りにいた学生に取り囲まれて見えなくなったネイルズの姿からはわからなかったけど……きっと、ああいう人がロヴみたいなのになるんだろう――いやロヴみたいなのが何人も増殖したらイヤだな。でも強さ的な例えにちょうどいい人が他に思い当たらないし……。


「どうやら、ネイルズにはいい刺激になったようだ」


 一瞬よぎった山賊面になんだか水を差された気分になっているところへ、清々しいドランツの声が聞こえてきた。友人の背中を見送る顔はどこか嬉しそうで、まるで手のかかる弟を可愛がるお兄さんって雰囲気だ。


「そうみたいですね。きっともっと強くなってくれるだろうから、そうなればボクも嬉しいです」

「さすがだな。強さに加えて懐も深いとは恐れ入った」

「そんなつもりじゃないですよ。単純に強い人が増えるのはいいことです」


 素直な感想を述べてみたところ、なぜか感心したような顔で頷かれたので一応思ったままを言っておく。実際、そうしたらどこかの誰のピンチを救ってくれることがあるかもしれないしね。

 伊達に機神を自称してるわけじゃないから、目に付く範囲ならどうとでもできるだろうって自負はある。だけど同時にしょせん『兵器』なボクには、見えていないところまで助けられるはずがない。それはわかってるつもりだ。

 そんなどうにかしたいのにどうしようもないところを、どうにかしてくれるかもしれない人が増えるっていうなら、歓迎しない理由はない。


「そう言うドランツはどうでした?」

「もちろん、得難い経験だったとも。一介の騎士として、より鍛錬に励まなければと決意を新たにしたところだ。可能なら手隙の時間にでもまた手合わせ願いたいところだが……」


 ついでに言い出しっぺはどうだったのかと思って聞いてみれば、快活な笑みを浮かべるとドンと胸をたたいて意気込みを示す。そしてなお物欲しそうに再戦を希望してくるところは抜け目ないというかなんというか。だけど向上心にあふれるのは嫌いじゃない。


「……まあ、暇があれば」

「本当か! ぜひお願いしたい!」


 チラッと護衛対象に視線をやれば、まるで分ってたようなタイミングでニッコリ頷いてくれたから、ひとまずそう答えるとあからさまに喜ぶドランツ。オブリビアン寮所属ってことは貴族のはずだけど、ちょっと口調が固めなだけでわりと素直な受け答えをしてくれるから、なんだかホッとするね。

 そんな感じで実力を見せることは成功したんだけど、そのあとのチーム対抗戦ではゴドフリーから見学するよう懇願されてしまった。曰く、「お前が入った方の勝ちが確定してしまうから試合にならん」とのこと。うん、解せる。そして当然何の問題もないエリシェナは参加することになったわけで。

 かくしてみんながキャーキャー言いながら陣取り合戦をしてる間、ボクは訓練場の隅っこで膝を抱えて座っていることになったのだった。いやまあ休憩ターンの学生たちがけっこう話しかけてきてくれたからさみしくはないんだけど……チクショウ、みんな楽しそうだなー。



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