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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
七章 機神と留学
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清算

「……どうして、なんだ」

「先に謝っておくよ、ごめん。自分勝手なわがままなんだ」


 当人としてもまさかこうもあっさり断られるなんて思ってなかったんだろう。大きな衝撃を受けて絞り出すような声でそう聞くロックに、リクスは困ったように笑った。


「おれは強くなりたいんだ。今はどうしようもないくらい頼りっきりだけど、いつか隣に立って歩いて、背中を預けて戦って、肩を並べて夜明けを迎えられるように」


 そう言いながら視線を向けた先には、当然のようにボクとシェリア。特にシェリアに対してより一層熱がこもってたのは、たぶん気のせいじゃないと思う。


「だから、君を見ている時間が惜しいんだ。そんな余裕があるなら、今はもっと先に進みたい。だから、ごめん」


 そうして再びロックを正面から見据えたリクスは、これが精一杯の誠意とでも言うように深く頭を下げた。

 うーむ、『もっと強くなりたいから構ってられない』ってことか。その辺の向上心というか、ハングリー精神にあふれてるのは知ってたつもりだったけど、自分を慕う後輩をバッサリ切れるほどだとは思わなかったよ。意外な一面を知った気分だ。


「……オレの方こそ、無理言って悪かった」


 誰も口を開かない時間が続くことしばらく。何とも言えない沈黙を破ったのはロックだった。少しとはいえ受け入れてもらえると思った反動だろうか、これまでで一番沈んだ声だったけど、意外なくらいあっさりとそれを受け入れたようだ。こっちはこっちでもうちょっと食い下がるかと思ったけど、強くなりたいってあたりに共感したんだろうか。


「ただ、そうだね。もしおれ達が荷物持ちの必要な依頼を受ける時は、まずはロックに声をかけるよ。それでどうだろう?」

「……! ああ、わかった。その時は喜んで引き受ける!」

「うん、その時はよろしく」


 そしてフォローするようなリクスの提案を聞いて表情を明るくするロック。意気込みのこもった返事を聞いたリクスは穏やかな笑みを浮かべながら右手を差し出し、それに応じたロックが同じく右手を重ねると、そのまま力強い握手が交わされた。


「お互い頑張ろう」

「おう!」


 かくして友情が成立――ってところかな? なんだろう、ジーンとくるね。ちょっと外野、口笛なんて野暮だよ、もうちょっと我慢しててよ。今いいとこなんだからさ!


「なあ、その時はオレにも声かけてくれない?」


 そして空気を読まない子がここにもう一人、ずずいと進み出てそんな主張をするのはベール。いやまあ、ストーンランクにとって限定的とはいえ自分から面倒見てやるって言ってくれる先輩が重要だってのはわからなくもないけどさ。でもそういう積極性は嫌いじゃない。


「あー、その、できればおいらも……」


 そしておずおずといった様子で便乗してくるタウ。これで今回面倒を見た三人の希望がそろい踏みだね。個人的にはベールともっと仲良くなりたいから大歓迎だけど。

 でもこうなってきたらもうワンセットで扱った方が早いんじゃないかな? 構成も剣士、狩人、斥候でバランスよさげだし、いっそパーティ結成してもいいんじゃないかな?


「ああ、それなら構わないよ。その時はベールとタウにも声をかけるから。そうだ、いっそ三人でパーティを組んでみたらどうだい? そうしたらおれも指名もしやすいしね」


 そしてどうやら同じようなことを考えたらしいリクスが茶目っ気交じりにそう提案したら、言われた当人たちは『その発想はなかった』的な顔してお互いを見ている。


「あれ、おれ変なこと言った?」

「いやだって、ストーンランクだと仲が良いやつはいても全員競争相手みたいなもんだし」

「荷物持ちだと人数が限られてるっスから、パーティ組んでてもあぶれるんであんまり意味がないっていうか……」


 どうも予想外の反応だったらしいリクスが首を傾げれば、ベールとタウがその理由を教えてくれた。確かに何度か見たことのある朝の依頼争奪戦を考えれば、みんな仲良くなんてのは厳しいかもね。誰も彼も夢と生活が懸かってるから仕方ないといえば仕方ないんだろうけど。


「……臨険士(フェイサー)になってからずっとケレンと組んでたけど、そんなことなかったよな?」

「そりゃまあ、俺が手際の良さを発揮してちょうどいい依頼ちょろまかしてきたからな。感謝してくれよ?」

「そうだったのか……」


 どうやら友人に恵まれていたリクスはその辺苦労しなかったらしい。まあ今の様子からしてケレンが昔から要領よさそうっていうのはなんとなくわかる。なんか今更ながらに「ありがたいって思うなら今度奢れよ?」なんて恩着せがましく言ってるけど、だからこそなんか憎めないっていうね。明らかに狙ってやってるから純粋にすごいと思うよ。

 だからこそ、それに対して「わかったよ、期待しててくれ」なんて真面目に受け止めるリクスといいコンビになってるんだろうな。うん、やっぱりこういう関係、すごくいいよね!


「ボクはいいと思うけどな。ブロンズランクになって依頼に行くときもパーティの方が安全だし、そのために見知らぬ誰かと組むよりも多少は慣れてる相手との方がうまくいくんじゃないかな? 正式にパーティ登録できるのはブロンズランクからだし、お試し程度のつもりでもいいと思うよ」


 とりあえず後輩君たちが戸惑ったままだったから、ボクも自分なりの意見を言ってみる。実際ほとんどの臨険士(フェイサー)はパーティを組んで活動してるわけだから、早いうちから仲間と信頼関係を築いていくのはありだと思う。

 まあもしこの三人がパーティを組んだ場合、性格的にタウが苦労しそうな予感はするけどね。


「……清算は終わったの?」


 そして話が一段落したと判断したのか、ボクたちが呼び出しを受けてる間のことを切り出すシェリア。確かにこれ以上は後輩君たち次第だから、他人が口を挟む余地は少ないよね。

 あとは任せっきりにしてた依頼の清算だけど、待合スペースでこんな話してるくらいだからある程度キリくらいはついてるだろうとは思う。


「どうなのリクス?」

「ああ、おれ達の方は依頼達成だよ。ただ、素材の査定があるから報酬の受け取りは明日になるみたいだけど」

「後輩共の荷物持ちに関しては達成扱いで報酬の支払いまで完了だな。本来なら俺らから報酬出すわけだが、今回に限っちゃ組合(ギルド)からの斡旋って形だから支払いはなし。あとは遺跡の発見報告だが、『轟く咆哮』の方で色々処理してくれてたみたいで、情報料だけ受け取ってこれから山分けってところだ」


 聞いてみればリクスとケレンからそれぞれ答えが返ってくる。集めた素材の量が結構なことになってたから、それの精査に時間がかかるのはまあ納得だね。完了処理がされてるなら特に言うことはない。

 荷物持ちに関してはそもそも後輩君たちが受けたやつだし、別処理で当然だろう。そして今後自分たちで同じ依頼を出す時は自腹で報酬を出すことになると。

 あとは遺跡発見の情報料か。ぶっちゃけ攻略までしちゃったから別にいいんじゃないかって思ったけど、どうも発見報告と攻略は別扱いらしくてしっかり出してくれたわけだ。まあ、なあなあにして後々もめるより、きっちり支払ってた方が面倒は少ないってことだろうね。


「遺跡の情報料は千ルミルだったけど、見つけたのはウルだし、あとは一緒にいたケレンとロックにタウ、あとは攻略に行ったシェリアで分ければいいかな?」

「あ、情報料はボクいいや。攻略者ってことで、遺跡で見つかったものいろいろもらえるみたいだから」

「……わたしもいいわ」


 当然のようにリクスは関係者で頭割りしようとしてるらしかったので、ベリエスからの呼び出しについて報告がてら辞退しておく。お金なら余り気味なボクより、もっと必要なところに回さないとね。なぜか便乗するようにシェリアも辞退してきたけど、たぶん似たような理由じゃないかな?


「やっぱ呼び出しってその話かよ。総額すげーことになるんじゃないか?」

「その辺はまだよくわからないけど、ベリエスがウキウキ気分になるくらいは?」

「さすが遺跡攻略、臨険士(フェイサー)が夢見るだけあるな……」

「まさに一攫千金だよねー。そういうわけだから情報料は遠慮なくみんなで分けて」


 まあ個人的にはお金よりも未知の魔法の研究資料が手に入るっていうのが嬉しいんだけどね。特にあの入り口の部屋にあった完全初見殺しな落とし穴の術式。できれば再現してカラクリに実装したいね、もっと殺意マシマシで!


「うーん……そういうことならわかったよ。じゃあケレンとロックとタウの三人で――」

「あー、オレもいい」


 ボクたちの言い分に納得したらしいリクスが再分配を始めようとしたところ、それに待ったをかけた人物に当然のごとく全員の視線が向けられる。


「理由を聞いていいかい、ロック?」

「えっと、その……なんつーか、オレ達はその時たまたまくっついてたってだけだし、特に何もしてないのに情報料とかもらうのは違うっていうか……なあタウ?」

「うぇ!? いやまあ、うん、確かにその通りだとは思うっスけど……」


 急に注目されて一瞬怯んだ様子を見せたものの、意外と律儀な主張で山分けを辞退するロック。そしてたぶん本人的には単純に相手も同じ気持ちだろうって思ってタウに話を振ったんだろうね。

 けれど聞かれた当人はいきなり同意を求められて明らかに目を泳がせてた。ついでに「くれるって言うならもらっても罰は当たらないと思うっスけど……」なんて呟いたところを見るに意外とちゃっかりした性格みたいだけど、そういうのはマキナイヤーなボク以外でも聞こえる大きさじゃないと意味がないぞ?


「つまり情報料はオレが総取りってことか? やったぜ!」


 案の定ちゃっかり具合だとプラチナランクなケレンが大げさなほど嬉しそうに言ったのを見て、ひそかにがっくりと項垂れるタウ。うん、このいっそすがすがしいほどの図々しさはぜひとも見習ってほしいところだ。


「それにしても、やっぱりウルもシェリアもすごいな。シェリアは元々だけど、もうシルバーランクでも十分なんじゃないか?」


 タウの様子には気づかなかったようで、納得したリクスが素直に情報料を丸っとケレンに渡したところで憧れのこもった視線を向けてくる。いやー、わかってはいても面と向かって純粋に褒められると照れるね。ちらっと隣に目を向ければ、シェリアもふいっと視線を逸らして照れ隠ししてる。うん、可愛い。


「それ似たようなことベリエスから言われて、ボクもシェリアも強制的に昇格させられたよ」

「そうなのか!? うわあ、おめでとう!」


 これを裏表の全くうかがえない、心からってわかる全開の笑顔でまっすぐ放てるリクスって結構すごいと思うんだ。仮にも年下のボクにどんどん先に行かれてるのに、嫉妬の欠片も見せない純粋さに心が浄化される。


「よーし後輩共、今夜は打ち上げ行くぞ! めでたい事態に居合わせた幸運にむせび泣け! もちろん俺の奢りだ、なにせでかい臨時収入あったばかりだからな!」

「うん、いいな。そうしよう! シェリアもウルもいいかい?」

「……いいわよ」


 そしてちょうどいい口実とばかりにそんなことを提案してくれるケレン。依頼の後に打ち上げの宴会……いいね、定番だね! いつもならちょっと奮発した食事ぐらいだけど、お祝い兼ねてるならもっと派手になりそう!


「さっすがケレン、太っ腹! ご馳走になるね!」

「いやお前は自分で払えよシルバーランク様」


 その場のノリでついでに便乗しようとしたら一転した真顔でそう言われた。解せぬ。


「えー、ボクも後輩でしかも主賓なんだけど?」

「そんなもの、汗水たらして稼いだ分からなけなしの貯えを工面するっきゃないやつ限定に決まってるだろ。お前が貯めこんでるの知ってるんだぞ?」

「使う機会があんまりないから勝手に貯まってくだけなんだけどなー」


 まあおごりの提案をされた後輩君たちが嬉しそうだし、よしとしておいてあげるか。特に分け前を期待してたタウが瞳を輝かせてケレンのことを見てるね。このまま『兄貴』とか言い出してもおかしくなさそうだ。

 ……うん? ひょっとしてこの奢り、結果的に独占することになった情報料を気兼ねさせずに後輩君たちに還元するための口実だったりする? 普段は飄々としてるけど、なんだかんだで面倒見のいい性格からしてありえなくもないね。


「そうと決まればやらなきゃいけないことはさっさと終わらせておいた方がいいよね」

「だな。よし後輩共、装備の整備と補充だ! ついでにこっちの分にも付き合ってくれるんだったら駄賃は弾むぞ! いいよな、リクス?」

「そうだな、いいと思う」


 そしてリーダーの了承も取れたところでこの後の予定がおおむね決定と。レイベアに帰ってきたのが昼過ぎで今も日が沈むまでまだまだあるし、これだけ人出があるなら野営グッズの整備も含めて今日中に終わるかな。

 そしてお駄賃と称してさらなる情報料の還元を目論んでるらしいケレン。まあみんなが幸せになるならそれに口を挟むつもりはないけどね。

 あ、でもボクはボクでちょっとやることあるか。主にガイウスおじさんへの帰還報告。


「ごめんだけど、整備は後から合流でいいかな? 先に報告行っておかないと後でうるさいと思うんだ」

「あー……いつものやつだね」


 一応後輩君たちもいるから目的語を抜いて申し出てみれば、それでも恒例化してるせいですぐに察して苦笑するリクス。ほんと、依頼から帰ってくるたびすぐに報告しろとか過保護だよねー。うっかり忘れようもんなら翌日にはエリシェナが催促のために突撃してくるんだから始末に負えない。絶対街門の出入り、監視されてると思うんだ。


「まあ、向こうさんの機嫌損ねていいこともないだろうし、俺らの心の安寧のためにさっさと行ってこい。何ならそのまま泊りでもいいぞ?」

「主賓の片割れ抜きで宴会やろうなんていい根性してるね。心配しなくても間に合うようには戻るから」


 そうしてケレンと軽口を交わすと、ベリエスに言われた通りシェリアともども登録証(メモリタグ)を受付に預けて、ボクはいったんみんなと別れていざガイウスおじさんのお屋敷へ!

 途中この街で初めて買い物をした時と同じ串焼きの屋台で、すでに顔なじみになったおばちゃんから串焼き肉を購入。モグモグしながら心持ち速足で貴族街区へと歩いていった。



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