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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
七章 機神と留学
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志願

 サラッと言ってくれたけど、内容的にはもうちょっと格好をつけてくれてもいいんじゃないかなって思うのは贅沢だろうか? ていうか、組合支部長(ギルドマスター)がそんな正面から規則無視していいわけ?


「ボクの記憶違いかな? シルバーランクって昇格に条件必須じゃなかったっけ? シェリアはあと護衛依頼一個だけだったみたいだからいいかもしれないけど、ボクとか全然条件満たせてないんじゃない?」

「何事にも例外というものが存在するのだよ。例えばカッパーランクにも関わらず、遺跡攻略なんていう、最低でもゴールドランクでなければ成し遂げられないような報告を持ち込んだりした場合だね」


 どうやら必要に迫られてとはいえ、ボクたちがやらかしたことはバッチリ例外が適用されてしまうみたいだ。まあ、確かにこの世界のダンジョンは呆れるくらい殺意高かったからわからなくもないけど。


「それに君の活動記録を見る限り、条件を満たせていないのはすでに護衛依頼の数と昇格点程度だったと記憶しているよ。遺跡の攻略はゴールドランク、中でも困難な部類の依頼相当、さらに単一パーティでとなれば、例え零からであったとしてもお釣りがくる程度の昇格点にはなる。そうなればシェリアくんと条件は同じだ」

「わかったよ。まあ、ベリエスが良いって言うならいいんだろうし、昇格したからって別に困るようなこともないしね」


 ボクとしてはこの世界で冒険ができれば万事オッケー。正直なところランクは二の次三の次だ。高ランクになったら向こうから冒険の話が舞い込んでくるかなーって期待はあるけど、今は大事な仲間もいるからまだ早いって見送ってる。まあちょっと先行することになるけど、一つくらいのランク差なら普通にパーティ組んでる人たちの方が多いしね。

 だからそう言ったわけだけど、何気なく隣を見てみるとシェリアの眉間にいつもより一層皺が寄っていた。こういう時は大体言いたいことがあるけど、言おうかどうか迷ってるんだよね。


「どうしたのシェリア?」

「……目立ちたくないんだけど」


 そう思って促してみれば、どうやら急な昇格で注目が集まるだろうことを気にしてるらしい。いやまあ確かに秘密を抱えてるシェリアにとっては重要かもしれないけど、それもわりと今更な気がしないでもない。


「いや、さすがにそれは無理じゃないかな、シェリア? 昇格速度の記録保持者で通り名まで付いてるんだし」


 幸か不幸か臨険士(フェイサー)としては大変優秀なシェリア。とっつきにくいところも美人さんっていうのがミステリアスな方向に補正を掛けてるようで、一部の関係者の間じゃ密かに人気があるんだとか。

 何が言いたいかっていうと、シェリアは臨険士(フェイサー)の間じゃわりと前から注目の対象ってことだ。まあこの様子見る限り、本人は想像もしてなさそうだけどね。

 ちなみにそういった人たちの間じゃ、リクスは嫉妬の対象であると同時に、シェリアが標準装備してる『人を寄せ付けない』オーラを乗り越えた勇者として尊敬対象になってもいるらしい。情報提供は噂大好きなケレンから。幼馴染の複雑な立ち位置がよっぽどお気に召したのか、終始ニヤニヤしてたね。もちろん本人に伝えたりはしていない。


「加えてウルくんが同じパーティにいるんだ。否が応でも有名になることは避けられないと思うがね。現に数いるシルバーランクの誰よりも君達の話をよく耳にする」

「…………それもそうね」


 フォローのつもりらしいベリエスの言い分を聞いてちらっとボクを見た後、何かを諦めたように盛大なため息を吐いてそう認めたシェリア。え、何? ボクってそんな風に認識されてるの? そんな派手なことは……うん、公式記録に残るような分は、そんなにやってない、はず……たぶん。

 でもさ、このままシェリアが順調にランクアップしていって、誰にも信頼される超一流の臨険士(フェイサー)になれば、『私、実は――』のパターンでラキュア族のイメージ刷新に繋がるんじゃないかな? 実力主義で『種族なんて関係ねぇ、素で強い種族ならむしろ大歓迎!』を地で行くこの業界なら、余裕で受け入れられそうだし。

 よーし、がぜん燃えてきた! 友達の抱える悩みを解消できるよう、これからもどんどんサポートしていこう! 併せてリクスも特訓してあげないとだね。今のペースのままだとシェリアに追いついて告白なんて夢のまた夢になっちゃいそうだし。うん、忙しくなりそうだ!


「そうなると、ボクたちはどうすればいいの? なんか試験とか受けたほうがいい?」

「すでに必要な手続きは大方済ませてあるから、帰り際にでも受付に登録証(メモリタグ)を預けていってくれ。明日にでも登録情報の更新が終わるから、そうすれば君達も立派なシルバーランク臨険士(フェイサー)だ」

「それはどーも」


 なんとも手際のいいことで。まあボクたちのシルバーランク昇格はほぼ確定事項的な話し方だったし、先にいろいろやってたんだろうね。


「さて、こちらの用件はこれで一通り終わりだ。君達の更なる活躍を期待しているよ」

「それなりに頑張るよ。じゃあね、ベリエス」


 特にボクたちの方から用事があるわけでもなかったし、用が終わったんならと手を振り踵を返した。シェリアも無言で会釈だけするとボクに続いて執務室を出たのだった。まあのんびりマイペースは崩さないつもりだけど、期待されたからにはなるべく応えてあげないとだよね。




「えーっと、みんなは……っと。んん?」


 そうしていつもの組合(ギルド)ロビーまで戻ってきてリクスたちを探したところ、待合スペースでたむろする仲間たちを発見。そこまではよかったんだけど、なぜかロックが平身低頭していて相対しているリクスが困り顔。タウとベールは何やら若干驚きつつも目配せを交わし合ってるし、ケレンはテーブルに肘をついてニヤニヤ顔。なにこれどういう状況?


「何してるの、リクス?」

「ああ、ウルにシェリア、お帰り。組合支部長(ギルドマスター)からの用事は終わったのかい?」

「まあね。ちょっと報告したいこともあるけど、その前に今どういう状況? ロックが何かやらかした?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……」


 みんなのところへ近づきながら声をかければ、何とも微妙な雰囲気でロックを見下ろすリクス。その声音に含まれるのは戸惑い半分喜び半分ってところだろうか? とりあえず面倒ごとって雰囲気じゃなさそうだけど。


「――ウルさん、シェリアさん、どうかオレを『暁の誓い』に入れてくれ!」


 なんて思ってると、今までずっと腰を九十度に折っていたロックがガバッと体を起こして、ものすごく真剣な目でそんなことを言ってきた! え、何、どうしたの急に?


「えーっと……ロックはボクたちの仲間になりたいってこと?」

「どうもそうらしいな」


 念のため聞き間違いとかじゃないかを確かめようと疑問の形にすれば、どこかイラっと来るニヤニヤ顔のまま肯定するケレン。どうやらボクの勘違いじゃないみたいだけど、採集中も帰り道も特にそんなそぶりを見せてなかったからビックリだよ。


「急にどうして?」

「なんでも、こいつは我らがリクス様に憧れるところがあったらしい。見る目あると思わないか、ウル?」

「おれに憧れてもらえるようなところ、ないと思うんだけどなぁ」


 からかい半分に揶揄するケレンだけど、残り半分に親友が褒められて嬉しいって感じが滲んでるね。リクスが謙虚なのはいつものことだけど、戸惑いの中にやっぱり嬉しげな雰囲気。後輩に憧れられるっていうのは男心をくすぐるモノがあるのかな?


「……で、なんでボクたちに『入れてください』とか言ってるの、ロックは?」


 戦力的にはボクが最高かもしれないけど、『暁の誓い』のリーダーはあくまでリクスだ。普通なら加入申請とかはリーダーに頼み込むものだと思ってたけど、そうでもないのかな?


「別に難しい話じゃないぜ? いつものごとくリクスが全員の意見を聞いてからって返事しただけだ」

「あー、なるほどね」


 すかさず入ったケレンの説明を聞いて納得する。要は先に自分から頭を下げることで少しでも印象よくしておきたいって感じかな。脳筋寄りのロックがそこまで考えてるかはわからないけど。

 ともかく、仲間が増えるかもとなれば結構な一大事だ。ボクとしてもメンバーの意見は聞いておきたいところ。リクスは先にボクたちの意見を聞きたいってことだからいいとして――


「ケレンは先にお願いされたんでしょ? どうなの?」

「まあ単純に雑用任せられるやつが増えるのはありがいよな。だが同時に常時面倒見なきゃいけなくなるわけだし、ランクの差があるから当然受けられる依頼も限られてくるわな。だがまあ、俺とリクスだけなら厳しい話だが、うちはお前らもいるから微妙なところなんだよ」


 打てば響くように返ってきた答えは、ケレンの意見と言うよりかは客観的な分析に近いものがある。さすがはパーティの参謀、しっかり判断材料になる部分を押さえて意見として出しつつも、最終判断は任せるってことか。

 うーん、確かに人手が増えるのは多少楽ができるかもだけど、だからって今困ってるわけでもないからそんなに利点はない。今の時点だとむしろ足手まといが増えるってことの方が大きいかな。

 受けられる依頼もパーティの平均ランクだから、もしロックが入るとしたらブロンズか、良くてカッパーの比較的安全なやつ――あ、ボクとシェリアはシルバーランクになるからカッパーは行けるのかな? そうなるとわりと今まで通りだったりする?

 ボクもシェリアもガンガン高難度の依頼受けて稼ぎたいってわけじゃないし、守る相手が一人増えるくらいは誤差の範囲。むしろ教えることが増えれば技術の向上に繋がるかも。うん、ボク的には意外とデメリットないんだね。メリットは楽しい仲間が増えるくらいだけど、ノーリスクローリターンって考えれば悪い話じゃない。

 あと問題があるとすれば……。


「ボクとしてはどっちでも構わないけど……シェリアは?」

「……」


 尋ねながら傍らを振り返ってみれば、心なしいつもより圧を感じる仏頂面で無言のまま頭を下げているロックを見据えているシェリア。ある程度親しくなれば説明するのもやぶさかでないボクの正体と違って、身バレが即致命傷になりかねない秘密を抱える彼女からしたら、仲間が増えるのはかなりのリスクが伴うわけで。

 現状は実質的に四人中保留が二人の状態。仲間の意見を尊重するリクスのことを考えれば、シェリアの言葉がロックの仲間入りを左右する。嫌なヤツならともかく、事情を知らないだけでただ純粋に強くなりたいだけだろう相手を無碍にするのもどうかと思うけど、シェリアの抱える事情を唯一知る身としては拒否もやむなしとなかなか難しい。

 そんなボクの心配を察したのだろうか、不意にシェリアがボクの方を見た。そして束の間視線が絡み合ったかと思うと、その目元がふっと優しくほころぶ。まるでボクに大丈夫とでも伝えるように。


「……わたしも、構わないわ。リクスが決めればいい」


 不意打ち気味に微笑みなんてレアな顔を見せられてちょっとドキッとしてるうちに、短くけれどはっきりとした口調でそう告げるシェリア。かなり意外な答えだ。ボクが仲間になるって時は、反対自体はしなかったけど打ち解けるまで常時全力警戒だったことを考えると余計にね。

 けど、今穏やかに笑えてるってことは何かしら心境の変化があったんだろう。ボクとしてもシェリアがそれでいいって言うなら文句を言う筋合いもない。

 なんにせよ、これで全員の意思確認は終わったね。基本的には『積極的に迎えるほどじゃないけど来るなら拒まない』と言った前向きな保留。あとはリーダーの決定次第だけど、リクスの性格から考えたらもう決まったようなもんかな。

 短い付き合いだけどそれくらいは察することができたんだろうロックは、頭を上げると期待に満ちた目で改めてリクスの方を見た。それを受けたリクスも、考えを巡らせるように目を閉じてゆっくりと呼吸を繰り返す。

 いつの間にかここにいる全員が静かに決心を待っていた。あとどうでもいいけど、たまたま近くで暇をしていたらしい臨険士(フェイサー)が何人か、ここまでの成り行きを聞いていたようで声を潜めて注目していたりする。


「……ごめん、ロック。今はまだ受け入れられない」


 そして少しの間をおいて紡がれたのは意外なことに否定の言葉。それが誰にとっても予想外だっていうのは、リクス以外の全員が驚くように目を見開いたことから一目瞭然だ。ボクもリクスの性格からして絶対断らないって思ってたのに……。



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