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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
六章 機神と冒険
151/197

脱出

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 適当な魔導式(マギス)を起動すると、相変わらず発動前に分解されて仕掛けに吸収。そうしてズズズッと行く手を塞いでいる壁が動いて、薄暗がりに光が差し込む。立地の関係でもろの直射日光ってわけじゃないだろうけど、それでもずっとぼんやりした謎光源しかない環境に慣れてた目には刺激的だったようで、後ろの二人はそろって顔をしかめると目を細めた。まあマキナアイには特に影響はないんだけどね。

 だもんでそそくさと出口をくぐると、そこは見覚えのある滝の裏側。ご存じ遺跡の入り口が隠されてたあの場所だ。


「やっと出れたー。予想以上に大変だったね」

「そうね」

「一時はどうなることかと思ったが、お互い無事で何よりだ」


 ミッションコンプリートな喜びに万歳しながら感想を口にすると、思い思いに相槌を打つシェリアとイルバス。いやホント、入り口偵察だけの予定がとんだ大冒険になったもんだよ。

 なんか知らないけど覚醒してくれたイルバスのおかげで想定よりずっと楽に腐導師(ワイト)を倒せたのはいいんだけど、至近で断末魔の怨念をもろに受けたイルバスがバッタリ倒れた時はさすがに焦ったね。腐導師(ワイト)自体は見るも無残な死体を残してそのまま霧散しちゃったし、ただ気絶してるだけってわかった時はほっと胸をなでおろしたよ。まあずっと緊張しっぱなしで、しかもなんかコンプレックスとも二正面作戦をしてたみたいだから、それが一気に緩んだタイミングにあれを受けたのが原因だったんだろう。ボクでも受けたいとは思わないそれを生身でならなおさらだ。

 とりあえず命に別状はナシってことで、頑張ったご褒美に自然に起きるまで寝かせておいてあげることにしたボクとシェリア。その間、せっかくだから滅茶苦茶になった研究室を探索したわけだ。これだけしっちゃかめっちゃかになってるのに他の仕掛けが動かなかったんだから、罠とかまずないだろうしね。ボスを倒したボス部屋が安全地帯になるのは前の世界の記憶にあるゲームみたいだって、内心笑ってたり。

 そのおかげで、運よくこの遺跡全体の見取り図と言うか設計図的なのが見つかったんだよね。あったらいいなって期待してはいたけど、予想以上に詳細を書き込んであって助かったよ。どうやらこの遺跡の主、性格は最悪だけど几帳面だったようだ。

 と言うわけで、イルバスが目を覚ました後は、これまでが何だったのかってくらいスムーズに探索が進んだわけだ。まあ攻略本片手にダンジョン行ったらそうなるよね。正直邪道じゃないかと思わなくもないけど、今回は無事の生還が最優先だから大目に見よう。一からの攻略はまた別の機会だ。

 いやでもホント、攻略本あって助かったよ。条件発動の仕掛けが多いのなんの。例えばボクたちもかかった入り口の初見殺しな落とし穴、『入り口側の扉を空け放したまま奥の扉に振れる、もしくは一定時間が経過する』っていう、確かに侵入者ならそうするよねって感じの心理を突いた条件が設定されてたし。他のも似た感じで侵入者がやりそうな行動がトリガーになってて、遺跡の主の性格の悪さが如実に表れてたよ。知らなかったら絶対にあと何個か罠にかかってたね。ボクに効くかどうかは別として。


「さーて、さっさと野営地に戻ってゆっくりしよう。ボクはともかくシェリアは疲れたでしょ?」

「……まだ十分動けるわ」


 なんて言ってるけど、微妙に考えるような間を挟んだのと疲れてるのを否定しない時点でお疲れなのはバレバレだ。まあ斥候役として探索にずっと神経使ってただろうし、腐導師(ワイト)戦じゃ有効打にはならないから地味だったけど、ほとんど絶え間なく飛んだり跳ねたりしてたから当然だろう。むしろまだ動けるって言い張れる気力がある方がすごいと思う。

 イルバスはまあ、聞くまでもないよね。腐導師(ワイト)戦じゃしんどそうだったけど、直後に不本意だろうがぐっすりしてたし、探索も基本不意打ちの警戒くらいであとは指示通りに動くだけだったし。戦闘極振りだから仕方ないよね。ボクもイルナばーちゃんに仕込まれた知識がなければ似たような状態だっただろうから笑おうとも思わない。

 それはそれとして、終わったことにいつまでも浸ってても意味はないし、心配してるだろうみんなの下に帰還だ帰還!

 そんな思いで滝の裏から出て来てふと空を見上げれば、太陽はてっぺんをだいぶ過ぎている。だいたい感覚でわかってはいたけど、遺跡にいたのはまるまる一日半ってところかな?


「長くて半日の予定が結局三倍くらいに延びちゃったかー。これはリクスたちに怒られるやつだね」

「事情を話せば怒りはしないでしょ」

「そうだとは思うけどさー、なんかこう、約束破っちゃった的な罪悪感が――」

「ウル」

「ん、何?」


 わりとどうでもいいぼやきを遮るように名前を呼ばれて振り向けば、何やらびっくり顔のイルバス。いやなんでそんな驚いてるの。名前呼ばれたら普通反応するでしょ。


「何さイルバス、気になることでもあった?」

「いや、その……」


 念のため遺跡から出て調子を取り戻した『探査』の反応を見ながらもう一度聞けば、なぜか奇妙な表情で言葉を濁すイルバス。んー……なんていうか、雰囲気からして言いたいことがあるのに言葉が出てこないって感じかな?


「急ぎってわけじゃないなら後で聞いてあげてもいいけど?」


 とりあえず周辺に異常がないことを確認したからそう提案してあげると、少し迷ったようだけど、すぐに意を決したように口を開いた。


「ウル、お前はオレを……その、嫌っているんじゃなかったのか?」


 ……なんかまた、妙なこと聞いてくるなぁ。確かに大勢がいるところで下手に答えられたくはない系のことだけどさ。


「まあ、どっちかって言うと嫌いな部類に入るけど?」


 おいこら、なんでちょっと傷ついたみたいな顔するんだよ。わかってるからそんな聞き方したんじゃないの? 一番嫌う理由が鳴りを潜めたからって、それまでマイナスだった好感度が即チャラになるわけないでしょ。今はまだ、ね。


「で、ボクがキミのこと嫌いだとしたらどうなるの?」


 さすがにこっちの好き嫌いの確認だけってことはないだろうと思って続きを促せば、イルバスは何やら少し葛藤する様子を見せた後、言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。


「……お前はなぜ、嫌っているはずのオレを見殺しにしなかったんだ? 遺跡なんだ、誰かが死んでもおかしくなかった。現にその機会はいくらでもあったにもかかわらず、嫌う相手であるはずのオレを、なぜああまでして助けようとしたんだ?」


 ああ、なんだそんなことか。要は『嫌いなヤツが死にかけたら喜んで放置するのが普通だろ』ってことでしょ。器ちっちゃいなぁ。気持ちはわからなくもないけどさ。

 でもまあ、あいまいな答えで余計な想像掻きたてられても困るから、ビシッとイルバスに指を突き付けて宣言しておく。


「マキナ族は守るための兵器なんだ。兵器は自分の好き嫌いで敵味方を区別したりなんかしないもんでしょ?」


 判断基準はただ一つ。物理魔法直接間接その他考えられる何らかの形で、守るべき対象が明確な敵意を持った攻撃を受けたかどうか。まあ要は『殴られたら防いだ上で遠慮なく殴り返す』が基本だ。面倒くさいしがらみにとらわれず、その気になれば生きていくのに外部の協力を必要としないからこそできる完全な中立。

 だからこそ、守る時は無条件で守って、戦う時は敵だけを相手にする。足を引っ張ってくる味方? とりあえずその場で殴り倒すだけして、敵がいなくなるまで安全なところに隔離もとい避難してもらっておくかな。


「まあ、当の兵器が意思持ってるから信用し難いかもだけど、それはそれってちゃんと割り切れるから安心してくれればいいよ」

「そう、か……それがお前の、強さか」


 けれどそう言えば一転して納得顔になるイルバス。後半部分はマキナイヤーだからこそ拾えた程度の音量だったけど、マキナ族は素で強いんだからちょっと意味がよくわからない。


「……ウル、オレはお前の強さに憧れる。お前のように強くありたい」

「え? えっと……?」


 だから唐突に真顔でそんなことを宣言されても、ボクとしては戸惑う以外にないわけで。憧れてくれるのはいいけど、さすがに種族変更は無理だからね? 転生なら可能性はなくもないけど、何の因果か前世の記憶を引き継いでるのは今のところボクだけだからおススメはできない。

 ……サイボーグ化? ありかもしんない。ちょっとそっちの方向で研究してみようかな? うまくいけばマキナ族レベルとまではいかなくても、そんじょそこらの相手には負けない性能は出せそうだ。


「だからオレも、剣として生きよう。友を守るため、どんな敵も斬り裂く剣として」

「そ、そっか。頑張ってね?」


 そんな風にちょっと現実から目を逸らしているうちに続いた、マジの目で見据えられながらの宣誓じみた言葉にまごうことなき本気を感じて、内心ドン引きしながらかろうじて返事をした。生身のくせに剣になるとか覚悟決めすぎでしょ?! いやこれマジでそのうち『マキナ族にしてくれ!』とか言いかねないんじゃ!? 強くなりたいっていうのはわかるけど、人間辞めるかどうかはもっと真剣に考えたほうがいいと思うよ!? たいていロクな結果にならないっていうのが定番だよ!?


「だからウル、もしオレがお前みたいに強くなれたなら、その時は――」

「ウル、早く戻りましょう。疲れたわ」


 なんかさらにヒートアップした様子で話を続けようとするイルバスを、シェリアが珍しく空気を読まずにスッと割って入ってインターセプト! おまけに鋭い視線を送ってイルバスの口を強制的に閉じるという完璧な仕事ぶりだ。さすが一番の友人、ボクが内心完全に引け腰になっているのを敏感に察してくれたらしい。発言内容がさっきと矛盾してるってところはこの際スルーしてあげよう。


「そ、そうだね! シェリアもイルバスも生身なんだから疲れてるよねリクスたちも心配してるだろうし早いところ戻ろうなんせボクたちはまだ依頼の途中だしね!」


 シェリアの言に乗っかって早口にまくしたてると、妙に口惜し気なイルバスは見なかったことにしつつ先頭に立って歩く。予想外にダンジョンを攻略することにはなったけど、ボクたちが本来受けている依頼は素材採集だ。進行状況も気になるし、何より早いところ無事を知らせたいって言うのは本心だからね!

 内心ではイルバスがこれ以上早まらないことを祈りつつ、ボクは待っているはずの仲間の下へと急ぎ足で進んでいった。


 これにて六章は終わりです。冒険と言ったらダンジョンと言うことで、ゲームのような親切設計への疑問ついでに『ぼくのかんがえたさいきょうのダンジョン』を描いてみました。異論は認める。

 次はちょっとネタがまとまってないのでいつも通り期間をいただきますが、遅くとも二か月後には七章を始めたいと思ってます。そろそろ本格的に物語動かさないとですから。(今更感

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