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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
六章 機神と冒険
149/197

打開

「二人とも退いて! ボクがやる!」


 それでも半端に武器を使うよりは有効打になるわけだから、シェリアとイルバスに声をかけつつデイホープとサンラストを手放し格闘スタイルに切り替えて突撃!

 そして向こうも向こうでどうやらボクが有効打を持ってることを理解したみたいで、素早く距離を取る二人は一顧だにせずボクの方へと全部の攻撃を向けてきた! 雨あられと魔力弾が降り注ぐけど、イルバスにはもう隠す必要もないし当たるに任せて正面からのインファイトを敢行。腐導師(ワイト)を相手にゾンビアタックする羽目になるとか、知らずに聞いたら失笑ものに違いない。

 当然攻撃を受けて距離を空けようとする腐導師(ワイト)だけど、元魔法使いな死人の移動速度でマキナ族の踏み込みから逃げられるわけもなく、もはや動くサンドバック状態だ。

 そのうちただの魔力弾じゃ効かないことが分かったようで、『邪霊』や『悪魔』みたいに魔力で空中に魔導回路(サーキット)を描いて炎や氷なんかに変換してから飛ばしてくる。けどまあ個人レベルの魔力攻撃がマキナボディに効くわけもなく。さすがに雷なら一瞬動きが止まるしちょっと魔力を持ってかれるけど、すぐにリカバリーできる範囲だから問題ない。

 そしてとうとう壁際まで追い詰めて、後は削りきるまでひたすら叩き続けるだけの作業だ。さすがにこの状況で横合いから斬りかかれる隙間はないため、シェリアとイルバスは少し後ろで油断なく様子を窺っている。


「――何とか押し込めたかぁ。二人とも、怪我とかしてない?」

「平気よ」

「こっちも問題はないが……それだけ魔力攻撃を受けてお前は本当に大丈夫なのか、ウル? 途中から避けてすらいなかっただろう」

「大丈夫だよ。言ったでしょ、魔力攻撃にはめっぽう強いって。まあ物理もロヴぐらいじゃないと効かないけどさ」


 まあ確かにあらかじめ知ってたとしても、絶え間なく殺到してくる魔力弾だの火だの氷だの電撃だのに晒されてるのを見たら心配になるか。服もどんどんボロボロになって行ってるし、端から見たらすごい絵面だろう。でもご安心を。前回の里帰りで着替えは補充してきたから、一着二着くらいならダメになってもノープロブレム! やっぱり外を動き回る仕事に予備の服は必須だよね。

 ……そういえば、量産にこぎつけたのか、カラクリのみんなも同じ感じの服着てたっけ。なんかもうそれがマキナ族の民族衣装みたいな勢いで。おかげで調達には困らなかったけどさ。

 なんて余計なことを考えたのが悪かったのか、腐導師(ワイト)を打ち付けていた壁からいきなり飛び出してきた小さな柱への反応が遅れて、避ける間もなく顔面に直撃した!


「ぶっ――おぉうっ!?」


 質量有りの攻撃が不意打ちクリーンヒットしたことでたたらを踏んだ隙に、効果ありと判断したのか次々と飛び出してくる柱につるべ打ちにされてたまらず後退。結果としてサンドバック状態から解放された腐導師(ワイト)はスルリと距離をとったかと思うと、今度は床から柱を生やして遮蔽にしてきた。なるほど入り口を塞いだりできるんだ、これくらいの芸当はできて当たり前ってことか。

 ……ていうか、これまずくない? こっちの攻撃手段は近接物理オンリーで、最大威力の魔力パンチの射程はボクの手足そのまま。近づけなくなったら詰むっていうのに、おそらくは壁と同じくらいには超硬い柱が接近を阻害し始めたっていうね。

 そして柱の隙間を縫うようにして腐導師(ワイト)の魔力攻撃は依然継続中。さすが性格最悪な魔法使いの最終防衛線、自分に圧倒的有利なバトルフィールドをしっかり用意していらっしゃるようで!


「こんのぉ!」


 物は試しと柵のように立ち並ぶ柱の一本に全力で拳を叩きつけた。手足に魔力もブーストした一撃は、砕くまではいかずともミシリと確かな手ごたえを伝えてくる。それならと間髪入れずに逆の拳を渾身の力で打てば、柱は途中でポッキリ折れ砕けた! 材質の硬度は同じでも、今ある柱くらいの強度なら壊せないこともないようだ。よし、まだ詰んではいない!

 けど、肉迫しようと踏み込む前に折れた柱がさらに伸びてまたもや遮蔽に。うん、知ってた。術者の任意で変幻自在なら壊れたところですぐに直せばいいだけだよね! どこまで難易度上げれば気が済むのさ!?

 そんな状況の変化を見てとったシェリアとイルバスも即座に行動を開始していた。それぞれ別方向から回り込みつつ、シェリアは飛んでくる攻撃がほぼないのをいいことに半端な隙間を残す柱を飛び越しかいくぐり斬撃を浴びせ、イルバスは流れ弾を避けては気合を入れた横薙ぎで立ち並ぶ柱を一刀両断にする。

 だけどシェリアの攻撃は多少魔力を帯びてはいるようだけど有効打にほど遠く、イルバスも次の踏み込みの前に柱のおかわりが出てくるせいでそれ以上近づけない。うん、ただでさえ泥沼な消耗戦がもうはっきり悪化したよね。このままだと最終的に立ってるのはボクだけっていうのがほぼ確定だ。

 唯一の救いが範囲攻撃を使ってくる気配がないところっていうね。それをやられたらシェリアとイルバスが無事じゃすまないからありがたいけどさ。元の魔法使いの意識がけっこう影響してるみたいだし、たぶん研究成果をなるべく巻き込みたくないんだろう。

 

 ――ワタ、さン……わタサ、ン……!


「これどうしよっかなぁ、もう!」


 まだ詰んではいないけど限りなく詰みに近い状況で、いい打開策も思い浮かばない苛立ちを声に出して紛らわす。くそぅ、ちょっと想定外に利点が封じられただけで自分しか生き残れないとか、何が守るための兵器だ!

 ……落ち着けボク、今はヤケになってる場合じゃないぞ。シェリアもイルバスもまだ生きてて、今なら余裕が残ってる。なら頭を動かせ、打開策を考えろ。何が何でも全員で生還するんだ。ボクの手札だけで足りないなら、周りにある物を利用して――


「……イルバス、斬れない?」


 もう一度できることを洗い直そうとしたボクの耳に、シェリアが舞うように攻撃を避けながらそんなことを尋ねるのが聞こえた。というか、こんな状況で何言ってるんだろう? さっき胴体ぶった切ってたの見てたはずだと思うんだけど……。

 イルバスも同じことを思ったようで、少しいらだった様子でシェリアに言い返す。


「見ただろう! 斬れはするが大した効果は――」

「……そうじゃない。竜剣ガラウィンの武門なんでしょう。不死体(イモータル)もただの剣で倒せるんじゃないの?」


 続いた言葉を聞いたイルバスが途中で口をつぐみ、ついでにボクもハッと思いだした。下の部屋で脱出口を探してる時、イルバスが武門のことを話してくれるついでにそらんじた英雄譚の一説。確か『彼の者の剣に斬れぬ物なし。竜を追いては首を落とし、悪魔に()うては斬り滅ぼす』だっけ? その悪魔って言うのがそのまんま『悪魔』のことで、開祖の人は比喩とかじゃなくてホントに斬り滅ぼしたってこと? なら、その技を受け継いでいるって言うなら!


「イルバス、それホント!?」


 勢い込んでそう聞くと、当人はなぜか盛大に顔をしかめてギリリと歯を食いしばった。


「……技はある。術理も教わった」

「なら――」

「だが! オレはまだ不死体(イモータル)を斬れない! 斬れた試しがないんだ!」


 言いつのろうとしたボクの言葉に被さったのは、どこか悲痛さを感じさせる叫び。そっかー、できないのかー。でもその言い方からすると、どうすればいいのか習ってはいるってことだよね?


「じゃあいい機会だから斬れるようになって。今ならちゃんとした的もあるし、下手を打ってもボクがいるからいくらでも挽回できるよ」


 ついでにこのままだとわりとシャレにならない命の危機っていうオプション付きだ。できるようにならなきゃ詰むっていう緊張感は修行にもってこいじゃないかな? みんな大好きだよね、命がけの修行!

 そうしたらなぜか絶句して動きを止めるイルバス。ちょっと! 腐導師(ワイト)の攻撃は絶賛継続中なんだから、そんなところで足なんか止めたら――ああもうっ!

 直撃コースな炎の塊の前に割って入ってインターセプト! ついでに脇を通り抜けかけた水の珠を拳で叩き潰したところで電撃を浴びて一瞬動きが止まり、そのせいで反対側の光弾を取り逃がした。

 けどまあ、そこはさすがランク詐欺の臨険士(フェイサー)。ボクの迎撃でできたわずかな時間で我に返ると、危ういところで光弾を回避。


「くっ……人の話を聞け! オレはまだできないと――」

「それは聞いたよ。だから今できるようになってって言ったんじゃないか」


 やり方がわかってるなら、トライアンドエラーしてればそのうちできるようになるだろう。それが『人間』ってものだ。ましてやランク詐欺の実力を持つイルバスならその可能性は非常に高いと踏んでる。


「正直なところすぐに打開策が思いつかないんだよね。それならわりとあり得そうな一発逆転に期待した方がいいでしょ?」

「……できるようになる保証はないんだぞ!」

「それならそれで三日四日、この泥仕合に付き合ってもらうだけだよ。それまで死なないように頑張ってもらうことになるけど、大丈夫、ちょっと休憩するくらいならボクが何とかするからさ」


 ぶっちゃけその『生き残ってもらう』が一番ネックなんだけど、それでもできるだけ何でもないことのように伝える。うっかり絶望でもして動かなくなったりすれば、それだけ守り抜くのが大変になるからね。


「いわゆる『駄目で元々』ってやつだからね。だから安心して失敗すればいいよ。それとも、今までほとんど役立たずだったイルバスがせっかく活躍できそうな機会なのに、『できない』なんて尻込みしてふいにする?」


 とどめに軽く煽りも混ぜて発破をかければ、歯を食いしばりながら顔を伏せるイルバス。この状況で隙だらけにもほどがあるけど、そこはボクがかばうから問題なし。

 そして一拍を置いて上げられた顔は、険しいながらもその目に覚悟を決めたような強い光を宿していた。


「……オレができるとしても、『斬魔』と『斬鉄』を同時にするのは無理だ」

「具体的に言うと?」

「先に腐導師(ワイト)を守る柱を壊してもらわなければ、どう足掻いても本体を斬れない」

「要は露払いが必要ってことだね。それくらいなら任せてよ!」


 イルバスからの要請に対して二つ返事で引き受ける。やる気になってくれたんだから、そのくらいの役目はこなしてあげないとね。

 と言うことで、腐導師(ワイト)からの攻撃が一瞬途切れたのを狙っていったんイルバスから離れると、転がしたままだったデイホープとサンラストに飛びついて再装備。できるならレインラースを使いたいところだけど、『亜空接続』も使えいないから今ある物で何とかするしかない。


「シェリア! ボクたちに合わせて腐導師(ワイト)の気を引ける?」

「それくらいなら」


 デイホープの刃に最大限の魔力を込めつつ、別の場所で機会をうかがっているシェリアに声をかければ、頼もしい応答が返って来る。よしよし、せっかく防御を突破してもすぐさま再生されたら意味がないからね。


「行くよ、イルバス! 覚悟はいい?」

「駄目だと言ったところで聞く気はないんだろう」


 弾幕みたいな魔力攻撃を全部サンラストで弾きながら駆け戻ると、どこか苦々しい表情のイルバスがそう応えた。うん、わかってきたみたいじゃないか、けっこーけっこー。


「じゃあ、行くよ!」


 合図の一声と共に、最大展開したサンラストを前面に押し出して吶喊! 防御はボクじゃなくて、後ろに続くイルバスを守るため。

 広いとはいえ部屋の中、腐導師(ワイト)との距離はあっという間になくなり行く手を阻む石柱群に到達。サンラストを少し持ち上げ、足元を薙ぐようにデイホープを全力で振り切る。そうすれば赤熱して周囲に陽炎を揺らめかせる刃が、わずかな抵抗をねじ伏せて柵の根元を叩き斬った!

 そしてほぼ同時、器用に柱の合間をかいくぐったシェリアが背後から腐導師(ワイト)を強襲! 霞む勢いで振るわれた二本の握剣(カタール)がその全身を余すことなく切り刻んで、見事にその意識を束の間とは言え自分に向けさせた。

 シェリアが腐導師(ワイト)の反撃を華麗にかわす中、突進の勢いのまま柱の残骸を跳ね飛ばしたボクは素早く体を伏せた。直後、それを見計らったかのような絶妙なタイミングで使い込まれた両手剣(ツーハンドソード)が頭上を奔り抜ける。


「――せあっ!!」


 イルバスの気合が乗った一閃は、何に阻まれることなく吸い込まれるように腐導師(ワイト)へ届いて振り抜かれる。そんなクリーンヒットを受けた腐導師(ワイト)は斬撃の余波で吹っ飛んだものの、『探査』の反応にはこれと言って変化は見当たらず。


「――すまん、斬り損ねた!」

「どんまい次行こう!」


 すぐ後ろから聞こえる後悔の言葉に軽く返すと、吹っ飛んだのを幸いと改めて防御陣形を構築する腐導師(ワイト)に向かって再び地面を蹴る。最初の一発で決まれば言うことなしだったけど、まあそうはならないだろうっていうのは織り込み済みだ。ひとまず即席の連携が機能して、きっちりチャンスを作れるっていのがわかっただけで十分。

 さあ、改めて根競べと行こうじゃないか!


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