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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
六章 機神と冒険
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攻略

 最後に保存食で軽く腹ごしらえをしながら簡単な打ち合わせだ。まあボクのことはもうイルバスにも話したから、実際に食べるのは二人だけだけどね。


「――それで、通路の先はどうなってると思う?」

「たぶんだけど、魔法傀儡(ゴーレム)かその材料が置いてあると思うんだ。補充でも修理でも、わざわざ離れたところから持ってくるのも非効率的だしね」

「だとすると、また魔法傀儡(ゴーレム)の大軍が待ち受けている可能性があるわけか……」

「……たぶん、ないわ」

「ボクもシェリアに賛成。そこまで警戒しなくていいと思う」

「だが現に大量の魔法傀儡(ゴーレム)が待ち受けていただろう。そう言い切れる根拠は?」

「……こっちの部屋を調べた時、残骸しかなかったから」

「どういうことだ?」

「向こうの部屋、可愛そうな人たちの跡が結構派手に残ってたでしょ? 対してこっちは綺麗なまま。ここまで侵入されたことがないってことだよ」


 そもそも遺跡の本来の用途が倉庫なんだから、来るかもわからない侵入者に備えてガーディアンばかり設置してたら本末転倒だ。侵入者は一つ目の魔法傀儡(ゴーレム)部屋でほぼ確殺。たとえ抜けられたとしても二つ目の部屋には数倍の物量。それを超えてくるようなのは、おそらくだけど想定してない可能性が高い。


「だから、高確率で資材置き場みたいな倉庫だと思うよ」

「……それで、倉庫の中にまで罠を仕掛けるのは稀」

「それはまあ、そうだな。自分の物を出し入れするだけなのに、そのたびに自分で用意した罠を避けなければならないなど、想像しただけで馬鹿らしい」

「まあ、一応ボクが先頭で進むよ。これだけ性格の悪い仕掛けするようなヤツの遺跡だし、万が一って考えるとね」

「……最悪、ここまで戻ってこれれば安全ね」

「そういう時は遠慮なく先に戻ってね。ボクだけなら大概のことはどうにでもなるし」

「……それが最善か。わかった」


 そうやって互いに確認を終えたところで体の具合を確認したシェリアが頷いた。どうやらダメージは抜けきったらしい。よし、なら攻略再開だ!


「さてと、上がるついでにシェリアとイルバスもこの仕掛け使えるかどうか確認してくれる? いざって時に動かせないじゃ困るし」

「わかったわ」


 穴を避けながら三人そろって下のリフトに乗り込んだところで、念のためシェリアに動かし方を教えておく。


「こっちの模様に魔力を流せば上がって、こっちで下がるよ。魔導器(クラフト)を使う感覚で行けると思うけど」


 そう指差した模様の上に無言で手を置き、魔力を流し始めるシェリア。そうすれば問題なく上昇していくリフトに、イルバスはどこか落ち着かなげな様子だ。まあ初めて体感する仕掛けだろうし、緊張するなって方が無理かな?


「大丈夫そうだね。じゃあ、次のはイルバスに頼むよ」

「……魔導器(クラフト)の扱いは苦手なんだが」

「まあ、できないならそれはそれで先にわかってるだけでずいぶん違うしね」


 そう言いながら上がり切ったリフトを乗り換えて、イルバスに操作するように促した。そうすれば苦手だって言うのは嘘じゃないらしく、魔力を流すのに多少手間取ったようだけど、少しして二つ目のリフトも上がりだす。うん、こっちも問題なしだね。


「すまん、手間取った」

「……緊急時は、わたしがやるわ」

「そうしてくれると助かる」


 そんなシェリアとイルバスのやり取りを聞きながら、最大展開したサンラストを下に流れていく壁に向けて構えておく。それを見て察した二人もサンラストの陰に隠れるように素早く姿勢を整えた。たぶん大丈夫だろうとは言ったけど、予想外っていうのは常にあるからね。備えあれば患いなし。

 そのまま待つことしばらく。目の前を流れていた壁が途切れたことで後ろの二人が体を緊張させたことを感じ取る。かく言うボクも準備はオッケーだ。さあ、矢でも鉄砲でももってこい!

 そのまま上がり切ったリフトが停止して、待ち構えること数秒。特に異変はないみたいなのでサンラストの陰からそっと顔を出してみると、下の部屋と同じくらいはありそうな空間に雑多な物が並べられてる空間が静かに待ち受けていた。うーん、予想通り資材庫って感じの場所だね。ここももはや定番と言える灯りが壁に埋め込まれているから、シェリアとイルバスも最低限の視界は確保できるだろう。


「よし、待ち伏せ系の罠はなさそう」

「だからと言って油断はするなよ?」

「当然!」


 イルバスの忠告に短く返して、サンラストを構えたまま資材庫に足を踏み入れる。何があってもすぐに対応できるように油断なく周辺を見回すけど、今のところ不審な物も動きも見当たらない。相変わらず起動中の『探査』にも反応はなし。まあこっちはいつもより感度落ちたままだから絶対とは言い切れないけど。

 それでもしばらく待って何もないから、一応安全って判断していいかな?


「問題なさそうだよ!」

「みたいね」

「ふぅ……一時は死を覚悟したが、先が見えてきたな」


 そう伝えるとホッと安堵の息を吐くシェリアとイルバス。それでも油断はしないようで、周囲を警戒しながらボクのいるところまで歩み寄ってきた。ついでにシェリアがランプ型魔導器(クラフト)を点けて光源を確保。これでやっと二人にもこの部屋の様子が詳細にわかるようになったわけだ。


「これは……確かに資材を集める倉庫のようだな。推測通りというわけか」

「だね。どうする? せっかくだし何かもらっていく?」

「……何のために?」

「え、そりゃあ、成り行きとは言え遺跡を踏破したっていう証拠に?」


 そう提案してみたところ、無言でランプ型魔導器(クラフト)を掲げて辺りにある物を見回すシェリア。


「……ここにある物、珍しいけど遺跡以外でも採れる物ばかりよ?」

「え、それホント?」

「わたしがわかる物だけだけど」


 当然そんなやり取りが聞こえていたイルバスは、手近な棚の方に顔を向けるとつぶさに眺める。


「……この辺りは鉱物ばかりのようだな。精錬済みの魔銀(ミスリル)蛇眼石(バジリスコ)、それとこっちはやけに大きいが、魔力結晶か?」

「……たぶん、ね」

「確かに他でも採れはするな。こうも無造作に置かれているのが信じられない希少度だが」


 ああ、たぶん本気で資材庫なんだろうね、この部屋。それもよくある物を大量に放り込んでおく系のじゃなくて、入手困難な物を大切に保管しておく系の。遺跡を攻略できたら一財産っていうのも頷ける話だ。


「じゃあ、物色はまたの機会にして、さっさと出口探そうか」

「そうね」

「本当にいいのか? 攻略者となれば組合(ギルド)から権利は保証されるが、ただ脱出しただけならそれも怪しいぞ」

「あいにく、それほどお金に困ってるわけじゃないしね。ボクは冒険ができればそれで十分なんだよ」


 証拠品の回収はさっぱり諦めて先に進もうとしたら、なんかイルバスが試すようなことを言ってきたからバッサリ返しておく。いやホントお金かからなくて便利だよね、マキナ族の機工ボディ。代わりにそっち方面の欲がからっきしになって人生の楽しみが減るから一長一短だけど。

 それは置いておいて、警戒を残しながら資材庫の探索。さすがに希少品を保管する場所に殺意満点のトラップを仕掛けるほどぶっ飛んではいなかったようで、そう苦労することなく入ってきたところの反対正面でどこかへ通じる扉を発見した。シェリアのチェックからボクが漢探知っていうお決まりのプロセスを経て、特に何事もなく潜り抜ける。

 そうして出てきたのが左右に延びる通路だ。相変わらずの埋め込み式照明が、通路の突き当りと、両サイドに等間隔で並ぶ扉を浮かび上がらせている。あと、パッと見ただけでも階段のたぐいがないね。落ちた高さと登ってきた高さを考えたら、もう一つ二つ上に階層がありそうなんだけど。


「これは探索必須かな? 高さ的にすぐ出口ってのはなさそうだけど」

「探すしかないわ。階段があれば話は早いけど」

「……思ったんだが、さっきの小部屋が上り下りする仕掛け、あれがまた使われてるということはないのか?」

「あり得るね、それ。あそこに造ったんだから他でも使わない理由がない」

「そのあたりを含めて、慎重に探しましょう」


 短く新しい方針を確認し合うと、改めて通路に並ぶ扉を見回した。どこから調べてもあんまり差はないと思うけど、なるべく手間は少ない方がいいよね。うーん……ここの通路に沿った部屋は、配置からしてそれぞれ結構空間を取ってそうだ。今出てきたのも資材庫だったし、倉庫系じゃないかな? それかスペースを必要とするような実験室。そうすると――


「本命はどっちかの突き当りの扉かな?」

「そう思う理由はなんだ?」

「ボクならそうするかなって程度で、強いて言うなら勘?」

「……そうか」

「……一つずつ入り口から中を覗きましょう。正規の通路を倉庫の中には作らないでしょう」


 思ったことをそのまま言ったら、二人からどこか呆れたような顔を向けられた。解せぬ。

 それはさておき、シェリアのもっともな提案が採用されて、今出てきた部屋を初めとして通路脇の部屋を覗いて、行き止まりで折り返して反対の部屋って形で探索を進めることになった。ボクとしても他の部屋の中身は気になるところだから、特に異論はない。あと、ボクの言い分を考慮してくれたのか、まずは突き当りに近い方からってことになった。まあ右左どっちからって言うのでもめるよりはってくらいの理由だろうけどね。

 ということで、突撃隣の遺跡ルーム! そろそろ慣れてきた感のある安全確認コンボで何事もなく扉を開けたところ、中は書類の束や本なんかが山ほど詰め込まれた棚が並んでいた。どうも資料庫っぽいね。普通なら相当劣化してそうなところだけど、パッと近場を見渡しても、読めなそうなほどボロボロになってる物なんて数えるほどしかない。すごいね、魔法文明の保存技術。現物を見るのは初めてだけど、何が何でも残してやるっていう執念を感じるね。

 この辺のやつなら持ち出しやすいし証拠品にもなるだろうなってことだけ頭の隅にメモしておいて、今は放置ですぐに次へ。そして次は本命の片割れ、突き当りの扉だ。


「――おっと、当たりかな?」


 シェリアとのコンビネーションで安全を確保しつつ開けた先には小さな空間のみ。普通なら外れってなるところだろうけど、下の階層から脱出してきたボクたちとしては求めていたものに違いない。案の定、上を見れば通路のそれよりも高い位置に天井が見える。


「やっぱり昇降室(エレベーター)だね。シェリア、次は直接調べるのはナシだよ?」

「……さすがにね」


 念のため釘を刺しておいたところ、さっきの失敗がよほど堪えたのかいつも以上に顔をしかめるシェリア。怪我の功名とは言え、明らかに余計なことして罠にかかってたもんね。まあこの高さなら落ちてきたところでさっきほどの威力はないだろうけど。


「何があったのか詳しくは聞かないが……どうやって下すんだ? 上がってきたのと同じ構造なら、操作できるのは中からなんだろう?」


 そしてシェリアとのやり取りで何か察したらしいイルバスが当然の疑問を挟んでくる。まあ至極もっともだよね。最悪ぶち抜けばいいとしても、時間がかかりすぎるから本来の機能が使えるならその方が断然早い。

 というか、昇降室(エレベーター)を造るなら外と中の両方で操作できるように造ると思うけど。自分以外の誰かがいる時とか、何かの拍子にうっかり乗らずに動かしちゃった時とか、まさに今のボクたちみたいな状況になるわけだしね。となると、何か見落としがありそう。


「ボクは中を調べるから、シェリアとイルバスは通路側から調べてくれる?」

「わかったわ」

「……まあ、努力はしよう」


 そんなわけで詳しく調べてみた結果、シェリアが扉に刻まれてた魔導回路(サーキット)を発見。ちょうど扉を閉じた時に完成型になるとかいう無駄に器用な仕掛けに魔力を流したところ、無事リフトが降りてきた。一応罠がないか調べてから、安全なことを確認して早速乗り込む。

 そうやって上がって止まった先にはまたリフトを塞ぐ扉。さて、これが即出口につながってくれてたら楽なんだけどなー。

 なんて思いながらそっと扉を開けてみたところ、見えたのは色々なものが雑然と配置された部屋だった。広さ的にはガイウスおじさんの館の応接間くらいかな? そしてこれとよく似た光景には馴染みがある。主にイルナばーちゃんの研究室とかこんな感じだったね。


「うーん、少なくとも出口って感じじゃなさそう?」

「外れ?」

「かな? なんか研究室って感じの雰囲気だし」

「だが、一階層上には違いない。少し調べてみた方がいいんじゃないか?」


 少し様子を窺った後、イルバスのもっともな意見に同意して慎重に部屋へ踏み込んだ。まあ好奇心が少し上回ったって面もあるね。

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