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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
六章 機神と冒険
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模索

 魔法傀儡(ゴーレム)を全滅させるまでそこまで時間はかからなかった。まあ基本殴ってくることしかしないちょっと硬めの岩の塊なんて、マキナ族の敵じゃないね。他に気に掛けることが一切ないならなおさらだ。

 一応斬り残しがないかざっと見渡してみるけど、部屋一面に転がる残骸の中に動き出しそうなものは皆無。ということで、さっさと部屋と部屋の間を塞ぐ氷を割り砕いて二人に合流しよう。ボクが全魔法傀儡(ゴーレム)のヘイトをかっさらったせいか、結局張り直してから一度も殴られることなく無傷で残ったんだよね。


「お待たせ、片付いたよ」

「お疲れ様――で、いいのかしら?」

「うーん……手間暇かけたって意味なら通じるんじゃない?」

「そう。なら、お疲れ様」

「はいはーい」


 いつもの調子でシェリアと掛け合いをして、なぜか両手剣(ツーハンドソード)を構えたままボクのことを凝視してるイルバスの方を向く。


「素振りでもしてたの、イルバス? 休める時に休んどかないともたないんじゃない?」

「……お前は――いや。なんでも、ない」


 まさかあの疲労困憊の状態からさらに自分を追いつめるような、リクスもびっくりなマゾ趣味でも持ってたのかと思って聞いてみたら、イルバスは絞り出すような声でそう言った。うん、どう考えても何でもないって感じじゃないよね。


「何か言いたいことがあるなら言っておいた方がいいと思うよ? ボクも気になるし、聞くぐらいはするよ?」


 明らかにボクに対してもの言いたげだったからそう促すと、イルバスは視線をさまよわせ、何度か躊躇う様子を見せながらもゆっくりと口を開いた。


「お前は……お前はいったい、何なんだ?」

「何って……そういえば正式に名乗ったことはなかったっけ? ボクはウルだよ。マキナ族の長でイルナばーちゃんの子、ウルデウス・エクス・マキナ」

「そうじゃない! その歳でどうしてそこまで強い!? どうやってそこまで強くなった!? あの時お前ほどの強さがあれば、オレは――」


 改まった自己紹介が何か琴線に触れたのか、急に荒ぶりながらまくしたてるイルバス。かと思うと途中でハッと我に返ったようになると、何度か深呼吸して顔をうつむけた。


「……すまない、取り乱した。忘れてくれ」


 それでもう落ち付いたらしく、口調は普段通りに戻っていた。けど、正面から顔を合わせるのは無理なようで、両手剣(ツーハンドソード)を背負い直すとうつむいたまま足早にボクの横を通り過ぎて次の部屋へと入っていく。

 ……なんか、思った以上に根深いものを抱えてるみたいだね、イルバスも。前から妙に強さにこだわってたのもそれが原因なのかな?

 ただ、どうやってここまで強くなったかとか聞かれたら困ってしまうのがボクたちマキナ族。なんせ初めから最高スペックで造られてるんだから、一から努力して強さを手に入れなきゃならない他のみんなにはちょっと申し訳ないなって思う時がないわけじゃない。まあ代わりにハード面での成長がほぼないって言っていいんだけど。


「……なんか、悪いことしたかな?」

「あなたが気にすることじゃないわ」


 なんとなく呟いた言葉に、思いがけず強い断定が返ってきてシェリアの方を振り向く。


「この世界で『もし』なんて意味はない。今あるモノがすべてで、それを受け入れるしかない。あなたは今、ここを出るために全力を尽くしただけ。それを見てあいつが勝手に落ち込んだだけ。それだけの話よ」


 イルバスの背中を見据えながらの珍しい長広舌には、これ以上ないくらいに実感がこもっていた。さすが訳あり筆頭、説得力が違うね。


「そうだね、まずは今やらないといけないことに集中しないと。早いところ遺跡を脱出してリクスたちのところに戻ろう。あんまり遅いと心配させちゃう」

「そうね」


 そう気を取り直してサンラストを回収すると、イルバスの後を追うように再び次の部屋へ踏み込んだ。そうして改めて中を見回したけど……うん、一応大乱闘中も確認はしてたんだけど、やっぱり出入り口っぽいのが今入ってきたところしか見当たらないんだよね。


「この遺跡造ったヤツ、絶対性格最悪だよね」

「そう言い切る理由は?」

「落とし穴のところの扉に書いてあったことと罠の仕掛け方」


 初見殺しの落とし穴にセーフティ張っておいて、さらに『クリアできたら助けてやる』みたいなことを書いておいて希望を持たせる。そして進んだ先には対処手段が限られる魔法傀儡(ゴーレム)のモンスターハウスを仕掛けておいて、数の暴力で圧殺。何とか潜り抜けたとしても次の部屋に待ち受けるのはさっきのが可愛く思えるほどの物量。下手したら手前の部屋が全滅した瞬間次の部屋の魔法傀儡(ゴーレム)がなだれ込むとかあったんじゃないかな? そうだとしたら生身の人間なら絶望待ったなしな状況だろう。

 そして万が一それらをかいくぐったとしても、次へ進む道が見つからないという『心を折る』って書く方の心折設計。これだけ執拗に上げて落とすをたたみかけるとか、性格悪いってレベルじゃないと思うんだ。どこかにここの様子をモニターする機能とか組み込んで、侵入者が絶望する様子とかを見て悦に入ってたとしても驚かないね。


「クソッ! 結局いいように踊らされただけなのか……」


 先に部屋に入ったイルバスも同じようなことを感じたのか、悪態をつく顔がこの上ないくらい険しい。それでも諦める気はないのか、せわしなく視線を動かして何かないかと部屋の中を探しているようだ。


「とりあえず、どこかに隠し扉とかそういったのがあると思うから、手分けしてそれ探そう」

「……あるのがわかっているような口ぶりだな」

「そりゃね」


 あれだけの魔法傀儡(ゴーレム)を用意してたんだ。たとえ別の場所で作ったものだとしても、配置するには最低でも一度は出入りが必要になる。加えて使いまわし前提とは言え、どこかで絶対消耗するから整備なり補充なりできるように出入り口は残しておかないと余計な手間が増える。

 だからと言って残した出入り口を侵入者が気軽に使えるようじゃ、そこから入ってくれって言ってるようなもの。だから、あるとしたら知らないと気付きすらできないような仕掛け付きの隠し扉系だ。


「なら、任せて。見つけるのは得意よ」


 そういうことを二人に説明すると、早速手近な壁を調べ出すシェリア。さすがは『暁の誓い』の斥候役、頼もしさが違うね。


「……オレはそういうのは苦手だ」


 うん、だろうね。むしろそこ得意だって言われた方がビックリだ。まあボクも人のこと言えないんだけど。目は良くても、経験がねぇ……。


「じゃあ、シェリアの調査の邪魔になりそうな残骸をのけておこうか。手伝ってくれる?」

「まあ、それくらいなら……」


 ということで、脳筋組はそれぞれ武器を適当なところに置いて残骸の撤去作業を始めた。とりあえずはシェリアが調べてる周辺のを、探索の邪魔にならないところへかためていく。縦横無尽に暴れまくったせいで、わりと足の踏み場に困るくらい散乱してるからね。シェリアもそっち方面ではボクたちに期待してないのか、特に何も言わず黙々と部屋を調べている。

 ……何もしゃべらず淡々と残骸運びするのもなんか陰鬱だね。そうだ、話題ついでに気になってたこと聞いておこうっと。


「イルバス、さっき魔法傀儡(ゴーレム)魔導式(マギス)なしでぶった斬ってたよね? あれどうやったの?」

「……見ていたのか」

「そりゃまあ、暫定とは言え仲間だし、戦闘中に気を配るのは当然だと思うけど?」

「あの乱戦の中でよくそんな余裕が――いや、お前はそういう奴なんだな」


 何とも言えない顔でため息を吐く*イルバス。そして少しの間何かを考えるように目をつむると、おもむろに話し出した。


「特別なことはしていない――と言いたいが、そう言えるのはオレを含めた少数派だろうな。だが、オレとしては単純に武技を使っただけだ」

「ブギ?」


 聞き慣れない単語に首を傾げた。文脈からして前の世界にあったゲームのスキルとか必殺技とかそんな感じ? なにそれ超かっこいいんだけど!


「それは知らないのか……簡単に言えば、英雄や達人と呼ばれる人の戦闘術だ。そういった圧倒的な技を伝授された弟子や教え子が、それらを『武技』という形で今に至るまで受け継いでいる。そうした武技を受け継ぐ集団は『武門』と呼ばれ、今でもいくつか存在している」


 ご丁寧な解説をどうもありがとう。要するに道場の流派とかそんな感じか。で、そこに伝わる技が武技と。今まで聞いたことなかったけど、意外とマイナーなのかな?

 ということは、どっちかっていうと型とかそんな感じなのかな? まあ威力は御覧の通りだったわけだし、あながち必殺技で間違いはないか。


「つまり、イルバスはその武門ってところで修業したことがあるってこと?」

「そうだ」

「へー。どういうところで修業したの?」

「……ガラウィン。竜剣ガラウィンの武門だ」

「ガラウィン? 『崩砦の竜剣』ガラウィン・ドルブス?」


 その名前に反応したのは意外にもシェリア。どうやら調査しながらもボクたちの会話に耳を傾けていたらしく、いったん調査の手を止めて驚いたようにイルバスを見ている。


「知ってるの、シェリア?」

「語り部に謡われる英雄よ。『すべてを断ち切る大剣』、リクスのお気に入りの一つね」


 ああ、リクスか。納得。ちょっと英雄フリークなところがあるせいか、時間の空いてる時とかたまにお気に入りの話について熱く語ってくれるんだよね。エリシェナと趣味が合うんじゃないかな? ボクも楽しめるから特に気にしてないけど、『すべてを断ち切る大剣』っていうのはまだ聞いたことなかったね。


「ああ、こういう謡い出しの英雄譚だろう。『彼の者の剣は防ぐすべなし。盾を掲ぐは共に斬り捨て、岩に潜むは諸共断ち割る。彼の者の剣に斬れぬ物なし。竜を追いては首を落とし、悪魔に()うては斬り滅ぼす。竜にも勝る剣の冴え、不落の砦も砂のごとし』」

「……そうね」

「よく覚えてるね」

「武門で世話になってる間、ことあるごとに聞かされた。嫌でも覚える」


 謡い出しだけとは言え普通にそらんじたところを見てイルバスも好きなのかと思いきや、理由がわりとひどかった。まあいわゆる開祖の武勇伝なわけだし、門下生なら耳にタコができるくらい聞かされてても当然か。


「それじゃ、武技っていうのを使ったら魔導式(マギス)なしでも岩を斬れるの?」

「まあ、岩くらいならな。まだ未熟だから連発はできないが」


 再び作業に戻りながら聞いてみると、やっぱりクールタイムありのアクティブスキルみたいだ。言い方からすると、修行してればそのうちパッシブになったりするのかな? 通常攻撃が全部防御無視とかチートだよね。

 それにしても武門か。要は戦闘の英才教育受けてたってことだよね? 道理でランク詐欺な実力してるわけだよ。きっと才能もあったんだろうね、イルバスは。

 ……でも、それならなんでなおさらもっと上のランクじゃないんだろう? リクスやケレンと一緒にカッパーランクに昇格する試験受けてたってことは、飛び級認定なしで普通にブロンズから上げてったってことだし。それにしたってもジェムド付いてていいレベルだよね?


「じゃあさ、なんでまだカッパーランクなの? それだけ強ければ今頃もっと上のランクでしょ?」

「……オレは強くなんかない。今でも相応かどうか怪しいもんだ」

「いや、それで強くないとかリクスや他の同ランク臨険士(フェイサー)の立つ瀬がないじゃん。もっと自覚持ったほうがいいんじゃないの? 強くなろうと頑張ってる人の反感買うよ。まあ、リクスは優しいからそんなことないかもしれないけど」

「……オレは、弱いんだ」


 ……何なんだろうね、イルバスって。十分強いはずなのに、まるで自分に言い聞かせるみたいに『弱い』って。普通逆じゃないかな? スポーツとかだと自己暗示的に『自分は強い』って思いこむのはよくあるって前の世界の知識にもあったけど、『自分は弱い』って思いこんで何のメリットがあるんだろう? 初心を忘れないってニュアンスにしては妙に悲壮感をにじませてるし。


「まあ、イルバスがそう思うんだったら勝手にしたらいいけどさ、だからってまたリクスに絡まないでよ?」

「わかっている。だから『轟く咆哮』は活動の拠点も移したんだ」

「え、なんでわざわざ?」

「……グラフトの武闘大会で約束したからな」


 一応念押しのつもりで釘を刺そうとしたら、斜め上の回答が返ってきた。武闘大会での約束? ……ひょっとして二次予選でイルバスをたたきのめした時のあれ? 約束っていうか、ボクの方から一方的に『二度と絡んでくるな』宣言突き付けただけのような気がするけど、あれを律儀に守るためってわけ?


「イルバス……キミ、バカ?」

「……」


 思わず漏れた本音に無言で応じるところを見ると、いくらかは自覚もあるらしい。だってそもそも約束の体をなしてないことのために、嫌っている相手に配慮して自分から会わないで済むようにしたってことでしょ? 臨険士(フェイサー)っていう職業柄フットワークは軽いんだろうけど、それにしたって仲間まで巻き込んで引っ越しとか普通そこまでやる? 顔を合わせるのもイヤってレベルならまあしょうがないかもしれないけど、再開してからの態度を見るにそうも思えないし。

 でも、パーティの仲間とは前から関係良好そうなんだよね。拠点を移す時に一悶着あったかどうかなんてわからないけど、今回も見てる限りじゃ仲良さそうだったんだよね。武闘大会で絡んできた時も申し訳なさそうにしたうえでイルバスのこと擁護してる感じだったし。

 ……なんか本格的に、イルバスって人間がどんなヤツなのかわからなくなってきた気がするんだけど。


「お前は――マキナ族っていうのは何なんだ?」


 そんなボクの心境を知ってか知らずか、今度はイルバスの方からそう聞いてきた。というか、今それ聞くんだ。


「なんで今更? 気にしてないのかと思ってたけど」

「それがお前の強さの理由なんだろう。気にならない方がどうかしている」


 まあ、確かにそうなんだけどさ。ぶっちゃけ後天的にどうにもならないから参考になるとは思えないんだけどなぁ。


「オレはお前の聞きたいことに答えたんだ。お前も答えてくれてもいいだろう」


 ちょっとどう答えたもんかと迷っていると、それが渋っているように見えたのかそんなことをかぶせ気味に主張してくる。なるほど、妙に丁寧に教えてくれたと思ったらそういう魂胆だったのか。先に恩を売っておいて自分もきっちり対価をもらおうってわけだね。その姿勢は嫌いじゃない。

 まあせっかくだし、広報がてらマキナ族について軽く説明してあげるとしよう。求められた情報を教えて、それで向こうが勝手にがっかりする分にはボクの知ったことじゃない。どうせもうしばらくはずっと単調な作業が続きそうだしね。


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