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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
六章 機神と冒険
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探索

 そんな風に待つことしばらく、シェリアと『轟く咆哮』の面々が誰にでも見分けられるようになった。先頭を歩くシェリアのすぐ後ろには、武闘大会以来ほとんど見かけなかったイルバスのガタイのいい姿。


「……戻ったわ。見てのとおり、知り合いよ」

「ご苦労さん、シェリア。そっちは久しぶりだな、『轟く咆哮』。見ない間にずいぶん大所帯になったんだな」

「ケレン、だったか。そうでもない。こっちの四人は俺達が拠点番の依頼を出したから同行してもらっている」


 まっすぐに戻ってきたシェリアを迎え入れつつケレンが挨拶というジャブを打つと、一歩前に出ながら初めて見る四人の方を指し示してそう説明しつつ、何かを探すように周囲を見回すイルバス。


「……リクスの姿がないみたいだが」

「今ちょうど料理中でな。悪いが手が離せないんで挨拶なら後にしてやってくれ」

「そうか……」


 やっぱりなぜか目の敵にしてるリクスのことを探していたみたいだけど、ひとまずそれで納得したのか一つ頷くといかつい顔を改めてボクたちに向けてきた。


「そっちの事情は『赤影』から軽く聞いた。組合(ギルド)から認められたようだな。まずはおめでとうと言っておこう」

「お、おう。ありがとうよ」


 そして予想外のストレートにたじろぎ気味で返すケレン。そしてその隣でボクも驚いた。どうやらシェリアからお試し依頼を斡旋されたことを聞いたみたいだけど、正直イルバスからそんな素直な褒め言葉が聞けるなんて思ってなかったよ。絶対なんか嫌味ってくると思ってた。


「それと、実のところ『暁の誓い』に、こちらの依頼に関して伝えておきたいことがある。後で会合を開きたいんだが、頼めるだろうか?」

「そりゃこっちも願ったりだが……依頼の競合か?」

「いや、こちらの依頼は調査だ。詳しい話は全員がいる時の方が早いだろう」

「なるほど、了解だ。こっちもリクスには伝えとくから、日が沈み切らないうちに野営の準備をすませるといいさ」

「そうさせてもらう」


 そしてそれだけのやり取りを終えると、イルバスは仲間たちを引き連れてこっちのキャンプとは距離を置いた場所で野営の準備を始めた。なんていうか……思ったよりあっさり終わったね。


「それじゃ、俺らも飯にしよう。そろそろできあがってるだろう」

「まあ、それは賛成だけど、今のホントにイルバス? なんか違わない?」


 そんなことを言ってあっさり踵を返したケレンに思ったままのことを聞いてみると、何か知ったような顔で肩をすくめてみせた。


「ご本人様には違いないだろうな。たぶん、俺らと会わない間に何かあったんじゃないか? 意外とそういう話って多いぜ」


 どうやらケレンは四ヶ月くらいの間に何か丸くなるようなきっかけがあったって言いたいらしい。まあ、臨険士(フェイサー)なんていう荒事商売で生計を立ててたら価値観の変わるようなイベントにもかなりの確率で遭遇しそうっていうのはわかるけどさ。


「俺もお前も、元々は向こうがわけもわからず突っかかってきてたのが気に食わなかったんだ。だろ? それがなくなったんなら万々歳、困ることなんて何もないさ」

「それはそうだけどさ、なんかこう……わだかまりとか全然ないの?」

「ないとは言わないけどよ、これからずっと一緒ってわけでもないんだからそれくらいは割り切るもんだろ。でないと臨険士(フェイサー)なんてやってけないぞ、ウル?」

「ごもっともだね、先輩」


 至極もっともな処世術を展開されればボクとしても頷くしかない。実際気に食わない理由がケレンの言った通りなんだから、突っかかってこなくなったならそれで文句はない。まあ、だからって好感度が急上昇するわけでもないけどね。


「ところで会合って何するの?」

「それぞれの依頼で仕事場所が被った時、お互い揉めないように情報交換し合うんだよ。依頼内容が被ってたなら狩場や採集の優先順位を決めたり、そうでなけりゃ互いに融通の利く部分を確認したりだな。向こうは調査って話だし、たぶんこっちが採集してる間に気にかけておいてほしいことでもあるんだろうさ」


 ついでに聞き慣れなかった用語のことを聞いてみれば、即座に返ってくる答えと予想。相変わらずだけど、臨険士(フェイサー)ってアウトローな仕事のわりには協調的でお行儀がいいよね。前の世界でもモラルの高さは文明レベルに比例するとか言ってたっけ? 優しい世界で何よりだ。

 ということで、そこからは特に何事もなく後輩君たちのために軽く回避サンドバックをこなして、お待ちかねの夕食タイムだった。一応話を聞いてなかったリクスにもイルバスの様子と会合の件を伝えたけど、特にわだかまりとかはないらしく二つ返事でオーケーが出た。さんざん言いがかりを付けられてきたというのに、イルバスが態度を軟化させたことを素直に喜ぶという筋金入りのお人好しは、さすがはボクたちのリーダーといったところ。シェリア? いつもの通りに我関せずって感じだったよ。

 そうして夕食を終えてみんなのお腹も落ち着いたころ、無事野営の設営を終えた『轟く咆哮』との会合に臨んだのだった。




 翌日、ボクたちは予定通り素材の採集にいそしんでいた。と言っても七人が一塊でいたところで効率が悪いだけだから、二手に分かれて入るんだけどね。内訳はボクとケレンにロックとタウ、リクスとシェリアにベールって感じだ。感知スキル持ちのボクとシェリアが別々で、そこに戦力比がなるべく均等になるようペアを組むのが『暁の誓い』の定番だ。

 そしてボクのいる方へ後輩君たちを多く割り振るのと、一番経験の浅いベールがタイプの近いシェリアからいろいろ学べるようにと配慮した結果である。

 というわけで戦力的にはわりとベストな割り振りだとは思ってるんだけど、口数の少ない女の子二人と組むことになったリクスが実に何とも言えない顔になってたんで、ケレンと二人してこっそり笑ってたり。まあ、いつもなら意中の相手と二人っきりってことで張り切るんだけど、そこにベールが加わるとなったら微妙な雰囲気気になることが簡単に想像できるわけで……バランスをとるためだからシカタナイヨネー。

 あとはリーダーの人徳に期待するとして、それぞれのグループで担当を決めて朝から丘陵内へと繰り出したのだった。場所的には昨日よりも少し深いあたりだね。


「それにしても、『何か異常がないか留意してくれ』って漠然としてるよね」

「まあ、調査依頼の最初期段階なんてそんなもんだろ。あ、そいつはこっちの袋だぞ」

「はいはーい」


 見つけた目当ての素材を採取しながらなんとなく呟いてみれば、素材回収用の袋をこっちに放り投げながら苦笑気味のケレン。まあその通りなんだろうけどさ。

 思い出されるのは昨夜の会合。リクスもいるから何か悶着起きるんじゃないかって覚悟してたけど、問題のイルバスは何とも言い難い再会の挨拶をしただけで早々に本題に入ってくれたのだった。どうやら本当に心を入れ替えるような何かがあったらしいね。

 で、肝心の内容だけど、主には『轟く咆哮』がどんな依頼を受けたかっていう事情説明だった。簡単にまとめれば『オルドーバ丘陵に向かったブロンズランクのパーティが未帰還だから調査してほしい』ってことらしい。しかも組合(ギルド)からの指名依頼って話だ。

 ブロンズランクって言えばストーンランクの一つ上、つまりは半人前の臨険士(フェイサー)のことだ。だからその程度の臨険士(フェイサー)でも帰ってこなかったからって理由で、わざわざ組合(ギルド)が依頼を出すなんてどれだけ優しい世界なんだって思ったんだけど、シェリアもリクスもケレンも意外そうな顔をしてたから普通じゃないらしい。実際ケレンが冗談半分で「どっかのお偉いさんの親類でもいたのか?」って聞いてたし。さすがは最低限の支援はあっても基本自己責任なお仕事だ。ちなみにケレンの疑問に対する答えは『ノー』だった。

 どうやらイルバスたちも同じ風に思って問い合わせたそうで、それで返ってきた組合(ギルド)の答えが『今回の未帰還パーティに関して不可解な点がある』ということだ。

 まずオルドーバ丘陵っていう場所が、不便だけど素材の宝庫ってことで頻繁に臨険士(フェイサー)が訪れるため、脅威になる魔物が出たらすぐに討伐される。だからよっぽど奥地に踏み入れない限りは、ブロンズランクでも比較的安全に採取や狩猟ができるんだそうだ。

 それでも運悪く強い魔物がやってきたところに居合わせるなんてこともないわけじゃないけど、もしそうだった場合は前後して被害報告や目撃報告なんかが相次ぐのが普通だ。けれど今回の場合、問題のパーティの前後で何組も臨険士(フェイサー)が丘陵に訪れてるはのに、そういった報告は一切なし。そのパーティだけスコンと帰ってこなかったわけだ。

 可能性としては勇み足になったその人たちが丘陵の奥の奥まで踏み込んでいって帰れなくなったって言うのがあるけど、聞けばカッパーランク昇格間近のパーティで、たとえうっかり踏み入れてしまっても誰か一人くらいは帰ってこられる程度の実力はあるはずとのこと。

 というわけで、『異常がないはずの場所から帰ってくるはずの人間が帰ってこない』っていう状況ができあがってしまって、『穴場を出禁にするには理由が弱いけど、放置して万一事態が悪化したら非常に困る』ということで、ひとまずはカッパーランクで信頼のおける臨険士(フェイサー)――『轟く咆哮』に声がかかったっていう経緯らしい。

 そんな話は採集依頼を受けた時にも聞いたことがなかったんだけど、その理由はそもそも別の街の組合(ギルド)の話だからだそうた。どうもイルバス率いる『轟く咆哮』、武闘大会からしばらくして拠点にする街を変えていたらしい。道理でしばらく見てないわけだ、そもそもレイベアにいなかったんだし。ボクが関わるなって言ったからかな? だとしたら妙なところで徹底して律儀だね。

 まあそれはそれとして、確かに聞いただけでも不思議な状況だし、何かはわからないけどひょんなことでボクたち同じ状況に陥るかもしれないわけだ。正直情報共有はありがたい。『轟く咆哮』的にも注意喚起半分、依頼の協力半分ってところみたいだ。お互い丘陵をうろつくわけだから、融通し合える部分はってことだね。向こうもボクたちが探してる素材を手に入れたら譲ってくれるって話だし。

 でもここ本当に平穏だからなー。今のところ肉食系の動物も滅多に遭遇しないし、採集以外はたまに角ウサギなんかが飛び出してくるのをキャッチして遠めに投げ返すくらいしかやることがない。どこにでもいるって評判の小鬼(ゴブリン)ですらいまだに影も形も見えないほどだ。失踪だって地割れや崖崩れといった突発災害の可能性が今のところ濃厚らしいけど、特にそんな災害現場って感じの場所も見当たらないし、『探査』の感知範囲にも引っかからない。


「この辺じゃないのかな?」

「まあ、ブロンズでももうちょっと奥までは行けるだろ。そもそもどっちかって言うとついでなんだ。あんまり気にしすぎても仕方ないぜ?」


 まあ、それはわかってるんだけどね。やっぱり守るための兵器としては、かわいい後輩君たちもいるってことで気になっちゃうんだよね。ぶちのめせる脅威相手なら得意なんだけど、リアルな災害ってなると簡単には吹っ飛ばせないからなおさらだよ。

 とは言ってもボクだって臨険士(フェイサー)。『探査』にいつも以上に意識を割きながらも採集はちゃんとやっている。ついでにロックの至らない点を指摘するケレンの話も聞いたり、タウの猟師由来の探索術を教えてもらったりと自己研鑽も怠らない。後輩からでも学べるところは学ばないとね。

 そんな感じで途中昼休憩をはさみつつ、さらに奥まった場所まで踏み込んで採集を続けていった。と言っても平穏さは相変わらずだったもんだから、目についた素材を集めながら和気あいあいとおしゃべりする余裕がある。今は昨日のトラウマを多少克服したらしいロックに「どうしたらそんなに強くなれるんだ?」なんて聞かれたもんだから、前の世界の記憶にある知識も交えつつ戦闘談義に花を咲かせているところだ。


「――だからロックは根本的に筋力が足りてなんじゃないないかな?」

「んなことないだろ! 毎日ちゃんと鍛えてるんだぞ!」

「そりゃまあ、見かけの筋力はそれなりにあるってのはわかるしちゃんと鍛錬してるのも見たけど、もっと体の芯を支える力を鍛えたほうがいいと思うよ。そっちがちゃんとなってないから武器と筋肉の重さに負けて無駄にふらつくんじゃないかな?」

「そんなもん、一撃で相手を倒せば関係ないだろ!」

「そんなこと言うけど、一撃で決着がつくなんてよっぽどの実力差がある時くらいだし、戦ってる時に安定した姿勢を保つのって大事だよ。弓を使うタウならわかるんじゃないかな?」

「うぇ!? ま、まあ確かにおいらの父ちゃんも『弓を撃つ時にふらつくな』って言ってたッスけど……」

「それは弓が狙いをつけないといけないからだろ?」

「あれ、ロックって剣で斬る時にどこも狙わないで斬ろうとしてるの?」

「ぐ……そ、それは……」

「『とりあえず当たればいい』っていうのはやめた方がいいと思うよ。頭の悪い魔物とか弱い人間が相手ならまあ何とかなるかもだけど、それなりの実力を持ってる相手だとそもそも当たらないから、いやホントに。ボクもちょっと前は同じように思ってたんだけど、それだとロヴにかすりすらしなくて――」


 そんな風に『いかに狙いをつけることが大事か』ってところから体幹の重要性を伝授しようと話の段取りを整えていると、ふと『探査』に妙な引っ掛かりを見つけた。場所は進行方向からは大きく外れる感知範囲の端っこ。歩いてたらたまたま範囲に入ったって感じだけど……なんだこれ?


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