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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
六章 機神と冒険
133/197

準備

 ということで、見事に置いてけぼりを食らっちゃったリブレスに一言断りを入れてから、ボクも仲間たちの方に合流することにした。ざっとロビーを見渡せば、受付が並ぶ一画にその姿を発見。そこにいるってことは、どうやらいい感じの依頼の確保に成功したらしい。


「お待たせー。いい依頼あったの?」

「お、やっと来たか。もちろんだ。それもとびっきりのがな!」


 そう言いながら依頼票を突き出してくるケレン。いやいや、顔の真ん前に持ってこられても逆に読みづらいって。えーっと、なになに?


《内容:指定素材の収集

 場所:オルドーバ丘陵

 期間:特になし

 報酬:千ルミル+収集物の買い取り

 発行:臨険士(フェイサー)組合(ギルド)レイベア支部

 補足:収集する素材に関しては依頼詳細にて記載》


 ふむ、わりとよくあるタイプの採集依頼っぽいね。オルドーバ丘陵っていうのは確かレイベアより結構南に行ったところじゃなかったっけ? 起伏に富んでいる上にわざわざ切り拓くような利点のない立地のせいであんまり人の手が入ってない場所で、その代わりに自然豊かなおかげでいろいろな素材を集めやすいって話だ。

 わざわざ集める物を別に書くってことは結構な種類になりそうだし、そうなると最寄りの人里まで結構あるから現地でキャンプしつつって形になるかな。期限も切られてないからそれなりの長丁場になりそうだね。

 うん? なんでそこまでわかるかって? ふふん、ボクも日々成長してるってことだよ。なにせ依頼票の概要から詳細を読み取るのは一流の臨険士(フェイサー)には必須技能ってことだからね! 暇な時にいろいろ聞いたり調べたりしてるんだ。

 それを踏まえてみたところ、あとは組合(ギルド)からの依頼っていうのが気になるくらいで、ケレンがとびっきりって言うほどのもんじゃないと思うんだけど?


組合(ギルド)からって以外は普通の採集系に見えるけど、そんなに割がいいの、これ?」

「おうよ! 聞いて驚け、なんとこの依頼、荷物持ちを付けてもらえるんだぜ!」


 腰に手を当て『どうだまいったか!』と言わんばかりに胸を張ってそんなことを言うケレン。うん、なんかいつもよりテンション高くない? それをシェリアが冷めた目で見てるのはいつものこととして、リクスの方もどこか嬉しそうにソワソワしてるし。荷物持ち付けてもらえるくらいでなんでそこまで?


「ウルもストーンランクから昇格するのに必要な条件は知ってるだろう?」

「まあ、ボクもストーンから上がったわけだし、それくらいは。カッパーランク以上の先輩から推薦がいるんだよね?」

「そうだよ。だから、普通は面倒を見る方にも資格がいるんだ」


 いまいちわからず首をかしげていると、リクスが丁寧に理由を教えてくれた。いわく、ストーンランクのみんなに大人気の荷物持ち依頼だけど、それはカッパーランク以上なら誰でも出せるってわけじゃなくて、組合(ギルド)からの許可がいるそうだ。まあ新人の教育も兼ねてるわけだから、上がりたてのぺーぺーとか人格に難ありみたいな相手に任せるわけにもいかないだろうし、頷ける話ではあるね。

 で、ある程度実績を積んで荷物持ち依頼を受け付けてもよさそうだって組合(ギルド)が判断した臨険士(フェイサー)には、組合(ギルド)が依頼人になって一度お試し的な依頼を出しているんだそうだ。それを無事クリアして問題がなさそうなら、それ以降は荷物持ち依頼を受け付けてくれるとのこと。つまりは『こいつになら新人の教育を任せられる』っていう信頼を得られるわけだね。

 ということは、今目の前に差し出されている依頼票がまさにお試し依頼ってわけか。言われてみればボクが『暁の誓い』に入ってから――言い換えればリクスたちがカッパーランクに上がってからそろそろ半年だ。その間地道にまじめに依頼をこなしてきたことが組合(ギルド)に認められたってことなんだろう。

 そうだとすれば、なるほどリクスとケレンがちょっと興奮気味になるのも納得がいく。向上心あふれる二人にとっては自分達の成果が組織に認められたわけなんだから、そりゃ喜ぶよね。というか、ロヴが大丈夫的なことを言ってたのはこれを知ってたからか。相変わらず人の情報を先取りしていきやがる。


「へー、よかったじゃん。二人ともおめでとう!」

「なーに他人事みたいに言ってるんだよ、ウル。お前も俺らの仲間だろ?」

「そうさ。おれ達がこんなに早く認められたのも、シェリアやウルがいてくれたおかげなんだから!」


 まあそう言ってくれるのは嬉しいんだけど、純粋に喜んでるのは二人だからね。ボクとしては臨険士(フェイサー)やれてる時点でだいぶ満足しちゃってるから『ふーん』って感じだし、シェリアはストイックな仕事人っていうのと抱える秘密があるから素直に喜べそうにもないしね。まあ、わざわざ水を差すほどの子でもないけど。


「で、今回はこれを受けたいってことでいいのかな?」


 そう確認を取りながらシェリアの様子を窺えば、いつもと変わらずの仏頂面。威勢よく返ってくるリクスとケレンの肯定を聞いても特に反応を示さないところからか考えれば、少なくとも断固拒否するって感じじゃなさそうだ。まあこれまでも他人と組むような場面とかあったろうし、それで身バレしてないわけだから問題ないって割り切ってるのかな?


「パーティで満場一致ならボクも受けていいと思うよ」

「なら決まりだな! じゃ、この依頼受諾ってことで」


 念のため間接的にシェリアの意思確認をしてみれば、そこはもうオッケーだったようで即座にケレンが手続きを始めた。あとはもうボクも慣れたもので、登録証(メモリタグ)を渡して依頼詳細から採集する物リストを確認してるうちに受諾完了だ。


「荷物持ちに関してはこちらで募集をかけますから、出発は三日ほど待ってくださいね。最初ですので、ある程度経験のある子を選びますから安心してください。募集する人数としては二、三人の予定です」


 どうやら新人君たちはこれから招集するようだ。まあいつ戻ってくるかわからない相手にキープしておけるようなものでもないし、荷物持ちの人気具合からして募集をかけたらすぐにでも集まるだろうから大きな問題じゃないだろう。そして最初だからってことでそれなりに経験してる子に限定するという気の配りよう。常々思ってることだけど、臨険士(フェイサー)組合(ギルド)って所属してる相手に対してめちゃくちゃ待遇いいよね。それだけ臨険士(フェイサー)の需要が高いってことなんだろうけど。

 それはそれとして、ひとまず手続きも終わったということで、ボクたちはミーティングのために待合スペースに移動して空いてるテーブルを囲んだ。


「集める物も結構な量があるね……これ、今ある荷袋で足りる?」


 ざっとリストに載ってる物を把握したけど、結構な大荷物になりそうだ。その他道具や携行品などなども必要なことを考えると、今あるパーティの物資じゃ足りなさそうで、確かめてみれば案の定ケレンが肩をすくめて答えた。


「その辺はまた追加の買い出し行かないとなぁ。下手したらからっけつになところだったかもしれないって考えれば、割引さまさまだ」

「確かにそれのおかげで財布に余裕はあるけど……あんなことはまずないんだし、急に大きな出費が必要になることもあるなら、次からはもっと余裕をもってお金を使うようにしないと」

「おいおい、まだ言ってんのかよリクス。俺らは臨険士(フェイサー)だぜ? 金はある時にぱーっと使うもんだろ」


 まだ一昨日のシュルノーム魔導器(クラフト)工房大特価セール事件が尾を引いてるらしいリクスに、いつものようにケレンのからかいが飛んでいく。この二人って性格というか性質というか、とにかくそういうのが正反対だよね。まあ、だからある意味バランス取れてていいコンビになってるんだろうなぁ。


「他に必要な物ってあるかな?」

「そうだな……長めの野営になるし、荷物持ち役の子達の分も必要になるから食料を買い込んでおかないと」


 参加予定の新人君たちの食料まで用意するなんて、リクスってばやっぱり真面目で優しいな――なんて思ってたら、どうやら臨険士(フェイサー)の間ではそれが暗黙の了解らしい。まあ、よく考えてみれば日銭が稼げればいい方って感じのストーンランクに遠出用の食料を買い込めっていうのも酷な話か。優しい世界で何よりだ。


「まあ、オルドーバ丘陵なら食える物も多いって話だし、現地調達もありだな」


 そんなケレンの言葉を聞いて、ボクは俄然テンションが上がってきた! 狩りとか採集で食べ物を集めながらキャンプ……いいね、本格的だね! この世界ってわりと交通網が発達してるおかげで、野宿する機会って想像以上に少ないんだよね。だいたいは乗合馬車に半日乗れば停留所のある町とか村に着くから、そこを仮拠点にした方が便利だし安全というわけだ。

 ボクたちのこれまでの依頼でも例にもれず、目的地の最寄りにある町の安宿や村の空き家に寝泊まりして、食べる物は外食だったり持参した保存食だったりっていうのばかりだったわけだ。それはそれで楽しみがあったし、多少のお金で安全と利便性が手に入るなら遠慮なく使うべきだとは思うけど、野性味あふれるキャンプって地味に憧れてたから楽しみだね!


「狩りなら任せてよ! こう見えてもボク、カラクリじゃ獲ってくる肉の量は上から数えたほうが早いくらいだったんだから!」

「あ、ああ、うん。その……お手柔らかに?」

「張り切ってるところ悪いんだけど、この辺はお前の故郷から遠いんだ。頼むから地形を変えるとかしてくれるなよ?」


 やる気満々で主張したらなぜかリクスとケレンから釘を刺された。解せぬ。


「まさか大砲なんてぶっ放さないよ、失敬な! シェリアからも言ってやってよ!」

「……狩りはわたしがやるから、ウルは野草や木の実を集めて」


 まさかのシェリアも向こう側だった。あれー、なんでそんなに信用ないのかな?

 どうにも腑に落ちないまま話は進み、食料に関しては現地調達も視野に入れて用意することになった。まあ時期的にもうすぐ冬になるからあんまり期待はせずにおいてってことだけどね。最悪ボクの分はなくても大丈夫だからどうにかなると思う。


「おっと、そういえばボクたちって天幕持ってたっけ?」


 寒くなるってことで重要な案件を思い出した。今まで使う場面がなかったから気にしてなかったけど、パーティの備品にテントの類を見た覚えがないんだよね。

 そうしたらケレンもまさに思い出したって顔してポンと手を打った。


「あー、そういやそれもあったな。やっべぇ、この寒空に毛布一枚で野宿するところだったぜ。いっそこの機会に一張り用意しておくか?」

「うーん……やっぱりこれからもこういった依頼を受ける機会はあるだろうから、今回買っても損にはならなかな……どう思う、シェリア?」

「……それでいいんじゃないかしら」


 無事パーティで意見が一致したためテントも購入リストの仲間入りを果たした。その他にも細々した装備や消耗品をリストに加えたところで追加の買い物が必要な物資はひとまずオッケーかな。リクスもケレンもストーンランク時代にキャンプは経験済みらしいけど、独立してからは初めてっていうのと念願の荷物持ちの受け入れってことで入念に確認しあってたし、大体は出尽くしてることだろう。


「それじゃ、あとは目的地までの経路の確認くらいかな?」

「だな。けどレイベアからオルドーバ丘陵に行くなら定番になってる経路があるし、それでいいだろ、リクス?」


 どうやら腹案があるらしいケレンの提案に、話を振られたリクスは特に疑問を持った様子もなく頷いた。


「それでいいと思う。ちなみにどんな経路なんだ、ケレン?」

「目的が採集だし荷馬車を借りるとして、ブリート街道を使う感じだな。最寄りの町まで片道三日ってとこだ。そこからは丘陵まで歩いて半日くらいらしいぜ」

「馬車は借りるのか?」

「今回俺らは大荷物持った団体様だぜ? 帰りは集めた物が増えることを考えればそっちの方が安くつく計算だ」

「そうか、それもそうだな。ウルもシェリアもそれでいいかな?」

「いいよー」

「……いいわ」


 こういう時は大体リクスに主導権をゆだねているシェリアが追認することで、依頼の事前ミーティングはほぼ終了だ。いやー、大体はリーダーと参謀で話し合ってくれるからボクも楽で助かるよ。あ、もちろん話が変になってたら突っ込むし、他にいい案が思いついたら提案したりとか、ちゃんとやってるからね?


「そんじゃ、早速買い出し行こうぜ。食料は前日でいいとして、ひとまず天幕からか?」

「そうだね、パーティで使うものだから全員の意見を聞いて買わないと。それが終わったら備品は手分けしようか」

「……わかったわ」

「りょーかい。でもなんかここ数日買い物ばっかりしてない、ボクたち?」


 仲間が席から立つのにならいながら、何とはなしにそう口にする。一昨日は旅に役立つ日用魔導器(クラフト)の購入から始まって、うっかり同行はできなかったけどリクスたちの装備の手入れに日持ちする消耗品の補充。昨日はシェリアと約束した個人的な買い物にリクスとケレンも結局ついてきたし、ここにきて大口の買い出しとパーティの財布が危ぶまれるところである。まあボクも含めてみんなそれなりに稼いでるから多少は余裕もあるはずだけどね。


「ま、たまにはそんな時もあるって。よし、いっちょ新米にいっぱしの臨険士(フェイサー)ってのをびしっと示すか!」

「それ、ボクにはやってくれないのかなー、先輩?」

「お前は仲間だし色々規格外だしいいんだよ。な、リクス?」

「そこでおれに振るのやめてくれないか!?」

「えー、リクスもそんな風に思ってるの?」

「ほら来たじゃないか! えっと、その、ウル? ケレンだって変に飾らなくていいとか信頼できるとか、そんな意味で言ってるはずで――」

「規格外っていうのは否定してくれないの?」

「いや、そこはどう頑張っても否定の仕様がないと思うんだけど……」

「おいおい、仲間を化け物扱いってのはないんじゃないか、リクス?」

「いや誰もそんなこと――」

「えー、仲間から化け物扱いされるなんて悲しいなー」

「ちが――それ言い出したのはケレンでそんなことは……って、おれをからかってるんだろ!? いい加減にしてくれ二人とも!!」


 話も一段落したからいつものごとく突発的にリクスをからかいにかかったけど、わりと早い段階で怒られた。ここ最近こんな感じのが多いけど、勘がよくなったのかな?


「案外早くばれちゃったね。うーん、このネタ使いすぎたかな?」

「だな。俺としてはやっと学習してくれたかってとこがあるわけだが」

「リクスは真面目だからねー」

「ケレン、ウル!!」


 それでも懲りずに今度はリクスをネタしていると、さすがに頭に来たのか顔を赤くして怒鳴り声を上げるご本人。それを見てケレンと一緒に笑いながら足を速めて一足先に組合(ギルド)を飛び出した。チラッと見やったシェリアはまたかと言わんばかりに呆れたような雰囲気をかもし出してたけど……仕方ないじゃん、こんな気の置けないやり取りが楽しいんだからさ!

 いやー、それにしても後輩かー。まだまだなりたての臨険士(フェイサー)だって思ってたけど、改めて振り返ればもう半年以上過ぎてるんだよね。うん、ケレンじゃないけど、ここは先輩らしくしっかりしないと。頑張るぞ!


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