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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
六章 機神と冒険
132/197

先達

 約束通りに一緒に買い物してシェリアのご機嫌を取ったさらに翌日。ボクたち『暁の誓い』は朝の早い時間から臨険士(フェイサー)組合(ギルド)に顔を出すことになった。目的はもちろんのこと次の依頼を見繕うためだ。ついこの前、期間が一ヵ月超えの大型依頼をこなしたばかりなんだからもうちょっと休んでても罰は当たらないと思うけど、リクス的にはあれは休暇扱いになるらしい。まあボクの里帰りがメインで、ガイウスおじさんの護衛の方がついでだったから間違いじゃないかな。

 あというと、カラクリでほとんど毎日ぶっ倒れるまでロヴにしごいてもらったりマキナ族の子たちと模擬戦したりと特訓漬けだったから、早くその成果を実感したいっていうのもあると見た。強くなったことを確かめたいって、やっぱりその辺は男の子だよね。

 だからたぶん一番疲れが残ってるはずのリクスが大丈夫っていうなら、ボクとしては反対する理由もないし、幼馴染の気持ちを汲み取ったのか、ケレンもいつもの軽い調子でオーケーを出したし、ほどほどに訓練しながらわりとカラクリを満喫してたシェリアも特に否ってわけでもなく、わりとすんなり次の仕事へ繰り出すことになったのだった。まあちょうどいい依頼がなければもう少しゆっくりすることになるだろうけどね。


「――おう、ウル! ちょうどいいところに来たな!」


 そして組合(ギルド)の入り口をくぐった瞬間、目ざとくボクに気づいたらしいごわ髭スカ―フェイスがお約束のように声をかけてくる。帰るタイミングは同じでも交通手段が違うからレイベアに到着するのはボクたちより後になるって言ってたけど、どうやらもう帰りついてたみたいだ。


「やっほーロヴ、四日ぶり。ところでちょうどいいってどういう意味?」

「おう、ちょっとこっち来いや」


 そう聞き返せば詳細を語らないまま、待合スペースのテーブルにどっかりと腰を掛けた態勢で雑に手招きしてくるロヴ。こちとら食い扶持のために朝の依頼争奪戦に参加しに来た低ランク臨険士(フェイサー)だっていうのに、まるで気にした風もない態度をしていらっしゃる。さすがプラチナランク様。


「あー……リクス、悪いけど先に依頼見ててくれる? ちょっとロヴの相手してくるからさ」

「え? ああ、わかったよ」


 無視してもよかったけどそうするとあとでしつこく絡んできそうだし、依頼の物色は信頼できる仲間に任せて手早く用件を片付けよう。


「朝から何さ、ロヴ。ボクたちは依頼を見に来たんだからね。しょうもないことだったらさすがに怒るよ?」

「まあ今回はあぶれることはねぇだろうからそう言うなって。それにお前にも関係ある話だぜ?」

「ボクにも関係ある話?」


 お望みどおりにテーブルまで来てあげて文句を言ってやれば、どこ吹く風とばかりに 言い返してくるロヴ。『依頼にあぶれない』ってあたりの妙に確信のこもった言い方に疑問を感じながら首をかしげると、ロヴは同じテーブルを囲んでいるベテランの雰囲気を醸し出す男の人を見やった。


「ほれ、そっちにお前が男か女か教えてやれよ」


 あー、そういえばひそかに蔓延するロリコン疑惑をどうにかするって言ってたっけ。たぶん戻って早々なのにもう取り掛かるとか、よっぽど耐え難いみたいだね。ふむ、ここはあえて疑惑を増長してやるのも面白いかな? きっと子供が夢に見るような笑顔で『ふざけるな』って迫ってくるんだろうなー。

 ……まあでも、本気で嫌がってるのを茶化すのはダメだよね。


「またその話? ボクは女の子じゃないって言ったよね?」


 だからなるべく自然な風を装い、腰に手を当てて憤慨するように言ってみせれば、それを聞いたベテランぽい人は目を見開いて、ついでになぜか聞き耳を立てていたらしい周囲から盛大にどよめきが沸き起こった。うん、嘘は言ってないよ?

 それにしてもやっぱりというか、ボクのこと女の子だって思ってた人ばかりみたいだ。優秀なマキナイヤーが「嘘だろ!?」「マジかよ……」「まさかそんな、オレのウルちゃんが……でも有りだな」「……有りね」「おいジェシカ、なに涎垂らしてんだ」なんて周りの悲喜こもごもを拾ってきた。まあ総じて八信二疑ってところかな? いくつかヤバそうなの混じってるから、そっちには今後近づかないようにしておこう。


「な? オレが言った通りだろ、おっさん」

「いやまあ、本人の口から聞いたからにはそうなんだろうが……信じ難いな」


 なんかロヴ(おっさん)がおっさん呼ばわりしてるところが若干笑えるけど、ベテランの人は間近に見ても未だに信じられないらしい。いや、むしろ間近で見てるからかな? まあ何度もロヴに付き合わされるのも面倒だし、ここはもうちょっと小芝居続けてみるとしよう。


「まあ、おじさんの言いたいことはわかるしボクもこの顔自体は気に入ってるけど、どうしてもそう思われちゃうのが悩みどころなんだよねぇ」


 ぺちぺちと軽く頬を叩きながらそう言った後、いかにもって感じでため息を吐いてみせる。ホント、美形って罪作りなところは困っちゃうよねー。


「ああ、その、すまんな、気にしてるだろうことをずけずけと」

「いいよいいよ、その辺は割り切ってるから」


 どうやらコンプレックスを刺激したって思ってくれたらしいベテランの人が慌てた様子で謝ってきたので、別に気にしてないことを伝えておく。むしろ有効活用する気満々だからね。馬鹿な男の油断は誘えるし、リクスとケレンみたいに面白いくらい驚いてくれるだろうしね。


「ほれほれ、オレに対する謝罪はどうした、おっさん?」

「ああそうだな……すまなかったよロヴ、妙な勘繰りをしてしまって。しかしさすがだな、出会った時からすでに見抜いていたのか?」

「あったぼうよ! オレを誰だと思ってんだ?」


 なんか謝罪を要求したあげく、感心した様子のベテランの人に向かってドヤ顔してみせるロヴ。おいこらそこ、堂々と嘘つくんじゃない。カラクリに到着する前にばらした時、素っ頓狂な声上げてたのは忘れてないからね? まあ指摘したら疑惑が再燃しかねないから黙っといてあげるけどさ。

 とりあえず周りの反応的に茶番は十分だろうから、さっきから気になってることを聞いてみることにした。


「ところでロヴ、こっちの人とはどんな関係?」

「あん、このおっさんか? 別に大したことねぇよ、オレが駆け出しん時に世話になったってだけだ」


 おおー、なるほどあれか、ロヴのストーンランク時代のか。道理で互いに遠慮のない喋り方なわけだ。ロヴと話してる臨険士(フェイサー)ってたいてい敬語だから珍しいと思ったんだ。


「レブルスという。よろしくな、『虹髪』の。一応はそこのを面倒見たことがあるのだが、こちらとしてはあまり世話した気もしなかったな。少し手本を見せれば瞬く間に身に着けてしまって、あっという間に独り立ちしてくれてな。そんな生意気な子共が今じゃプラチナランク様だ」

「いやー、あれはおっさんの教え方がよかったんだよ。そこんとこは感謝してるんだぜ?」

「そう言ってくれるなら、こちらとしても若い才能に嫉妬した甲斐があるというもんだ」


 そんな感じでどことなく気心の知れた感じがするやり取りをかわすロヴとベテランの人改めレブルス。やっぱりというかなんというか、ロヴって昔から傍若無人だったっぽいね。まあ先輩相手に敬語を駆使してるロヴとか想像できないし、下手したら王侯貴族相手にだってタメ口じゃないかな?


「そっかー。いろいろ大変だったんだね」

「おお、わかってくれるか」

「おい、お前ら……」

「あ、そうだ。なんかもう知ってるみたいだけど、ボクのことはウルって呼んでくれていいからね、レブルス。良かったらまた今度時間のある時にロヴの昔話とか聞かせてもらえないかな? 失敗談とか笑い話だったらすっごく嬉しいんだけど」

「おいウル」

「ああ、いいとも。数は少ないがとっておきのものがいくつかあるからな、期待していてくれ」

「おいおっさん」

「おー、やっぱりロヴでもあるんだね、そういうの。ちなみにどんなのがあるの?」

「そうだな、食用のとよく似た毒のある果実をこっちが何か言う前に――」

「だぁあああっ! お前らいい加減にしろ!!」


 和気あいあいと交流を深めていたらロヴが我慢ならんとばかりに噴火した。うーん、今までロヴ相手にこういった掛け合いに乗ってくれる人がいなかったから新鮮だね。さすが大先輩、亀の甲より年の劫ってところかな。


「あーはいはい。それじゃあまた今度、ロヴのいないところでお願いするね、レブルス」

「そうだな、その方がよさそうだ」

「よーし、その喧嘩買った。表出ろやお前ら」

「そんなことよりロヴ、シグレはどうしたの? まさかもう放り出したとかじゃないよね?」


 さすがにマジ切れ寸前っぽかったので話題を変えてみると、少しの間恨めしそうな目で睨んできたけど、ニッコリ笑い返してやれば深々としたため息を吐いてから答えてくれる。


「さすがに世話を頼まれて即行で放り出すなんてしねぇよ。屋敷から通うって話だったから、受付が落ち着く頃合いを集合時間で伝えただけだ。もうちょいしたら顔を出すだろ――」

「おっはようございまーす!」


 そんな風にロヴが言い切る寸前、勢いよく開いた組合(ギルド)の扉からよーく聞き知った元気溌剌な挨拶が飛び込んできた。視線を向ければフード付きの外套を頭からすっぽりかぶった人影が、軽快な足取りでロビーに踏み入ってくる。


「えーっと……あ、ロヴさんおはようござ――ウル様ぁ、おはようございます!!」


 そして居合わせた人たちの注目を集める中、それを気にした様子もなくキョロキョロしたかと思えば、目当ての人物を見つけた直後にすぐ横にいるボクに気づいて歓声と共に駆け寄ってくる。こういうのを噂をすれば影っていうのか、たった今話題に上げたばかりのシグレだ。


「やっほー、シグレ。今ロヴから聞いた話だと集合時間はもう少し後だったみたいだけど、何かあったの?」

「いいえ、特に何も! でもウル様と同じ臨険士(フェイサー)になれるって思ったら待ちきれなくて、早めに来ちゃいました!」


 シグレがやってきてロヴがちょっと意外そうな顔になったから、たぶん予定より早いんだろうなーって思って聞いてみれば案の定、らしい理由が返ってきた。うん、その気持ちはよーくわかるよ。なんてったって臨険士(フェイサー)になれるんだからね。

 そう、なんでこんなところにお屋敷勤めのはずのシグレが堂々といるかっていうと、マキナ族の周知活動をステップアップするために、臨険士(フェイサー)として活躍してもらうためなのだ! それもただの臨険士(フェイサー)じゃなくて、最年少プラチナランク到達者として有名なロヴの相棒として、だ。

 なんでそんなことになったかと言えば、臨険士(フェイサー)は拠点と決めた場所を中心にすることが多いとはいえ、実力がつくほどに行動範囲を広げていくのが一般的だ。それがプラチナランクとなれば一国程度じゃ到底納まることなんてないから、それについて行くことはあちこちに存在を知らしめるには結構適っていたりする。

 加えて最上位の実力者としてあらゆる方面から一目置かれてるわけだから、身元の保証人としても申し分ない。いろんな経験も豊富なことを当てにできるから、まだまだ経験の浅いマキナ族の子をたった一人で送り出すよりはるかに安心できる。

 そして極め付けがロヴの「種族がどうのだの、細けぇことを気にする奴はほとんどいねぇ」って一言だ。さすがは実力主義の頂点というべきか、日夜凶悪な魔物なんかとしのぎを削ってる彼らに言わせてみれば、『実力があって信頼できるならそれ以外はどうでもいい』とのことらしく、種族チートなマキナ族でも受け入れてもらえる土壌が十分にあるわけだ。

 そこで信頼と実績を重ねて、いざ大っぴらにマキナ族のことが公表された時に、『あの有名人たちが好意的なら』って世界中の人たちに思ってもらえるようにするのが目標だね。

 以上を踏まえてガイウスおじさんからもゴーサインをもらい、その役目に抜擢されたのがボクの次に戦闘経験を積んでいるシグレというわけだ。ボディがいい年頃の女性型で、ちょっと抜けたところのある朗らかな性格ってところもポイントは高かったりする。


「うんうん、期待してるよ、シグレ。ぜひボクを追い抜く勢いで活躍してね」

「はい、頑張ります! ロヴさん、今日からよろしく!」

「……まあ、改めてよろしく頼むとするか。早めに来たんならそれでいい、さっさと登録済ませちまうぞ」


 そうやって苦笑したロヴは突然の闖入者にポカンとしているリブレスを置いて立ち上がると、シグレを連れて比較的空いている受付の方へと向かった。言葉通り早速シグレの新規登録をするんだろう。ロヴのことだしついでにその場で昇格推薦と飛び級の申請くらいはやるに違いないね。なんてったって基本スペックはマキナ族でほぼ共通だ。シグレが登録早々にカッパーランクのルビージェムドに認定されるのは確定だね。

 そうなればシルバーランクの討伐系依頼に連れ出すこともできるから、きっとボク以上の速度でランクを上げていってくれるに違いない。うん、マキナ族の未来はキミの活躍にかかっていると言っても過言じゃない。応援してるよ、シグレ!

 ……ボクはいいのかって? えー、それは……うん、あれだ。カラクリがそもそもブレスファク王国の領地にあるわけで、だから地元の知名度と好感度を稼ぐために地域密着型を基本方針にするから、だからリクスたちと一緒にのんび――じっくりと活動を広げていくのだ! うん、そういうことにしておこう。


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