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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
五章 機神と故郷
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困惑

 ――これはこっちに繋げて……うん、だいぶ削れた。ここまでいけたしやっぱり遠距離も狙えるようにするかな? でもそれだと銃身が長くなるから片手剣じゃ収まらないよね……いっそ大剣にする? うーん、そこまでするなら大砲乗っけたいかな……やっぱりすぐに切り替えられるっていうのがロマンなんだし……うん、ここはきっぱり威力の強化に回そう。てことで当初の予定通り片手剣で、やっぱり中心に通すのはちょっと格好悪いよね。剣身は片刃にして峰に銃身を取り付けて、柄は銃身の方からつながってる感じで……ちょっと変かな? いやでも大鉈(ハチェット)ってこんな感じじゃなかったっけ? 剣をもっとシャープな感じにすれば鉈っぽさはそこまで――


「何をしてるの、ウル?」


 大量の夕食を何とか適切に処理しきり、自分の部屋に戻って紙面に向かって没頭していると、聞き慣れた声に呼びかけられらからひとまず作業を中断して肩越しに振り返った。


「やあシェリア。どうだった、うちのシャワー?」

「出だしは火傷するかと思ったわ」

「あ、ゴメン。ボクたちは熱さとか関係ないからそのままだったかな?」

「すぐに調整したから大丈夫よ。本当に便利ね、ここの設備」

「いやー、それほどでも」


 すぐ後ろにいたのは湯上りのシェリア。すでに長袖長ズボンに首元を隠すスカーフまで装着済みで、赤い髪が湿っているくらいしか直前までお風呂に入っていた名残がないのはさすがだね。まあ身バレしたら命の危機って身上じゃ当然なのかな。一応部屋の扉はきっちりロックしたことは伝えてあったはずだけど、年季の入った習慣はその程度じゃ崩れすらしないようだ。


「それで、何をしていたの?」

「ああ、これ? 新しい武器の設計構想だよ」


 そして心持ち身を乗り出しながら重ねられた問いかけに、体の向きを戻して目の前に広げた紙面――魔導器(クラフト)の概略的な設計図を指示しながら嬉々として答えた。


「昼間ロヴの隠し玉見たでしょ? あれは単発でしかも射程が短いから強力な不意打ちにするのが理に適ってるけど、その機構を大型化すれば一本で剣と魔導銃の両方の特性を持った武器にできるはずなんだ! 今はちょっとごちゃごちゃしてるからわかりにくいかもしれないけど、基本的な構想は大体まとまったからこれから清書して正式な設計図に書き起こすところ!」

「……そうなのね」


 おっと、ちょっと一気にしゃべりすぎたかな? 返事をしてくれたシェリアだけど若干身を引いて視線を逸らした。うん、落ち着こうかボク。シェリアは基本的に臨険士(フェイサー)で、武器の使い方とかはわかっても造り方とか詳しくないんだから、専門的な話をされても困るだけなんだよ。


「ゴメン、ちょっとだけ待ってね。最後書き足しておきたいところがあるからそこだけ」

「ゆっくりやればいいわ」

「そうもいかないよ、せっかく友達が家に泊まってくれるんだからさ」

「……好きにしなさい」


 そう言うとそっぽを向いて離れていくシェリア。一見そっけないけどボクにはわかる。返事までちょっと間があったし心持ち足早になってるしほんのり頬が赤くなってたし、あれは照れてるに違いないね。うん、相変わらず『友達』って言葉に対する反応がかわいい。

 内心ほっこりしつつちゃちゃっと書いておきたいことを付け足して、すぐに清書できるように準備だけ整えてから机を離れる。見ればまだ部屋に並べてある魔導器(クラフト)を片付けてなくって座るところが限られてるからか、ベッドの端に腰かけてたシェリア。折角だからその隣、お邪魔しまーす。


「……なんでこっちに座るの?」

「こっちの方が友達らしくない? 嫌なら適当に椅子持って来るけど」

「……好きにすれば」


 またもやぷいっとそっぽを向かれたけど、もう照れてるだけだってわかってるし承諾も取れたし何の問題もない。遠慮なく好きにさせてもらおう。


「それでさ、どうかなカラクリは?」

「…………すごい所よね」


 手始めに無邪気さを前面に押し出しながら聞いてみれば、ものすごく難しい顔で長めの間をとった後での一言。語彙力~って突っ込みたいところだけど、まあそうなるのも仕方ないかな。なにせ一概には言えないけど、前の世界の記憶に照らし合わせたら前近代あたりの文明から一気に現代に迷い込んだくらいには違いがあるんだ。

 ついでに食べ物に関してもぶっ飛んでるってことが判明したし、細かく上げていかない限りはだいたいその辺の言葉に集約しそうだよね。


「じゃあさ、具体的にどんなところがどう良かったとか、ここはもっとこうした方がいいんじゃないかとか、そういう話を聞かせてくれないかな?」

「……わたしに聞くこと? 公爵様とか、もっといろいろと分かる人の方が――」

「いやいや、一般人の意見って物作りですごく重要なんだよ? むしろあんまり詳しくない人の感想の方が貴重だったりするんだからね?」


 知識層とか有識者の意見を聞くのは有効だってことは当然わきまえてるけど、実際に使う立場になる圧倒的多数の素直な声こそ聴くべきだってことは前の世界の記憶からしっかり学んでるんだ。


「それならリクスやケレンも――」

「もちろんそっちにも聞くよ。それはそれとしてシェリアからも聞きたいなー」

「……大したことは言えないわよ?」

「心配しなくても、素直な感想を聞かせてくれたらいいよ。それが重要かどうかはボクの方で判断するからさ」


 なぜか渋るシェリアに重ねて言いつのれば、それでようやく観念したらしい。一つため息をついた後にポツポツとカラクリで思ったことを話してくれる。うんうん、やっぱり意外なところに気付いてくれてるや。作った側だと細かいところは見逃しちゃうんだよね。マキナ族の子たちもそれが当たり前みたいな感じで生活してるし、そもそも生身じゃないから気にならない部分とかも多いだろうし。


「――今はこのくらいよ」

「うん、ありがとう! いやー、ホントに助かったよ。うちの子たちじゃどんなの出しても『素晴らしいです!』ばかりでさ。率直な感想ってなかなか聞けないんだよね」


 たった今聞いたばかりの話を優秀な記憶能力に任せて頭にメモしながらお礼を言う。シェリアのおかげでいろいろと改良点が見えたりしたしで、自分でもわかるくらいに声が弾んでいる。

 だけどそれを聞いたとたん、シェリアの目が細くなった。慣れてなきゃわからないくらいにほんの少しの変化だったけど、ここ半年寝食を共にした間柄だから気づくことができた。しかも微妙に眉が寄ってて……なんというか珍しい表情だ。けどわりと最近見た覚えもある、どこか寂し気な顔。

 うん、もともとボクの部屋に泊まってもらいたかったのも様子のおかしい理由を聞きたかったからだし、今は密室に二人っきりだし攻め時だよね。


「どうしたの、シェリア?」

「……何でもないわ」


 はいダウト。


「シェリアってさ、何でもないって言う時ほど何か言いたそうだよね」


 そう指摘すると一瞬目が泳いだのをボクは見逃さなかった。

 本当に何でもないなら、シェリアは『何言ってんのこいつ』って感じで怪訝な顔をするだけだ。わざわざ『何でもない』って言う時は、決まって何か言いたいことを飲み込んでいる。約半年の付き合いでそれくらいはわかるようになった。

 いつもなら言いたくないことだとか言うまでもないことなんだろうってことで追及することなく流してる部分。斥候役だからか、本当に必要なことはちゃんと伝えてくれるからね。

 でも、今ボクはその『いつもなら飲み込んでいること』を知りたいんだよ。


「何かあるなら遠慮なく言ってよシェリア、『友達』でしょ?」

「…………何でもないのよ」



 だからもう一度ウィークポイントを狙って問いかけたけど、露骨に顔を逸らしたりいつも以上の間を置いたりとあからさまに動揺しつつもやっぱりそう言い張って、まるでそれ以上の追求から逃れようとするかのように腰を浮かす。あ、ダメだよ逃がさないからね!

 立ち上がろうとするシェリアの腕を素早くつかんでがっちりとホールド。急にストップをかけられたシェリアは姿勢を崩しながら反射的に振り払おうとする。

 だけどボクはマキナ族。臨険士(フェイサー)とはいえ斥候職の片腕で振りほどけるはずもなく、おまけに重金属の身体が重しになることで反動を受けたシェリアの身体が大きく傾いた。おおっと予想以上の効果、でもちょうどいいや。

 すかさずここ半年で学習した体捌きを駆使してそのまま引き倒せば、とっさの立て直しに移る前だったシェリアはベッドの上へ逆戻り。勢い余って仰向けに倒れこんだところで素早く向かい合わせの形で覆い被さり、さすがの身のこなしで起き上がろうとするのを反対の腕も抑えることで阻止。


「……っ! ウル、何の――」

「シェリア、ボクはそんなに頼りない?」


 一気に険しくなった顔を間近にしながら被せるように言えば、表情はそのままながらも言葉を途切れさせるシェリア。


「友達なんだ、何か悩みがあるなら喜んで相談に乗るよ。ボクにできることなら何だってしてあげるし、どんなことにも一緒に立ち向かうよ。だからお願い、シェリアがなんだか寂しそうな理由を教えてくれないかな?」


 媚とか打算とか一切抜きの姿勢で真面目にそう頼んでみた。もともとまっすぐに向き合うのがシェリアと付き合う一番の方法だってわかってるんだけど、茶化したりからかったりする気は一切合切ないって気持ちが伝わるように。

 そうすればシェリアの険しい顔がほんの少しゆるみ、鋭く睨みつけてきていた青い目が何かを探すかのようにさまよい動く。どうやらボクの言葉はちゃんと届いたみたいだけど、それでも口は堅く引き結ばれたまま。

 ……これだけ言って、それでもまだためらうような悩みなの?

 どんなことを抱えてるんだと心持ち身構えながら、それでもシェリアが決めるのをじっと待つことしばらく。


「…………何でも、ないのよ」


 ようやく絞り出された言葉は、けれども結局はただそれだけだった。


「……そっか、何でもないんだね?」

「……そうよ、何でもないの」


 最終確認のつもりで往生際悪く聞いたところにそっけない反応が返ってきて、ため息――は吐けないけどそうしたい気持ちになる。そうしてそれまでシェリアを抑えこんでいた手を離してゆっくりと体を起こすと、ことさら明るい調子で口を開いた。


「ゴメンね、『何でもない』のに無理強いしちゃって」

「……少しは加減しなさいよ。ただでさえ力が強いんだから」

「だからゴメンってば! ――それじゃあ、ボクもシャワー使ってくるね」


 ホールドしていたところを馴染みのしかめっ面でさすっているシェリアにもう一度謝ってから背中を向ける。さすがにこのまま話を続けるのはちょっと気まずいから、今日の埃を落とすついでにクールダウンする算段だ。

 ここも半自動なシャワールームの扉をくぐり、脱衣所で立ち止まってなんとなく一呼吸を置いていた時、扉越しにマットへ倒れこむような音が聞こえてきた。シェリアがベッドにダイブでもしたのかな? 珍し――


「……しい……て…………け……い」


 何気なく振り返ったボクの耳に、本当にかすかな呟きが届いた。扉越しってこともあってマキナ族の聴力でもかろうじて聞き取れた音だけど、これはまぎれもなくシェリアのものだ。ボクが見えなくなったことでほんの少し油断してポロっと漏れたんだとしたら――

 すぐさま記憶を反駁して何度もそのフレーズを確認する。音の数や音節、高低や強弱も普段の会話記憶を洗い出して比較に比較を重ねて本来呟かれた内容を少しずつ再現していく。

 そうして脱衣所に立ち尽くすこと数分、たぶんこれで間違いないだろうって思える結果にたどり着いて、だけどボクはそれに首をかしげるしかできなかった。

 ――羨ましいなんて、言えるわけないじゃない。


「……『羨ましい』?」


 いや、だってただ『羨ましい』ってだけのことであそこまで言いたがらないって? さすがに頻繁にはないけど、日常で時々「羨ましいわね」って言ってるの聞いたことがあるよ? それも性格がさっぱりしてるからか口で言ってるだけで、本当に羨ましそうにしてる様子なんて見たことないんだけど。


「羨ましい……」


 もう一度口にしてみたけどそれで何がわかるはずもなく、それでもボクは考え込んだ。だってよくわからなくても、友達の悩みなら解決してあげたいのが人情だよね?

 そのままシャワーそっちのけで考え続けて、あんまり遅いもんだからって気を取り直したらしいシェリアが様子を見に来たのに見つかったからとっさに言い訳して呆れられて、改めてちゃんとシャワーを浴びて、寝るまでのんびり過ごして……それでもやっぱりわかんない。

 うーん……できれば自分で何とかしたいけど……これはちょっと、人生の先輩に助言してもらった方がいいかなぁ……?



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